第32話 しつこい虎・ウー太の気持ち

サイド:ウェアタイガー


そ、そんな。逃げられちゃった。


あの甘い匂いがする食べ物を持ってた小さい奴。


私が何を探してるのかを察して、あの甘くて美味しい物をくれたあのちっこいのが連れ去られた。


お礼の意味も込めて抱き抱えてペロペロしてあげてたのに・・・・。


仲間と違って嫌な顔をせずに甘い物も食べてくれるし。怖がらずに一緒に居てくれて、かくれんぼして遊んでもくれたのに・・・。


ペロペロしてたらいい匂いがして、気持ち良くなれるから大事にしてたのに・・・。


それもこれもあの邪魔者の所為だ!


最初はあの良い匂いがどこから来てるのか探そうとしてたのに、変な匂いがする煙を炊いて邪魔された!


私を見て逃げようとした奴がなにか知ってるんじゃないかと思って追いかけようとしたら邪魔した!


最後はあの匂いの元を持ってたちっちゃい奴。大事に大事にペロペロしてたのに連れてかれた!


もう許さない!あの小さい奴は私と一緒に暮らすんだ!


生まれて初めてご飯をくれて、一緒に居てくれた大事な奴なんだぞ。私の宝物何だぞ!


絶対に取り戻す。消えちゃったけど、どうせあの似たような奴がいっぱい居た巣に帰ったんだ。


あの巣を壊してでも探し出して、今度は追いかけられないような場所に巣を作って一緒に住むんだ!


私は絶対に負けないぞ!邪魔者を倒して小さい奴をお持ち帰りしてやる!!


待ってろ小さいの!私がすぐに行くからな!


サイド:ウー太


我はウー太。お世話になっている農園の主にそう名付けられた。


元々我はとある人に仕える一匹の魔物だった。だが戦が起こり、主は命を落としてしまった。


我も大きな怪我を負い。本来の力を発揮出来なくなって逃げるしか無かった。


いつか主の敵を取りたいと願いながら、今住んでいる農園の近くまで落ち延びてきたのだ。


あの森には怪我によく効く薬草が沢山生えていると知っていたからだ。我は戦で負った傷を癒やす為にその薬草を食べ続けた。


少し食べすぎた様で、自生する薬草はかなり減ってしまったが。お陰で体は元気になった。


次は力を取り戻すために森に居る猛者達との立会を続けた。時折来る冒険者と呼ばれる人との戦いは良い訓練になった。


ある程度力を取り戻した後は、積極的に人を狙っていた。


何度か立会をしていると、いつの間にかオーガカウ等という名前で呼ばれるようになってしまった。


全く失礼な話だ。我をそのような暴れるしか脳の無い牛と一緒にするとは。


まぁその話は良い。


森で暴れすぎた結果。人も魔物も我と勝負をしてくれ無くなった。


我はもっと強くなりたいというのに、これではどうにもならない。


そう思い森の奥でふて寝していると、知古である奴が来た。


農園の主からチュー太という名前を賜ったあ奴は、その主を守りたいから一緒に来て欲しいと伝えてきた。


もちろん最初は断った。主の敵も取れないままであったし、強くなりたいという思いが強かったのでな。


だが奴は一緒に来ればダヅが食べ放題だと言ったのだ。


前の主との思い出の作物であるダヅ。人の手でしか栽培できないあの作物をもう一度食べられる。


我はついついその提案に乗ってしまったのだ。


決して食欲に負けた訳ではないぞ?人を襲うような無法者を放置出来ぬと思っただけだ。


それにそのような者達と戦えれば、鍛錬にもなって良いと思ったのだ。


だがたどり着いた農園では敵はおらず、農園の主が元気に畑の世話をしていた。


どうやら賊はすでに捕縛されてしまっていたようだ。


我の力を見せつける前に事が終わってしまっては、ダヅが食べられぬ。


そう思っていた所でチュー太殿がダヅを報酬に用心棒をやってくれると農園の主に私を売り込んだのだ。


農園の主は最初我の姿に恐れの感情を抱いていた様子だったが、チュー太殿の説得のおかげもあってそのまま農園に住む事になってしまった。


まぁ良い。一度襲われた場所ということは無法者たちに取ってここは狙い目の場所なのだろう。ならば、訓練相手が来る事も在るだろう。


そう割り切って我はミノルという人の子の農園で世話になることになった。


農園の主であるミノルはとても小さな人だった。その小さな体を一生懸命に動かし、畑を耕す姿を見て以前の主の小さき時を思い出してしまった。


ただボーっとしているのも暇であったので、思わず畑を広げる手伝いをしてしまった。ミノル殿は大層喜びで、沢山のダヅを我に食べさせてくれた。


もちろん用心棒の件も忘れていない。遠くからこちらを伺う怪しい奴や、何か悪さをしようとした者達を見つけ次第討伐した。


チュー太殿から農園の主にバレないようにとお達しだった為に、知らせる事は出来なかったがな。


ミノルの農園で過ごしていく中で、この人間は植物に愛されているという事に気が付いた。そこで我は、自分が食い尽くしてしまった薬草を持って来てミノルに渡してみた。


受け取ったミノルはあっという間に薬草を茂らせ、しかも繰り返し収穫できるようにしてしまった。


これには驚愕した。あの薬草は人の手で育てるのは難しいと前の主が仰っていたからだ。そして、この薬草が栽培できた場合は悪漢共にしつこく狙われるという事も知っていた。


案の定。薬草を育てられると知られたミノルは狙われ始めた。街に納品に行く際にも不穏な視線が常に付き纏う。


今は我が一緒に居るからこそ手出しして来ぬが。もし奴らが徒党を組んで攻めてくれば到底我1人では守りきれない。


そう思っていた所で腕の立つ傭兵、ハントという者がミノルの護衛に着くことになった。


ハントは悪漢共の扱いに慣れている様子であった。ミノルに気が付かれないように事前に悪漢共を討伐。時には我とも共闘し、時には離れた場所に隠れた悪漢共を同時に強襲して農園を守った。


何度も手合わせをし、お互いの力量を高め合ったりもした。ミノルの前では畑の手伝いしかしておらんが、その裏では何度も襲撃を撃退していたのだ。


そんな中、あの事件が起こった。強い魔物が出た前線に食料を運ぶという仕事。


ミノルがせねばならぬのかと抗議しようとしたが、荷馬車が使えぬという事情があったが為にミノルは承諾した。


農園の主が承諾したのならば、世話になっている我に何か言う権利はない。


何かあっても我が守れば良いのだ。そう思っていた。


だが、納品先で襲撃を受け。挙句の果てには街の前でミノルを攫われてしまう失態を犯してしまった。


その瞬間。我が背に乗り勇猛果敢に戦っていた前の主が、敵の矢に討ち取られて死んでしまう瞬間が脳裏をよぎった。


体を包む怒りの感情。あのような事にはもうせぬと、突撃しようとした所で一緒に納品に行っていた女に止められた。


ハントにも、ミノルが人質に取られていて今は手出しが難しいと止められた。


だが我も引けぬ!2度も主を失う事など耐えられぬ!


そう訴えた我に、必ず連れ戻すとハントは力強く返事をしおった。


我はその、真剣な瞳に負けた。奴の実力は良く解っていた。だから、必ず助けて帰れと後を託した。


宣言通り、ミノルは五体満足で帰って来た。だが、我は素直に喜べなかった。


ミノルが攫われる前、我が反応できていれば拐かされる事も無かった。


我にもっと力があれば、最初の襲撃の際にあの猫を追い返しミノルを守ることが出来た。


ならばこそ。ミノルに、いや主に再び厄災が降り掛かった際に我1人で跳ね返せるようにならねばならない。


我は農園に茂ってしまった甘芋を引き抜きながら、修行をする決心を固めた。


まずはチュー太殿に相談せねば。ハントも良き修行場所を知っておるかもしれん。もう2度と、不覚とらぬようにせねば!


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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