S級探索者の推しは武器適正を調べる


配信を終えて各々が探索用の装備へと着替えてからみらいとシェルフは詩織の案内で施設内にある鍛錬場へと来ていた。


「鍛錬場なのに誰もいないね」

「配信するから貸し切りになってるのかな?」


広い鍛錬場だというのに現時点では誰もいないことに首をかしげる二人。


「ううん。ここは特別な鍛錬場で許可がないと使えない場所なんだ。今回はギルマスさんのご厚意でココを使わせてもらうことになったの」

「へー」


説明しながら詩織は部屋の端にある机の上に様々な武器を並べていく。


「これでよしっと。それじゃあ二人とも配信始めても大丈夫かな?」

「はい」

「大丈夫だよー」

「じゃあみらいさん、お願いできるかな」

「わかりました」


詩織も配信者であるが、今回はみらいの配信がメインであるから配信開始もみらいが行う。

みらいもインカムで連絡を取って配信開始の準備をお願いするとドローンが動き出してみらいたちを映し出す。


『配信予定更新しました。5分後に始めますので待機画面入りましたらまたご報告します』

「はーい」

「じゃあその間軽く体動かそうか。武器適正は結構動くから怪我したら大変だからね」


それぞれが軽いストレッチがてら準備運動をしているとスタッフから待機画面に入ったと知らされた。

各々立ち位置を調整してから自分の姿を軽く見る。詩織はいつも探索に行くときの服装で、動きやすい服装だが、ところどころにフリルなどかわいらしさもつけられており、色合いもさわやかな青系をメインにかわいらしくコーディネートされている。

みらいとシェルフはまだそう言った探索用の装備がないので、支給される地味目なジャージの上からレザー装備がつけられている。


『待機画面開けます。5…4…3…2…1……』


「皆、こんみらいー。準備が終わったから探索者試験、続きやっていくよー」

『こんみらい』

『服装変わってる!』

『でも結構地味な感じやね』

「うん、私達はまだ探索者用の装備を持ってないからね。だから支給された奴を使っているんだ」

『クロウさんが用意とかしなかったの?』

『初配信に間に合うように用意しようとしたらギルマスに怒られた(´・ω・`)』

『ありのままの探索者試験を放送するにあたって不適切と判断しただけです』

『性能はともかく見た目重視にさせろー!ヾノ。ÒдÓ)ノシ バンバン!!』

『ダメです』

『(´・ω・`)』

『なんでコメ欄で喧嘩してるんですかねぇ…』

『というか仲いいな』

「そうだねー、クロウさん結構気さくな感じでギルマスさんとお話してたからね」

『まあ、それなりに長い付き合いなので( ˘ω˘ )』

『いや、本当にクロウさん何者なの?』

『しがない探索者です( ˘ω˘ )』

「まあ、それはそれとして。装備のほうは…まあ、またできる時に調達しようかなって考えてます」

『ちなみに初配信に間に合わせることはできなかったが、二人用に見栄えのする衣装はすでに準備してあります( ˘ω˘ )』

「クロウさん?」

『性能はランク相応の奴だけどね( ˘ω˘ )下手に分不相応の性能にしちゃうと面倒なのに目を付けられるんよ(´・ω・`)』

『あー、そういや新人からそう言う装備奪おうとしてる輩が一定数いるな』

「え、そうなの?」

「残念ながらね。高ランクの探索者や引退した探索者に教わっている人もいて、そういう人たちは師匠から渡された少しランクが上の装備とかを持っているんです。そう言う人を狙っている人たちもいるんですよ…」

「物騒だねー」

『まあ、そう言う血気盛んな輩がなりやすい職業だからねー』

『一部とはいえそう言う初心者狩りみたいなことする輩が出てくるのはどうしてもね(´・ω・`)』

「そうだねー。こればっかりはね。と、まあ雑談もほどほどにして進めちゃおうか。今回やることは武器適正試験です。こちらに様々な武器がありますから、合いそうな武器を選んでください。それを軽く扱ってから問題なさそうなら模擬戦をしましょうか」

「も…模擬戦ですか?」

「ええ。大丈夫ですよ。あくまで戦い方などを把握するためですよ」


戸惑うみらいに詩織はにっこりとほほ笑んだ。


その後とりあえず二人は武器を選び始める。そんな中詩織が説明を始める。


「さて、あそこにある武器ですが、ギルドのほうで用意できる初級向けの武器です。剣として普通の長剣、大ぶりの大剣、二本一組の双剣。槍として一般的な槍に加えて十字槍、薙刀。遠距離武器として弓と銃の合計8種類ですね」

『魔法を使うのに必要な杖とかはないの?』

「魔法に関しては別途ですね。ここは一番最初に通るところです。なのでまず最低限戦えるレベルで体を動かせないといけません。なのでGランク卒業後に希望する人に受講してもらっていますね」

『へー、全員やっているのかと思った』

「まあ、基本的にやっている人がほとんどですね。身体強化の魔法とかもありますし。身体強化もよくある攻撃魔法、回復魔法もそれぞれ魔力の使い方が違います。なのでそれぞれ個人が望むものを受講するスタイルなんですよ」

『へー、それってあの二人も受けれるの?』

「Gランク卒業した人ならだれでも受けれますから、彼女たちも受けれますよ」


そんな話をしているとシェルフが双剣を手に戻ってきた。


「私は決めたよー双剣にする」

「シェルフちゃんは双剣なんだね」

「うん、私は動き回るほうがやりやすいから手数が欲しくてねー」

「そっか。みらいちゃんは?」

「私はこれに決めました」


そう言って持っていたのはハンドガンタイプの銃だった。


「銃とは意外だね」

「私FPSゲーム好きなんで。扱えるかはわかりませんけどね」

『確かに結構やってるね』

『モンスターに実銃って効くの?』

「効きますよ。ただ、ちょっと特殊な弾丸も必要になったりするのでコストが高いですが…」

『そんなあなたに(´・ω・)つ『魔弾セット』』

「魔弾セット?」

「クロウさん…でしたっけ?それ結構する奴ですよ?」

『魔弾セットってあれか。魔力を込めることで無限に使えるっていう特殊弾か』

「へー、そんなのあるんだ」

「ただそれ高いんですよ。特殊な弾丸ですから通常弾でも一発万単位ですし、属性弾なんて二桁万しますからね」

「え」


詩織の言葉にみらいが固まった。


『さすがに属性弾まではまだ渡せないけど通常弾なら渡せるから任せろ!(゚∀゚)』

「うん、クロウさん落ち着こうか?」

『相変わらずのクロウさんだなぁ』

『え。何この人いつもこんな感じなの』

『そだね。さすが最古参にして一番貢いでいるガチ恋勢だ。面構えが違う』

『(。-`ω-)ソレホドデモナイ』

「すごいファンの人がいるんだね…。とりあえず二人ともそれが扱えるかやってみようか」


そう言って詩織が壁のほうへと行き、備え付けられているレバーを下ろすとガコンッという音と共に天井から複数体の人形が降りてきた。


「さて、じゃあこれに対して攻撃してみようか。それでまともに扱えるかどうかがわかるからね」

「はーい」


軽い返事でシェルフが歩き出す。


「ちなみにあれ、壊しても大丈夫?」

「どうなんだろ?あれって新人用の物だから壊れるって話聞いたことないんだよね」

『問題ありません。いざとなったら君のマスターに直させます』

『俺かい(´・ω・`)いいけど』

「あ、いいんだ」

『まあ、それくらいならねー( ˘ω˘ )というわけで遠慮なくやれ(゚∀゚)』

「りょうかーい」


コメントに反応しシェルフが片手を上げる。


『というか、シェルフちゃんのマスターがクロウさんってどういうこと?』

『つまりみらいちゃんのパートナーになったのはクロウさんの差し金ってこと?』

『まあ、そんなところ( ˘ω˘ )さすがに一人はリスク高すぎるからね』


そんな会話がコメント欄で行われていたが、みらいと詩織はシェルフのほうを見ており、コメントには気づかなかった。


「ふぅー…よし、いくよ」


ふっとシェルフの目が細まり、足に力がこもる。わずかの間が空いた瞬間…。


ヒュンッ!


「え」


シェルフの姿が掻き消える。そして…


ズガガガガガン!!


激しい打撃音のようなものが響き、その方向を見ると人形の後方に双剣を持った両腕を横に伸ばした状態で立っているシェルフの姿があった。


「うそ…」

「すごい速さだね」


呆気にとられるみらいと感心したような表情の詩織。


『はえええwww』

『見えなかった』

『というか、あの一瞬で何回攻撃したんあれ』

『マスターさん、お答えは』

『フレームのせいで見えんからわからん(´・ω・`)』

『その場にいたら見えたんかい』


「うーん…壊せなかった…」


戻ってきたシェルフは少し不満げな表情をしていた。


「でも、十分な動き方だと思うよ」

「え、詩織さんあの動き見えたんですか?」

「うん、あれくらいならね。魔物の中にはもう少し早いのもいたから慣れてるんだ」

「へー…」

「さて、じゃあ次はみらいさんだよね」

「うー…あの後だとプレッシャーが…」


そう言いつつゆっくりと歩いていき、人形からそれなりに離れた位置に立ち止まる。


「ちなみにみらいさんは実銃を扱ったことは?」

「実際にはないです」

「それなら反動には気を付けてくださいね」

「はい」


しっかりと右手でグリップを握り、左手でグリップの下部分を持ち、右手の人差し指を引き金にかける。そしてわずかに腕を曲げてしっかりと照準を合わせてゆっくりと引き金を引いた。


ガァン!


「きゃあ!」


発砲と同時に襲い掛かる反動によってわずかに銃口が上に上がってしまい、放たれた弾丸がそのまま人形の上部を通過して壁へと激突した。


「うぅ…思ってた以上に反動があった…」

『みらいちゃん大丈夫?』

『最初から実銃はやっぱハードル高いんじゃないかな』

『どうだろうね。反動に負けた部分はあるけど、それでも狙いはしっかり絞れてたし、慣れたら大丈夫そうじゃない?』

「そうだね…コメントが言うようにまだ実銃に慣れていないのも大きいと思うから何度か試してみようか」

「はい!」


元気に返事をして再度銃を構えて人形を狙う。


『そういえば初心者装備に銃あるけど、あれって簡単に扱えるの?』

「ん?簡単って程でもないけど、探索者界隈では難易度は低い方かな?剣とか槍とか楽そうに見えるけど、あれって立ち回りが大変だし。弓は矢を引いてから放って着弾するまでのタイムラグが結構あるから当てるの難しいし」

『あー、そうか。銃の場合ある程度威力が安定して発射から着弾のラグが少ないから当てやすい方なのか』

『せやね。移動しながら撃つとかも必要になるけど、弓だとそれかなり難易度高いからね。銃だとかなりアクロバットな動きとかもしやすいから、総合的な難易度としてはそっちの方が低いかな』


そんな話をしている中でもみらいは練習していく。さすがにすぐに反動をどうにかできるというわけではないが、それでも最初よりかは腕がブレなくなっている。


「ふ~ん…あれくらいなら…普通に扱えるに入るかな」

「そうなの?」

「うん。ダメな人は撃つ時に目をつむったり、撃った反動で手から銃が離れたりするからね。みらいさんはそういった事もないし、あとは慣れれば問題なく扱えそうだね」


このまま見ていてもいいが、さすがにずっと銃を撃つ練習を見せておくわけにはいかない。


「じゃあ、シェルフちゃん。みらいさんと組んで模擬戦しよっか」

「えっ!?もうですか!?まだ当てれていないんですけど」


ちょうどハンドガンの残弾が無くなったのでリロードしているところで詩織が提案したのだが、みらいはもうちょっと練習したかったようだ。


「まあ、そこらへんは後々練習するってことでね。本当だったら満足するまで練習してほしいところだけど、ほらこれ配信だから」


さすがにずっと同じ光景だとリスナーも飽きるだろうという考えからの提案でもあったので、少し不安げな表情をしつつもみらいは頷いた。


「その模擬戦、私が相手してあげようか?」


始めようとした三人に向け、突如別のところから声が聞こえてきた。


「え?」

「あなたは…」

『え、なんでここに?』

『うっそやろ』

『げっ』


その声が聞こえた方向、鍛錬場の入り口のほうをカメラ含め全員が見るとそこには一人の女性が立っていた。


「いやはや、面白そうな後輩ができるっていうから監督者に立候補したんだけどね。まさか外されるとは思わなかったよ」


ニコニコと笑みを浮かべながら女性がみらい達のところへと歩いてくる。

詩織は驚いたような表情をしているが、みらいとシェルフは見たことない人のようで首をかしげていた。


「おや、私の事を知らないのかい?これでもそれなりに名は売れていると思ったが…まだまだかね」


そんなことを言いつつみらい達の前で立ち止まる。


「じゃあ改めて自己紹介を。私の名前は『弓親遥』。君たちの先輩…冒険者ギルド公式配信者のS級探索者だ」



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