第63話  僕と出発と街道

領主様が発行してくれた許可証は、胸に着けるバッジの様な形だったよ。金が所々に施された豪華な箱から出て来て、直接僕の胸に着けてくれたりもした。緊張で体が動かなかったよ。


見た目は盾の形みたいなの。金色の縁取りと中央に縦笛のマークととんがり帽子が描かれてて他は明るい紫色に染まってる。


そんな豪華なバッチを付ける時に領主様が耳元に顔を近づけて来てね?


「絶対に帰っておいで。私は視察をとても楽しみにしてるんだから。戻って来たら、君の農園のおすすめを食べさせておくれ。」


と言いながらウィンクしてくれた。僕の農園のおすすめ?それは育てた野菜全部って事?グランドリーフとマナリアは流石に直接食べられないし・・・。まだ販売してない木になる果物とかならどうだろう?丁度帰って来た時くらいが収穫時期の奴が在った筈。それで良いかな?


僕が領主様の言葉を聞いて考え込んでたら、ハントとヤマブキさんが動こうとしてた。おっと考え過ぎて領主様と顔が近いままだったよ。向こうはニヤニヤ笑ってるし怒られる事は無い、よね?でもなんで2人の方をチラチラ見てたんだろう?


まぁそう言う訳で無事許可証を貰った僕達はその後遠征準備に取り掛かった。とは言っても準備する物なんて殆ど無いんだけどね。持って行くのは食料と、念の為の野営準備くらいだし。


必要な食料と野営準備もヤマブキさんが協力してくれてすぐに色々揃っちゃったもん。どこからか話を聞きつけたオヤさんやバルトさんが色々持って来てもくれたし。


オヤさんが持って来てくれたのは大量の保存食。漬物とか乾燥野菜とかなんか茶色い塊が大量に。茶色いのは小麦粉で色んな野菜を固めた保存食だって。クッキーの亜種みたい。美味しいのかな?


バルトさんが持ってきてくれたのは、身を護る為の使い捨ての道具だったよ。強い光りを放つ奴だったり、煙を瞬時に広げる奴だったり。周りに爆音をまき散らす奴だったり。使い方も簡単で地面に叩き付けるだけ。ねっ簡単でしょ?


「でも良いのかなぁ?こんなに貰っちゃって?」


「大丈夫。お礼って言ってた。」


「住人の好感度が高いと、イベントの際に手助けしてくれる事が在るんですよ。つまりそれだけミノルさんがあの人達の手助けをしてるって事です。領主様が出て来たのはビックリしましたけど。」


「ほえー。あれも好感度が関わってたんだ。」


「恐らく、ですけどね。」


「そう言えばこの使い捨ての道具。相手にダメージ与える奴は無いの?」


「使い捨てでは無い。」


「無いのかぁ。どうして?」


「魔物に有効な攻撃を与える素材を使い捨てにするなんて勿体無い。だから無い。」


「ハントさんの言う通りですね。銃とか在りますけど、あれは魔法の弾を飛ばす奴ですから。弓なんて物も在りますが、そちらは回収して使いまわせますし。あっ投げナイフ何て物も在りますけど、そちらもちゃんと回収できますね。」


うーん、投げて使えるなら僕でも大丈夫だと思うんだけどなぁ。


「ミノルには投げられないと思う。」


「そんな事ないと思うよ?だって投げるだけなんだし。それくらいなら。」


「じゃあ投げてみる。はい。」


そう言ってハントが取り出したのは布の玉。丁度大きさは野球ボール位。どうしてこんなの持ってるの?


「先程話は聞きましたけど。ミノルさんってそんなに何ですか?」


「無意識だと多分大丈夫。だけど意識するとダメダメ。」


「そ、そんな事ないよ!見ててよ!」


「そこまで言うならあの樹に向かって投げる。」


僕達が居るのはハーメルンと農園の間に在る平原。丁度農園の外周に在る樹が見えて来た所だったから、その樹を目標にするって事になった。


「それじゃ行くよ?えいっ!」


「はえ?」


「流石ミノル。」


僕は目の前に見えている樹に向かってボールを投げた。そうしたらピューンって音と共にボールは僕の後ろに飛んで行った。


「まさか前に飛ばずに後ろに飛ぶとは。目の前で見ても信じられません。綺麗な投球フォームだったのに。」


「これがミノル。地面に投げられるかどうかも怪しい。」


「そ、それくらい出来るよ!」


様は種まきの要領でやれば良いんでしょ?それなら大丈夫だよ!多分。


「この道具は私達で使いましょう。」


「ミノルに渡したら危険が危ない。ウェアにも使えるようにしよう。」


「ねぇ聞いてよ!」


僕達はそのまま農園に戻って残りの準備に取り掛かる事になった。自衛の道具は僕も使うからね!!


翌日


「ふぐぅ。」


「これは仕方ない。」


「真上に飛んでいきましたからねぇ。」


出発前に僕は泣いてた。その理由はもう1度チャンスを貰ってボールを地面に投げたら、なぜか空高くに飛んで行ったから。種なら行けるのに何でボールは駄目なの!!


そんな結果だったから、自衛の道具は今ウェアの腰に巻かれてるベルトに固定されてる。僕が危ないと思ったら、僕かハントの指示で使うんだって。ううう、僕も使ってみたかった・・・。


「ぶもっ。」


「ウー太が待ち草臥れてる。早く行こう。」


「そうです。今日中にハーナまで行かないと行けないんですから。モフも待ってますし。」


「うぅ、解ったよ!出発!」


「やけくそになった。」


「可愛らしいですねぇ。」


アンさんに小さい子を見る眼で見られた。僕もうすぐ高校生になるんだけど?


そう言えばウー太何だけどね。背中に鞍みたいな物を装着してます。これはヤマブキさんが用意してくれた装備で、お祭りでどこからか流れて来た品物何だって。ウー太のサイズに丁度良いからって準備してくれた。年代物で安く買えたからって言ってたよ。


足を置く所もちゃんと在って、体の側面に出っ張りが在る感じ。その調整をしてる時にウー太が懐かしそうな顔をしてたのはどうしてだろう。聞いても答えてくれなかったんだよね。


鞍に座ってる僕の後ろにはハントが立ってる。うん、立ってるんだ。ウー太の背中が広いから座るより立ってる方が楽、何て言ってたけどそんな事ないと思うよ?


だって走ってるウー太の体、上下に凄く揺れてるもん。鞍とベルトで繋がって無かったら、僕はもうどこかに飛んでっちゃってると思う。もしかしてそうならない様に抑えてくれてるとか?


まぁそんな訳で農園を出発した僕達はハーメルンの外壁を回って街道の方に向かってる。おー、平原で狩りをしてる人達がすっごく見てるよ。アンさんの方を。


「注目されてますねぇ。」


「そうですね。」


うん、揺れてるからね。男の人の視線がね?女性から冷たい視線が降り注いでる事に早く気が付いて?


「むぅ。所詮アバター。リアルじゃない。」


早く街道に出ないかなぁ。だってハントが僕の肩をギリギリと握りつぶしそうになってるもん。地味にダメージが入ってて痛いんだよ。


「ハントハント、人は見た目じゃないよ。」


「ならミノルはアンと私どっちが良い?」


「そりゃハントでしょ。」


だってずっと一緒に居る訳だし。この前知り合ったアンさんよりもハントの方が仲良いもん。


「むふぅー。」


「初々しいですねぇ。」


ふぅ、ハントの手から力が抜けてくれて良かった。でもどうしてアンさんはそんな生暖かい目を向けて来るの?友達を選んだってだけなのに。


「がうっ。」


「おー、街道に出るのは久しぶりだねぇ。」


「ここからは速度を上げていきますよ。付いて来れますか?」


「ぶもっ。」


「がうっ!」


「大丈夫そうですね。ではハーナ迄急ぎましょう!」


ハーメルンの外に出るのは2度目だね。ちょっと冒険っぽくてワクワクして来たよ。ハーナはどんな所なのかなぁ?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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