S級探索者は推しのダンジョン探索を見守る
みらいの初配信がつつがなく…ちょっとの騒動はあれどつつがなく終わり、その後鍛錬配信がされていた。
クロウとの約束である探索の時は配信を必ずすること。それを律義に守ろうとしていたみらいは最初の鍛錬に関しても配信する気でいたらしい。
それを聞いたクロウが別に鍛錬までは配信しなくてもいいけど。と言ったのだが、探索者ギルドとしてはきちんと探索者として活動するまでの流れを見せるためにも配信を推奨していた。
クロウとしてもやりたいならどうぞ、というスタンスだったので特に大きく反対することもなく、そのまま鍛錬の配信をすることとなった。
「んー…これ魔弾以外だとやっぱり当てることできないね…」
「魔弾って反動無いからねー」
通常弾の命中率の低さに落ち込むみらいとそれを見つつも特に慰めるというようなことはしないシェルフが平然と答える。
魔力を放出して攻撃する魔弾に関しては、通常の銃弾とは違い火薬などを使用していない。
それゆえに銃弾のように火薬の爆発による反動などもなく、すんなりと撃てたりするのが長所の一つでもある。
『ダンジョン探索って魔物達がいるから大きい音とかも危ないんじゃない?』
『んー、場所によるかな。洞窟とかだと銃声のような大きな音は反響して魔物を起こしたりするからね…』
『やっぱり魔弾を買ってあげないと…』
「あ、そんなこと言っちゃうと…」
『呼ばれた気がした(゚∀゚)』
「ほらクロウさんがすぐ反応する!!」
『さすがみらいちゃんに送り隊隊長や…』
『そういえば魔弾用の銃って変えることで攻撃力上がるとかあるの?』
「うん、あるよ」
コメントの問いかけに今回も監督者として来ている詩織が答える。
「銃によっては魔力回路とかがあるから攻撃力の上昇、魔力の充填速度、あとは放出速度や属性付与とか、いろいろな機構がつけられている物もあるね。まあ、それが増えれば増えるだけ高くなるけど」
「へー」
「基本的に魔弾には魔力の保有量以外の差はないからね。中級探索者とかになったら最大量の魔弾を買ってそれを主に使ってたりするかな」
「魔弾ってそんなに種類ないの?」
「うん、普通の銃弾だといろいろと種類あるけど、魔弾に関してはいわば魔力タンクの役割しかないからね。発射される弾丸の形状とか威力とかは銃に依存するから」
『そうそう。それに魔弾は使用者を登録できるから奪う旨味もあまりないんよ。だから初期装備として最大容量の魔弾を渡すことのリスクってあまりないんよね( ˘ω˘ )』
「へー」
『というわけで用意しておくね(゚∀゚)アヒャ』
「うん、待ってね。それって金額どれくらいになるの?」
「最大容量の魔弾なら…一発100万円くらい?」
「最低6発だから…600万?」
『この間のイベントより安いな!(゚∀゚)』
『せんせー、この人の金銭感覚バグってマース』
『何をいまさら( ˘ω˘ )』
「自分で言わないの!!」
ワチャワチャとコメント達と騒ぎながらみらい達は鍛錬を続けていた。
そんな配信を3日ほど行い、一通り鍛錬の行程を終えたみらい達は詩織監修のもとダンジョン探索へと赴いた。
「さて、これよりダンジョン探索をします」
配信開始後、ダンジョンの前で詩織が説明していく。
今いるダンジョンはG級ダンジョン。出現する魔物も弱く、階層も5階層と浅いために初心者探索者の卒業試験として使われているダンジョンの一つだ。
「今回はダンジョンに慣れるために1階層をまわります。その後余裕があれば2階層、今日は行くとしてもそこまでです。明日また同じく進み可能であれば4階層まで、無理だったとしてもその翌日にはそこまでいくようにします。そして明後日、もしくは4日目に最下層である5階層を攻略します。最下層の5階層にはこのダンジョンのボスと呼べる魔物がおり、それを倒すことでこのダンジョンは攻略。あなたたちはG級探索者からF級探索者となります。よろしいですか?」
「はい」
「いいよー」
詩織の説明に二人は頷く。
「それじゃあ行きましょうか。私は基本見ているだけです。何か非常事態やあなたたちだけだと対処できない時のみ手を出しますので、自力で頑張ってください」
「わかりました」
「まあ、ここなら余裕だろうけどねー」
「シェルフちゃん、君が強いことは知っているけど、それでも何があるかわからないのがダンジョン探索なの。だから絶対に油断しないでね」
「はーい」
軽いノリのシェルフにため息を吐きつつも詩織もしっかりと気を引き締める。
そしてみらいの初のダンジョン探索が始まった。
「…やっぱ弱いね」
緊迫した様子でダンジョン探索をはじめはしたが、それでもやはりG級ダンジョン。その難易度は一番低い。だから出てくる魔物も弱く、何か特別なギミックがあるというわけでも無い。
「それでもやっぱ少し怖いな…」
そう呟くみらいの手は少し震えており、それを必死に抑え込もうと深呼吸を繰り返していた。
「ダンジョンの中は弱肉強食。相手もこちらを殺す気で来ているわけだから、その殺気に慣れていない人はどうしてもおびえちゃうんだ」
『それで失格になる人もいるからねー』
『上級探索者であっても、イレギュラーとかに襲われて、それがトラウマになって探索者引退とかよくある話だからな』
『シオリンも前に襲われたもんね』
「うん、あの時は誰かわからないけど助けてくれた人のおかげで何とかなったけどね。私も死ぬ覚悟しちゃったからね」
「そんなことが…」
「うん。だから緊張感は常に持つようにしてね。何があるかわからないから、何が起きても対処できるように。しっかりと自分の実力を見極めて無理せず探索すること。それが生き残るうえで一番大事なことだから」
「はい」
「今回はこういった命のやり取りに慣れることが目標だから、少しずつ進みながら慣れていこう。可能だったらそのまま下の階層に行くからね」
「はい」
いつも通りのシェルフとは違い、やはり慣れていないみらいはどこか表情に怯えを含んでいる。
しかし、それでも立ち向かうための勇気だけはちゃんと持っているようで、しっかりと前を向いて歩きだしている。シェルフはいつも通り素早い動きで敵を翻弄しながら倒しており、みらいは銃という武器の特性から後方からの広い視野で的確にシェルフの援護をしている。
二人のいい連携に少しずつみらいも怯えが消えてきたのか、二階層へと進むころには震えもほとんど収まっていた。
「うん、大丈夫そうだね。でも今日は無理せず、このままこの階層を探索して終わりにしようか」
「でも、まだ余裕だよ?」
詩織の言葉にシェルフが首をかしげる。
「何かしらの目的があるならまだしも、今回みたいに慣れるためにダンジョンに潜る場合は余裕をもって戻ったほうがいいの。進む場合は万全な体制で挑むけれど、帰りはある程度消耗している状態で進まないといけない。その状態で強敵に会ったら厄介でしょ?だから万全とまではいかなくても、きちんと何かあっても対処できる余裕を持った状態で戻るの」
『実際帰りにイレギュラーに遭遇して全滅したってパーティーもいるからねー』
『え、マジで?』
『うん、少なくない数がね。それと到達階層を更新するために強引に行ったパーティーが帰る際にその階層の3つぐらい前で物資が尽きて救助を要請したとか、そう言う話もよくある』
『行きはよいよい帰りは恐いってやつか』
『俺達だってあるよな。30分ぐらい歩いて行った場所から歩いて帰るのがしんどくなるとか』
『お爺ちゃん体力が…(´;ω;`)ブワッ』
『やめろ、それは俺に効く』
微妙に話が脱線しつつあるコメント欄を見つつみらい達は今日の探索を終えて帰還した。
そして翌日、問題なく第2階層を突破、その後もつつがなく第3階層、第4階層も突破できた。
「なんというか思いのほかあっさりと攻略できてるね」
「うん、私も魔弾でだけど普通に当てられるようになったしね」
もうすっかり戦うことに慣れ、震えが止まったみらいは魔弾で道中にいる魔物を的確に撃ち抜いていた。
ちなみに実弾にしないのはクロウがすでに購入したというギルマスからの報告からされて、それならばということでそのまま魔弾を貸し付けることになったのだ。
「それで…どうしよっか。やっぱり戻ったほうがいいかな?」
「んー…みらいさん、魔弾の魔力残量どんな感じ?」
「そんなに使ってないから7割くらいかな?」
「そっかー。詩織さん。ここのボスって強い?」
「んー、G級探索者には強い方かな。ゴブリンリーダーだから」
「ゴブリンリーダー?」
『ゴブリンリーダー。通常のゴブリンや剣を扱うソードゴブリンなどを率いる部隊長的なゴブリンやね。ゴブリンだから基本的に強くはないけど、どうしても部下がいることから数が多くて対処に失敗すると厄介な奴やね』
『解説thx』
「へー…ちなみに遠距離タイプは?」
『ゴブリンアーチャーやゴブリンメイジがいるけど、そこらへんはランダム。ゴブリンメイジは下級魔法だけど使ってくるからいたら地味に厄介かな』
「んー……」
コメントの説明を見つつシェルフが悩む。おそらく一人でも余裕だろうけれども、みらいを無理させたら後々マスターにどやされるからそれはできない。とはいえ、これくらいなら対処できそうな気がしなくもないが、と悩んでいるところだ。
「行こうよシェルフちゃん」
「大丈夫?」
「うん。あ、その前に詩織さん」
「なに?」
「ボスのフロアから撤退ってできますか?」
「うん、できるよ。危なくなったり、イレギュラーがボスの時もあるからそういう時は撤退も一つの選択肢だね」
「じゃあ挑むだけ挑んで危なそうだったら早めに引き上げよう。それでいいと思うよ」
「うん、わかった。みらいさんがそれでいいならそれでいこう」
『お、進むのか』
『無理はしないでねー』
『と言ってもゴブリンリーダーなら余裕じゃね?』
『まあ勝てるだろうけど万が一があるのがダンジョン探索だしな』
『とりあえず命大事に!』
「うん、無理だけはしないよ。それじゃあ行こうか」
シェルフを先頭にみらい達は最下層へと降りる。
ダンジョンの最下層。そこはボスフロアとなっており、その奥にダンジョンコアが鎮座している小部屋がある。
その小部屋を守るようにして存在しているのが俗にいうボスであり、このダンジョンではゴブリンリーダーがその役割を担っている。
そのゴブリンリーダーは複数のゴブリンを従え、そのボスフロアを守護しているのだが…。
「あれ?」
最下層に降りて真っ先に詩織が異変に気付く。
「どうしたの?」
「ゴブリンリーダーがいない…?」
ボスフロアはそこまで広くなく、見回せば壁なども見えるのだが、それなのに部屋の中にはゴブリンの姿もゴブリンリーダーらしき姿もない。
「あれー?お姉ちゃんたち誰―?」
不審に思っている中で少女の声が響き渡る。それはその場にいる誰の声でもなく、しかも聞こえてきたのは頭上からだった。
「え?」
「女の子…」
『あ、やべ』
『クロウさん?』
ゆっくりと降りてくる少女は真っ黒のドレスを着た10歳くらいの少女で、その肌は陶器のように真っ白だった。それなのに、みらい達を見据えるその目は血のように真っ赤だ。
「ここは私の家だよー?なんで勝手に入ってきてるのー?」
ひょうひょうとした声でそう問いかけてくる少女。その姿と声に不気味な物を感じた詩織が即座に武器へと手をかけようとした瞬間、少女の姿が揺らいで消えた。
「え」
そして次の瞬間…
バギィィィィィィン!!
「きゃあ!?」
甲高い音と共に何かが詩織の前で防がれる。
「これは…防御魔法?」
「むぅ…防がれたー」
突然の出来事に呆気にとられる詩織、そして攻撃を防がれた少女は不服そうに後方へと下がる。
『え。なになに?何が起きてるの?』
『この少女is誰』
『それはこっちが知りたいよ!』
『ってかあの一瞬であの距離詰めて攻撃してきたってこと?』
『攻撃してきたんなら敵ってことか?』
『それもあるけどそもそもその防御魔法誰がかけたんだ?』
突然の出来事にコメント欄がパニックに陥ったように加速している。
「え、え、一体何が…」
「油断しないでみらいさん。あれは敵だよ」
戸惑うみらいへとシェルフが告げる。詩織も攻撃を受けたのはわかったが、全く反応できなかったこと、そしてかけた覚えのない防御魔法に戸惑っていた。
一人冷静なシェルフはあの少女がとてつもなく強い敵であること。そして防御魔法をかけたのが誰なのか。察していた。
「なぁんでこんなところにこいつがいるんかねぇ」
再度唐突に響くのは機械音声によってしわがれたような男性の声。それと共にみらい達の前へと姿を現す人物がいた。
『また誰か来た!?』
『今度はなんだよ!』
『思いっきり不審者みたいなやつが来たんだが?』
『あれ、この姿どこかで見たことが…?』
新たな登場人物にさらにコメントが沸き立つ。
「やっぱ来てたんだねマスター」
「クロウさん!?」
『はっ!?クロウさん!?』
『え、なんでそこにいるの!?』
『押しかけはまずいですよクロウさん!?』
「いや、俺も出る気はなかったんだけどねー」
そう言いつつ左腕を振るうとそれと同時にクロウの前に少女の姿が現れて吹き飛ばされた。
「さすがにこの子の相手は荷が重いってね」
そう軽く答えながらスマホを取り出し、短く操作する。
「ほい、シェルフ。ギルマスとつながってるから説明聞いといて。こっちは俺がやっとくから」
そう言ってクロウは少女と向き合う。
そんな中でシェルフはスマホを操作しスピーカーモードにする。
『あーあー。皆の物聞こえているかね?』
「あ、はいギルマスさん、聞こえてます」
『こっちも聞こえてるよー』
「配信のほうにも声ちゃんと届いているようです」
『そうか。それなら簡潔に説明しよう。今彼が相手している存在だがイレギュラー中のイレギュラーの存在だ』
「イレギュラー中のイレギュラー…?」
『そうだ。あの子はN級魔物。S級よりも上のランクの魔物だ』
ギルマスのその言葉に詩織たちは驚きの表情を浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます