第42話 僕と荒らされた農園とウェアの初仕事
「うっし。これくらいで良いだろう。これで騒動も収まるんじゃないか?」
「そうだな。協力感謝するミノル。」
「ミノルおめでとう。」
冒険者達の足止めをしていた3人が戻って来た。10倍の人数差が在ったと思うんだけど3人共怪我も無く無傷だ。特にバルトさんとハントは生き生きしてる。やっぱり対人戦が得意だからなのかな。
ちなみに、家畜となったウェアは僕を抱えるようにして後頭部の匂いを嗅いでいる。ハントのおめでとうの言葉に裏を感じるなぁ。視線もちょっと冷たい気がする。
「今回の件に関してミノルにはとても感謝している。一部の者とは言え、今回の騒動の引き金を引いたのは冒険者だ。その冒険者を纏めるギルドの長として礼を述べたい。」
そう言って頭を下げるレトさん。そんなレトさんの態度に、僕は慌てて頭を上げるようにお願いした。
「僕もこの街の住民ですし、出来る事をしただけなので頭を上げて下さい!それにウェアを家族に出来たので、僕が得しちゃってますし。」
「そう言ってくれるか。ありがとう。そして申し訳ない。君の農園に侵入した冒険者が畑に生えていたグランドリーフを勝手に採取していた様だ。」
「えっ!?」
そう言えばあの黒尽くめのお姉さんは農園の方から来たんだった。グランドリーフもそうだけど畑に植えてたダヅは無事だろうか?ウー太のご褒美が無くなっちゃうよ!
「侵入者が所持していた分は取り返したぞ。違法に取得したアイテムは俺達なら解るからな。」
「侵入者は赤落ちの手助けを受けて農園に入ったみたい。今仲間を呼んで、捕縛した連中から繋がりを追ってる。」
「どうやら奴ら最初からグランドリーフ狙いで侵入しようとしてたみたいだぜ?ミノルが騒動に巻き込まれたからいいタイミングだったってよ。」
「畑の方は無事。家の方は侵入しようとした形跡が在るけど、途中で断念したみたい。なぜ?」
ハント?そう言われても僕にも分からないからね?でも農園に残ってたのはチュー太だけだよね。チュー太が何かした?うーん、あんまり考えられないかなぁ。チュー太は僕と一緒で弱いし。
「盗まれたグランドリーフは全部取り返せたんですか?」
「冒険者が採取していた分は取り返せたが、赤落ちに奪われた分が何処かに運ばれ行方不明だ。この件も冒険者ギルドの失態だ。手引されたとはいえ、人様の物に手を掛けるとは・・・。残っている冒険者を全員動員してでも赤落ちを探し出し、必ず犯人に償わせる。だからしばらく待ってくれ。」
「もちろん俺達も出るからな。むしろ俺達の方が本職だ。必ず見つけ出すから心配するな。」
やる気に満ち溢れるバルトさんと拳を握るレトさん。盗んだ人は相当悲惨な目に会うんじゃないかな?だって2つのギルドに追われるんだもん。
「グランドリーフが盗まれたのは解ったわ。それは根こそぎって事じゃないわよね?」
「1株だけ残っているって話だぜ。ハントが確認して来たってよ。」
「間違いない。」
「1株だけって。薬師ギルドとヴァカス酒店への納品はどうするのよ!」
大きな声で絶望を叫ぶヤマブキさん。そう言えば今回の騒動で農業ギルドに保管してたグランドリーフって全部放出しちゃったんだっけ。
ログアウト前に納品した分は?あっ、もう無くなってる?そりゃ叫びたくもなるよね。でも安心してヤマブキさん!
「こんな事もあろうかと!グランドリーフの子株はいくつか保存してるので安心して下さい。農園に帰ったらすぐに植えてみますね。」
「ほっ、良かったわ。で済まされないわね。元に戻すまで時間も掛かるし、納品先に説明もしないと。今後同じ事が起こらないとも限らないし・・・。そうね。結界の魔道具を新調しましょう!そうすれば結界強度も上がるわ。」
あれって交換出来るんだ。そう言えば元々中古の備え付け魔道具だったもんね。まだ動くって話だったけど、結界が弱まっててもおかしく無い。
「ふむ、ではその費用は冒険者ギルドで支払わせてくれ。迷惑を掛けた詫びだ。」
レトさんがそんな事を言い始めた。
「良いんですかそんな事して?」
「何、農園を荒らした慰謝料だと思ってくれ。それに今回盗みを働いた冒険者と手引した赤落ちにしっかりと払わせる。ギルドとしての損失は無いさ。」
ニヤリと笑うレトさん。どうやって支払わせるかは、ヤマブキさんが首を横に降ってる。聞かないほうが良いみたい。
「それじゃ僕、農園に戻りますね。早くグランドリーフを植えなきゃ。」
「私も手伝う。ギルド長後は任せた。」
「おう解った。」
「結界の魔道具はすぐに持ってくるわね。」
「私もヤマブキと一緒に行こう。支払いをしなければ。という訳で解散!!」
ウェアを連れて農園に戻る僕達。ウェアは農園の周りの風景が元々住んでた場所に似てるって言って嬉しそうにしてる。
時々白い樹を見つけては、爪で引っ掻いてるけどあれはどういう意味が在るんだろう?
「がーう!」
「蜜が出るの?それ本当?」
「がう!」
「森の奥だとすぐに出てくるんだ。でもそんな風には見えないよ?」
「が〜う?」
ウェアもどうして出てこないのか分からないのか。種類が違うんじゃない?種類は一緒なの?うーん、不思議だねぇ。
「ミノル。樹液は出るのに時間が掛かる。入れる物を傷つけた場所に括り付けて待つ。」
「そうなの?じゃあ後で何か入れ物を持ってこよう。家畜になったばっかりなのに早速仕事しちゃったねウェア。」
「がう!」ふんふんふん。「グルルルルルルルル!」
「ブルルルルルルル。」
「えっ?えっ?えっ?2人ともどうしたの!?」
「ミノルは私の後ろに。敵。」
突然ウー太とウェアが唸りだしたと思ったら、ハントが僕を庇うように前に出てきた。
敵って事は捕まってない赤落ち?それとも冒険者?
「出てきて。居るのはバレてる。」
「ちっ、傭兵かよ面倒くせぇなぁ。」
言葉と同時に樹の後ろから黒尽くめの男の人が出てきた。他の樹からも続々人が出てくる。20人位居るんじゃない?
頭の上には、赤いドクロマークが浮いてる。この人達赤落ちだ!でも名前が見えない。ってことは住人の赤落ち?
「ミノル。コイツラは盗賊。この人数だと団になってるかもしれない。」
「よく解ってんじゃねぇか。俺たちゃ泣く子も黙る赤のサソリ団だぜ!」
頭領っぽい人がカッコ良く言った、つもりなんだろうけど絶妙にダサい。サソリっぽい感じを出そうとしてるのか、長く伸ばした髪を丁髷みたいにしてるのもダサい。
それに赤のとか言ってるけど全員真っ黒だよ。赤要素何処なの?
「目的は何?」
「なに、辺境で貴重な薬草が栽培されたって聞いたんでな。栽培方法と現物を奪いに来たんだよ。」
あっ、普通に教えてくれるんだ。こういう時って大体言わないよね。もしくはこっちがピンチになってから冥土の土産だ!とか言って教えてくれるパターンだよね。
「何不思議そうな顔してやがんだ。あぁん?」
「いや。なんか素直だなぁって。」
「そりゃオメェ決まってんだろ。」
僕達を殲滅して全部奪っちまうっていうお決まりのセリフかな?
「「「「申し訳ございませんでした命だけはお助け下さい!!」」」」
「「えっ?」」
「がう?」
「ぶもっ?」
黒尽くめの人達が一斉に土下座してる。しかも頭領は畑から奪ったであろうグランドリーフを手の中に出して僕に掲げながら。なんで?
「これって僕の畑から盗った奴?」
「はい!盗りました!」
「返してくれるの?」
「返します!だから命だけは!!」
あれぇ?なんでこんなに怯えられてるの?
「ミノルミノル。多分コイツラさっきの会話聞いてる。」
「そうなの?」
「へい!そこの牛様とウェアタイガーが戦ってる所から見てやした!」
頭領っぽい人が言うには、僕がお姉さんに突き飛ばされた時から見てたんだって。
僕がウェアタイガーに捕まったら、そのまま追撃して寝床を襲撃、ウェアタイガーのドロップ品とグランドリーフの栽培方法を知ってる僕を両方獲得できるからお得だと思ったらしいよ?
ウェアタイガーがテイムされても、疲弊してる所なら数で押せば勝てると思ってたって。
討伐されたとしてもドロップ品を奪えばいいって考えだったみたい。
だけどウェアタイガーと戦えるウー太の存在と、消耗する前にテイムされちゃったウェア。
後は傭兵ギルドと冒険者ギルド両方のギルド長が絶対に捕まえるという宣言までしちゃった。
全部の街に在るギルドに指名手配されちゃったら逃げられないし、僕がウェアとウー太に盗人を討伐しろって命じられたらまず勝てない。
そう思った赤のサソリ団は、僕に盗んだ物を返してから謝罪して、減刑を求める事にしたそうな。
「団も止める!今までの罪も償う!だからそいつらをけしかけるのは止めてくれ!」
という訳で、僕の畑に侵入した赤落ち達はすぐに捕まることになりました。これもウェアのお陰かな?
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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