第40話 僕とピンチとウー太の帰還

呆けていたウェタイガーが目の前に落ちた甘芋を見てふんふんと匂いを嗅いでる。


前に炭みたいな見た目の甘芋を見つけられてなかったから、今回は中身が見えるように半分に割って投げてあげたんだ。


甘芋の中は金色に輝いていて、蜜は皮が真っ黒に焦げる位に入ってて身が凄くしっとりしてた。


ほーら。美味しい甘芋焼きだよぉ?食べてごらぁーん?


「がう。ほふほふ。がう!?」ガツガツむしゃむしゃ。ペロリ。「がうーん!!」ぺろぺろぺろ。


美味しかったみたい。甘芋を持った手まで一生懸命舐め取ってるよ。まだまだおかわりは在るよー。


「落ち着いたみたいね。」


「でよ。こっからどうすんだ?」


「うむ。ミノル?」


「声掛けてみますね。ウェアタイガー。僕の所に来たら甘芋食べ放題だよ?どう?」


「がーう。」


思いっきり首を横に振られてしまった。というかこっちの言葉がちゃんと解ってる事にビックリ。誘拐された時ペロペロするの止めてって言ったの理解してたのね。止めてくれなかったけどね!!


「どうしても?」


「がう!ぐるるるるるるる!」


「む?失敗か?」


「今の反応を見る限りじゃ条件が揃って無いって感じだがな。」


「どうするのよ。事前の取り決めじゃ失敗したら討伐に切り替えるのよね?」


うーん。僕の話を聞いてくれてる時点で好感度って意味じゃ大丈夫だと思うんだよね。とりあえずもう1個焼き甘芋を投げて時間を稼いでっと。


「がう!」むしゃむしゃむしゃ。


「さてどうしましょう?」


「ミノルに打つ手が無いならこのまま討伐という事になるが・・・。」


「このまま餌付けじゃ駄目なのかしら?あの食べっぷりを見てると、そのうちコロッと行きそうだけど?」


「時間があればそれでも良いんでしょうけど・・・。」


「冒険者連中が集まって来ちまってるな。」


そうなんだよね。甘芋を食べさせてる間に、ドロップ品目当ての冒険者達がこっそりこっちに近づいてきてるんだよね。


家畜にするのを失敗したって解ったら、そのまま攻撃してきそうなくらい殺気立ってる。


でもなぁ、なんとなくもうちょっとって感じなんだけどなぁ。なんとなくだけど。


どんっ。


「えっ?」


うーんと考え込んでいた僕の背中が、急に誰かに押された。


ヤマブキさんも、バルトさんも、レトさんも、突然結界の外に飛び出す僕を見て目を見開いて驚いてる。


そんな3人の後ろ。僕の背中を押した犯人は黒装束に身を包んだお姉さんだった。そのさらに後ろから鬼の形相をしたハントが走り込んできてるのも見えた。


「テイムは失敗よ!レアアイテムを取るなら今よ!」


「なっ!貴様!」


「なんて事しやがる!」


「ミノル君!!」


レトさんとバルトさんが叫んだお姉さんを拘束してる。ヤマブキさんは僕に向かって一生懸命手を伸ばしてる。


その後ろから飛び出して来たハントが、僕とウェアタイガーの間に入ろうとした所で、お姉さんの仲間みたいな黒装束の人に止められてる。


そんな光景を見ながら僕はウェアタイガーの前に転がり出てしまった。


ズサーッ


「いてててて、なんでこんな事を。」


「ぐるるるるるるるる。」


頭の後ろから、聞き慣れた唸り声が響いてくる。ゆっくり振り返ると、そこには大きな白い虎の顔が。


ふんふんふん。


あー、匂いを嗅ぎ始めた。走れない僕じゃもう逃げられない。このまままた誘拐される事になっちゃうかも。


「があああああああああああ!」


僕の匂いを嗅いでたウェアタイガーが吠えた。どうやら僕が逃げた事に大層お怒りの様で。


あっ攻撃してくるの?僕戦えないからすぐに死んじゃうよ。狙いは足?あぁ、物理的に逃げられなくするのね。このゲーム、部位欠損とかって在ったっけ?


迫りくるウェアタイガーの爪。ギラリと光るそれを見ながら僕はそれを見つめるだけで何も出来なかった。


でも、次の瞬間。


ガギンッ!


ウェアタイガーの爪を防ぐ大きな影が僕の前に現れた。


「ぶもぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


筋骨隆々の逞しい肉体。黒く光る体毛。天を突かんばかりにそそり立つ立派な角。


体が倍くらいに大きくなったウー太の姿がそこに在った。


「ウー太!?」


「ぶもっ。ぶもぉっ!」


「が、がうっ!!」


ウェアタイガーの爪を受け止めていた角を振り上げ、弾き飛ばすウー太。その勢いに負けたウェアタイガーはひっくり返るように吹き飛ばされていった。


「た、助かったよウー太。でもどうしたのその体?」


「ぶもっ。」


「修行してきたって。修行しただけでそんなになるぅ?」


「ぶもっ!」


「なったんだから仕方ない!って、確かに変化しちゃってるから仕方ないのかなぁ?」


「ぶももっ!」


「後は任せろって?大丈夫なの?」


「ぶもっ!」


「大丈夫なんだ。それじゃ任せるね?」


「がるるるるるるる。」


ウェアタイガーがウー太の事を警戒しているうちに、僕は結界の中に出来るだけ急いで戻った。


結界の中では、さっき僕を押したお姉さんとハントを妨害してたお兄さんがロープでグルグル巻になって地面を転がってた。気絶してるみたいだね。


そういえばこの人達は一体誰なんだろう?


「ミノル君が無事で良かったわ!」


「わぷっ!ヤマブキさん苦しいです!」


「ん。遅くなってごめん。別の奴に妨害されてた。」


「おかえりハント。別の奴ってこの人達と同じ?」


「黒装束の旅人。」


「どうしてこんな事したんだろう?」


「そんなの、冒険者ギルドの決定が不服だからに決まってるじゃない!」


あっ、転がされてるお姉さんが喋った。


「こいつまだ意識が有りやがるのか。」


「大方気付け薬でも口に仕込んでいたんだろう。それにしても私の決定が不服だと?」


「そうよ!冒険者は自由な筈よ!なんであんたなんかの指示を聞かないといけないのよ!」


「アナタ、馬鹿でしょ?」


「何よ!」


興奮してるお姉さんにヤマブキさんがちょっと怒りながら声を掛けた。


「ギルドはそれぞれの職業を纏めるための組合よ?ギルドには規約が在って、必ずその規約に則って仕事をしなきゃいけないの。冒険者ギルドならば魔物の監視と討伐に加えて未到達領域の現地調査ね。未知を既知に変えるのが冒険者の仕事なのよ。農業ギルドであれば農地の開拓と農作物の納品に品種改良や新たな商品の開発。傭兵ギルドは人材の派遣と戦争の早期解決と特殊な人材発掘に教育よ。知ってた?」


「それが何よ!」


お姉さん大興奮。ヤマブキさんにも噛みついてる。だけどヤマブキさんはそんなのどこ吹く風。それどころか、段々とお姉さんを虫でも見るような目で見てる。


「あなた達にも解りやすく教えてあげる。あなた達ギルド員はただの会社員でしかないの。自由?そんなのある訳無いじゃない。上の命令が絶対とはいわないけど、正当な理由が無ければ命令違反者にはしっかりとしたペナルティは在るし、違反によって生じた損害はきちんと請求されるのよ?」


「えっ。」


冒険者は自由だ!なんて叫んでたお姉さんの勢いが止まったね。それにしても会社員なんて言葉こっちに伝わってたんだ。僕はそっちに驚いたよ。


「当たり前よね?だってギルドに損害を与えるんだから、その分しっかりと補填してもらわないと。」


「で、でも討伐すれば!」


「討伐するまでに被った損害も含まれるのよ?その補填としてドロップしたアイテムを接収することも在るわ。違ったかしらレト?」


「間違ってないな。今回の場合であればどうやったか判らんが敷地内への無断侵入と、土地の持ち主への暴行と殺人未遂に作戦妨害が該当するな。さらに調査して盗みや器物損壊が見つかれば、それも入れないとな。」


「でもこいつは旅人じゃない!死んでも生き返るわ!」


「旅人だからといって人殺しをしても良いと?ならば私が貴様らを刈り取ってやろうか?」


うわぁ。レトさん超怖い!全身から冷たい風がビュンビュン吹いてるよ。お姉さんがガクブルだ。


「解ったかしら?冒険者だからといって自由じゃないのよ。それに、そんなに自由になりたかったらギルドから抜けてどこにも入らなければいいわ。そうすれば本当に自由よ?」


「まっ、自由を得る代わりにギルドの恩恵は受けられねぇがな。例えばギルドが秘蔵してるスキルのゲット方法なんて物も得られなくなっちまうわなぁ。」


そんなの在ったんだ!あっヤマブキさんがこっちを見て申し訳無さそうにしてる。秘密にしてたの?あっ違う?農業ギルドにはそんなの無いって?うぅ、残念。


「君たちは立派に命令違反をしてくれた。沙汰は追って知らせる。とりあえず寝ておけ。」ゴンッ!


「ごふぅっ!」


レトさんがお姉さんの頭に拳骨を落としたら変な声を出しながらお姉さんは気を失った。


こっちは片付いたかな?ウー太の方はどうなったかな?


「がううううううっ!」


「ぶもぉぉぉぉぉぉっ!!」


どうしてそうなったの?ウェアタイガーとウー太ががっぷりと組み合って相撲を取ってるんだけど?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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