第54話 最終決戦⑧ーそれぞれの爪痕ー
殴られすぎてナヘジマはもうグッタリとしている。秋口刑事と佐々木刑事に片腕をそれぞれ挟まれてなんとか立っている。
「ほら、行くぞ」と秋口刑事は言った。
「ナベシマさん、さようなら」と私は言った。
「ダメだ。僕がやるんだ。」
とカラカラの声でナベシマは言った。
「何をやるんですか?」と佐々木刑事は聞いた。
「僕がイイダさんを…」
「残念だけど無理だよバーカ」
「まぁ…ふふ。でもこのゲームは僕がいなくても動くようにセットしているからね。」と言ってナベシマは黒瀬さんの方を見た。
「ねぇ黒瀬さん1月14日はなんの日だい?」
「…わからないな。」
「そう…。あはは。じゃあ楽しみにしててよ。僕から最後のプレゼントだよ。鮎川の心は僕のものだ!!」と最後に言い残し、ナベシマはガクンと意識を失った。
ナベシマのやつ血が出過ぎたんだろう。私も小指からの血は止まらないし、体力的には限界だ。
佐々木刑事と秋口刑事はナベシマを車に乗せるのはやめてベットに横にさせた。
「これはもう救急車呼びますか。冬梅さんも乗ってくださいよ」
「あ、はい。ありがとうございます。」
小指くっつくと良いな…
やっとひと段落だ。全く、今日は本当に…。
って…これで終われないのが人生なんだよな。
私が座るソファの目の前にはテーブルがある。そしてその上にはパソコンがある。
そうー。
そのパソコンに藤田が映っている。
私は藤田のことを捨てた。
ナベシマに勝つために藤田がレイプされる道を選んだ。
私は頭頂部を使って、パソコンの角度を30度から110度程に直した。
私は怖くて思わず目をつぶってしまった。銃で撃たれた穴の空いた手が震える。
向き合わなきゃいけない。
自分がした選択の結果を。
いや責任を。
さっき藤田は3人の男に姦回されていた。
あの時、ナベシマは男達に「殺しても構わない!!」と指示していた。あれからナベシマは男たちに指示をしていない。怖い、いや、やだ。
それでも向き合わなければいけない。
目を開けようと思ったその瞬間ー
「ぎゃあああああああああ!!!!!」
という叫び声が聞こえ、私は反射的に目を開け後ろを振り帰ってしまった。
今の叫び声は日高検事のだった。
日高検事は「あ、あんた…コレ…なに」と言って指を刺した。その指を刺した先にあるのはノートパソコンだった。
黒瀬さんや刑事2人もそのパソコンに視線を移した。そして私もゆっくり首を元の場所に戻した。
藤田いよいよ再会だね。
私は今度こそパソコンの画面をしっかりと見た。
「え……コレ…ど、」
私も日高検事と同じ反応をしてしまった。自分が想像していたものとは全く違うものが目の前に写っていたからだ。
画面が切り替わってネットフリックスの映画でも流れているのかと思った。
違う。これ。何これ。
「ふ、冬梅さんコレは…藤田さんで間違いないですよね?」と黒瀬さんの声が耳元から聞こえてきた。
「いや、えと、え、そう…なんですが」
うまく返事ができない。
私の目の前に写っていたのは藤田で間違いない。でも、
「も、燃えている」
画面は真っ赤な炎と重々しい煙に包まれていた。
そこに髪の長い女がベットの上でピョンピョン跳ねている。
藤田だ。
「ふ、ふじたぁああああああ!!!」
力一杯叫んだ。だけど声は藤田に届いていない。当たり前だ。ミュートにしているし、こちらも音量をゼロにしている。
そのことに気付いて黒瀬さんが急いでパソコンを操作してくれた。
パソコンからは、ゴオオオオオオオという音と藤田の笑い声が聞こえてきた。
「あ、ふ、藤田…」
私の声に気づいたのか、藤田は画面に近づいてきた。藤田側のノートパソコンは天井付近にあるのか、上目遣いでこちらを見てニッコリと笑った。
「冬梅〜久しぶり」と藤田は手をヒラヒラ振った。
「に…逃げてよ。部屋…も、燃えてるじゃん…」
「嫌だ。全部燃やしてやるの。てか私が燃やしたし」
「な、なんでそんな事」
「私だから〜。てか、冬梅怪我ヤバくない!?大丈夫??」
「そんなことよりも…」
ベッドを残し床一面は真っ赤な炎に包まれている。
「私いま人生で2番目に最高かも!!あ、1番目は冬梅とSEXした時だから安心してぇ〜」
部屋にいた男たちは床にうつ伏せの状態で動かなかった。そしてベッドを残し床一面は真っ赤な炎に包まれた。男の体の損傷の激しさ的に男から着火したのか…でも、どう藤田が火をつけたのか分からなかった。いや、そんなことよりも…
「逃げてよ!!!」
涙がこぼれ落ちた。せっかく助かるかもしれないのに。
「また会おうよ。ふじたぁ…。」
私はノートパソコンのカメラの部分にそっと頭をおいた。
「大好きだよ冬梅。」
「だったらっ…!」
「私はね、冬梅の前では最強でいたいの!!愛されるってとっても嬉しいことなんだよ冬梅。ありがとう!」と言って藤田は投げキッスをした。
そして藤田は画面を見るのをやめて、奇声を上げながらベットの上でピョンピョンすることを再開した。
「きゃはははははは!!!!!!」
子供みたいな無垢な笑いが部屋に響いた。
画面はどんどん炎に包まれとうとう通信が途絶えた。
私は暫く動けなかった。
『冬梅の前では最強でいたいの!!』
藤田のほんの少し前の言葉が蘇る。
なんだか私は笑いが込み上げてきた。
「あははははははははは!!!!!」
こいつやっぱり馬鹿だ。本当に碌でもない馬鹿だ。
ついさっきまで泣きながらレイプされてたやつだよ。
なに捨て身の形勢逆転してるのさ。
ほらね、やっぱり…。
「藤田は最強だね」
私はそう一言呟きゆっくりと立ち上がった。そしてベットの方へと向かった。
佐々木刑事、秋口刑事、日高検事は黙ってその様子を見ていた。
ただ一人黒瀬さんは私が何を企んでいるのか気づいた。急いで私の肩を掴もうとした…瞬間、私はベットに向かって大きくジャンプした。
「死ねナベシマ」
ナベシマの顔面に向かってカカト落としを放った。ナベシマは痛みのあまり意識を取り戻した。ラッキー。
「ぎゃああああああ!」という声が聞こえるやいなやベッドの上に着地して、すぐにナベシマの股間に全体重を込めて肘をぶつけた。
「あああああああああああああっっ!!おっ!」
よし潰した。もう1発…と思ったその時、秋口刑事と佐々木刑事に抑えられた。
羽交締めにされた私は「まだだぁ!!!」と叫んだ。ここで終われない。藤田の仇を討たなければいけない。
「化け物か。コイツ誰が育てたんだよ」と秋口刑事が言った。
そこに黒瀬さんが「藤田さんは本当に死んだんですかね…」と呟いた。
私は「え…」と言って意識を失った。おそらく血の出過ぎだ。
こうして私の長い長い1日が終わった
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