幕間 その頃現実では・・・
「ミノルのやつは楽しんでいるだろうか?」
「あら、ご飯を食べてすぐに戻るくらいですもの。楽しんでるわよきっと。」
そうだな、そうだと良いな。
俺達の息子である実。あいつは生まれた時から普通の子とは違うとは思っていた。
まず生まれてすぐに自発呼吸がなかった。医者が宙吊りにして尻を叩いてやっと泣き始めたくらいだ。
その後体を動かすことも自分でしなかった。俺達夫婦が医者と協力して、代わる代わる手足をそっと動かしてやっと自力で動かし始めた。
アクアの時にはそんな事が無かったから、何度も何度も大きな病院に連れて行って検査をしてもらっていた。
だけど何処に行っても体に異常はありません。成長は個人で違うから、気長に様子を見てくださいとしか言われなかった。
何処に行っても同じことを言われ、俺達夫婦は不安にかられながらも出来る事をやった。
体に障がいのある人のリハビリを参考にして動かしてみたり。情操教育に良いからと音楽を聞かせたり。
一時期は家でずっとオペラが流れていた時期があったなぁ。
そんな、息子の為に色々とやっている最中に母から家で一時期預かろうかという提案をしてもらったんだ。
その頃の実は歩くことは出来てもまだ覚束なくて、よくコケていたし走ることはもちろん出来なかった。あまり喋ることもなくて、感情の発露も希薄だった。
俺達夫婦もそんな実相手に疲弊していたんだと思う。アクアに構うことが出来ずどんどんわがままになっていたし、夫婦間での喧嘩も絶えなかった。
おそらく母はそんな俺達を心配して、預かるという提案してくれたんだろう。まぁ体と心を成長させるなら、自然豊かな田舎で育つのが一番だと豪快に笑ってたが。
実に申し訳なく思いながらも、俺達夫婦は母に実を預ける決断をした。母は父が亡くなって寂しいから甘やかせまくってあげるよとまた笑っていた。
もちろん寂しく思わないようにテレビ電話で常に様子を見ていたし、近況報告も行っていた。
仕事の都合がついたときは実家に行って家族揃って一緒に過ごす時間も作っていた。
本当は俺達と一緒に居たいんじゃないか?家に帰りたくはないか?淋しく思っていないか?俺達の事を、恨んでは居ないか。
本心を隠してないか何度も母さんに確認したが、心配ない。大丈夫の一点張りだった。
そんな実が、初めて笑顔を見せた時の事を思い出す。
何度目かの帰省の時、家の前で珍しく実るが待っていた。そして、俺達の姿を見た時に満面の笑みを浮かべて手を降ってくれたのだ。
今まで表情がピクリとも動かなかった実の成長に、2人して後で泣いたのを覚えている。アクアが実の事を可愛がり始めたのもこの時からだったな。
田舎での生活を通して成長した実は、10歳になる頃には普通の子とは変わらない位になっていた。まぁ、激しい運動は出来なかったが。
お世話になった母が体調を崩したこともあり、その頃に実は我が家に帰ってきたんだったなぁ。
「ただいまぁ。」
「あら、お帰りなさい。友達の様子はどうだった?」
「元気そうだったよ。でも暇だから今度VRゲームをするんだってさ。一緒にどうって誘われちゃった。」
「でもあんたそんなの買うお金無い筈よね?一体どうするの?」
「そこはお父さんにお願いして!!」
「実に買ってやったからすぐには無理だな。自分の誕生日まで待ちなさい。」
「ちぇ〜。良いもん。実に借りるから。」
「駄目よ。EEDは生体認証してるんだから。お姉ちゃんは使えないわよ。」
「え〜!?」
「我慢しなさい。そうね。家のお手伝いしてくれるならお小遣いを上げてもいいわよ?」
「いつもやってるじゃん!」
ブーッ!ブーッ!ブーッ!
ギャーギャーと言い合いをしている2人をほっこりしながら見ていたら。端末に着信が入っていた。相手は『エレクトリア病院』?確かアクアの友達が居るという病院ではなかったかな?
「もしもし、稲穂ですが。」
『突然のお電話申し訳ありません。私はエレクトリア病院に勤務している医師でアイギスと申します。御子息のミノル様についてお話を伺いたいのですが、今お時間はよろしいでしょうか?』
あぁ、実が昼に話していた人から連絡が入ったのか。少し検索してみたら、確かにこの病院はVRゲームの緊急対応病院と記載されている。
「はい。大丈夫ですよ。」
『詳しい検査等はご両親の判断で通院していただいてからになりますが、少し気になる事があったので連絡いたしました。いくつか質問をいたしますので、答えていただけますでしょうか?』
「はい。構いません。」
オンラインが発達した今の世の中で対面せずに問診を受ける事は珍しくない。連絡先の所に鍵のマークが付いているということは、専用回線でハッキングなどの対応をしているという表明になっている。この回線を使えるのは、公共機関の職員だけだから嘘を言っているという事もない。たとえ嘘だとしても、すぐにバレる。
アイギスさんの質問に色々と答えていく。生まれて直後の様子。それからの成長度合い。情緒面で変化があったのは何時か。他にも出来る事、出来ないことについて色々と聞かれた
こんなに詳細に聞かれるとなるとこちらも不安になってくる。真剣な声で応対をしていた事で、妻と娘が心配そうにこちらを伺っているのが見えた。
『答えづらい事にも返答していただきありがとうございます。』
「いえ、それで実は。あの子は大丈夫なんですか?」
『問診だけの結果となりますが今すぐどうなるということは無いと思います。ハイブリッド。人とエレクトロンの間に生まれた人間の子どもの総称ですが、その中には心臓を自力で動かす事も出来ない子が居ます。ですが、聞いた限りでは心臓も自力で動かし、呼吸も自発で行えている。ゲーム内での関わりですが、感情も、体の動かし方も特段問題ありません。余程、良い環境で育ったのだと伺えます。』
「いえ、ほとんど私の母のお陰です。母の提案で実はしばらく田舎で生活していましたので。」
『たくさんの自然と触れ合った結果ですか。それが彼には合っていたのでしょうね。』
あぁ母よ。あなたの言っていた事は正しかったよ。お陰で実は大丈夫そうだ。
『ですが念の為に一度検査を受けに来られませんか?表面上では見えない場所に問題を抱えている場合もありますので。』
「分かりました。先生の居る日を教えていただいてもよろしいですか?」
『病院が開所している日は必ず出勤していますのでいつ来ていただいても構いません。』
「分かりました。では家族と相談して一度受診したいと思います。」
『分かりました。後で紹介状を端末に送信させていただきます。遅い時間に連絡して申し訳ありませんでした。』
「いえ、あの子のことを思っての事だと思いますので。はい、はい、失礼します。」
「ねぇお父さん。実に何か在るの?大丈夫なの?」
電話を切り、端末をテーブルに置くと即座にアクアが心配そうに私に質問してくる。その後ろでは似たような顔でホムラが佇んでいた。
「大丈夫だよ。ただ実は少々特殊な子だったみたいだ。念の為に一度検査を受けたほうが良いという提案だったよ。」
「それは本当に大丈夫なのあなた?」
「あぁ。日常生活に支障は無いそうだ。万が一の可能性を潰すための検査だから心配ない。」
「良かったぁ。」
安堵するアクアとホムラ。小さいときはあんなに実の事を嫌いと言っていたアクアがこれほど弟の事を心配するようになるとは。少し目頭が熱くなるじゃないか。
「検査は早いほうが良いのでしょう?いつにしたの?」
「病院が開いているときであればいつでも良いらしい。確かもうすぐ学校の長期休みがあったな?」
「うん。再来週から春休みだよ。」
「その時に休みを取って連れて行こうかと思うんだがどうだ?」
「そうね。私も着いて行きたいから有給取るわ。」
「私も行く!あの子1人だと心配だもん。ついでに友達とも会ってくるわ。」
「なんだアクア。盗み聞きしてたのか。」
「病院の名前が聞こえちゃっただけでーす。」
「それじゃ、全員で病院に行きましょう。」
どんな検査をするのか調べながら。実に何事も無ければいいと考える稲穂家の面々だった。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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