第29話 その頃ハント達は

やられた。


気を抜いていたつもりはなかった。街までもう少しという所で警戒を強めていた筈だった。


予想外だったのは相手の力量が、自分が想定していた物よりも高かったというだけ。


ユニークだからと高く見積もっていた評価を、実際に手合わせして感じた手応えを元に下した評価を。あのウェアタイガーは軽々と超えていっただけ。


だが、その所為で護衛対象であるミノルが連れ去られてしまった。


「ウー太君大丈夫?」


「ブルルル!ぶもぉぉぉっ!!」


ウェアタイガーに引き倒され左の後ろ足を痛めたのか、足を引き釣りながら林に向かおうとするウー太。セイカはそんなウー太を気遣いながら無茶をしないように引き留めてくれている。


ウー太も悔しいみたい。ミノルを背中に乗せて、すぐに守れる位置に居たのに連れ去られてしまったのだから。私も、悔しい。だから、安心させてあげないと。


「大丈夫。追跡出来る。」


「ぶも?」


「本当。」


要人警護をこなす際に、誘拐される可能性は常に考えてる。だから私は【追跡】と【マーカー】スキルを頑張って取得した。


【追跡】は目印をつけた相手をマップ上で追いかけられると言うもの。【マーカー】は好きな相手に印を付けられるというもの。


ミノルには、フレンド登録した時に【マーカー】は使用済み。マップ上では凄い速度で離れていく若芽の印が見えてる。


護衛クエストは守れなかったら失敗じゃない。護衛対象が日常を送れなくなってしまったら失敗。だからまだチャンスは在る。


「なら早く追いかけましょう!」


「セイカとウー太は駄目。」


「ぶもっ!?」


「どうしてなの?」


「2人は死んだらおしまい。居なくなるとミノルが悲しむ。私は旅人だから平気。」


もしもを考えると2人は連れていけない。ウー太は怪我をしてるし、セイカがウェアタイガーと戦えるとは思えない。


そもそも討伐は考えてない。こっそりと近づいて密かにミノルを助け出す。その為にも1人のほうが動きやすい。


「2人は街でお留守番。ミノルが死に戻るかもしれない。」


「あぁ!旅人って死んじゃっても復活するのよね。それならウー太君と一緒に待ってようかしら。広場にいれば良いんでしょ?」


「そう。待ってて。」


「・・・・。」じーーーーー。


うっ。ウー太にはバレてる?


多分ミノルが死に戻りしてくることはない。エネミーに連れ去られた場合。ほぼ確実に【捕虜】という状態になる。


旅人が捕虜状態で死んだ場合。リスポーンポイントは拘束されている場所に自動的に設定される。


外部との連絡も遮断されてる筈だから。ミノルが助けを呼ぶことも出来ない。


捕虜の解除には、自力での脱出か救助が必要。


「任せて。大丈夫。」


「・・・・・。ぶもっ。」


私の実力を知ってるウー太は渋々了承してくれた。この信頼を裏切らないようにしないと。


「じゃあ追撃に移る。」


「おーっと、抜け駆けは許さないぜぇ?」


ぬ。さっき街にウェアタイガーの事を伝えた旅人が邪魔をしてきた。抜け駆け?なんの事?


「抜け駆けなんてしない。私は護衛対象を救出するだけ。」


「ユニーク武器は貴重だからなぁ。そんな事言いながら仲間を呼んで討伐するんだろ?させねぇぞ。」


そうだそうだといつの間に来ていたのか他の旅人達が囃し立てる。


「討伐はしないと言ってる。」


「信じらんねぇって言ってんだよ。」


ずっとニヤニヤしながらこっちを見ている男を筆頭に、集まってきた冒険者達が各々文句を私に言ってくる。


でもその内容は酷いもの。ユニークの討伐機会は平等に与えるべきとか、独占を許すなとか。私の話なんか聞こうともしない。もしかして邪魔が目的じゃない?この人達の目的は・・・。


「ははぁーん。あんたらこの子がウェアタイガーを追跡できるって知って、難癖つけて道案内させようとしてるんだぁ。」


「はぁ?何言ってるんだ?」


セイカが相手の思惑をズバッと言ってくれた。強がってるけど、汗がすごいよ?


「図星みたいねぇ。まっ、ずっと聞き耳立ててるの知ってたから驚かないけど。それよりあんたら冒険者として恥ずかしくないの?この子、傭兵ギルドの子なんだけど?」


「うっ。」


魔物専門と豪語してる冒険者ギルド。そこの会員がユニークの追跡で傭兵に負けたとなれば、冒険者という職業の信頼は少なからず失墜する。


なんて事は考えてないと思う。だって彼らは住人じゃなくて旅人なんだから。


楽して、楽しんで、強い武器を手に入れられればそれでいいと考えてるんだから。じゃないとこんな風に護衛任務の邪魔はしない。


「うるせぇ!ユニークが相手なんだから、魔物の専門家である俺達冒険者に協力しやがれ!」


「ならしっかりと協力要請を出してもらわんと困るがなぁ。」


あっ。ギルド長。いつの間に。


「な、何で傭兵ギルドのギルド長が出てくるんだよ!」


「街の一大事なんだから防衛に駆り出されたに決まってんだろうが。言っとくがそっちはちゃんと領主から依頼されてるからな?だが、ウェアタイガーの追跡については依頼を受けちゃいねぇ。それなのに、うちのギルド会員を顎で使おうってのはどういう了見だ?あぁん?」


ギルド長から威圧が放たれる。うーん。やっぱりまだ敵わないなぁ。いつか追い越したい。


「ぐっ!」


私に文句を言ってた人を筆頭に皆押し黙る。そんな中をギルド長は私達を庇う位置まで歩み出て、冒険者達を睨みつけた。


「これくらいの威圧で尻込みするってんなら、ユニークの討伐なんざ止めちまえ。一瞬で刈り取られて終わるぞ?後な、そこのギルド員は傭兵ギルドにとっちゃかなり重要人物の護衛任務を任せてんだわ。そいつの邪魔をするって事は、傭兵ギルドを敵に回すってことだが分かってやってんのか?」


ギルド長ギルド長。その人達威圧に負けて動けないから。多分聞こえてないよ?


「おうハント。お前やらかしたなぁ。」


「まだ失敗じゃない。反応は追えてる。」


「ミノルはうちにとっても、街にとっても貴重な人材だ。解ってんな?」


「ん。絶対助けだす。」


「ならこいつらの事は任せてさっさと行け。邪魔はさせねぇ。」


「ありがとうギルド長。」


大人しくなった冒険者達を放置して、私は1人で反応を追う。グダグダしてるうちにだいぶ離されてしまった。急がないと。


【隠密】スキルを使い気配を消しながら林を進む。平原の方と違って林の先は森になってて、出てくる魔物も強く状態異常攻撃もしてきて厄介。


今はそんなのを相手にしてられないから全部無視する。


野営とログアウトを挟んでやっと森の中ほどまで来た所で、ミノルの反応に追いつけた。


ここ何日かは印が動いてなかったから、何処かに捕まってるとは思っていた。


まさか地面に空いた落とし穴の跡地に居るなんて。これじゃ、こっそり近づいて救出は難しい。せめて洞窟ならやりようはあったのに・・・。


「ひゃあああー!」


「ミノル!」


洞窟からミノルの叫び声が!一刻の猶予もない。早く救出しないと!


ボフンッ!


「?」


眼の前の落とし穴から突然木の枝が飛び出して来た。一体どういう事?


え!?木の枝にミノルが捕まってる!?


「ひああああああ。怖いぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


飛び出してきた枝は木の一部分だったみたい。ミノルが捕まっている場所が丁度木の天辺辺りになる。


ビヨヨーンと音が聞こえてきそうな程しなった枝は。そのままミノルを遠くの方に弾き飛ばしてしまった。


「誰か助けてぇ〜!」


はっ!見惚れてる場合じゃない!待ってミノルー!!


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 


コロナに感染致しまして、次回更新をお休みさせて頂くかもしれません。






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