第49話 僕とイナバと訪問販売

あの後兎さんたちを連れて農園に戻って来た僕達。


幻の畑が無くなってヤマブキさんがショックを受けてるかと思ったんだけど、本人は全くそんな素振りも無くケロッとしてたよ。


「だってこれからはミノル君がギルドの予算作ってくれるでしょ?」だって。


兎さん達の住処は、大きい畜舎を作って貰ってたので、全員無事に入る事が出来たよ。イナバ以外は僕より小さいから助かったよね。


そうそう、ボス兎さんの名前はイナバになりました。物置じゃないよ?白ウサギの方です。


名前を貰ったイナバはとっても嬉しそうにしてたよ。ウー太もウェアも歓迎してペロペロ舐めてた。イナバは嫌そうな顔をしてたけどね?


農園に戻ったら沢山の兎を見てチュー太がびっくりしてたけど、事情を説明してたらイナバの手を取ってなんかチューチュー鳴いてた。


辛かったな、これからはここで一緒に頑張ろう。的な事を言ってたよ。


で、あの種の事なんだけど。チュー太に鑑定して貰ったら何と世界樹の種で在ることが判明しました。


半信半疑だったけど、あの枯れ木って本当に世界樹の枝だったんだねぇ。今後は植える場所を探さないと駄目だね。それまで農園の倉庫に保管する事になったよ。


そう、種が世界樹のものって解って特段喜んだのはやっぱりイナバ達。鑑定のお墨付きを貰った瞬間飛び上がって喜んで農地を走り回ってたよ。保管してる種をイナバが祭壇作って祀ってた位だし。


鑑定の結果には続きが在るんだけど、今のチュー太じゃ解らなかったって。どうやら植える場所の条件?みたいなのがちょっとだけ見えたみたい。その条件っていうのが神聖と混沌の入り交じる所って一文。


これには僕達全員首を傾げた。そんな条件の所在るの?って感じ。


まぁイナバも長い目で植える場所を探すって言ってたし、植えられる場所だったら世界樹の種が教えてくれるみたいだから様子見だね。


翌日からはイナバ達は畑の手伝いをし始めてくれた。慣れてない場所だしもう少しゆっくりしてて良いよ?って言ったんだけど。


「世話になるんやから働くのは当たり前や。」


って言ってさっさと畑に出てしまった。シアさんから貰ったタネ袋を持って。


そう!あのタネ袋にはまだ植えてない種が沢山入っていたのです!


そんな種をイナバ達はどんどん植えて、面倒を見てくれるようになった。僕も負けじと新しい野菜や果物の栽培を始めたよ。


いちごに似たチーゴや、じゃがいもみたいなジャモ。なすに似たナジュ。他にも沢山の種類を植えた。


イナバ曰く、僕の畑は季節関係なく作物が育ちそうってことだったからね。農業の大先輩の言葉に従って植えてみた訳ですよ。


そう言えばウェア達が持って来た果樹も順調に育ってる。バナナみたいなバーナ。りんごみたいなアプル。ぶどうみたいなグレプ。


まだ育ちきってなくて実をつけてないやつも在るけど、この3つはもう収穫を始めてる。


流石にイナバ達じゃ背が低くて届かないから、ウェアが中心になって収穫してるけどね。


一気に畑も広がって出来る作物の量も種類も増えたから、ヤマブキさんが狂喜乱舞してたよ。


これでハーメルンの街に色んな作物が卸せるってね。


そんな時、久しぶりにヴァカスさんが訪ねて来たんだ。


「やぁやぁお久しぶりですぞミノル殿。息災でしたかな?」


「お久しぶりですヴァカスさん。今日はどういったご要件で?」


果物が収穫出来るようになったから、グランドリーフの他に納品して欲しいって話かな?


なんて考えてたんだけど。どうやらそういう話じゃないみたい。


「ミノル殿はハーメルの次の街をご存知ですかな?」


「確かハーナでしたっけ?」


「そうですぞ。ではその次は?」


「えっと。何処?」


「シュタナのハズ。」


「正解ですぞ。」


話し合いにはハントも参加して貰ってる。イベントの合間の暇な時間なんだって。傭兵ギルドのイベントは、魔の森の中で特定の魔物を探すって事みたい。犯人を捕まえろ的なやつって言ってた。


今は追跡の為の情報集めで、集めた情報を精査して貰ってるから時間が掛かるんだって。


「ハーナ、シュタナ双方でどうやら農作物の価格が急上昇しているようですぞ。」


「そうなんですか?」


「えぇ。どうやら不作が続いている様子。その影響で価格がどんどんつり上がっているようですな。」


「ん。それだとハーメルンの街も危ない?」


「いやいや。ハーメルンはミノル殿のお陰でそこまで影響は在りませぬ。これもミノル殿の農園のお陰、街の皆は感謝しとりますぞ。」


そう言われちゃうとなんだか照れちゃうなぁ。


「ですが、このままというのも問題がありますぞ。」


「問題って?」


「ハーナ、シュタナで農作物の価格が上がれば、パン等の生活必需品の値段も上がっていきますな。それに引きずられるようにして他の物の値段も上がっていきますぞ。例えばハーメルンに必要な鉱物資源や回復薬以外の薬の値段ですな。逆にハーメルンから輸出する魔の森の素材の買い叩きも起こるかもしれませんぞ。そうなれば最悪ハーメルンな孤立するかもしれませぬ。」


そこまで事態は深刻なんだ。ヴァカスさん曰く、すでに輸入品の値段は倍くらいに上がってるんだって。逆に輸出品は8割の値段で買い叩かれてるらしい。


こっちはお金が欲しい。向こうはお金が無い。だったら在る分だけ売ってくれ。いや世話になったからこの値段で売ってやる。


みたいな流れでそうなってるみたい。ハーナ辺りは同じ辺境の仲間って感じみたいだし、助け合いの精神だって。でもそれはいつまでも続かないみたい。


輸出品が買い叩かれたら、どんどんお金がなくなって輸入品が買えなくなるらしいよ。


「そこで、ミノル殿の農園の作物をハーナとシュタナに輸出したいと考えてますぞ。」


「それをどうしてヴァカスが言う?」


「酒屋というのは地域の顔役になる事が多いのですなぁ。その所為で領主様から交渉役を押し付けられたんですぞ・・・。」


という事らしい。農業ギルドに話を持っていっては?とも思ったけど、その前に僕から了解を得てスムーズに話を持っていきたいんだって。


うーん。実はこの話とってもありがたいんだよね。


だって、広がった僕の農園で取れる作物。実は余る事が確実なんだ。


ハーメルンは辺境の街とは言え、住んでる人は少ないんだ。だから前までの小さい畑で取れた作物でも結構需要を満たしてたんだよね。


で、イナバ達が来てくれたお陰で農地が全部畑になった。そうなると取れる作物は2倍どころじゃない。もっと沢山取れるようになるよね?


そんな量の作物を卸しても、ハーメルンじゃ買ってくれる人が少ないから卸した作物がどんどん残っちゃうんだよ。


ヤマブキさんも、このままだと農業ギルドの倉庫がすぐに溢れるわねって呟いてたし。販売先が増えるのは僕としても嬉しいんだよ。


「輸出するのは良い。誰が持って行く?」


「初めはセイカ殿にお願いしようと思っていましたな。ですが、八百屋の方が忙しく難しいと断られましたぞ。」


「じゃあどうするんです?」


「今販売員の募集を掛けてるんですな。ですがなかなか人が来ないですぞ。」


そうだよね。だって街の人は皆仕事持ってるんだもの。暇な人と言ったら旅人のギルド員くらい?でも募集見て応募してないなら興味ないんだろうなぁ。


「話は聞かせてもろたで!その役目、イナバにお任せや!」


バーンと扉を開けて登場したイナバ。突然乱入した喋る兎に目を丸くするヴァカスさん。


まぁ突然喋る兎が入って来たら驚くよねぇ。あっ紹介しますこの度家の子になりましたイナバです。


「わいらの中に行商に興味の在る奴がおる。わいとそいつらで協力してハーナとシュタナまでミノルはんの野菜届けたるわ!」


「でも大丈夫なの?イナバは商売した事無いでしょ?」


「そんなもん、在るに決まっとるやんけ!わいらが作った金のキャロ。使い道は食べるだけじゃ無かったんやで?」


「そうなの?」


「せや。金の野菜は付加価値が付いて高う買い取って貰えるんや。それなら買うてもろて別の品物を手に入れる事もしとったんや。」


「どこで?」


「王都や!幻の野菜として有名やったんやで?」


本当かなぁ?どうも胡散臭いと言うか疑わしいと言うか。何処かに王都に詳しい確認できる人居ないかなぁ。


って居るじゃん。ルドさん達に聞けば良いんだよ。有名な食堂やってるって言ってたんだし、イナバから金のキャロ買ったこと在るかもしれないし。


という理由で早速連絡連絡〜♪


『ヴォーパルの訪問販売だろ?有名だったぞ?』


はい。すぐに確認が取れました。神出鬼没な兎の訪問販売は人気が高くすぐに売り切れてたそうな。


売りに来た兎は貴族相手にも値段交渉をして高く売り、逆に自分たちの欲しいものは安く買ってたんだって。


幻の畑で見た鎌やナイフにハサミは、そうやって手に入れてたんだそう。


「ほう。イナバはすごい。」


「せやろせやろ?嬢ちゃんはよう解っとるやんけ。」


「実績が在るならお任せしたいですな。ミノル殿も身内が売ってくれるなら安心というものですな。」


という訳で、正式に僕の畑の作物はシュタナまで訪問販売されるようになりました。


面倒事が起こらなかったら良いけど・・・。


農業ギルド特別クエスト シークレットクリア!


報酬:黄金野菜シリーズ(種化可能)

   ヴォーパル一族


シークレット報酬:世界樹の種


黄金は世に解き放たれた。後は芽吹きを待つのみ。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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