第48話 僕と枯れ木の話とヴォーパル
昔昔、在る所に世界樹というとても大きな樹が在りました。
世界樹の麓では草花は咲き誇り、生き物達は仲良く暮らし、魔物ですら心安らかに過ごしていたそうです。
そんな時間が永遠に続くと思っていた彼らの平穏は、突然崩れ去る事になりました。
異なる世界からやってきた悪しき神が、世界樹を乗っ取って悪さを始めました。
世界樹が生えていた島は徐々に汚染され、そこに暮らしていた人も精神が狂い狂人となってしまいました。
狂人は世界樹のお世話をしていた精霊を騙して、悪神に食べさせました。
徐々に力をつけていく悪神。どうにか汚染を食い止めようとしていた世界樹も、その力を奪われていったのです。
だから世界樹は自身の分身として枝の一部を切り離し各地に送り出す事にしました。どれか1つでも生き残り、自分の役目を引き継げるようにと。
ですが、悪神の力が強すぎました。世界樹を完全に自分のものにした悪神は、散らばった世界樹の枝にまで力を及ぼし始めたのです。
世界樹の枝は考えました。このままでは自分達は悪神の力を世界に伝える為に使われてしまう。ならば、誰かが悪神を倒すまで眠りに就こう。
世界樹の枝はその葉を落とし、休眠に入りました。いつか悪神が倒され、目覚める時を待つために。
その後悪神は倒されました。盾の神様が打倒してくれたのです。
ですが、世界樹の枝は目覚めません。精霊も、世界樹のお世話をしていた人も、何年も何年も待ちました。
それでも、枝は目覚めませんでした。
精霊は世界樹から得ていた力を失い徐々に姿を消していきました。
人は、狂人となり世界樹を失う事となってしまった罪を償うと姿を消しました。
世界樹に関わりの合った者達が姿を消し、世界樹は世界から忘れられました。その所為で、世界樹由来のスキルが全て消えてしまいました。
それでも枝は眠ります。いつか目覚める時を待ちながら・・・・。
「ちゅーのがわいらに伝わる話やね。」
「それで、この枯れ木が実はその世界樹の枝じゃないかって話なのよ。」
僕が選ばれたって話を聞こうとしたら神話を離されました。
僕がずっと気になっていた枯れ木が、今の話に出てきた世界樹の枝らしい。本当かなぁ?
「根拠は在るんやで?この畑はこの木の力で守られとるんや。金色の野菜なんて出来るのもこの木のおかげ。魔物も動物も人も、この畑の範囲で攻撃されても命を落とさへんのもこの木の力や。」
「お話にも出てきたでしょ?生き物たちが平穏に暮らし、魔物も心安らかにって。それは、争っても何も得られないからと考えられるのよ。」
「でや。わいらはなんとか世界樹の枝を目覚めさせたい。そうすりゃ、危険な魔の森の中で唯一ここら辺だけは完全に安全な場所になるからな。繁殖も食料調達も安泰や。」
「でね?ミノル君が持っているレインボーキャロは、魔の森から持ってきた様々なアイテムとこの場所の力を借りて作った物なの。だけどその所為で成約が生まれちゃってね。引き抜いて最初に手に取った人にしか使えないのよ。」
「わいらはそのレインボーキャロが枝が目覚める位のパワーを持っとると考えとる。やけどその力を狙ってゴブリン共が毎年狙ってきよるんや。」
「私が農業ギルドに所属して枝にキャロを与えられたのは2度。今度こそはと思ってた所でギルド員が全員辞めちゃって、人手が完全に足りなかったのよね。」
「せやけど今年は守りきった!今まで与えた分も合わせたらそろそろ目覚めるはずや!だから兄ちゃん。レインボーキャロを枝に与えてくれ!」
真剣な表情(と言ってもクリクリお目々で可愛いだけだけど。)で僕にお願いする前掛け兎さん。
そういう事だったらもちろんやりますとも!
「枯れ木の前でレインボーキャロを掲げるだけで良いわ。お願いするわね?」
「やっと、やっとワイらの夢が。安住の地が手に入るんや。」
すっごい期待した目で兎さん達が見てくるけど、これで何も起こらなかったらどうしよう。皆とってもがっかりするよね?
でも僕にはどうしようも出来ないし、まずはヤマブキさんに言われた通りにやってみよう。
「枝さん枝さん。どうか目覚めてください。皆待ってますよ。お願いします。」
僕はそういいながら、レインボーキャロを頭の上に掲げた。すっごく大きいし重いけど我慢我慢。
しばらく掲げてたら、レインボーキャロがどんどん光の粒になって枯れ木に吸い込まれていく。
沢山の光の粒がとっても綺麗だ。粒が入った枯れ木は、少しずつ光り始めて最後の方では目も開けられない位輝き始めた。
離れてみてる皆も眩しいのか目を隠してる。僕は隠せないけどね!目を瞑るしか無いけど至近距離だから瞼を貫通して光が入ってくるよ。超眩しい!
そう思ってたらふっと手の中から重みが消えた。そしてゆっくりと光が落ち着き始めた。
僕は閉じていた目を開けて、恐る恐る枯れ木の様子を見る。
うまくいったかな?
なんて考えたのが駄目だったのか、僕の眼の前から枯れ木が綺麗さっぱり無くなっちゃっていた。
どどどどど、どうしよう!?僕失敗しちゃったよ!
「そんな。なんでや。何でこうなったんや・・・。わいらの夢が・・・。」
「「「きゅうん・・・・。」」」
兎さん達が耳を垂らしてしょんぼりしちゃってる。せっかく夢が叶うと思ったのに消えちゃったんだもん。そりゃがっかりするよ。
枝さんも枝さんだ!兎さんが待っててくれたのに、目覚めないどころか消えちゃうなんて酷いよ!
きらんっ
「?なにか光った?」
僕がプンプン怒ってると、地面に光る物が在るのが見えたんだ。それは、さっき枯れ木が立っていた場所に落ちてるみたい。
そっと近づいてみたら、光る物はラグビーボウル位の植物の種だった。もしかして、あの枯れ木が種まで戻っちゃったって事?
「もうあかん、おしまいや。枝も無くなってもうた。この場所で農業も出来ん。わいらの生きる希望が無くなってもうた・・・。」
「えっと、兎さん?こんなのが落ちてたんだけど・・・。」
地面に手をついてうなだれているボス兎さんに、さっき拾った種を見せたんだ。見てて悲しくなる位落ち込んでたから。
「?これはなんや?種?めっちゃでかない?」
「枯れ木の在った所に落ちてたよ?もしかして、これって。」
「世界樹の種って事かしら?でもなぜ枝が種に?」
僕にもそれは分からないけど、でも手に持ってる種からは不思議な力を感じる。暖かい、心が休まるような感じ。
「持ってみてもええか?」
「どうぞ。」
「・・・・・。枝や。こいつはあの木で間違いない。やっと、やっと目覚めたんや!やったら次は育てるだけや!さっそく植えて育てんと!」
「それは難しいみたいよ?」
前掛け兎さんが慌てた感じで種を持って地面に穴を掘り始めたんだ。でもヤマブキさんはそれを止めたの。
どうしてかって?それは、今まで金色に輝いてた作物が全部紫色に染まって枯れ始めてたんだ。
森の方からも、なんか怖い感じのする紫の霧みたいなのが流れ込み始めてる。よく見ると土も、さっきまでと違って色が変わってきてる。
「急速に土が死に始めてるわ。恐らく枝の力が無くなった所為ね。こんな所で育てたら、種はすぐ死んでしまうわ。」
「ならどうしたらええねん!こいつが無いとわいらは死ぬしか無いんや!」
「えっと、住む場所と畑があれば生きられますか?」
僕は考えがあって前掛け兎さんにそう訪ねた。だって死ぬとか言われたら可愛そうなんだもん。
「そりゃ、食いもんが作れて住めるならどこでも生きていけるやろ?」
「だったら僕の農園に来ません?絶賛従業員募集中何です。」
なんてったってウー太とウェアが農地を広げすぎちゃったからね。人手が足りなさすぎるんだよ。そんな所に農作業が出来る兎さんの団体でしょ?そりゃ、声を掛けるよね?
「ほんまか?ほんまにええんか?」
「土地だけは余ってるので。あっでも僕の農作業の手伝いをしてもらうのが条件なんですけど。」
「そんなもんいくらでも手伝うわ!」
「なら決まりですね。あっでも種はどうしましょう?」
「住む所が在るなら時間を掛けてじっくり探すわ。世界樹にふさわしい場所に植えたる。」
兎さん達がやる気に満ちてふんふん鼻を鳴らしてる。可愛い・・・。じゃなくて!前向きになってくれてよかった。
「そう言えばヴォーパルはこれで全員なの?」
「せや。これで全員や。」
「かなり数が減っていたのね。」
「やから安住の地を得る事が死活問題やったんや。それも、兄ちゃんのお陰で解決思想やけどな!」
「あっ僕ミノルって言います。これからよろしくお願いします。」
「これからお世話になりますミノルはん。」
ヴォーパルの一族が家畜になりました。
新たに名前を決めてください。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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