S級探索者達は作戦会議をする


『待機』

『待機』

『待機』


配信画面にコメントが流れる。

まだ配信時間前だというのに数十万人もの人が待機している。


『にしても探索者ギルド公式の配信なんて珍しいな』

『まあ、ほとんど報告するようなこととかないからな』

『配信するとしても基本的に公認探索者が配信するからな』

『最近だと桜乃みらいだっけ?あの子が配信しているよね』

『ああー、推定S級のあの人と一緒にいる人だっけ』

『あの人本人的には出るの望んでいないみたいだけどね…N級魔物出てきて渋々出張ってるみたい』

『昔からのファンなんだっけ。意外だよね。たまにテレビで出てくるときはめっちゃクールな感じでそう言う俗っぽい所無い印象だったけど』

『あの子の配信内だとどうだったんだろ』

『節度わきまえつつやりすぎて怒られたりしてるよ』

『それは節度わきまえているのか…?』

『笑い話にできる範囲だから…』


待機画面の中でもリスナーたちが各々雑談している。


『にしてもこのタイミングでの公式配信ってことはN級魔物関連だよな』

『だろうね。むしろそれ以外で何があるって話だし』

『原因わかったのかねー。この間の公式探索者の配信でなんか五人組のN級魔物が出てきたからあいつらが黒幕っぽいけど』

『あいつらの外にも探究者だかなんだか怪しい奴いたよね。あいつに関しては何かわかったのかな』

『あー、胴体穴開けられても生きてたあいつか。魔物かすらもわからないレベルなんだっけ』

『有識者曰く少なくとも人ではないが、魔物とも言い切れない異質さらしいね』

『ほえー、ネットの有識者にすらわからない存在なんだ』


ギルド公式配信であるが故にみらいやクロウ関係以外の会話もしており、コメント欄では様々な会話がされている。

リスナーたちが好き勝手コメントで会話している中、配信画面が切り替わる。

そこに映っていたのは椅子に座っているギルマスの姿だった。


『はじまた』


「皆さんようこそお越しくださいました。探索者ギルド、ギルドマスター五月雨五郎です。今回公式配信した理由についてご説明いたします」


その言葉と共に少しカメラが引き、プロジェクターに照らされたスクリーンが映りこむ。


「現在、皆さんもご存じのように各地でN級魔物が出現、確認されています。そしてそれを我らは調査し、元凶と思わしき存在に到達いたしました」


その言葉と共にハデス、阿修羅、ニーズヘッグ、フェニックス、タマモの写真が映し出される。


「鬼神『阿修羅』、獄龍『ニーズヘッグ』、不死鳥『フェニックス』、九尾『タマモ』。そして冥王『ハデス』。この五体による事件と判明した」

『目的は?』

「明確に目的が判明しているというわけではないですが、おおよその推測はダンジョンからの侵略。ダンジョンから出て、地上にて自らが統治する場所を作ることが目的のようだ」


ギルマスの言葉にコメント欄がざわつきだす。侵略されたという事実に驚く者もおれば、それが本当にできるのかどうか疑念を浮かべる者。やはりダンジョンは危険だからすべて封鎖すべきではないかという過激な意見も見受けられる。


「いろいろと質問や懸念もあるだろう。だが、今回に関しても私としては特に大きな問題はないと思っている。いかんせんこちらには対処できる人員がいる。そしてすでに相手の拠点も判明している。というわけで…」


パンッ!と手を叩くとカメラが引き、部屋の中を映し出す。


「さあ、対策会議と行こうか」


S級探索者五人とみらい、シェルフ、詩織の三人。そしてマーサ、フィン、リル、エメルのフェンリル組達が画面に映し出された。


『うおおおおおおおおおおお!』

『S級探索者がそろい踏みだああ!』

『そろい踏み(なお一名)』

『なんであの人いまだに不審者スタイルなの…』

『それも疑問だがなんで新人のみらいちゃん達もいるの…?』

『フェンリルもいるし、ちょっと情報量が…』


ずらっと並んでいるメンバーに困惑するリスナーたち。


「さて、困惑している人も多いようなので説明しよう。まず桜乃みらいさん、シェルフさん、天谷詩織さんの三人は協力者です」

『協力者?』

『S級探索者五人に対する協力者ってこと?』

「いえ、約一名のやる気を出させて無茶させないための協力者です」


ギルマスの言葉にコメントにちらほら納得したようなものが見え始める。おそらく前のみらいの配信を見ていた人達だろう。


「そしてフェンリルに関してだが、彼女たちに関してはみらいさん達の従魔となった。これは世界探索者管理機構。『WSM』からの正式な通達によるものです。その通達に伴って、彼とみらいさん、そして詩織さんにそれぞれの従魔として登録されております」


その言葉に今度はコメント欄が困惑した物が見え始める。S級探索者であるクロウはともかく、B級探索者である詩織。そしてF級であり、まだ探索者になったばかりのみらいとシェルフに子供とはいえフェンリルを従魔にするようにWSMからの通達があったことが不思議なのだろう。


「そして不審者スタイルである彼の事だが…」


呆れたような表情でちらりとクロウのほうを見る。クロウとしては見慣れているが、全身黒のローブに仮面という明らかな不審者スタイルはまさに異常でもある。


「気にしないでくれ」

『投げたwww』

『まあ説明しろといわれても困るよなぁ…』

『もう正体わかっているのになぜかくれるのか…』

「シュレディンガーの猫というものがあってだな…」

『先生、すでに手遅れです』

「解せぬ」


クロウがコメントに応対しているがローブを脱ごうとはしないようだ。その様子を笑みを浮かべて他のS級探索者達が見ている。


「とりあえずそこのフェンリルさん達は味方でいいんだよね?」


今まで黙ってみていた遥が問いかけてくる。


「ああ。その認識で間違ってない」

「万が一が起きる可能性は?」

「ないね」


バッサリとクロウが言い切る。


「外的要因によって何かが起きる可能性は当然0ではない。だが、それ以外…自発的な何か…例えば魔力暴走等が引きおこる可能性はないよ」

「言い切れるんだな」

「ああ。それに関しては俺より母さんのほうがいえるだろう」


そのクロウの言葉にスッとマーサが立ち上がる。


「私達魔物は魔力によって生み出されている。だからね、魔力暴走というのは起きることはないんだよ」

「あれ?でもそれに近い魔物とか戦ったことあるけど?」


マーサの言葉に流華が首を傾げる。


「うん。それに関してはね自分から魔力暴走を起こしているんだよ」

「自分からって…この間の彼みたいに?」

「ああ、俺の魔力解放みたいに、意図的に発動させるものだな」

「難点としては、殺気も行ったように私たちはダンジョンの魔力から生み出されている。だから、魔力解放をすると抑えきれずにそのまま自らの体が崩壊してしまうこともある。それゆえにその恐怖とも戦うために、自ら理性を失くし、暴走したように見える者もおるだろう」

「へー」


同じ魔物ということで今まで知ることができなかったことも聞くことができる。そのまま質問タイムと行きたかったが…。


「さて、雑談はここまでにして具体的な作戦会議と行こうか」


そう言ってギルマスが場をしめる。


「それで、ハデス達がいるであろうダンジョンはどこなんだ?」


クロウも気を引き締めて真面目な様子で問いかける。


「ここだ」


その言葉と共にスクリーンに地図が映る。


「N県T市。その山中にあるB級ダンジョン。そこがハデスの拠点だ」

『うわっ、地元やん』

『あれ、この山、少し前に規制入った場所じゃん』

「知っている人もいるだろうけど、探索者がそこに入り込まないように拠点のダンジョンが判明して即座にそのダンジョン周囲を厳戒態勢で封鎖した。今回の一件が解決するまではずっと封鎖しておくことになるからそのあたり了承してね」

『まじかー、あそこたまに行ってたんだけどなぁ』

『解決したらってことはもしかしてダンジョン封鎖しちゃうの?』

「そこらへんはわからん。今後も危険があれば封鎖するつもりだが…」

「少なくともハデスが出現する以前のそのダンジョンでの問題はなかったので封鎖に関しては討伐後の要観察対象って感じかな」


今後もハデスのようにN級魔物が出現するのならば十分に封鎖対象になるのだが、それは他のダンジョンでも同じことが言える。他を封鎖していない以上、ここも封鎖する理由は現状ではなかった。


「にしても、ハデスの拠点って言う話だが、そこに他のN級魔物もいるのか?」

「あー…それなんだが、どうも特殊なゲートがあるみたいなんだ。雷亜」

「うん。報告するね。これを見てほしい」


そう言ってそれぞれに一枚の紙を渡してきた。それと共にスクリーンに紙に書かれた物が映される。


「このダンジョンB級ダンジョンという話だけど実のところはS級ダンジョンだったんだ」

「は?」

『え?』

『どういうこと?』

「ダンジョンがS級として認定されるのは特殊環境である事でしょ?ここも特殊環境があってね。ところどころに転移門がある」

「転移門って…別の場所に飛ばすトラップか?」


ダンジョン内部には様々な罠があり、それの一つが転移トラップと呼ばれ、その罠を踏んだ人を別階層、もしくはモンスターがひしめくモンスターハウスへと飛ばす罠だ。


「転移トラップとは少し違うかな。あれは一方通行でしょ?転移門は行き来できるゲートなんだ」

「そんなものがあったのか…」

「うん、それでそのゲート、複数のダンジョンにつながっているんだ」

「えぇー…」


雷亜の言葉に遥がげんなりしたような声を上げる。


「そのうちの一つがハデスの拠点として使われている。そして他のN級魔物のダンジョンにもつながっているってわけだよ」

「つまりその転移門を使って他のダンジョンからハデスのいるダンジョンにあいつらは集まっていたってことか」

「そういうこと」

「そのゲートをふさぐことは?」

「物理的にふさぐことはできるけど、壊すことはできないね。試しにやってみたけど、攻撃はすべて通過してその先のダンジョンへと飛んで行っちゃったんだ」

「攻撃は無効ってことか」

「うん。だから石壁とかで取り囲んでみたらそれで封鎖できたよ。といってもその石壁壊したら通れるけど」

『うーん、このごり押し感』

『いや、まあ『壊せないなら塞いじゃえ』は真理だから…』

『というかあのB級ダンジョン何度か行ってたけど、そんな転移門なんて見た記憶ないけどな…』

「ということなんだが?」

「うん、かなり巧妙に隠されていたからね。一応写真に撮ってきたけど…はいこれ」


そう言って軽く操作してスクリーンにその写真を載せた。

そこに映っていたのはゲートというよりかは空間に開いた穴のようなものだった。


「………これ、下手したら転移門ってランダムポップするものじゃね?」

「かもしれないね。さすがにそこまでの調査をするだけの時間はなかったけど」

「もしクロウの言葉の通り転移門がランダムに出現するものだとしたら、確かにS級になってもおかしくはないかもね」

「でも、さっきコメントで言ってたがこれ、今までに目撃情報無かったのか?」

「少なくともそう言う報告はないね」


クロウの問いかけにギルマスが答える。


「となるとハデスが作り出しているという可能性はあるだろ」

「確かにその可能性もあった。でも、それならそれで移動の時だけに作っておけばいいわけでこういう風に設置しておく理由が無いように思えてね」

「あー。確かに」

「ハデスが出現したことによって発生した事象ってことは?」

「その可能性はあるけど、さすがにそこまで検証はできないからね…」


流華の問いかけに苦笑交じりに雷亜は答える。


「んなどうでもいいことは解決してからでいいだろ。とりあえずハデスはそのダンジョンにいて、他の奴らもいるんだろ?それならそこに行ってそいつら全員倒せばいいだけだろ」


黙って聞いていた傑はそう言ってきた。


「…飽きたな。まあそれでも事実か。ダンジョンの封鎖に関しても、S級ダンジョンに認定するかどうかも、ハデスがいる状況じゃできないのは確かだ。そこらへんは後々決めるってことでいいかね、ギルマス」


クロウの問いかけにギルマスは頷く。


「さて、とりあえず現時点で懸念事項としては、逃げられる可能性だね」


仕切り直しとして雷亜が告げる。


「この間みたいに追い詰めたのに転移門使って別のところに逃げられたじゃ同じことの繰り返しだもんねー」

「確実に追い詰める方法が必要だけど…クロウ、何か案はある?」

「んあー…」


魔法関連だとクロウが専門職だ。それゆえに流華が問いかけてくるが…。


「転移の妨害…いや、さすがに門みたいに確立しているときついかなぁ…転移陣みたいなのだったら行けるが、こう言う形状のはな…」

「できないのか?」

「できなくもないがそれ専門になるって感じだな。転移陣とかならいくらでもやりようがあるが、こういう空間に出現している物はそもそも干渉がしにくいからなぁ…」

「ハデスとの戦いに参戦できなくなるってこと?」

「そうなる」

「じゃあどうするの?」

「雷亜が言ってたように物理的にふさぐとかならやりようはいくらでもあるが、それでも問題ないかね?ランダムポップみたいに転移門移動されたら無効化されるけど」

「とりあえず逃げさえしなければいいわけだから、逃げようとした先にある転移門塞げばいいんじゃね?」

「ハデスと戦いながら周囲の状況を把握しろと?」

「お前ならできるだろ」


あっさりと言い放つ傑にクロウはため息を吐いてしまう。


「不可能だとは言わんが、せめて視界が通る場所でやってくれよ。いくら俺でも見えないところの戦いまで把握できんから」

「おう、任せろ!」

「その自信が不安なんだがなぁ…」


元気いっぱいに傑が返事をするが、クロウはため息を吐いてしまう。


「まったく、傑はいつも戦っていると周りが見えなくなるんだから気をつけなさいよね」

「おまえもなー」


流華が呆れたように言うが、流華も流華で強敵相手だともともとの戦闘狂の気質が表に出てきて周囲が見えなくなる。


「まあ、そこらへんは僕達で何とかフォローしてみるよ」

「そうそうー。遠くを見るのは私の専売特許だしね♪」


ため息を吐くクロウに雷亜と遥がフォローを入れる。この二人は配信者故か、結構周囲を気にしながら戦うので大丈夫だろう。


「さて、それじゃあ手順としてはダンジョン突入後、ハデス達を発見次第、戦闘開始。クロウはハデスの相手をしながら逃走しないようにゲートがあれば侵入させないための結界などを使って逃亡を阻止。雷亜と遥、流華と傑はそれぞれでN級魔物への対処といったところだね」

「だな」


ギルマスのまとめにそれぞれが頷く。


「えっと…すいません、私達もついていくん…ですよね?」


おずおずといった感じで詩織が問いかけてくる。みらいも聞きたかったようだが、さすがにこのメンツの会話には参入できなかったようだ。

ちなみにシェルフに関しては退屈そうにあくびをしていた。


「そうだね、君達にも来てもらうことになる。今回の探索も配信をしてもらうつもりだしね」

「わかりました。それで私達は何かすることがあるでしょうか?」

「そうだねぇ…」


詩織の問いかけにクロウは考え込む。


『言っちゃなんだけどできる事無いでしょ』

『しおりんの強さは知ってはいるけどB級だし…』

『みらいちゃん達に関してはまだ探索者になったばかり…』

『正直足手まといでしかないよね…』


そんなコメントが流れてきた。

言ってることは間違っていない。それを考慮したうえでクロウもみらい達が着いてくることに反対していた。それでも強引に連れていくようにしたのはギルマスだ。だからそこらへんのフォローをしてもらいたいところではあるが…。


「………」


ギルマスは口を開こうとはしなかった。


「ま、実際のところやることはあると言えばあるが、ないと言えばないんだよね」

「それどっちなの?」


お気楽な様子で言ったクロウにシェルフがため息交じりに聞いてきた。


「さっき言ったように転移門がある。そこを魔物が移動できるってことは当然N級以外の魔物だって来るだろう。その処理をしながら戦うのも結構大変だ。故に…」

「私達でその魔物の処理をしていけばいいってことね」


クロウの言葉をマーサが引き継いだ。


「配信をしていると遥も雷亜もそれなりにカメラを意識して戦わないといけなくなる。それにほかの魔物の処理と来たらN級魔物と相対しながらだといささかきつい。故にみらいちゃん達には配信のカメラと魔物の処理、お願いできるかな?」


そう言ってクロウは顔をみらい達のほうへと向ける。仮面のせいで表情はわからない。それでもちらりと見えている目からは信頼が感じられた。


「わかりました」


みらい達全員が頷く。


「よし、じゃあ決まったね。結構は明日。クロウの転移魔法で入り口前まで飛んでもらう。その後突入。速やかにハデス達を発見し、撃破するように!」

「了解!」


ギルマスの言葉に全員が答えた。


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S級探索者は推し活のために探索する 黒井隼人 @batukuro

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