第26話 僕とピンチとハントの実力
「コルルルルル」
まん丸の黄色い瞳が僕達の事をじっと見つめてる。
その瞳の持ち主は体が真っ白で所々に黒い線が走ってて、大きな尻尾がゆらゆらと揺れてる。
今はしゃがみこんでいるけど、立ち上がったら2メートルくらいは在るんじゃないかってくらい大きい。
手は人の形に似てて鋭い爪が伸びてる。足も踵は浮いているけれど、しっかりと地面を踏みしめられそうな形をしてる。
顔は完全に虎。だけど体は人間。虎獣人って言ったら解りやすいのかも。聞いたこと無いけど旅人でも居るのかな?
胸元と腰には良くわからない毛皮が巻かれてる。胸に巻かれてる毛皮がちょっと膨らんでる。この人?は女性みたい。
「ミノル。セイカ。ゆっくり下がる。ウー太。私と一緒に警戒。」
「ぶも。」
ハントの指示で僕達はゆっくりと焚き火から離れる。僕はいつ襲われるかドキドキしてたけど、ウェアタイガーは僕達の事は警戒しているけど、それよりも焚き火の方が気になるみたい。チラチラとそっちの方を気にしてる。
「ん。あいつは焚き火に釣られてきた。煙が気になったのか、匂いに誘われたか。どっちかわからないけどこのまま下がる。」
「大丈夫なの?」
「解らない。だけど興味は焚き火に行ってる。変に動かなければこちらには来ない。」
「逆に言えば変な動きをすれば襲われるのね?」
「そう。ウェアタイガーは猫科の魔物。彼奴等は狩りをする時に獲物を甚振って遊ぶ。興味を引いた時点で飽きるまで追いかけ回される。」
「それは嫌ね。このまま逃げましょ。」
流石にセイカさんもこの状況はまずいと思ったのか僕達と一緒に下がってくれる。荷物の敵とか言って切りかかったらどうしようかと思ってたよ。
「コルルルルルルル」
あっ!ウェアタイガーが僕達から視線を外して焚き火に向かった!
「狙いはやっぱり焚き火だった。ミノル。いつでも逃げれるようにウー太の背中に乗る。ゆっくり。」
「解った。ウー太しゃがんでくれる?」
「ぶもっ。」
僕達から視線が外れてる内に逃げられるように準備しておかないとだもんね。荷車は・・・。諦めるしか無いか。又新しいの買ってあげるからね!
「よいしょっと。もう立って大丈夫だよウー太。」
「ぶもっ!」
「あいつは一体何してるのかしら?」
「焚き火を掻き分けてる。探してるのは甘芋?でも肉食の筈のウェアタイガーがなぜ?」
僕もウェアタイガーの方を見てみたら、ザックザックとまだ燻ってる焚き火を腕で払い除けてた。あぁ・・・、せっかく焼いた甘芋が燃えカスと一緒に弾き飛ばされちゃってる。勿体無いなぁ。あっちょうどこっちに飛んできた。キャッチしとこ。
「グルルルルルル。」
「あれ?鳴き声が変わった?」
「目的の物が見つからなくて不機嫌になったのかしら?」
「!?セイカとウー太は先に逃げる!こっちに興味が移った!」
うわっ!ウェアタイガーがしっかりとこっちを見ちゃってる!?早く逃げないと!
「ぶもーーーーーっ!」
「あなたも逃げるわよ!」
「私は大丈夫。少し足止めして逃げる。先に行く!!」
そう言いながら槍を構えてウェアタイガーの前に出るハント。冒険者の人もやられちゃってるんだからハント1人じゃ無茶だよ!!
「そうだ!ウー太も加勢したら何とか!」
「ぶーもっ!」
「なんでっ!?」
「ぶもっ。」
僕を逃がすのが優先だから嫌だって。そんな事言ってたらハントが死んじゃうじゃないか!
「ぶもっ!」
「大丈夫っって、そんな自信満々に。根拠も何も無いのに。」
「あら。本当に大丈夫みたいよ?」
いつの間にかセイカさんが器用にバック走しながらウー太の意見に賛成してきた。セイカさんちゃんと前見て走らないと危ないよ?
僕もちらっと後ろを振り返って見たら。槍でウェタイガーのひっかき攻撃を受け流しながら、足を狙って攻撃するハントの姿が見えた。
「追ってこれ無い様に足を中心に攻めてるわ。冒険者じゃないのに魔物相手にあの身のこなし。相当な手練れみたいね。一度手合わせしてみたいわ。」
セイカさんがなんか迫力をだしながらそんな事言ってる。セイカさんって八百屋さんだよね?何でそんなに戦いたそうにしてるの?
「ガァァァァァァァァァ!!」
「吠えたって駄目。絶対行かせない。」
ウー太は止まる事無くそのまま走り続ける。そんな僕達を追いかけようとするウェアタイガーだけど、ハントの巧みな槍さばきにうまく行かなくて不機嫌そうに吠えてる。
「速く行きましょ。じゃないと彼女も逃げ切れないわ。」
「僕達が居なくなればハントも逃げられるもんね。ウー太頼んだよ!」
「ぶもーっ!!」
ウェアタイガーの事は任せて僕達は速く逃げないと!
ハント視点
マップに表示された護衛対象の表示がどんどん離れていくのを見ながら、ハントは安堵の息を吐き出した。
「よかった。ミノルはともかくセイカとウー太は死んだらそれまで。逃げてくれて助かった。」
「ガアアアアアアア!!」
ハントの目の前には怒りの表情を浮かべながら鋭い爪を振り回すウェアタイガー。だがハントは攻撃の軌道を読み切り、槍で爪を受け流す。
攻撃の勢いをそらされて体を泳がせるウェアタイガー。その隙にハントは足に攻撃を加えるが、強靭な毛皮に弾かれてダメージが入らない。
「さすがユニーク。対人用の槍じゃ攻撃が通らない。」
「グラァァァァァァァ!!」
「だったら獲物を変えるだけ。」
「グガッ!!」
槍ではダメージが与えられないと考えたハントは一瞬にして槍をインベントリに仕舞い、取り出した新たな武器でウェアタイガーの頭部を打ち据える。
突然の衝撃に理由もわからず吹き飛ばされるウェアタイガー。くるりと猫化特有の動きで体制を整えた彼女が見たのは。身の丈より大きい鉄塊が先端にくっついている巨大なハンマーの姿だった。
「斬撃が効かないなら打撃。古来より決まってるゲームの基本。」
「ガアアアアアアアアア!」
「護衛対象を守るためにお前を倒してしまっても良いでしょ?」
殴り掛かってきたウェタイガーに少しだけ口元を釣り上げたハントが挑発する。
振り下ろされる爪を今度はハンマーで受け流すのではなく、ハンマーを軸として体を回転させて回避するハント。攻撃を回避した後にしっかりと地に足を着け、体を回転させた勢いをハンマーを振り上げる事に使う。
「ふんっ!」
「ぐがっ!」
頭上から振り下ろされる鉄塊をもろに頭部に受けたウェアタイガー。情けない声を上げながら地面に倒れる彼女だったが。すぐさま起き上がってハントから距離を取る。
「ぐるるるるる。」
「・・・。ダメージなし。さっきの言葉は撤回する。私じゃ倒せない。無理。」
「ガアアアアアアアッ!!」
「ミノル達もだいぶ離れた。だから逃げる。じゃあね。」
ハンマーでもダメージが与えられないと解ったハントは即座に撤退を選択。インベントリに武器をしまった後に黒い球体を取り出し、地面に叩きつけた。
ボフンッ!
「ガッフ!ゴッフ!ガアアアッ!!」
間の抜けた音とともに広がる薄緑色の煙。その煙を吸い込んだウェアタイガーが目をしきりに擦りながら鼻水を垂らして苦しんでいる。
煙が晴れた後もしばらく症状が残り。何とか目と鼻が元に戻った後にウェアタイガーが見た光景は、誰も居なくなった野営地の光景だった。
何処を探しても先程まで戦っていた女の姿は無く。匂いで追うにしてもさっきの煙の影響なのか、それとも逃げる時に臭い消しでも巻いたのかうまく行かなかった。
「ガアアアアアアアアッ!!」
怒りに叫び声を上げるウェアタイガー。実は彼女の周囲には探していた甘芋が転がっていた。
戦闘の余波で皮が破れ実が露出しいい匂いを放っていたのだが、鼻が馬鹿になっている彼女はそれに気が付かなかった。
だからこそ彼女はこう思ってしまったのだ。あの美味しそうな樹液の匂いがする物を奴らは持って逃げたのだと。
人と、牛の足跡を追ってウェタイガーは走る。匂いは解らずとも狩人としての本能が、知識が彼女を獲物の元まで導いたのだ。
ミノル達は、完全にウェアタイガーにロックオンされてしまったのだった。
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