第35話 僕とレトさんと策

疲れたように溜息を吐くレトさん。えーっと、形は悪いけど収穫した甘芋が在るので食べます?


「おっと、愚痴を言いに来たのではなかった。」


「だったらさっさと帰れ。」


「貴様に指図される謂れはない。それよりもミノル。ウェアタイガーは君を連れ去って舐める以外には何もしなかったのは間違いないのだな?」


「間違いないです。」


本当にそれ以外何もしてこなかったもん。抱きついて来たのは別に言わなくても良いよね?


「ふむ。なら奴は君を諦めて無いな。」


「どうして解るんですか?」


「君も聞いたと思うが、ウェアタイガーに始まりキャット種に近い魔物は一度執着した物にはずっと付き纏う。たとえ瞬間移動系のアイテムを使って逃げたとしても、時間を掛けて必ず追いかけて来るんだ。特に奴はこの街の前まで来てしまっている。君の居る場所には検討を着けている筈だ。すぐに奴は来るぞ?」


うえっ!?ハントに助けられて逃げ切ったと思ったけどそれだけじゃ駄目なんだ!


「しかしそれだけ執着しているとなれば・・・・。ん?そういえば君は果物を食べたと言ったな?」


「あっはい。あのウェアタイガーはどうしてか果物とか木の実ばっかり食べてました。」


お肉は一切食べてなかったんだよね。穴に戻ってくる前に食べてるかとも思ったんだけど、口周りはずっと綺麗だったし、血の匂いとかもしてなかった。ずっと甘い匂いはしてたけど。


「肉食の筈のウェアタイガーが果物や木の実を食べて甘い匂いをさせる。ふむ。特殊個体という話だったな。となれば・・・。」


なんかブツブツと悩み始めたレトさん。バルトさんやヤマブキさんは又始まったみたいな顔してる。


「こいつは一回考え始めるとなげぇんだよ。」


「でもこの後出てくる案はとっても有効なものが多いのよ。彼女はその力を買われてギルド長になったの。冒険者の死亡率が下がったのも彼女のおかげなのよ?」


冒険者の死亡率の話なんて僕聞いたこと無いから分かんない。今度ヤマブキさんに教えてもらおうっと。


「うむ。奴らへの罰も必要だしな。うん、これが良い。」


「お、帰ってきやがったか。」


「それで?随分早いお帰りだったみたいだけどどうするの?」


「ミノルに確認だ。表に居る牛は君がテイムした魔物か?」


「えっと、テイムっていうか家畜として飼ってます。」


家畜システムのおさらい。家畜システムは人と結びつくテイムと違って農園と結びつく従魔システムなんだ。


だからチュー太やウー太はミノル農園所属の魔物って扱い。


僕の言うことを聞いてくれるのは、農園の持ち主が僕だからだね。だから厳密にはテイムしてるって言わないんだ。


「だが似たような事は出来る。間違いないな?」


「はい。でも野生の魔物を家畜にするのは難しいですよ?」


例えばどこかの牧場から馬を買ったとしたら、すぐに家畜に出来る。


でも野生の馬を家畜にしようとしたら、何度か交流して一定以上の好感度を稼いだ上で僕と一緒に来たいと思わせないと駄目なんだ。


「ウェアタイガーがそう簡単に家畜になるとは思えないんですけど。」


「いや。私の考えだとすでに君への好感度はかなり高い。君は、舐められる以外にも抱きつかれたりしていなかったか?体を擦り付けられた事は?」


舐められた時はずっとそんな感じでしたけど?でも恥ずかしくって言えない!


「その様子だと私が言った事は全部やられた訳だな?そしてこの農園ならば奴の好物を用意出来る。勝算は在るな。」


「おいおい、そろそろ俺達にもその作戦を教えてくれよ。」


「私もミノル君の保護者として聞く権利は在るわ。」


「私はミノルの護衛。危ないことはさせられない。」


「簡単な話だ。ウェアタイガーをミノルの家畜にしてしまう。」


「「「「えっ!?」」」」


冒険者達が血眼になって討伐を狙ってるウェアタイガーを家畜にしちゃうの!?それって僕がかなり恨まれない?


「討伐を狙っているのは旅人の冒険者達だ。住人の冒険者は元々追い払う事前提で動こうとしていた。」


「あっ、そうなんですね。」


「当たり前だ。自然界の狩人として名高いウェアタイガーの、それも特殊個体だぞ。討伐何て狙うだけこちらが損をする。ならば十分に安全に配慮しながら追い払うのが一番だろう?旅人と違って住人の冒険者は一度死んだら終わりなんだぞ?それにこの街には実力者が少ないからな。」


確かに言われてみればそうだよね。無理に討伐する必要は無いんだ。


それにハーメルンって初期の街だから強くなった人は次の街に行っちゃうもんね。


「だがよ。それで冒険者連中は納得するのかよ?奴ら特殊個体から取れる素材を狙ってるんだろ?」


「納得させる。一部暴走した冒険者の所為で奴をこの街の近くまで呼び寄せてしまった。さらには関係ない者にまで被害まで出した。その責任を取らせなければ行けない。冒険者は自由だが、自由を得るには実力と責任が伴う。力も無い奴が自由を謳っても意味がない事を身を持って知らなければな。」


うっわ。レトさんの顔がめちゃくちゃ怖い。まるで般若みたい。それ程勝手に動いた冒険者に怒ってるんだね。


「成る程。それで罰にもなるって言ったのね。」


「あぁ。自分達の目当ての獲物がギルド長公認で別の者の手に渡る。奴らはそれを指を咥えて見ている事しかできん。これほど悔しい事は無いだろう。」


うわぁ。この件に関してレトさんはもう冒険者に関わらせないようにするつもりだ。


ユニークの討伐を狙ってた人達からしたらまさに晴天の霹靂だろうなぁ。冒険者ギルドが魔物の討伐を止めるなんて。


でもさ。よく考えて?それってウェアタイガーを家畜にした僕に彼らの怒りが向くって事じゃないかな?本当に大丈夫?


「ミノル。安心する。人相手なら私は無敵。」


「ミノルに手を出したら出てくるのは傭兵ギルドだ。俺達全員と事を構える奴何てほとんど居ねぇよ。その時には目を瞑ってくれるんだろ?」


「もちろんだ。もしそうなっても賠償は請求しないと約束しよう。」


そうは言っても襲ってくる人が居るかも知れないじゃないか。僕は心配です!!


「あら。その頃にはウェアタイガーもこの農園で暮らしてるんだから。ミノル君の農園の戦力はかなり上がってるのよ?そんなに心配することはないわ。」


「それはそうかもですけどぉ。」


「まっ、どっちにしろその作戦を実行するにゃ足りない要素が在るわな。」


「む。私の策に文句を付けるのか?」


「いんにゃ?大まかには良いと思うぜ?だがよ。肝心のウェアタイガーが了承するかどうかって所が抜けちゃ居ねぇか?」


僕への好感度が高いって言っても、ウェタイガーが納得して僕の所に来てくれないと家畜に出来ないんだよね。だからバルトさんが言ってる事は間違いじゃない。


僕の農園に来たくないって思っちゃったら作戦事態失敗しちゃう。


「ぶもっ!」


「わっ!ウー太?玄関から顔出してどうしたの?」


「ぶもっ!ぶもぶもっ!ぶもーっ!」


「ウー太君は何を訴えてるの?」


「もしウェアタイガーが来たらウー太が上下関係を叩き込んでから、農園に誘致するって。」


後、僕を攫った仕返しもしないととか言ってます。次は負けない!って文字通り鼻息が荒い。


「でも僕ウー太に傷付いて欲しくないよ?」


「ぶもぉ!」


「これは誇りの問題だ?」


「ぶもぶもぶぅーもぉー!」


「いつまでも護られているだけなのは性に合わないって?でもなぁ。」


「ミノル。ウー太に戦わせる。大丈夫。この子は強い。それに修行もする。」


「ウェアタイガーが居た居た穴からここまでは最短で5日は掛かる。だが奴は暫く周辺を偵察するだろう。大勢の人を見て逃げ出したそうだからな。戦力分析はする筈だ。」


「丁度いいな。明日からこいつらは向こうに戻る。目標の人物が居ないとなればもっと時間が稼げるだろうぜ。」


「ふむ。では作戦決行はミノルが戻って来てからだな。もしその間に奴を見つけたとしても、追い払うだけで深追いしないように厳命しておく。」


「もし勝手に動いちゃったらどうするのよ。」


「その時は勝手にくたばるだけだ。」


僕は皆の話を聞きながらすっごくドキドキしてた。本当に成功するのか、失敗するのか。どちらにしても、皆が無事で乗り越えられますように!


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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