第13話 僕と消えたチュー太と牛
傭兵ギルドのギルド長さんの名前は解らないまま、僕はあの土地を手に入れる事になった。
念の為と何人かの傭兵さんと一緒に戻った農園は、畑も家もボロボロにされていて酷い有様だったよ。家なんてすぐには住めない状態になっちゃってた。
だから、捕まえた3人にはさらに賠償金が請求された。
あの3人はハーメルンの街に在る武器屋で一番高い装備品を借金して購入していたみたいで、その借金返済の為にお金が必要だったって供述してるんだって。
じゃあそんな人たちの装備を僕が勝手に売って良いのかって話なんだけど。赤落ちになった時点で犯罪者という扱いだし、盗賊とか野盗と同じで倒した時に手に入れた物は討伐した。もしくは被害に遭った人の物って言う法律があるみたい。
それで、荒らされた家は建て替えた方が良いって事でヤマブキさんの知り合いの大工さん達にお願いして基礎からしっかりと作り直して貰ってる。僕の希望を聞いてくれるって事だったから、大きな倉庫と広い平屋の昔ながらの日本家屋にして貰った。田舎のお婆ちゃん家を参考にしたんだ。
ついでに家畜小屋も作って貰った。チュー太にも迷惑掛けちゃったし、快適に過ごして欲しいからお願いしたんだけど、問題が在るんだよね。
それは最初に農園に戻って来た時に表示されたウィンドウ。
『家畜:チュー太は逃走しました。』
うん。チュー太は逃げちゃったみたいなんだ。でもよく考えたら当たり前だよね?僕の代わりに戦ってくれたのに、僕は何にも出来なかったんだから・・・。
見限られても仕方ないとは思ってる。でも、チュー太が戻って来た時に、あの時はありがとうって、感謝してるって伝えたい。短い間だけど、チュー太と僕は友達になれたと思ってるから。
だから僕はチュー太が戻って来ると信じて、家畜小屋を用意したんだ。本当は探しに行きたいんだけど、森の中は戦える人しか入れないから探しにも行けないんだよね・・・。だから僕はダヅとカプを育てながら待ってるよ。だから早く帰ってきてチュー太。
SIDE:チュー太
チュー太は赤落ちの1人に蹴り飛ばされた時に気を失ってしまっていた。目を覚まし、ミノルを助ける為に茂みから飛び出した瞬間。赤落ちの1人がミノルの心臓に剣を突き刺す所を見てしまった。
剣を刺されたミノルは光りの粒子となって消えてしまい。赤落ち達は畑と家を荒らし始めた。何とか邪魔をしようとするチュー太だったが、大きいとは言え鼠であるチュー太が出来るのはせいぜい足に噛み付くくらいで、赤落ち達に軽くあしらわれた後ボロボロにされ、止めを刺される前に逃げ出した。
チュー太は悔しかった。短い期間とは言えミノルと一緒に畑を耕すのは楽しかった。作物を育てて収穫し、それを売って買った串焼きは美味しかった。こっそりと一緒に食べたカプは瑞々しく、そして甘かった。そんな、チュー太にとっても大事な場所になりかけた場所を奪われた。
何とかあの場所を取り返したい。だが”まだ力が足りない。””まだ復活しきっていない。”
だからこそチュー太は昔馴染みの力を頼る事にした。あいつなら、あの美味しいダヅを御馳走してやれば力を貸してくれるだろうからと。
痛む体を押して走るチュー太。目指す先はハーメルンの近くに在る魔の森の奥。鬱蒼と茂った樹々が日の光りを遮り周りはどんどん薄暗くなっていく。だが、チュー太は迷うことなく目的地に急いだ。
途中、薬草を見つけたチュー太はそれを食みながら先を急ぐ。薬草のお陰で赤落ち達に付けられた傷は少し癒えた。
日が陰り、日が昇り、それが3度繰り返された時にやっと目的地に辿り着いたチュー太。そこには、大きな影がうずくまっていた。
チュー太はその影の前に立ち、身振り手振りで助けを求めた。影は最初乗り気ではなかったが、チュー太がダヅの話をした途端にその巨体をのそりと起き上がらせた。そして、力強く頷いた。
チュー太は急いで大きな影に乗り、農園の場所を目指す。ミノルの仇を取らなければ、あの暴漢達を懲らしめねばと。
SIDE:ミノル
ログアウトを1回挟んでログイン。僕は帰って来た!
ログインしてすぐに動き出して何とか畑を再建できたよ。家の方も大工さん達がしっかりと仕上げてくれた。この世界の大工さんは魔法も使えるから凄い!あっという間に僕の希望通りに家と倉庫と家畜小屋を作り上げちゃったんだから。
畑の方はまた1からって事でダヅを作り始めてる。畑の大きさは最初と同じ畝が3つの小さい物だけどね。これ以上大きくしても僕1人だけじゃ管理しきれないんだ。
そのダヅが収穫時期になった時に、森の方が何やら騒がしくなって来た。一体どうしたんだろう?もしかして魔物!?
でも大丈夫!この土地は完全に僕の物になった事で結界の設定が細かく出来るようになったんだもんねぇ。今は僕や農園に害意の在る存在は結界内に入れない様に設定してる。だから魔物も近寄れないんだ。
そんな事を考えながら森の方を見て居たら、樹々が揺れてざわざわと不穏な雰囲気が。
あれ?おかしいな。あそこはもう農園の範囲内だった筈・・・・。
「ぶもぉおおおおおおおおおおおっ!」
「う、うわぁっ!!」
揺れていた樹々の奥から凄く大きな影が飛び出して来た!びっくりして僕は畑に尻もちついちゃったよ!一体何が来たんだろう?
「ぶふぅっ!!」
「う、牛?」
僕の目の前に居たのは、茶色い毛を身に纏った牛さんだった。角も立派で、顔が凄く厳つい。視線を向けられただけで威圧感在るね。
ビックリしたのはその体だった。傍目から見てすぐに解る位筋肉モリモリ!ボディビルダーみたいなパツパツの筋肉がミチミチと音を立てて動いてるよ。
「ってどう見ても魔物だよね!?ちゃんと設定した筈なのに何でここに入れたのさ!僕んちの結界どうなってるの!?」
シュバッ!
慌てている僕の目の前で牛さんの背中から一回り小さい影が飛び出してきた。その影のサイズは猫くらいで、長い尻尾に黒い毛と赤い瞳をしていて・・・・。
「チュー太!」
「ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
僕の胸に飛び込んできたのはチュー太だった。良かった。生きててくれた・・・。って体がボロボロだ!早く治療して上げないと!
「えっと、えっと、こういう時はたしか回復薬!それっ!」
「ぢゅわっ!」
「ちょっと染みるかもだけど我慢してね。」
「ぢゅぅぅぅぅぅぅぅっ・・・・。」
この回復薬はヤマブキさんが、万が一の時の為に持っておきなさいって言って買って来てくれた物。代金はもちろん支払ってるよ。あの3人のお陰で僕は小金持ちになったからね!
「ちゅふぅ。」
「うん。これで大丈夫だね。お帰りチュー太!どこ行ってたんだよ心配したんだよ?」
「ちゅちゅちゅっ!ちゅーちゅちゅっ!ちゅちゅちゅちゅちゅ!」
チュー太は鳴き声と身振り手振りで僕に言いたい事を伝えてくれるんだ。最近は何を言いたいかバッチリ解るようになって来てたんだよね。
えっと?どうして僕が無事なんだ!あの時確かに剣で刺されてた筈!どうして死んで無いんだ!だって?あれ?チュー太には僕が旅人だって話してたよね?
「僕達旅人は死んじゃっても復活出来るんだよ。色々とペナルティ、罰は在るけど。もしかして仇討ちとか考えてくれてたの?」
「ちゅっ!」
「ぶもっ。」
「えっと。そちらの牛さんは?」
「ちゅちゅちゅ。ちゅーちゅちゅっ!」
「ぶもぉ!」
「チュー太の知り合いなんだ。確かに強そうだもんね。」
チュー太はまだあの3人が農園を占拠してると思ってこの牛さんを呼びに行ってくれたみたい。確かに強そうだもんね。それで、報酬としてダヅを食べさせてあげるって約束もしてたんだって。さっきから畑をジッと見てたのはその所為なのかぁ。
「うん。せっかく来てくれたしダヅ食べる?丁度収穫なんだ。チュー太もお手伝いしてよ。」
「ちゅっ!」
「ぶもっ!」
「よーし!収穫だぁ!」
これでやっと僕の農園は元通り。一安心だね。さぁ収穫頑張るぞー!
『家畜:チュー太が帰還しました。』
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます