第22話 僕と呼び出しと八百屋さん
ちゃんと作ったカプの塩煮を食べてハントが感動してくれたのが昨日の事。あのあと土を入れ替えてEX肥料の影響を完全になくしてからキュイリとマトマを植えた。今度はちゃんと育てるんだ。
納品した作物は今朝ヤマブキさんが取りに来てくれた。このまますぐに八百屋さんに持っていくって野菜をインベントリに入れたあとすぐに走っていっちゃったよ。
それで、皆で畑のお世話をしながらのんびりしてたらお昼位にヤマブキさんが又家を訪ねて来た。
「今すぐに来て頂戴!」
と、強引に腕を引っ張られてハーメルンに連行。僕達の後ろを慌ててハントとウー太が追いかけてきてくれてました。ヤマブキさんって力が強いね?いや、僕が小さすぎるだけ?
どこに連れて行かれるのかなぁって思ってたら広場に連れて行かれて、八百屋さんに到着。八百屋さんの前で、店主のお婆さんが仁王立ちしてました。何で?
「おや?坊やは前に家に来てくれた子だね?」
「ミノルって言います。えっと?」
「自己紹介してなかったねぇ。わたしゃオヤと言うんだよ。よろしくね。」
お婆さんは僕の頭を撫でながら自己紹介してくれた。あっ、ハント達がやっと追いついたね。
「ヤマブキ早すぎ。ミノルを勝手に連れて行っちゃ駄目。護衛できない。」
「ぶもーっ!!」
「緊急事態だったんだから仕方ないのよ。」
「仕方ないじゃないよこのバカ弟子が!!」
さっきまで優しそうなおばあちゃんだったのに、ヤマブキさんの言葉で突然怒り出しちゃったよ。
「だって師匠が八百屋閉めるって言うから!」
「誰が閉めるって言ったってんだい!!あたしゃそろそろ引退しようかねって言ったんだよ!」
「同じ意味じゃない!」
「違うわ馬鹿弟子!!」ゴチンッ!
「あいたっ!!」
うーん。あんまり状況が良く分からないけど、これってヤマブキさんが早とちりしたって事なのかな?
「うちの孫娘が私の跡をついでくれる事になってね。こんな寂れた八百屋だけども、この街にとっちゃ唯一の店なんだ。閉められないよ。」
「なぁーんだ。」
「なぁーんだじゃないわ!こんな作物を持ってきて売り切れるまで引退するななんて突然言い出しちまって、こんなの売れる訳無いだろう!」
「それ作ったのこの子なんだけど?」
「うぐっ!」
あっ、お婆さんの怒りが止まった。もしかしてヤマブキさん。オヤさんに怒られたくないから僕を連れてきたね?
でも残念でした。僕もその野菜が売り物にならないってのはよく分かってるからね。
「やっぱり促成栽培は駄目ですよねぇ。手間は掛かっても、時間を掛けて育てないと形も味も悪くなっちゃって。」
「おや。ミノルは良く分かってるじゃないか。そうだよ。人も野菜も、物事は時間をゆっくり掛けた方が良いものが出来上がるんだ。それをこの馬鹿弟子は。はぁ、教え方をどっかで間違っちまったかねぇ。」
「それは師匠が八百屋を辞めちゃうと思って慌てたからで。いつもはちゃんとしてるし。」
「ちゃんとしてたらこんな物売り物として持ってこないんだよ!」ゴチンッ!
「あだっ!!」
ずっとオヤさんに怒られてるヤマブキさん。うーん、売り物にならないとしてもどうにか有効活用したいよねぇ。
「ったく。でもせっかく育ててくれたのを捨てるのも忍びないからね。私が何とかしてあげるよ。」
「本当!?」
「あんたの為じゃないよ。作ってくれた生産者の人の為だよ。ダヅとカプはそのまま売れるけど、一緒に加工しちまおうかね。」
「どうするんです?」
「漬けちまうのさ。」
あぁ!!漬物にしちゃうのか!確かにそれならちょっと形が悪くても大丈夫だし、味も調整できるもんね。それに保存食にもなるし。
「あたしゃギルド員時代には保存食の研究を主にしててね。その中で見つけたのがこの漬物って奴さ。いちばん簡単なのは塩漬けだね。キュイリなんかはすぐに浅漬けに出来るよ。あとは端正込めて育てたこいつも在る。」
そう言ってお婆さんはお店の中から樽を持ってきた。どうでもいいけどお婆さんも力持ちですね?
「あれ?この匂いって糠床?」
「本当にミノルは良く知ってるね?こいつは米っていう作物を精米したときに出る糠ってやつを乳酸発酵させた奴さ。まだ沢山の交易品がやり取りされてた時代に偶然手に入れてね。それ以降ずっと面倒を見てるんだよ。」
糠床はおばあちゃんちにも在ったから分かったんだ。1日に1回は混ぜないと行けないし、管理を怠ったらカビが生えて腐っちゃうんだよね。僕はあのぬちょぬちょする感じが泥遊びみたいで好きだったなぁ。
「カプとかコンダイ漬けたの食べたいです!」
「ふふふ。良い所を選ぶじゃないか。出来上がったら分けてあげるよ。ダヅは味噌にしちまうかね。」
あっ、こっちでも味噌は味噌っていうんだ。味噌も作れるなんてオヤさん凄い!あれって作るのに麹菌が居るし時間も掛かるんだよね。
ん?味噌?味噌が出来るなら・・・醤油!!
「オヤさん!味噌が出来るなら醤油作って下さい!!」
「醤油?ヒシオ水の事かい?それならついでに出来るよ。」
やった!これで調味料が増えるぞ!
「ミノルくんが飛び上がって喜んでるんだけど、そんなに嬉しい事なの?」
「ん。味噌と醤油は私達のソウルフード。あったら飛ぶように売れる。」
「そうなのかい。それじゃ、八百屋の一部を改築して売り出してみようかね。其の為にも野菜の定期購入をお願いしたいねぇ。」
「はい!それならギルドが一括で管理します!ミノル君出来るわよね?」
「今回みたいに急ぎじゃなかったら、大丈夫だと思います。全種類一変に、とは行かないですけど・・・。」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。漬ける時間も個別で違うからね。そこら辺の話は後でこの馬鹿弟子としておくよ。」
「やった!これで師匠が引退しない!」
「八百屋は孫娘に任すんだからね。わたしゃのんびり横で漬物屋をやるだけだよ。」
「そう言えば後を継ぐ孫娘さんは今何処に居るんです?これからお世話になりそうだし挨拶したいんですけど。」
農家の僕と八百屋さんってのはギルドを通してだけど一番関わりが在ると思うんだよね。だから挨拶しておきたいんだ。
「あの子なら今頃こっちに向かって来てると思うよ。馬車を使って色々持ってくるって言ってたから、もうすぐ到着するんじゃないかね?」
「オヤさん!オヤさんは居るか!!」
わざわざ馬車を用意してこっちに来てるんだぁ。お金持ちなのかな?なんて思ってた所に衛兵さんが1人慌てた様子でお店に駆け込んできたんだ。なにか在ったのかな?
「どうしたんだい。あたしゃここだよ。」
「オヤさん。落ち着いて聞いてくれ。あんたの孫娘が乗った馬車が魔物に襲われた。」
「なんだって!あの子は、あの子は無事なのかい!!」
「解らない。今襲った魔物を刺激しないように周囲を探し回ってる。うまく逃げてくれてると良いんだが・・・。」
「その魔物。種類は?」
「ん?あんたは傭兵か?魔物はウェアタイガー。人に近い虎の魔物だ。そいつが街道に居座ってて、最近冒険者ギルドに討伐の依頼を出した所だったんだよ。その情報が隣街に着く前に出発しちまったみたいなんだ。」
「ウェアタイガーは肉食の危険な魔物。人も捕食対象。脅威度は高い。」
「あぁぁぁ。ふぅ・・・。」
「師匠!?」
オヤさんが気絶しちゃった!そりゃ孫娘が食べられちゃったかもって聞かされたらショックだよね・・・。
「でも生存している可能性は高い。」
「それはどうして?」
「ウェアタイガーが人の生活圏に出て来るのは不自然。はぐれだと思う。はぐれは脅威度の低い物から襲いかかるから、人を襲うのは最後。自分を攻撃できないと知った時だけ。孫娘が武器を持ってたら、多分まだ生きてる。」
「それは本当か!急いで知らせねば!」
衛兵さんは走って戻って行っちゃった。僕達はどうしようか?
「冒険者ギルドに依頼が行ったなら大丈夫。あっちは魔物退治のプロ。すぐに収まる。」
「そっか。」
「私はしばらく師匠の様子を見てるから。2人は戻っていいわよ。なにか分かったら連絡磨るわ。」
「ここに居ても何も出来ないもんね。農園に戻ろっか。」
僕達は農園に戻って又畑のお世話をしてた。そしたら夕方近くにヤマブキさんが来て、孫娘さんは無事だったと教えてくれた。
それと、ウェアタイガーが街道に居座り続けてるって報告も一緒に聞いた。冒険者達が対処に失敗したらしい。これからどうなるんだろう?
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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