S級探索者達はN級魔物達と戦う


ハデス達N級魔物達の魔力とクロウ達S級探索者達の魔力。二つの魔力が迸り、ぶつかり合い、それが摩擦となって空気中に雷をはしらせる。


『なんでまともに攻撃したわけでも無いのに雷が迸ってるの!?』

『これ、魔力同士がぶつかり合って発生した静電気か!?』

『嘘だろ!?そんなのが発生するとか化け物かよ!』

『化け物だよ()』

『みらいちゃん達は大丈夫!?』


まだ戦いが始まっていないというのに周囲にすさまじい影響を与えている。そんなところに連れてこられている一般人よりのみらい達に心配のコメントがかかる。


「だ…大丈夫!クロウさんが防御魔法展開してくれてるから」


目の前に広がる光景に圧倒されつつもみらいは答える。

迸る魔力のぶつかり合い。そんなにらみ合いも長くは続かず、真っ先に傑が駆け出す。


「うおりゃあああ!!」


雄たけびと共に阿修羅へと突貫していく。

迫りくる傑を阿修羅は六本の腕を駆使して攻撃してくるが、その攻撃を回避し、受け流し、打ち払い、殴り返していく。


「ピュイィィィィィィ!!」


そんな傑と阿修羅の頭上から甲高い声と共にフェニックスが炎の翼を広げる。その翼がどんどん大きく広がり、力強く羽ばたくと暴風と共に無数の炎の羽が矢のように傑へと降り注いでいく。

しかし、そんな暴風と炎の羽を振り払うように、強烈な冷気が吹きすさぶ。熱を帯びている暴風と冷気がぶつかり合って渦を作り出し、竜巻となり、炎の羽を絡めとっていく。そしてそこに追加で冷気が吹きすさみ、どんどん炎の羽を凍り付かせていく。


「あなたの相手は私よ!」


その言葉と共に空中を滑るように滑らかな動きで流華がフェニックスへと迫っていく。

迫りくる流華へとフェニックスが渦巻く火球を放つが、それらをその手に持つ双剣にて一閃して霧散させて突き進む。

そのまま縦に右手の剣をふりおろすが、ひらりと体を翻してその一閃を回避する。しかし左手の剣がそのまま迫ってくる。それも何とか回避するが、わずかに尾羽が剣に触れ、そこから凍り付いていく。


「炎は確かに氷を溶かす。でもね、質量の多い氷はなかなか溶かすことはできないし、冷気に包まれた中で炎は熱を維持し続けられない。あなたの熱と私の冷気。どっちが強いかしらね」


愉しそうな笑みを浮かべながら流華はフェニックスへと迫る。

そんな彼女を遠くから静かに狙うのはタマモ。九尾の尻尾の先に怪しい紫の炎を灯し、空中で争っている流華と地上で殴り合いをしている傑を見ていた。


「舞い踊れ、狐火」


その言葉と共に無数の紫の炎が尻尾から放たれ、不規則な軌道で広がっていく。


「さあ、乱れ躍る狐の灯の舞、見とぉくれやす」


タマモが不敵な笑みを浮かべるが、直後に狐火の一つがはじけるように消える。

直後にヒュンと何かが飛ぶ音と共に狐火がどんどんとはじけて消えていく。


「………ずいぶん無粋なお人やねぇ」


そう言って見据えたのは弓を構えていた遥。


「ふわふわ移動する炎って照明には向いてないんだよ。配信には特にね」


その言葉と共に弦をはじくとさらに無数の狐火が霧散した。


「せっかく二人が楽しんでいるんだ。無遠慮な横やりはやめておいてあげな」


挑発的な笑みを浮かべてタマモを見据える遥。そんな遥を苛立ちがわずかにこもる目でにらみつける。


「さて、私とあなた。どちらのほうが多く撃ち合えるかね?」


その言葉と共に遥は弦をはじき、狐火をどんどん消していき、タマモは狐火を直線的に遥へと向かうものと様々な方向から不規則な動きをするものにして迎え撃つ。

一つも漏らすこともなく遥が狐火を撃ち抜き、はじけさせていくと空中でキラキラと火花が散っていく。


「やれやれ目がチカチカするのぅ」


その言葉と共に巨大なドラゴンであるニーズヘッグが頭をもたげる。その口の端からちらりと炎が見えた瞬間。


「おっと、君の一撃は大きすぎるんで止めさせてもらうよ」


その言葉と共に雷亜がニーズヘッグの鼻先に姿を現し、その手に持つ槍を振り上げる。その槍先ではバチバチと雷が迸っている。


「よい…しょっと」


ドゴォォォォン!という派手な音と共に巨大な雷がニーズヘッグへと叩き込まれる。


「ガ…ァ…」


口が開き、ためられていた炎が霧散していく。


「でかいうえに鱗が頑丈。倒すのもなかなか面倒だから僕が来たけど…案の定雷は関係なく効くようだね」


くるくると槍を回転させて構えなおす。


「さて、君の攻撃、僕に当てられるかな?」


ニーズヘッグはその巨体故に一撃の威力も大きい。しかし、その代わりに動きがどうしても大きくなる。それゆえに速さに特化している雷亜ならば避けきれるだろう。


「おのれ、小僧…!」


憎々し気な表情でニーズヘッグがこちらを睨んでくる。


「小僧…って程の年齢じゃないんだけどね…。君からしたらそうなのかな」

「調子に…乗るなぁ!」


グワッっと大口を開けて雷亜へと噛みついてくるが、しかし次の瞬間には雷亜の姿が消えていた。


「遅いよ」


声が響くと共に雷と共に雷亜の槍がニーズヘッグの体を貫いた。その直後に追撃のように雷が叩き込まれる。


「相変わらず派手だなー」


そんな様子をクロウは仮面の下で笑みを浮かべつつ見ていた。


「ずいぶん余裕そうだな」

「今のお前らには負ける理由が無いからな」


クロウの挑発的な言葉にハデスの表情がゆがむ。


「ほら、かかって来いよ。前ほど魔力が潤沢ってわけじゃないが、それでも貴様に負けるほどじゃねぇぞ」

「小僧が…!」


怒りに表情をゆがめ、地を蹴りクロウへと殴り掛かってくる。

その拳を片手で受け止め、そのまま蹴りを放つが、それも拳で殴りつけて叩き落す。

それによって態勢が崩れたハデスの胸部へと手を添え、そのままドンッと掌底でハデスを押し飛ばす。着地してこちらへと向かおうとした瞬間に先ほど触れた部分に魔法陣が浮かび上がる。


「なっ!?」


うろたえるハデスを無視して指を鳴らすと魔法陣が輝き、ドォン!と追加の衝撃を叩き込んでいく。


「どうした?その程度か?」


あえて挑発をしていく。一度退いたハデス達。ここで迎え撃つということは何かしらの策があると見ている。その策を見極めずに倒してしまうと、その策が時限爆弾のように忘れたころに起動して大きな問題になっても困る。それゆえに今ここでその策を発動させておきたい。だからあえて挑発してその策をさっさと引き出そうとしている。


「この…!」


ハデスから魔力が迸り、周囲に複数の属性弾が無数に展開される。そしてそれがクロウへと放たれた。無数の属性弾がすべてクロウへと放たれ、次々にぶつかって土煙を上げていく。その土煙がクロウの姿を隠す。しかし、それでも油断をせずにハデスはどんどん属性弾を叩き込んでいく。

どんどん土煙が広がっていくなか、突如土煙が揺らぎ、魔力の矢が飛んできてハデスの左手を貫く。


「なっ!?」


痛みもなく突然手に刺さった矢に驚き、抜こうとするがその矢は触れることができず、手が通過する。


「なんだこれは…!?」


戸惑うハデスだが、更に矢が迫り、今度は右手、そして左足、右足と貫く。


「くっ…!」


何かわからないがやばいことだけは察したハデスが魔力を迸らせ、矢を打ち消そうとするが、矢に一切変化はない。その間に新たな矢が放たれ、今度は胸部に突き刺さった。


「五連術式」


風が巻き起こり、土煙を吹き飛ばして無傷のクロウが姿を現す。


「『五星属撃』」


矢を中心に魔法陣が展開され、それぞれから別々の属性がハデスの体内へと流れ込んでいく。左手から炎が。右手から氷が。左足から雷が。右足からは風が。ハデスの体をズタズタにしながら中心の胴体の矢へと向けて流れていく。そして中心に到達した瞬間、体から四つの属性と共に光が噴き出した。


「がぁぁぁぁぁあああああ!!」


すさまじい叫びと共にハデスが倒れこむ。その様子をクロウはじっと見据えていた。


『うわぁ…えっぐ…』

『なんかいつも以上に容赦ない気がする』

『クロウさんどうした』

『まさか、あれがクロウさんの本性だというのか…?』

「んー…違うと思うけど。でも容赦ないのは確かだね…」

「そうなの?」

「うん。まあ、マーサさんの件もあるから仕方ない気もするけど…」


それでもどこか腑に落ちないといった様子のシェルフ。


「みらいちゃんの探索者デビューの配信計画を狂わされた恨みぶつけてるだけだから気にするな」

『なんだやっぱりただのガチ勢なだけか』


シェルフ達の会話が聞こえたクロウの答えにコメントから呆れたような返信が帰ってきた。


「というかマスター、コメント見てるの?」

「一応な」


そう言って右手を振るうと腕時計のようなものが付いており、そこに小さい画面だが文字が流れている。


『まじかよ、うかつな事言えないじゃん』

『常にコメントを監視しているとはモデレーターの鏡』

『戦いに集中してもろて』


そんなコメントを横目にクロウはハデスをしっかり注視する。何か策があるならばここでやらなければいけない。ここで策を使わないということは死んでから発動するものと考えてもいいだろう。そんなことを考えていると遥がクロウの近くに来た。


「そっちどんな感じー?」

「今のところ想定内。そっちは?」

「まだ倒しきってないけどほとんど瀕死だよ。このまま終わるのなら問題なく撃ち抜いちゃうけど…」


遥自身も今までの経験上、このままで終わるとは思っていない。それゆえにタマモに対して警戒しつつもクロウのほうへと来ていた。


「他の面々は?」

「雷亜君は少し苦戦したけど問題ないよ。ニーズヘッグはでかくて耐久高いからやっぱり面倒だねー」


S級探索者全員ニーズヘッグと戦って勝つことはできる。だが、その頑丈さ、大きさ、耐久力の高さからどうしても時間がかかってしまう。それゆえに雷属性で防御を貫通できる雷亜に任せたのだが、それでも時間はかかったようだ。


「傑君と流華ちゃんは興が乗ってまだやり合ってるけどいつでもとどめはさせる状態だよ」

「あんの戦闘狂組はもう…」


いつも通りの二人に呆れ交じりのため息を吐いてしまう。

N級魔物一体程度であれば、どれだけ相手が高位の魔物でも勝てる算段は付く。だが、やはりあの戦闘狂の二人は倒すことよりも戦いを楽しむことを優先してしまう部分があるので、そこらへんが問題点でもあった。それがなければ傑はともかく流華は優秀な探索者なのだが…。


「っ!」


その時ハデスの方からすさまじい魔力の高ぶりを感じた。

それに遥も気づいたようで表情が険しくなる。


「このまま…やられて…たまるかぁ!!」


その叫びと共にクロウがその手をかざす。そこに突如何かが降ってきた。


「あれは…」

「ダンジョンコア?」


突如現れ、ハデスの手に収まったダンジョンコア。一体何をするのか、それを考えるよりも先にクロウは遥のほうを見た。


「遥!」

「…他のN級魔物のところにもダンジョンコアがあらわれてる…」

「クロウ!あのダンジョンコアはおそらくそれぞれの出現したダンジョンのダンジョンコアだ!それゆえに親和性が高い!何かする前に…」

「もう遅い!」


マーサの言葉を遮るようにハデスがダンジョンコアを握りつぶした。

砕けたコアのかけらがキラキラと光を反射して輝きながらハデスへと降り注いでいく。

そして触れるたびにどんどんハデスの体内へと吸収されていく。


「ククククク…力が…力がみなぎるぞ…!」


ハデスの言葉通り、先ほどまでボロボロだったハデスの体がどんどん癒えていく。それと共にハデスからあふれている魔力がどんどん増大していく。


「遥、他の奴らは?」

「そっちもダンジョンコア壊して吸収してるね…。クロウもしかして…」

「これがハデス達の策かもしれないな…。だが…」


確かに親和性が高いからか十分に吸収できている。だが…


「ククク…クハハハハ…」


先ほどまではきちんと理性があった。しかし、力がみなぎる高揚感からか、理性が明らかに低下している。

ゆっくりとハデスが立ち上がる。そして次の瞬間にはクロウの眼前に移動していた。


「っ!?」


咄嗟にクロウは両腕を交差させて防御態勢に入ったが、そのクロウをハデスは殴り飛ばした。


「クロウ!?」


先ほどまで余裕で受け止めることができた。だというのに今回は受け止めきれないどころか、そのまま吹き飛ばされてしまう。


「いつつ…問題ない。遥、こっちは大丈夫だから、お前はお前でタマモのほうを任せる」

「…わかった」


頷いて遥はその場から離脱する。


「…それがあんたの策か」

「ククククク…そうだ…勝てる…!これなら貴様なんぞに遅れはとらんぞぉ!!」

「…確かに力はかなり上がっているな。とはいえ、その分理性は落ちているようだ。その程度で勝てるほど俺は甘くはねぇぞ」

「ほざけえぇぇえええ!!」


クロウの言葉に激昂したハデスが襲い掛かってきた。



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