S級探索者の推しは魔素試験を受ける



「さて、それじゃあさっそく試験を始めようか」


笑顔で監督者である天谷詩織が告げる。


「最初の試験は魔素試験。特性のアイテムを使って体内に魔素を流し込む試験です。それによってどういう影響が出るかが調べます。その影響に問題がなければ試験には合格です」

「具体的にはどんな影響が出るんですか?」

「基本の影響は身体強化ですね。筋力の増強や体力上昇などが主になります」

『つまりムキムキマッチョなみらいちゃんになると?』

「え、なにそれやだ」

「あはは…さすがにそこまで明確に影響は出ないですよ。少し力が強くなる程度です。そしてそれらの影響が出た後に人によっては違う反応をします」

「違う反応ですか?」

「ええ、得意な属性を持つ人は稀にですがその属性が展開されることがあるそうです。例えば…そうですね…S級探索者である霜崎流華さん。あの人は氷属性が得意なのですが、ああいう人がこの魔素試験を行うと氷が周囲に広がったりします。まあ、流華さんは氷属性以外の魔法も扱えるらしいですが」

『へー、そんなこと起きるんや』

『以前やったことあるけど起こった人見たことないなー』

「そうですね。私もあまり聞いたことはありません。ただ過去S級探索者になった人の中にはいたそうですよ」

『へー』

「それで、その反応の後、魔素酔いという症状が出てきます。これは過剰の魔素を吸収してしまった場合に出てくる症状ですね。魔素酔いは症状が重いと命に関わることも有ります。まあ、今回の試験ではそのようなことは起こりえませんし、万が一起こった際のために私がいるのでご安心を」

「は…はい…」


命の危険を笑顔で言われてちょっとみらいが引いてしまう。


「まあ、今後探索者として活動するなら常に命の危険はあるわけだからいまさらだよねー」


そんなみらいにむけてなのか、軽い感じでシェルフが言った。


「そうですね。これを聞いてやめるようであればそもそも探索者には向いていないのでやめておくのが吉だと思います」

『うーん厳しい』

『まあそれでもその通りよな』

『そう言う世界だもんな探索者って弱肉強食よ』

『焼肉定食食いたくなった』

『なんでいま?』


コメントのそれぞれの反応を見つつも一旦言葉を止める。


「さて、これが試験によって起きる影響です。一応これは手順の一つなので確認しますが…試験は行いますか?」


ここで引き返すこともできる。それを確認するために詩織はみらいとシェルフへと問いかける。


「はい」

「やるよー」


そんな詩織へ向けて二人もしっかりとうなずいた。その答えを聞き詩織は笑顔を浮かべる。


「よろしい。では試験を行いましょう」


そう言って詩織は一つのホルスターを取り出した。その中にはクリスタルが入っており、それをカメラに映るように見せる。


「これは魔素吸収石です。これは基本的には空気中の魔素を吸収する性質を持っています。それと同時に触れている物に魔素を流し込む性質を持っています」

『ほえーそんなのあるんや』

『そういえば高ランクの探索者が持っているの見たことある』

「お、さすがですね。そうです高ランク探索者はその分強い魔法などを扱うことができます。そしてそういった魔法は発動後に大量の魔素を残します。それをそのまま放置しておくとどんな影響があるかわからないので、これを所持することが義務付けられています。と言ってもそれが必要なのはB級探索者以上で、B級探索者は任意、A級探索者は半強制、S級探索者は強制、といった感じですがね」

『半強制はなんでなん?』

「A級探索者ですと魔法を使わない人もいます。そういう人には必要がないからですね。なので魔法を使う人以外は持つかどうかは任意となっているんです」

「へー」

『みらいちゃんポカンとしとる』

『みらいちゃんも教わる側だから俺らとおなじよ』

「うん、だからわからないことは教えてね」

「まあ、こういった知識は必要になったら覚えるくらいでいいかもしれないけどね。それじゃあこれを手にもってもらうんだけど…どっちからやる?」

「あ、じゃあ私からやるよ」


詩織の問いかけにシェルフが手を上げた。


「この配信の主役はみらいさんだし、主役は最後じゃないと」

「えぇ~…それ言われるとハードル上がるんだけど…」

「まあ、そんな変なことは起きないでしょうから大丈夫ですよ」

『フラグかな?』

『といっても想像できないなにかなんて起きるか?』

『せいぜいどっちかが属性噴出させるくらいじゃね?』

「もしそうなったらそれはそれで問題になりそうだけどね」


属性が噴出する人はめったにいない。だからそれが発生したらそれはそれで騒ぎになりかねない。


「それじゃあシェルフちゃん、ハイこれ持ってくれる。手に持った瞬間から魔素が流れ込むから気を付けてね」

「はーい」


時計を確認しつつ詩織から魔素吸収石をシェルフは受け取った。


「時間としては1分ほど持っていてくれればいいからね」

「わかった」


時間を確認しつつシェルフはただその手に持つ魔素吸収石をじっと見る。


『………』

『何この沈黙』

『いやでも何となくわかる。こういう時しゃべっちゃいけない気がするよな』

『それな』

「まあ喋っても大丈夫だけどテストみたいな感じと思うとどうしても黙っちゃうよね。どう?シェルフちゃん、何か変わった感じする?」

「んー…?あまりわからないかな…あ」


声を上げたシェルフに問いかけようと口を開いた瞬間。


ブワッ!


シェルフを中心に周囲に強風が吹きあれた。


「きゃあっ!」

「風!?」

『いきなり風だと!?』

『見えた!』

『通報した』

『呼ばれた気がした( ˘ω˘ )』

『アイエエエ!モデレーター!?モデレーターナンデ!?』

『というかクロウさん静かだなと思ったらモデレーターになってたんかい!w』

『なんか任命されました(´・ω・`)』

『いや、そんな事より今はシェルフちゃんから風が放出したほうが問題だろ!』


そんな騒ぎがコメント内で発生するが…。


五月雨五郎『彼女に関してはある程度予想していたので問題ありません』


と、そんなコメントが流れてきた。


「え、ギルマスそうなんですか?」

『あ、ギルマスほんまや』

『いなくはなっても見には来ているんだ』

五月雨五郎『ええ。こうなることは予想していたので。こちらでもそれなりに把握しているのでそのまま進めてもらって構いませんよ』

「あ、はいわかりました」


コメントを呼んだ詩織が呆気にとられつつも頷いた。


「えーっと…それで…ちょっと待ってね」

『しおりんめっちゃ動揺してるw』

『そりゃそうそう起きるはずがないって言われている属性の放出が起こったらこうなるよ』

『それな』

「うん、じゃあとりあえずあれは問題ないということなので…シェルフちゃん、どう?気持ち悪くなったりしてない?」

「うん、大丈夫だよー」

「そっか。もう一分過ぎてるしそろそろ回収するね」

「はーい」


シェルフからクリスタルを受け取り、またホルスターへと納めた。


「さて…ちょっと予想外なことが起こったけど…みらいちゃんもやろっか」

「あの後でやりにくいなぁ…」


苦笑を浮かべながらクリスタルを受け取る。


「うっ」


唐突に何かが流れ込んでくる気配がする。それと共に何となくだが力がみなぎるような感覚を感じた。


「うん。それが普通の反応なんだよね」

『あ、しおりんなんか安心してる』

『そりゃもう一人があんなことになったらね…』

『取れ高は取れたな』

『みらいちゃん大丈夫?』

「うん、今はまだ大丈夫。なんか体が軽くなったような気がするけど」

「それが魔素を取り込んだことによる身体強化だよ。ダンジョンの探索や魔物を倒すことで少しずつ自分の力が底上げされて強くなっていくんだ」

『ほえー』

『ってことはダンジョンに潜るだけで強くなれたりするの?』

「理論上はそれもできるらしいけど、かなり微々たるものみたいだよ」

「そうなの?」

「私もそこまで詳しくは知らないからわからないけど、そんな話を聞いたことあるんだ」

『そうなんだ』

『ゲームに例えると一定間隔で経験値1もらえるとかそんな感じかな?』

「たぶんそんな感じかな」


そんな話をしながらも詩織はちゃんとみらいの様子を伺っている。

シェルフの時のように何かしらの属性が噴き出すような事態はなかった。


「気持ち悪くなったらすぐに手を放してね」

「はい」

『なにもおこらんね』

『むしろこれが正常なんよ』

『基本的に魔素試験はこんな感じだからね、何かある方がおかしいんよ』

「えー、それじゃあ私がおかしいみたいじゃーん」

『あながち間違ってると言えないんよ…』


そんな会話を繰り広げていると…。


「うっ」


顔をしかめてみらいがクリスタルを手放した。


「はいっと」


落ちそうになったクリスタルをすかさず詩織がキャッチした。


「あ、すいません」

「いえいえ、大丈夫ですよ。みらいさんは大丈夫ですか?」

「はい、少し気持ち悪くなってめまいがしましたが、吸収石を手放したら落ち着きました」

「なら大丈夫そうですね。人によっては軽度の魔素酔いでも症状が治まるまでに時間がかかることがありますから」

「そうなんですね」

「ええ、そういう人はまず魔素に体を慣らすのが先になるので、しばし特訓して改善されてから合格となります。ちなみにお二人は魔素酔いもすぐに回復しておりますし、問題なく合格となります。おめでとうございます」


にっこりと詩織が笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます」

「ありがとー」

『合格おめでと!』

『まあ、大半は大丈夫だと聞いてはいたけど合格はやっぱうれしいものやね』

『おめでとー!』

「うん、皆もありがとう。それじゃあこれで私たちは探索者になれたということですよね?」

「はい。これからあなた方の探索者カードを作成しますので、まずはこちらを手に持ってください」


小さなビー玉より少し小さいくらいのガラス玉を手のひらに乗せて差し出してきた。


「これは?」

「これはカードを作成する際の個人を識別するための魔力を登録する水晶です。こちらに魔力を込めてカードを作成するんですよ」

「へー…魔力はどうやって籠めればいいんです?」

「水晶を握って意識を集中してください。そして水晶の中の色が変化すれば魔力が充填されたということになりますので」

「わかりました」


二人は水晶を握りしめて集中する。

みらいはゆっくりと呼吸していくとわずかだが水晶に熱がこもったような感覚を感じた。握った拳を開くと握られた水晶の中に綺麗な白の靄が漂っていた。


「これでいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「私もできたー」


そう言って見せてきたシェルフの水晶の中には薄緑色の靄が漂っている。


「はい、こちらも大丈夫ですね。ではこれで探索者カードを作成します。その間に残りの二つを行います。次は武器適正を見るのでまずは着替えてきましょう」

『お着換え配信!?』

『ガタッ!』

『通報した』

『呼ばれた気がした( ˘ω˘ )』

『モデレーターが来たぞ!』

『すいませんBANだけは勘弁してくだしあ』

『どうしようかなぁ(゚∀゚)』

『ヤメローシニタクナーイ』

「皆仲いいね…」

『いつも通りやね( ˘ω˘ )』


以前までの配信と変わらぬ空気に思わずみらいの顔に笑みが浮かんでしまった。


「とりあえず枠はいったん閉じて着替えた後でまた枠を再開するね」

『はーい』

『その間に俺も飲み物とか取ってこよ』

『どれくらいで枠開く?』

「そうだねー…準備とか移動も含めて…20分後くらいかな?」

『ういういー』

「じゃあこの枠はここまでで、また20分後に会おうね。チャンネル登録と高評価もよかったらしてねー」

『はーい』

『またあとでねー』


リスナーたちの挨拶が終わり、枠は一旦終わりとなるのであった。



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