第50話 イナバの悲願と願い

まいど!わてはイナバ。この度ミノルはんの農園でお世話になるヴォーパルの族長やで!おっともうイナバの一族やった。


今何してるか言うと、ヴァカスっていうおっさんに頼まれてハーナまで野菜を届ける行商の途中や。


メンバーはもちろんわいの一族から行商に興味をもっとった奴から選抜してんで。


もともとわいらは魔物が跳梁跋扈する森の奥地で暮らしとる一族やったんや。


首刈りの一族としてもわいらは有名やって、相手の急所を狙う事で力が弱くても強者と渡り合っとったんや。やから縄張りに侵入して来る賊は自分たちだけで殲滅しとったんやで。


やけどそんな生活も長く続かんかったんよなぁ。


わいらの住処の近くに”暴食花”とも呼ばれるクイーンレイシアが咲きよったから。


奴はそりゃもう精魂込めて作った畑の作物を全部食い荒らしよって、それを止めようとした同族も次々食い散らかしよった。


運悪くわいが王都ちゅう所に行商に出とる間の出来事で、帰ってきたら一族の大半は食われた後やった。


怒りのままクイーンレイシアの首を掻っ切って殺した後に残ったんは、荒れた畑と少なくなった同胞やったんよ。


そんな弱ったわいらを狙って森の奴らはここぞとばかりに襲いかかるようになったんや。まっ、近くに弱った餌があったら当然やな。


身の危険を感じたわいらは住処を捨てて移動する事に決めた。


そして、長い旅の末に見つけたんがあの黄金に染まった畑のある場所やったんや。


せやけどそこも安住の地やなかった。畑の作物を狙ろうて弱いやつが諍いを起こしとったんや。


そこでわいらが介入することにしたんや。数は少のうなっても森の奥で生き残れる程実力の在ったわいらにとって、諍いを起こしとった奴らは簡単にあしらえる連中やったからな。


それに、わいは先々代族長やった爺さんから人の言葉ととある伝説を習っとったんや。


それは世界樹の伝説。はるか昔に、確かにこの世界に存在しとった平和の象徴とその最後の話や。


聞いとった話と、畑の状況が似通っとったからな。わいにはピーンと来たんや。そんで、その力の源があの枯れた木やって事もなんとなく感じ取れたんや。何でかは分からんけどな!


攻撃されても死ぬ事が無い場所やから、減った同族を増やすにもええやろうとあそこを縄張りにしてわいらの畑って事にしたんや。


やけど厄介な奴らに目をつけられたんや。それがゴブリン。


あいつら弱いくせに数だけは多いからなぁ。わいらがいくら防衛しても、生まれたばかりの子供や作物を掠め取っていきよったんや。


そんでゴブリンの対応に難儀しとった時に出会ったんが、ハーメルンちゅうところに住んどる農業ギルドの奴やったんよ。


何でも幻の食材を探して森に入ったとかなんとか言うとったな。


で、わいらの黄金の作物を見て取引したい言うてきおってん。


やからわいらは森の浅瀬とは言え中層に入ってこれる戦力を当てにして、ゴブリン討伐と畑作業の分担を条件に契約を結んだわけやね。


まぁ年々来る人間の数が減って来て、そろそろ潮時かもしれんとも思っとったんやけどな。


ほんで爺さんから聞いとった話には、世界樹が復活する言う話も在ったんや。


世界の何処かにある世界樹の枝が目覚めて、平和な世界を作るっちゅう話が。


まぁこの話を聞いた時はまだ、世界樹の枝を誰も見つけて無かったんやけどな。


やからわいらは畑の世話をしながら、森の力を1つの作物に集めて枯れ木に与えとったんよ。


力が増すにつれて、この枯れ木が世界樹の枝やと確信したから続けとった。


数が少のうなった同族を増やそうにも、ゴブリン共に子供を狙われて安心して繁殖も出来んし。このままやったら一族の数が少なくなってわいらは滅亡する。


やから争いがなくなるっちゅう世界樹の力をあてにしたんや。


そんでようやく木の力が増えてそろそろ復活しそうやって時にミノルはん達が来てくれて、レインボーキャロをつこうた時に光が溢れた瞬間念願が叶うと思ったんや。


一族の復興がやっと出来るて。


でも次の瞬間には木が消えとった。あんときはほんま絶望したで。このままわいらの一族は消えるんかと本気で考えたからな。


やけど世界はわいらを見捨ててなかった!何と木が金色に輝く種になって残ったんや!


しかも、しかもやで?ミノルはんがわいらを雇うって言うてくれたんや。


結界つきの安全な寝床。わいらの得意分野を活かせる広い畑。飯の心配も要らん。瘴気も森の端に農園があるから繁殖には十分。ほんまわいらには楽園のような場所やったんや。


やけど世の中何が起こるか分からん。世界樹の復活は必要や。


聞けばミノルはんは戦える人やないっちゅう話やし、ウー太はんとウェアはんもわいの考えに賛同してくれた。


やからわいは行商しながら、世界樹の種を植えられそうな場所を探す事に決めたんやな。うんうん。


という訳でミノルはんの1番の家族であるチュー太はんに教えてもろたヒントを元に、候補地探しもやっとるんやで。


まっ、今のところ神聖と混沌の入り混じるちゅう場所は見当たらんのやけどな。


この条件も中途半端で訳わからんで。神聖と混沌は相容れん属性や。そんなもんが入り混じっとったら、世界は崩壊しとるんちゃうか?


まぁでも、ミノルはんから受けた恩を返すためにも、わいらの一族の繁栄のためにも頑張らんとな!


「きゅっ。」


「おっと、招かれざる客が来たみたいやな。」


わいらは今ハーナに行くための街道の途中に居るや。


そんでまぁ、街道の近くっちゅうのは獲物を狙う狩人には格好の餌場って訳やな。


わいらの見た目は可愛らしいし、皆おそろいの前掛けしとるからマスコット?っちゅうのに見えるそうや。何でも戦えるように見えへんのやと。


そんなわいらが沢山荷物を載せた荷車を引いとったら余計にそう思うんやろ。


「ちょ〜っとそこの可愛らしい兎ちゃん達ぃ。止まってくれないかねぇ?」


「ぐへへへへぇ〜。今日は兎鍋や。腹いっぱい食べるでぇ。」


「ふっふっふ、これくらいの兎ちゃんなら僕ちゃん達でも簡単に仕留められちゃうもんねぇ。」


眼の前に現れたんは黒い綺麗な姉ちゃんとズルそうな腹の出た緑の男とガタイの良い紫色のゴリラっぽい豚やった。


ワイらの事を食おうっちゅうんかいこいつら。まっ、そんな事にはならんと思うけどな。とりあえず目的でも聞いとこか。


「なんや。なにか用かいな?」


「あらま、喋る兎なんて珍しいねぇ。」


「こいつを売ったら結構なお金になりそうですねぇ。」


「その金で腹いっぱい飯が食えそうでんな。」


「とっ捕まえて、売っぱらっちまうよ!」


「「あいさーっ!」」


こっちの話も聞かんと好き勝手言うて襲いかかってくる3人。


ほんなら、もう殺ってもええな?ミノルはんからあんまり暴れんように言われとるけど、これはしゃーないわ。頭の上に赤いドクロも見えとるしな。


「わいが出るまでもないな。やってまえ。」


「「「「きゅっ!」」」」


「「「はっ?」」」


まぁこんな雑魚相手に時間は掛からんよな。わいの号令に合わせて商隊の仲間が瞬時に武器を抜いて、相手の首を掻っ切る。


首刈りの技は衰えさせてないんや。わいらの誇りやからな。


「見た目可愛い兎なのに。」


「やってる事が残忍!」


「久しぶりの豪勢な飯がぁ!」


「「「あばぁっ!」」」


首から光を吹き出して倒れる3人組。最後には訳わからん事を叫びながら、何でか爆発して飛んでいってもうた。


何でや?爆発する事はなんもしとらんで?爆発の煙も何でかドクロ型やし、飛んでった方からお仕置きがどうたらこうたら聞こえるんやが?


「まっええか。はよ野菜を販売して、探索もせなあかんからな。」


「きゅっ!」


「荷物は無事っと、ならすすもか。しゅっぱーつ!」


はよ世界樹復活させて、誰もが安全に過ごせる場所を作る。そんでそこでミノルはん達とのんびり畑を耕すんが今のわいの夢や!気張るでぇ!


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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