第25話 幕間?
人から魔の森と呼ばれる秘境の森。その奥では多くの魔物や亜人種、人の世を捨てた人種が生存競争を繰り広げている。
そんな魔の森の一角に森の狩人と呼ばれる種族の集落が在った。
その中で一匹の雌が産気づき、子供を産み落とす。
目も見えない筈の小さな子供達。そんな子供達は生存本能に突き動かされるように母親の乳房に向かってよろよろと歩く。
だが、そんな中一匹だけ。母親に向かわずに別の場所を目指す個体がいた。
その個体は、母が寝そべっている側にある白い樹木に近づき、なぜか生えている歯で噛みついた。
傷つけられた樹木からは甘く芳醇な香りが漂い、傷跡からとろみの在る液体が滲み出す。
その個体はまるで母から乳を貰うかのように、一心不乱にその樹液をすすり続けた。
その時は母も変わったことをする子だと思い、尻尾を使い自分の乳を吸わせるように誘導した。
だがその個体はあまり乳を飲まず、気がつけば樹液を啜っていた。
子供達が大きくなり、乳から肉に食事が変わる時期。変だと思っていた子が更におかしいことに母は気がついた。
肉を食わないのだ。
群れの長が狩ってきてくれた獲物。他の子供達は嬉々として獲物に噛みつき、肉と血を貪るように食べるというのにその子だけは頑なに肉を食べようとしなかった。
あいも変わらず樹液を啜り、何処から持ってきたのか解らない木の根のような物を食べていたのだ。
狩人の群れの中にいてその子はあまりにも異質だった。だがまだ子供であることから、これから他の子と同じ様になってくれると母は信じていた。
その思いが叶うことは無かったが。
時間は進み子供達の成人の儀式の日。初めての1人での狩り。死んでしまう子も居る中、半数以上は狩りを終えて一人前の狩人として成人してくれた。
だが、その子だけは、美味しいからと両手いっぱいに色とりどりの甘い匂いのする何かを持ってきたのだ。
獲物はどうしたと吠える長に、その子は平然と答えた。あんな臭い物を食べなくてもこれならそこら辺に生えている。狩りなどしなくても良くなると。
これにはとうとう母は落胆し、長は怒り狂うことになった。そして長は言った。
我々は狩猟種族だ。狩りも出来ないものが一人前になる事など出来ない。自分の村からそのような軟弱者が生まれたというのは恥だ。だから処刑を行うと。
母は止めたが、長を止められる筈もなく処刑は執行された。第一線で戦う狩人達による集団暴行。それが処刑の内容だった。
だがその個体はその尽くを返り討ちにした。それどころかボスまでもを殴り倒し、自分が最強であると声高々に声を上げた。
その姿に、その異様さに、群れの仲間達は全員化け物を見る目でその子を見た。そして、この瞬間その子の村からの追放が決まった。
その子が果物をお腹いっぱいに食べて寝ている内に、村の住人は全員住処を移したのだ。跡を付けられないように念入りに痕跡を消しながら。
残された子は必死に母と家族の姿を探した。だが見つかることは無く、この時からその子は1人で魔の森を生き抜かなければならなくなった。
木々の影から襲ってくる獣。美味しそうな植物を実らせる肉食植物の魔物。影に潜み、背後から襲ってくる霊体。罠を使い、自分を狩ろうとする人種。
成人して間もないその個体は、やり過ごすという事を知らなかった。狩り過ぎれば目の敵にされ、全てから狙われるようになるという事を知らなかった。
襲ってきたものを全て返り討ちにし、進化を果たした子は魔の森全体から恨みを買ってしまった。
魔の森に居るあらゆる種族に追いかけ回され、食事も満足に取れず、ただひたすらに逃げた。たとえ力が強くても、1人では勝てる筈も無かったのだ。魔の森全体が敵になってしまったのだから。
傷つき、森を追い出された子は自分の現在地も解らぬままに走り続け開けた場所に出た。
追手の姿は見えず、安堵した子は受けた傷を癒やすためにじっと物陰に潜み回復を図った。
そんな折、目の前を美味しそうな匂いを放ちながら見たこともない物が通ったのだ。
先頭には自分よりも弱い生き物が2つ。匂いはその背後に在る木で作ったなにかから感じる。
ぐぅ〜
空腹で腹がなる。しばらく様子を見ていても、自分の脅威になるような存在は周りに居ない。
チャンスだ!
その子は獲物に襲いかかった。何かを引き倒した時にそれを引いていた動物と、乗っていた生き物が吹き飛んでいった。
反撃が来るかと思ったが、大きな生き物の方は死んでいるのか動かず。小さい方は木にぶつかって悶えていた。
必死に腰から光る何かを引き抜いて構えたが、あんな物では自分は傷付けられない。動けないようなので後回しでも良いだろう。
そう思い匂いの元を探す子。薄い何かを引きちぎり、硬い木で覆われた物を破壊する。
その中には子が見た事もないような物が沢山詰まっていた。だが匂いで分かる。これは自分にとっての御馳走なのだと。
一心不乱に貪っていると、自分の体に何かが当たるのを感じた。
気がつけば自分の周りに沢山の人種の姿が見えた。先程のは、側に落ちている先の尖った何かが肩に当たった衝撃らしい。
食事を邪魔された子は一瞬怯んだ。魔の森に居た人種は自分の毛皮を易易と貫く方法を持っていたからだ。
だがその心配は杞憂だった。なぜなら今自分を囲っている人種は、魔の森に居るそれとは違い弱かったのだから。
食事の邪魔だが、暴れすぎて御馳走がぐちゃぐちゃになってしまっては行けない。
子はやっと手に入れた食料を守るように暴れ続けた。周りに居た人種は、自分には叶わないと解ったのか傷ついた仲間を連れて逃げ去っていった。
これで食べられるとゆっくりと食事に戻る子。夢中になって食事を続けていると、あっという間に食料は無くなってしまった。
だがまだ足りない。今食べたものは美味しかった。もっともっと食べたい。
そこで子は逃げていった人種を追いかけることにした。先程食べた物はこの先の人種の巣に運ばれるはずだったのも。ならそこに行けば大量に在ると思ったのだ。
開けた場所を人種が逃げていく方向に進んでいく。思い出したかのように人種が攻撃をしてくるが、やはり自分を傷つける者は居ない。逃げられるように、命を取らないように攻撃する。
中には言い争いをしている人種も居た。だが自分には関係ない。さっさと巣に案内しろ。
人種を撃退し、わざと逃がして巣の場所を探る。ここに来て子は狩人の本能を思い出していた。
ゆっくりと歩みを進める子。その時、子の鼻になんとも芳しく甘い匂いが漂ってきた。
いつか遠い昔に舐めていた樹液のような濃く甘い匂い。子はまるで導かれるようにその足を早めた。
今までわざと生かしていた人種が邪魔をしてきたが、今度は手加減なしに命を刈り取っていく。
巣の場所を暴くより、この匂いの源にたどり着く方を優先することにしたのだ。
そして目の前に薄いなにかで出来な何かが大量に並んでいる場所を見つける。
匂いはその場所の奥。煙の立っている場所から漂ってくる。
口から流れる涎をそのままに、子は飛び上がり煙の側に着地した。
そこには、匂いの源を囲うように3人の人種と一匹の獣が居た。
子はじっと観察する。果たして自分が勝てる相手なのか、そして匂いの正体は一体何処に在るのかを探るように。
子の元の種族はウェアタイガー。生まれた時から孤独を運命から義務付けられた、ユニークと呼ばれる個体だった。
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