第27話 僕と虎と誘拐

「何とか逃げ切れたかな?」


「大丈夫じゃない?もしかしたらハントがウェアタイガーを倒しちゃってるかもね。」


「ぶふぅー。」


僕達は野営地とハーメルンの中間地点くらいまで逃げてきた。逃げてくる途中に前線が思いっきり下がってヤバいぞ!なんて言いながら走っていく冒険者の人達を見たから、ハントの方も大丈夫だと思う。本当に倒してたらユニークの武器見せて貰おうっと。


「あれは無理。倒せない。」


「うわっ!びっくりした!!」


「あらお帰りなさい。討伐できなかったのね。体は大丈夫?」


「問題ない。」


いつの間にかハントが僕の側に立っててびっくりしちゃったよ。汚れては居るけれど怪我とかはしてなさそう。


「倒せないってどういうことか聞いても?」


「ん。毛皮が硬すぎてダメージが入らない。打撃攻撃のノックバックは有効だったけど、状態異常にもならなかったし痛手を受けた感じでも無かった。残念。」


「あらら。それは残念ね。ユニーク武器ゲットのチャンスだったのに。」


「私の仕事は護衛。ミノルが逃げれたら私の勝ち。」


無表情でVサインをするハント。全員無傷で乗り切れたんだから確かに僕達の勝ちと言っても良いかも?


「あっ!甘芋ぐちゃぐちゃにされちゃったよね?クエストどうなってるんだろう?」


「見てみたら良い。」


「大丈夫だと思うわよ。納品するまでがミノル君の仕事だったんだから。焼いてたのはサービスよ。」


それでも心配だからチェックしとこ。どれどれ?


クエスト:ハーメルンを救え!

街にユニークモンスターが向かってきている。街の住人は協力してこのモンスターを撃退、もしくは討伐しよう!貢献度によって報酬が変わるぞ!


受注内容

アマ芋の栽培:クリア!

報酬:アマ芋の蔓✕10 10万マネ


作物の輸送:クリア!

報酬:!”#$%&’


あ、あれ?輸送はクリアになってるけど報酬部分が未決定からなんかバグ表示みたいになってる!?


「これは見たこと無い表示。報告案件?」


「納品途中で襲われたからかなぁ?」


「解らない。でもクリアしてるんだから大丈夫。」


「ぶもっ。」


「そうだよね。ありがとう二人共。」


表示がバグってても何かしら貰えるよね?


「そろそろハーメルンの防壁が見えるわよ。」


セイカさんの言う通り街道の向こう側に鼠色の建築物が見え始めてきた。やっと戻ってきたぁ。


「そういえばハントはどうやってウェタイガーから逃げてきたの?」


「特製煙幕を使った。しばらく目と鼻が効かなくなる。ユニーク相手に効果は薄いけど、短時間なら絶対に効果が在るっていう触れ込み。ギルドで買った。」


「あら。それってお高い奴じゃなかった?お金は大丈夫なの?」


「護衛費用として後でミノルに請求する。大丈夫。」


「それって大丈夫って言わないよね!?」


野菜を売って結構お金は持ってるけどあんまり高いと僕払えないよ!?


「1個10万マネだから大丈夫。」


「それなら払えるね。」


「いくつ買ったのかしら?」


「10個。」


「100万マネ!?」


高い!僕の貯金のほとんどが飛んでっちゃうよー。


がさり。


「敵?」


「何か。居たわよね?」


街道横の林の中から音がして、大きな影が動くのが見えた!ハントもセイカさんも武器を構えて警戒してる。僕はぺたっとウー太の背中に張り付いて、いつ走り出しても良いように準備したよ。


しばらく様子を見てたけど、林の中から何かが出てくる事は無かったけどね。


「・・・・・。気の所為だったのかしら?」


「こっちの様子を見てた何かは居た。気は抜けない。」


「ウー太はどう思う?」


「・・・・。ぶも。」


「警戒しながら先に進もうって。止まってても仕方ないって。」


「そうね。街の中に入ってしまえば何とかなるでしょ。」


「行く。」


僕達は軽快しながらゆっくりとハーメルンに向けて歩き出した。


しばらく歩き続けて、やっと門が見えてきた。ここまで襲撃は無し。


行き交う冒険者達の姿が見えた所でホッと一息。こんな所で何かが襲ってくる事は無いでしょ。


「ふぅやっと休めるー!」


「警戒し続けて疲れたわね。」


「戻ったらギルドに報告する。」


「野営地が荒らされちゃってるもんね。デスポーンした人達が報告してると思うけど、僕達も念の為報告しとかないと・・・。ってあれ?」


「?どうしたミノル?」


「あんな所に岩なんてあったっけ?」


一番初めに僕が戦闘訓練をしてた場所。スライムが逃げ込んだ背の高い叢の中。


そこに陽の光に照らされて白く見える岩が見えた。だけどあんな所に岩なんて在ったかな?


「岩?そんな物は見えない。」


「何処に在るの?」


「えっ?あっそうか!僕はウー太に乗ってるから見えてるんだね。ほらあそこに。」


シュバッ!!


僕がその岩の方に指を指した瞬間だった。その岩が突然動き出したかと思ったら、僕は空を見上げてた。突然の事で何が起こったか分からない僕。


だけど、腰辺りを力強く掴んでいる何かが在る。えっと今どういう状況?


「ミノル!ウー太!!」


「ぶもっ!?」どしーん!!


「きゃっ!!」


僕の足元の方で叫ぶハントの声。ウー太が倒れる音もした。セイカさんの叫び声も。


僕は恐る恐る腰をがっしり掴んでいる何かの先を目で追ってみる。そうしたら左の方にピコピコと動く耳と、白い毛皮をした後頭部が見えた。


「ミノルを離せ!」


「ウー太君大丈夫!?怪我は無い?」


「ぶもっ。ぶもーーーーーっ!!」


「ガルルルルルルルルルル!!」


あっ、これ僕を掴んでるのウェアタイガーだ。ってどうして僕がこの子に担がれてるの!?


「ガァウッ!」


「くっ!失敗した、ミノルが人質に。」


「ぶもっ!ぶもぉぉぉっ!」


「どうどうどう。落ち着いてウー太君。今攻撃したらミノル君も危ないわ!」


必死に周りを見回してみるけど、頭の上の方に林が逆さまに見えるだけで皆の様子が解らない。な、何とか逃げ出さないと!


「はっ、離して!」


「ガルッ!」


「ぐえっ!」


体を捻ったりしてジタバタしてたら、担いだ状態の腕を締め付けられちゃった。お腹を急に押されたから変な声が出ちゃったよ。あっ!HPが半分も減ってる!?


「ミノル!?」


「ぶもっ!」


「大人しくしてなさいミノル君!今私達が助けるから!」


これ以上暴れたら死んじゃうから暴れられません。ん?いっそ死に戻りしたらこの状況が打開出来るのでは?


「あ、あ、あ。ウェアタイガーが出たぞー!皆ここにユニークが居るぞー!!」


「!?馬鹿!」


「がるっ!」


「「あっ!?」」


あっという間だった。僕達が騒いでいる事に気がついた旅人1人が、ウェアタイガーが居る事を大声で知らせちゃったんだ。門の側で騒いでたんだから、仕方ない事だよね。


その後予想外の事が起こったんだ。大勢の人がこっちに来るのに気がついたウェアタイガーが、迎撃するんじゃなく逃げに徹したんだから。


今まで沢山の人を倒した筈のウェアタイガーが、何かに気がついて逃げちゃったんだ。うん、僕を担いだまま。


林に逃げ込むために走り出すウェタイガー。視界がグルングルン動く中で僕が最後に見たのは。こっちに手を伸ばすハントと突撃しようとしてるウー太。ウー太にしがみついてなんとか止めようとするセイカさんの姿だった。


僕は拘束されてる腕から何とか逃げ出そうと体を捻ったんだけど、その瞬間にゴンッ!って音がして気を失っちゃったんだ。どうやら林にウェタイガーが飛び込んだ拍子に、枝で頭を打っちゃったみたい。状態異常表示に気絶って書いてあるもん。


こうして僕はウェアタイガーに誘拐されちゃったんだ。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る