第8話 僕と畑とこれから暮らす場所
「じゃーん!ここが今日からあなたが働く場所よ!」
ヤマブキさんに案内して貰った場所は、最初に見た時には立ち入り禁止になっていた場所に在ったんだ。
奥の方に行けば、冒険者や騎士みたいな戦える人しか入れない森になってて。その手前に僕が借りた土地が在るってヤマブキさんには聞いてた。
森には強い魔物とかが出て来て、とても危険なんだって。畑の在る場所は結界の魔道具を設置して在るから大丈夫って話だったよ。
それで、案内された場所なんだけど・・・・。どう見ても半分森に飲み込まれた場所です。大きい岩とかもゴロゴロしてるし、畑が在ったっていう場所にはしっかりと木が生えてるんだよ。
「これを畑というには無理が在るんじゃ?」
「あちゃー。こんなに森に飲まれてたかぁ。魔道具の方も駄目になってるかしら?」
えっ!?魔道具が駄目になってたら僕ここで農業出来ないじゃん!
「うーん、完全に森に飲まれていたらすでに魔物には襲われてるのよねぇ。ちょっと確認してみましょうか。ついでに建物も案内するわ。崩れて無ければだけど。」
一体どれくらい放置されてたんだろう?僕本当にここでやっていけるかなぁ・・・。
「うん、建物は大丈夫だったみたいね。ほら、ここが今日からミノル君が暮らす場所になるわ。」
そう言ってヤマブキさんが教えてくれたのは、蔓に覆われた西洋風の石造りの建物。2階建てみたいで、1階部分には大きな木の扉が見えてるよ。2階には窓が付いてるから生活空間はあそこなのかな?
「結界の魔道具も建物の中に在るのよ。使用者登録もそこでやっちゃうからさっさと中に入りましょう。」
幸いにも扉の所は蔓に覆われて無かったからすぐに中に入る事が出来た。1階部分は広い空間になってて、納屋みたいに使う場所みたい。2階に上がる階段も見えるよ。前の人が置いて行ったのかな?すこしボロボロの農具も置いてるね。
「えっと確かここら辺に。在ったわ。魔道具は無事みたいね。」
僕が周りを見て居る間に、真ん中あたりでゴソゴソしていたヤマブキさんが床を引っぺがして中を覗き込んでた。でもよく見たら金具がくっ付いてるから、床下収納になってるのかな?
「ミノル君。この水晶に手を触れてくれる?」
床下収納の中には綺麗な水晶玉と土台が置かれてた。それ以外には何も入ってないね。というかこの場所はこの魔道具の為の場所みたい。
僕はヤマブキさんに促されるままその水晶に手を触れた。
『旅人ミノルを土地の使用者として登録しました。農業ギルドからの賃貸の為一部機能を制限しています。』
「ちゃんと登録できたみたいね。」
「あの。この一部機能って何ですか?」
「この場所に立ち入る人の制限とか、土地を広げる機能の事よ。今はまだこの場所は農業ギルドの物だから、その設定は私しか出来ないの。」
「土地って広げられるんですか!?」
「えぇ。でも土地を買う分のお金はやっぱり掛かるわよ?今はこの場所でしっかりと作物を育てる事を考えた方が良いわ。」
確かに。今はこの場所も借りてるだけだし、自分の物って訳じゃ無いもんね。野菜を作って、お金に余裕が出来たら考えようっと。
「それじゃせっかくだし2階も見てみましょうか。」
「はい!」
階段を上った先に在る扉を開けたら、床や壁に木が使われた温かみのある生活空間に出た。個室が3つもあって、大きな暖炉が備え付けられたリビングが在ったよ。水道の蛇口みたいなのも在るし、お風呂は無いけどトイレもしっかりと付いてた。
「外が蔓塗れだったから心配だったけど、中は大丈夫そうね。この3つの部屋が寝室よ。3人までならここに住めるわ。飲料水は地下水をくみ上げて使ってるの。暖炉は調理にも使える物ね。火は基本的にここしか使えないわ。」
「うわぁ。山奥の山荘みたい!」
「寝具や調理道具、農具なんかは前の住人が置いて行ったものがそのまま在るわ。後で痛んでないか確認してね。」
「はい!道具が駄目だったらどうしたら良いですか?」
「ギルドの方で販売しているから、私を訪ねて来てくれれば良いわ。購入じゃなくて貸し出しもしてるから使えないものがあったら相談してね。」
「はい!解りました!」
「それじゃ私はハーメルンに戻るけど、本当に困った時はすぐに私の所に来るのよ。私にできることなら何でも協力してあげるわ。」
「何から何までありがとうございますヤマブキさん!」
「頑張って美味しい野菜を作ってね。良い物が出来たら高く買い取るわ。それじゃあね。」
ヤマブキさんを見送った後、家に在る道具類を確認してみた。調理道具は少し錆びてるけど磨けば使えるかな?
ベッドは、中に入ってる藁みたいなものを交換すれば使えそう。後で代わりに詰められるものを探さなきゃ。
農具は最初見たときボロボロに見えたけどほとんど新品だった。前の人はあんまり使わずに放置してたみたい。土がちょっと着いてただけだね。
「家の中はこれくらいでいいかな?じゃあ次は畑をしっかりチェックしよう!」
そう思って外に出て見たんだけど、ここに来たのが遅かったからか太陽がもう沈みそうになってた。
「うーん、畑のチェックはまた明日だね。今日はもう寝ようっと!」
家の中には灯の魔道具が在って、スイッチ1つで灯が付くんだけどその為の燃料が無いんだよね。魔石っていう魔物を倒した時に出る石が必要なんだけど持ってないから、日が完全に沈んじゃうと周りが真っ暗になっちゃう。だから僕はさっさと寝る事にしたんだ。
「ご飯食べてないけど、スタミナはそんなに減って無いし大丈夫かな?それじゃ、おやすみなさーい。」
翌日。
「うーん。体がちょっと痛いや。」
ベッドの藁を入れ替えるつもりで中身を抜いてたから、板の上に直接寝る感じになちゃった。その所為でダメージを受けてHPがちょっと減ってる。ご飯を食べて寝なかったからスタミナも半分くらいに減ってるなぁ。
「街に買い物に・・・。行く前に畑の様子を見てからにしようかな。必要な物が出たら買わないと行けないし。」
という訳でまずは畑のチェックから。僕が借りた土地はそこそこ広くて、土地の境目には柵が設置してある。柵は結界の魔道具と繋がってて、魔物や人から守ってくれるものなんだって。
でも今は自分で設定ができないからデフォルトのままになってるみたい。えーっと、人は自由に行き来できて。魔物は近づかないようにしてるんだね。強い魔物にはあんまり効果は無いみたいだけど、森の入り口近くだから弱い魔物しか出ないって話だし大丈夫でしょ。
それで肝心の畑の方はっと。
「うん。これ無理!」
最初に見た通り、岩はゴロゴロ転がってるし、大きな木も生えてるし、雑草も一杯生えてる。こんなの重機でも無いと整備できないよ・・・。
「うーん。全部は無理でも一部なら整備出来るかな?」
よくよく見て見たら一部に雑草しか生えてない場所が在る。前の人が頑張って耕してた場所なのかな?あそこなら畝が3つくらいなら作れそう。
「摘んだ雑草は乾かしてベットに使えるかな。良い感じに木の間から空が見えてるし、日照不足で生育が悪くなるって事は無さそう。」
上手く出来るかどうかも解んないし、最初はお試しって事でこれくらいが良いんじゃないかな?うん、そうと決まったら早速やってみよう!
道具が置いて在る場所から鎌と熊手に近い道具が在ったからそれを持ってきて、雑草狩りスタート!ここからは根気の勝負だからせっせと葉っぱと根っこを分けて刈り取って行く。
いつもの僕だったら、違う場所を斬りそうになったり根っことは違う地面を掘り起こしちゃったりするんだけど、小さい頃にやった事が在るからね!そんな事は無くサクサクと作業が進むよ!
で、気が付いたら太陽が殆ど真上迄来ちゃってた。もうお昼みたい。
「でも頑張った甲斐あって雑草はあらかた取れたぞ!後は土を掘り起こして、肥料と混ぜて様子を見ないと。」
鎌と熊手を片付けたら次は鍬を持ってきてせっせと土起こし。やっぱり元々畑にしようと思って耕してたのか、思ったよりも土が柔らかい。時々顔を覗かせる石は遠くに放り投げて、起こした土と肥料を混ぜて今日の作業はここまでっと。
「わっ!スタミナがもうほとんどない!街に行って何か食べ物買わないと!」
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