第16話 僕と傭兵と約束のお酒2

「えっと、大丈夫ですか?」


「げほっ。ごほっ。これくらい大丈夫です。」


ウー太に蹴り飛ばされたヴァカスさん。あの後急いでバルトさんと一緒に生存確認しに行ったら、ウー太の蹄の後がくっきりと浮かんだお腹を抱えながら土埃にまみれて転がってた。


バルトさんが慌てて回復薬を使って回復してくれたから無事だったけど、あのままだと死んじゃってたかもしれない・・・。


「もう。荷物を守ろうとしてくれたのは嬉しいけどやりすぎだよウー太。めっ!!ごめんなさいヴァカスさん。」


「ぶも・・・・。」


僕とウー太は一緒にヴァカスさんに頭を下げる。そうしたらヴァカスさんはお腹を擦りながら苦笑してた。


「いえいえ、不注意に近づいた私にも問題はありましたから。それで?お酒の元という物を早速見せていただいても?」


「えっと。これになるんですけど・・・。ここまでは僕たちでも出来たんです。でもこの先の発酵と蒸留?っていうのがよく解らなくて。」


「こここ、この香り!この色!まさかこれの原料は”大地の至宝”では!?」


ヴァカスさんの言葉に周りの人達もなんかざわっとしてる。えっ?これって竜舌蘭じゃないの?大地の至宝って何?


「ああああなたはこれをどこで手に入れたのですか!!」


「へっ?このウー太が森から持ってきてくれたんです。それで、僕の知ってる植物に似てたからお酒になると思って畑で栽培してて「栽培に成功したですと!!」ひゃ、ひゃい。」


またヴァカスさんが鼻息を粗くして目を血走らせて詰め寄って来る!それ怖いんだから止めて


「なぁヴァカス。大地の至宝っていやぁあれだよな?ギルドにずっと張り出されてる塩漬け依頼のあれだよな?」


「そうですバルト殿。私がここに店を構えてまでも追い求めた究極の酒の材料!薬草取りの名人であったグラッド氏亡き後に誰も持ってこれなかったあの植物の事です!」


「おぉ!って事はあの酒が飲めるのか!」


うん。僕たちのことを置き去りに2人はなんか凄い盛り上がってる。よく見たら周りにいるベテランっぽい住人の人達も嬉しそうな顔してるけど。これってどういう状況?だれか説明して!!


「おっと悪いな。こっちだけで盛り上がっちまってよ。」


「話を聞いても大丈夫です?突然興奮しだして何が何やらなんですけど?」


「あなたが成したことは酒造界隈にとっては大きな偉業という話です。確かミノル殿と言いましたね。これからあなたが行った素晴らしい成果についてお話しましょう!!」


興奮気味のヴァカスさんの話を要約すると。僕が栽培してたあの竜舌蘭は魔の森の奥の方でしか取れない貴重な”薬草”だったんだって。


旅人が来る前はグラッドさんっていう、薬草取りの名人の人が魔の森に入って手に入れてきてくれてたんだけど、その人が事故で死んじゃって取りに行ける人が居なくなったみたい。


葉っぱや花は高位の回復薬の材料になるっていうんで、グラッドさん亡き後に沢山の人が採取に挑んだけど、誰も生えてる場所に行くことが出来なかったそう。


ヴァカスさんはそんな薬草の地下茎が酒造りに使える事を知って、わざわざ遠くからここに移り住んできたんだ。自分が考える究極のお酒を創り上げるために。


長年の研究の甲斐あってお酒は完成。大地の至宝、別名グランドリーフっていうこの薬草の地下茎で作るお酒は。酒精が強いんだけど絶対に悪酔いしないし、飲んだら体の調子が良くなるっていうので命のお酒なんて呼ばれてたりする凄いお酒だったらしい。


でもそんなお酒も材料が無かったら作れない。でも魔の森の奥に行くには危険が伴うし、命の危険が在るからどんどん取りに行こうとする人は居なくなって、とうとう誰も依頼を受けてくれなくなったってお話だった。


「つい先日も巨人酒場のご主人が命のお酒を求めて訪ねてこられたのですが、現物が無かったのです。」


「巨人酒場といやぁ、最近王都の方で有名になってきた旅人の店だろ?そんな所から訪ねてくるなんてスゲェじゃねぇか。それで?その主人は諦めて帰ったのか?」


「いえ。グランドリーフをご自身で取りに行かれて、必要分を私のスキル【酒化】で命のお酒に変えてお渡ししたのですよ。」


「それならその時に沢山持ってきて貰えばよかったじゃねぇか。」


「主人曰く。魔の森の中でグランドリーフは数を減らしているそうなのです。だから必要分だけしか取れなかっとか。だからこそ!グランドリーフを栽培できたというミノル殿の功績は凄いのですよ!!」


ほへぇ。王都に巨人酒場なんてお店が在るのかぁ。・・・・・ん?それってルドさん達の事じゃないよね?ハーメルンに用事が在ったから来てたって言ってたよね?後でちょっと聞いてみようかな?


「それでミノル殿!!本当に、本当に栽培に成功したんですよね!嘘だった場合私はこの手を汚すことを躊躇いませんよ!!」


「ほ、本当です!ちゃんと畑に沢山茂ってます!でもそんなに栽培難しく無かったような?農業ギルドの肥料であっという間に増えたし。」


「ミノルよぉ。こんな貴重な薬草を誰も栽培しようとしなかったと思うか?大勢の人が挑戦して、それでも駄目だったんだぞ?」


「そうですぞ!だからこそ希少価値も高いのです!」


うーん。でも実際簡単だったしなぁ。子株を植え替えたらどんどん増えたし。


「ミノルの農園は確か魔の森の近くだったよな?もしかしたらそれで成長出来たのかもしれねぇな。」


「いえいえバルト殿。魔の森近くでの栽培も試されたのですよ。ですがそれでも育ちきらなかった。だから専門家があれこれ意見を出し合いましてな?」


えーっと。また僕の事をほったらかしにして2人が議論を始めちゃった。そろそろ僕が持ってきた奴お酒にして欲しいんだけどなぁ。


「ぶもっふ!」


「おっとまた話し込んでしまいましたな。申し訳ありません。この樽の中身を酒に変えれば良いんですな?」


「あっはい。それを傭兵ギルドの皆さんに渡そうかなと。」


「こいつで出来た酒なら俺達は大満足だな。」


「それでですな。出来ましたらグランドリーフを私の店に卸していただけませんか?もちろん対価は払います。」


「大丈夫ですよ。沢山茂ってるんで。」


「おいおいミノルよ。お前さん農業ギルドのギルド員だろうが。ちゃんとギルドを通して契約しないと駄目だぞ?」


「えっ?そうなんですか?」


「生産系のギルド員はギルドを通して適正な売買価格でやり取りすんだよ。ヤマブキの奴から聞かなかったか?」


聞かなかったよ。ヤマブキさん説明忘れてたのかな?


「そうでしたな。では後日農業ギルドの方にお話を持って行かせて頂きます。では、早速スキルでお酒にしてしまいましょう。スキル発動【酒化】!」


ヴァカスさんが樽に向かって両手を翳して、スキルの名前を唱えたら樽が光った!その光が収まってくると、樽から独特の匂いが漂って来たよ。


「うえっふ。独特の匂いっていうか凄い匂いがする!!」


「これが酒の匂いだぞ。まぁお前さんにはまだはええか。」


「うーん。この匂い。元が良かったのか極上品に仕上がりましたねぇ。ちょっと味見を・・・。」


「おいおいおい!土人種のお前さんが飲み始めたら樽が空になるだろうが!これは現時刻を持って傭兵ギルドの所有物だ。味見は禁止!」


「そ、そんなぁ〜。せめて一口!一口だけでも!」


「その一口で飲み干せるから駄目だ!」


ヴァカスさんって土人種なんだ。確かにズングリムックリしてるしヒゲも濃いもんね。土人種って簡単に言うとドワーフだし、そんな人にお酒を飲ませたらたしかにすぐに飲み干されちゃいそう。


「という訳でこの酒は貰っていくけど良いよな?」


「はい。その為に持ってきたんで大丈夫です。」


「ぶもっ。」


「うし、これでギルドの連中は大喜びだな。しっかしこうなるとミノルに護衛を付けないといけなくなっちまうな。」


「えっ?護衛ですか?農園には結界が在るから大丈夫だと思いますよ?」


あの場所はもう完全に僕の土地だし。入場規制の設定はバッチリやったからね!悪い人はもう入ってこれないはずだよ!


「何だ知らないのか?赤落ちの中には結界をすり抜けられる奴が居るんだぞ?」


「えっ?」


その話も僕聞いてないよ?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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