S級探索者の推しは公式初配信を始める


桜乃みらいの復帰配信から数日後。

試験にかかわる監督者の予定が付いたのでその日に試験配信をすることになった。

そんなわけでみらいもその日に備えてダンジョン配信をする媒体のほうで探索者ギルド公式のアカウントを作成した。

ギルドのほうもそれを告知しており、新たな公式配信者、しかもこれから探索者になるということで話題になっていた。

そんなわけでみらいの試験配信に関しても待機所にはいつものメンツ以上の人たちがこぞって集まっているのであった。


「いやー、メッサ人集まってるなぁ。さすが公式配信」


探索者ギルドの公式配信は探索者界隈だけでなく、一般の人に向けての情報発信なども含めて行われている。だから探索者だけでなく一般人もよく見ていたりする。しかも今回は今までの配信のようにすでに探索者となって居る人の配信ではなく、今から探索者になる人向けの配信だ。だから探索者に興味のある人、これからなろうとしている人たちも枠に来ている。


「………ところでなんで俺モデレーターになってるんだろ…」


この配信媒体に関しては宗谷もアカウントを持っている。しかしそのアカウントはS級探索者である黒川宗谷のアカウントであり、クロウとしてのアカウントはもっていなかった。基本的にサブ垢というのは持てないようになってはいるのだが、ある一定のランクの人であれば不要な騒ぎを起こさせないためにサブ垢を取ることが許されている。

そんなわけで宗谷もクロウとしてのサブ垢を少し前に作っておいたのだが、配信前にみらいから連絡があり、アカウントを教えてほしいと言われた。理由は教えてもらえなかったのだが、サブ垢だしまあいいかと思い教えたらモデレーターにさせられてた。

ちなみに公式配信者なので探索者ギルドと同じ公式配信者である面々もモデレーターになっている。S級探索者である宗谷もモデレーターになってもいいのだが、それでもここでは一ファンであるクロウであり、そんな自分にモデレーターはいささか荷が重いのではないかと思った。

ちなみにギルマスにその件を話して聞いてみると、本人が信用できる人がモデレーターにいたほうがいいということで少数ならばと許可したらしい。ちなみに他にいるかどうかは知らない。


「シェルフももう合流しているだろうし、あとは見守るだけだな」


今すでに宗谷がいるのは探索者ギルドの本部。今回はみらいの試験と共にシェルフの紹介も兼ねている。あの二人が今後コンビとして活動していくのでそのお披露目にもなっている。


「さて、新たな門出だ。しっかり見守っているからね」


推しであるみらい。そしてここ一年だが家族として一緒に暮らしていたシェルフ。二人の新たなる道を応援するために、宗谷は配信が映る画面を見つめるのであった。



「緊張してる?」


深呼吸をしているみらいにシェルフが問いかける。


「うん。配信始める前はどうしてもね。それにさっき待機画面見たけど結構な人いたしね。シェルフちゃんは大丈夫なの?」

「んー、私はあくまでおまけだからねー」

「そうかな?一応私達の配信だからシェルフちゃんもメインなんだけどね」

「そうなのかなー?マスター的にはみらいちゃんメインだろうけど」

「あはは…」


シェルフの言葉に思わず苦笑が漏れてしまうみらい。否定したいところだがクロウの今までを知っている身としてはそうも言いきれないところであった。


「ふふふ、仲がいいですね」


そう言って穏やかな笑みを浮かべている女性は今回の試験の監督者であるB級探索者の天谷詩織だ。


「あ、天谷さん。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。それと私の事は詩織でいいですよ」

「ありがとうございます。私もみらいと呼んでくだされば」

「私はシェルフでいいよー」

「うん、よろしくね。みらいさん、シェルフちゃん」


見た目で言えば一番年下であるシェルフだけがちゃん付で呼ばれる。本人もそれを嫌がっていないようなので別にいいだろう。


「おや、お待たせしてしまいましたかね?」


そこにギルマスがやってくる。公式配信者としての初配信ということでギルマスも顔を出すためにここにいる。


「いえ、まだ配信開始前ですし大丈夫です」

「それはよかった。さて、では最後に段取りの確認をしましょうか。配信開始後、まずはあなた方の自己紹介。そしてその後私が入り、探索者試験の流れを説明いたします。その後監督者として詩織さんをお呼びいたしますので、その後はお願いいたします」

「はい」

「探索者試験はまずは魔素試験、その後武器の適性検査、その後で講習を受ける流れとなります」

「今回はそれを流す感じですか?」

「そうですね。ちょっと最後のほうは退屈になるかもしれませんが、それでも重要な事をお話しますからきちんと聞いてくださいね」

「わかりました」


とりあえず流れの確認を終えたので時間を確認する。配信開始まであと5分となっていた。


「そろそろ時間ですね。では、皆さん準備してください」


ギルマスの言葉に各々が配置につく。

みらいは深呼吸して気持ちを落ち着けようとしており、シェルフは何も気にしないといった感じに体をゆらゆら揺らしている。


「配信開始1分前、待機画面入ります」


配信をサポートしているスタッフの声が聞こえてくる。

立ち位置へと移動し、ピシッと立つ。


「待機画面開けます。5・4・3・2・1…」


声が消え、上部に設置されているモニターに映っている待機画面が消える。


「初めましての人は初めまして。知っている人はこんみらい!桜の香りと共にやってきました、桜乃みらいです!」

「やほー、初めましてー。シェルフだよー」


『まってた』

『初見』

『新人さんと聞いて』

『みらいちゃんやほー』

『あれ?隣の子誰?』

『知らない子がおる』


初見の人も、前からいる人も入り混じったコメント欄が流れていく。


「そうだね、シェルフちゃんについては皆知らないと思うから軽く説明をするね。シェルフちゃんはこれから探索者として活動する際のパーティーメンバーさんです」

「相棒だよー」

『コンビでやるんだ』

『かわいい』

『子供みたいだけど大丈夫なの?』

「そこは大丈夫。ギルマスさんのお墨付きだしね」

『ギルマスお墨付きなの?』

「うん、お話した時にね。ソロでやるのは推奨されないからってことでね」

『まあ、ソロで探索者するのはかなりの実力者じゃないと危ないからねー』

「そうそう。そういった部分を真似しないようにってことも含めてね」


軽い雑談をしてからコホンと一旦咳ばらいをして切り替える。


「さて、雑談もここまでにして、今日は私の探索者試験を行います。ということで、まずはこの人をお呼びしましょう。どうぞー!」


そう言ってみらいに呼ばれ、ギルマスがカメラに映りこむ。


「どうも、視聴者の皆さん。世界探索者管理機構、通称WSMの日本支部、探索者ギルドのギルドマスターである五月雨五郎です」

『ギルマスキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『さすが公式』

『初配信でギルマス出張るってマ?』

「今回は普通の探索者の配信とは違い、探索者試験の説明ですからね。私が出てくるのが適切だったんですよ」

『それじゃあギルマスが今回の試験の監督者なの?』

『監督者?』

「私は監督者ではありませんよ。あくまで説明係なので」


穏やかな笑みを浮かべてギルマスが答える。


「さて、では試験に関しての簡単な説明を。探索者になるために必要な事として、ダンジョン内に満ちる魔素に耐えれるかの試験があります。これに合格して初めて探索者となれます」

『最悪そこではじかれる可能性もあるのか』

「そうですね。と言ってもそうそうある事ではありません。基本的に地上にも魔素はあります。その魔素に過剰に反応してしまう人でない限りは大丈夫でしょう」

『あーたまにいるね、魔素過敏症だっけ。結構生活するのも大変だって話を聞く』

「そうですね。まあ、そういった話をし始めると脱線してしまうので話を戻しまして。その試験の後に武器の適性を調べ、探索者としての講習が今回の配信の内容となります」


そう言ってちらりとギルマスが詩織のほうを見る。


「そして基本的に試験には監督者が付きます。その監督者とはB級探索者以上の者が付き、万が一が発生した時に対処できるよう備えています。今回もそれは例外ではなく、今回の監督者もきちんとおります。どうぞこちらへ来てください」


ギルマスに呼ばれ、今度は詩織が画面の中へと入ってくる。


「皆さんこんにちはー、天から皆さんへ詩をお届け、天谷詩織でーす♪」

『しおりんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『そういえばSNSで言ってたね。今日ギルドからの依頼があるって』

『これのことだったんだ』

「そうだよー。今日はギルドのほうから監督者をお願いされてね。みらいちゃんとシェルフちゃんの試験の監督者をやることになったんだ」

『ほえー』

『でも、監督者って具体的に何するの?』

「魔素試験をこの後やるんだけどね。魔素過敏症とかじゃなくても体調崩したりすることがあるからね。中にはもともと持っている魔力が暴走することもあるからそういう時に落ち着かせるのが役目なんだ」

『それって大丈夫なの?』

「うん、まだ探索者になろうとしている人だからね。私でも十分対処できるよ」

「B級探索者であれば実力は十分ですからね。それでは詩織さん、私はここまでであとはお任せいたします」

「はい、わかりましたギルマスさん」

「それでは視聴者の皆さんも、今後も彼女たちをよろしくお願いいたします」


丁寧に礼をして、ギルマスはカメラから姿を消した。


「さて、じゃあ二人ともさっそく試験をやっていこうか!」

「はい!」

「はーい」


笑顔で言ってくる詩織に対して、みらいとシェルフもそれぞれ返事を返した。

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