第51話 僕とお祭りとルドさんの屋台

イナバ達が僕の野菜を持って初めての行商に出た。


僕は心配で心配で一緒に行こうかってイナバに聞いたんだけど。


「ミノルはんが来たほうが足手纏や。心配せんでもわいらは強いから、安心して待っとき!」


って言ってさっさと出発してしまった。うーん、イナバ達は可愛いからなぁ。本当に心配だなぁ。


「きゅっ!」


「あっありがとう。うん、大丈夫そうだね。」


「きゅっ!」


「うんうん、芽かきも完璧だね。さすがもともと畑をしてただけはあるね。」


「きゅ〜。」


で、僕が今何をやってるかって言うと作物から余分な芽を取り除く作業。芽かきって言われるやつだね。


今まで作業する人が少なかったからあんまり出来なかった作業なんだ。大きくて味も良い作物を作るなら必要な作業だから、ずっとやりたかったんだよね。


「ちゅっ!」


「チュー太もありがとう。」


「ちゅちゅ〜。」


イナバもチュー太も褒めたら体をくねくねさせて照れてる。家の子達は可愛いなぁ。


「ぶもっ!」


「がうっ!」


「もちろんウー太もウェアも頼りにしてるよ。」


ウー太とウェアは収穫の終わった場所の後片付けをしてくれてるよ。畑も広がったし、土を休ませる場所も考えないとね。


ピロン♪


「チャット?誰からだろ?」


ハントはまだイベントの途中だから連絡はしてこないだろうし。ヤマブキさんも黄金の畑が消えた事をギルドに知らせるからしばらく忙しいって言ってたし。本当に誰だろう?


『ミノル。いつになったら屋台に来てくれるんだ?シアとアイギスが待ちくたびれてるぞ。』


ルドさんからの連絡だった。そういえば僕ルドさんの屋台に行くって言ってたんだった!


「後の作業は任せて良い?」


「きゅきゅっ!」


「ちゅっ!」


「ありがとう、それじゃお願いね。ウー太!ウェア!急で悪いけどハーメルンに行くよ!」


「ぶもっ!」


「がうっ!」


何があるかわからないし、ウー太とウェアが居れば安心だもんね。ヤマブキさんからもちゃんと護衛は連れて行くようにって言われてるからね。さぁハーメルンに行こう!


ハーメルンの街は完全にお祭りモードだったよ。家の間には垂れ幕やら国旗みたいなのが下がってるし、至る所で楽しそうな声や花火が上がってる。至る所に出店が出てて、収穫した物が売られてるよ。


「いつもより人が多いね。」


「がう。」


「ぶもっ。」


「うん、気をつけるよ。」


ウェアもウー太も悪い人が居るかもだから気を付けてってさ。現実のお祭りでも悪さする人が居たりするもんね、気を付けないと。


「おうミノル。どうした?ギルドの手伝いは良いのか。」


「あっバルトさん。」


ウー太の背中に乗って、ウェアに護衛しながらルドさんの屋台に向かってる途中でバルトさんに会ったよ。両脇に人の頭を抱えた状態で。


「その人達は?」


「あん?あぁコイツラはスリだよ。ったく、せっかくの祭だってのに水さすような事をするんじゃねぇよ。」


「ぐえーっ!」


「ぐ、ぐるじい!」


バルトさんが怒りに任せて両脇を締めると、スリの人たちが苦しそうに呻いてる。あの大きな二の腕で締め付けられたら相当苦しいだろうなぁ。


「まっ、未遂だったし赤落ちになる程じゃねぇけどな。でも2〜3日は牢屋で反省だ。」


「大変そうですね。」


「まぁな。この時期は普段隠れてるやつも出てきたりするからな。ミノルも気をつけろよ?ハントも今は居ないんだしな。」


「はい!そう言えばハントは何してるんですか?」


「俺と一緒で街の治安維持活動だよ。あいつは腕が良いからな、検挙率も今のところダントツだ。」


どうやら傭兵ギルドの特別クエストは街で悪さする人の逮捕らしい。もう傭兵って言うより警察なんじゃないだろうか?


「騎士ギルドも全員出張ってるからな。俺達はその手伝いだよ。」


「そうなんですね。あっお仕事の邪魔してすみません!僕行く所があるので!」


「おう。こっちも邪魔して悪いな。またな。」


バルトさんと別れた後、僕はルドさんが屋台を出してる広場に向かった。


「うわぁ、人も屋台も一杯だぁ。」


「ぶふぅ。」


「がる。」


広場は凄い人混みだった。ウー太が前の人に鼻息で後ろに居る事を知らせて、ウェアも人がぶつかって来そうになるとそっと手で別の方向にうまく流してた。


そんな2人を見て皆驚いて道を開けてくれてる。ごめんなさい、怖がらないで。この子達僕の護衛でいい子なんです。


「これはあんまり長居しないほうが良さそう。ルドさん達のところに行ったら、すぐに農園に戻ろうか。」


「ぶもっ。」


「がうっ。」


2人も窮屈だろうからね。こっそり触ろうとしてる人も居たりするし速く離れよう。


ちなみにこっそり触ろうとしてる人はウー太とウェアの尻尾で叩かれてます。大体後ろから触ろうとしてるからだね。


そんなこんなでやっとルドさんの屋台の場所まで来れた。おっきな看板と巨人食堂の文字が光ってる。


「あいよ!特製カレー3つお待ち!」


「はーい。特製カレー3つで3000マネでーす。注文は葉っぱに書いてねぇ。」


「とんかつトッピングのお客様。お待たせしました。」


看板の下ではルドさん達が忙しそうに働いてる。ルドさんあんなに大きな体なのに分身が見えそうな位速く動いてご飯とカレーを盛り付けてる。


レジをしてるのはシアさんだった。体から生やした葉っぱ付きの蔓を使って並んでるお客さんから注文を取ってる。


並んでる順番に葉っぱに注文を書いてもらって、そのままルドさんの前に蔓を持っていってるね。順番を飛ばして書こうとしてる人も居たけど、順番通りに書くようにうまく蔓を動かしてた。なんか凄い。


最後はアイギスさん。規則的な動きでトッピングをどんどん作って注文したお客さんに渡してる。


調理時間も出来上がりも計算してるのか、あんまりお客さんを待たせること無く作り上げてるよ。こっちも凄い。


「ルドさん来ましたよ!」


「おっ、来たかミノル。シア、アイギス、2人は休憩しろ。」


「はーい。」


「大丈夫?」


「おう。シチートとリダがもうすぐ来てくれるからな。大丈夫だ。」


うっ、忙しそうな時に来ちゃったな。来るタイミングを間違えちゃったみたい。


「俺が呼んだんだから大丈夫だ。それにそろそろ休憩の時間だったから気にすんな。」


「ミノルくんの為に取り置きもちゃんとしてたんだよ!」


「速く休憩しよう。疲れた。」


「おう!行って来い!」


なんかルドさんに見送られて僕達はシアさん達と一緒に出店者用の休憩スペースに移動した。


シアさん達が抜けたのを見計らったかのように、猫獣人の人と悪魔みたいな人が口喧嘩しながらすぐに屋台に入っていったのを見たよ。


「はいミノルくん。これがパパ特製のカレーだよ。」


「残念ながらバフ効果の無い奴だけど。それでも美味。」


「あっありがとうございます。あっこれ畑で取れた作物と、イベントで取ってきた黄金の野菜です。良かったら。」


「えっ?良いの?金色の野菜って珍しいんじゃなかったっけ?」


「沢山採れたので。」


「ありがとう、遠慮なく貰うね。」


せっかくルドさんの屋台に来るんだからって、僕は自分の農園で採れた野菜と幻の畑で採れた黄金シリーズを持ってきてたんだ。


お父さんが誰かに招待されたら手土産を用意するんだって言ってたから、準備してみました。


黄金シリーズは沢山採れたから、種が採れないか試す用とギルド納品用を除いた残り物何だけどね。


喜んでもらって良かった。


「ミノル。その後体調はどう?」


「特に不調は無いです。でも相変わらず走ったり、戦ったりは・・・。」


「うん、不調が無いなら良い。」


「そんな事より、せっかくパパの作ったカレーなんだから食べて食べて。」


「えっと、じゃあ遠慮なくいただきます!」


実はさっきから美味しそうな匂いが漂ってたんだよね。


見た目は普通のカレーみたい。でもちょっとルーの色が濃い?野菜もお肉もゴロゴロ入って美味しそう。


おもむろにスプーンをカレーに沈めて一口。口の中に広がるのはスパイシーなカレーに溶け込んだ野菜の甘みと脂身の濃厚な旨味の濁流だった。


「美味しい!」


甘みは完全に野菜だけでだされてて、お肉も下処理をしっかりしてるのか臭みなんてこれっぽっちもない、本当に旨味だけを濃縮したカレー。こんなカレー初めてだ!


僕は気がついたら空っぽになったカレーの器を見つめて呆然としてた。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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