S級探索者達はダンジョンへと乗り込む
「それじゃあ配信を始めますね」
一通りの探索準備の確認を終えたのでみらいが配信を始める。
配信開始と共にコメントが流れ始める。
『はじまた』
『ここが問題のダンジョンなの?』
「そだよー。これからクロウさん達が探索するよ」
「私たちは基本的についていくだけだけどねー」
『大丈夫?あの人たちについていける?』
「大丈夫だよ。私たちはリル達に乗っていくので」
「ワン!」
「エメルはまだついてこれないから抱っこだよー」
「クゥーン…」
シェルフの言葉にエメルが落ち込んだ。
『耳垂らしてかわいい』
『エメルちゃんはまだ子供だからね…』
『さすがに誰かを乗せるには小さすぎるよね…』
『決して重いから無理というわけでは…』
「誰が重いって?」
ちらりと見えたコメントに対し、みらいがにっこりと笑みを浮かべて問い詰めてくる。
『おい!誰だ余計な事言った奴は!』
『俺は違うぞ!普通にサイズ的に人を乗せるのが無理だと言っただけで!』
『とりあえず機嫌取るためにクロウさんを捧げよう』
「なんでや」
唐突に捧げられそうになって思わずツッコミを入れてしまう。
「ほらほら、じゃれてないでさっさと行きましょう。また逃げられても面倒でしょ」
「まあまあ、配信始めのリスナーとのじゃれあいも大事な物だからさ」
少し離れた位置で飽きれていた流華を自らも配信活動をしている遥がなだめる。
「といってもあまりここで時間をかけるわけにはいきません。問題なければ早めに行動を開始しましょう」
「だな。んじゃさっさと行こうぜー」
雷亜がしっかりとまとめ、傑がそれに便乗する。そのままダンジョンに入ろうとしたので、流華と遥もついていく。
「んじゃ、俺達も行こうか」
「だねー」
「わかりました」
「うん。リル、お願いね」
「ええ、任せて」
みらいはリルに乗り、シェルフはエメルと共にマーサへと乗り、詩織はフィンに乗る。そして全員はそのままハデス達討伐のためにダンジョンへと突入するのであった。
「さて、移動しながらここで少し解説を」
みらいが乗るリルの隣で浮いた状態で移動しているクロウが話始める。
「ここは以前の会議で言ったようにN県T市にあるB級ダンジョンだ。いろいろと言ってたし、まだ調査段階の部分が多いので階級に関しては変更はなしだな」
『まあ、あそこでも言ってたけどそこらへんの調査は事件解決後だもんな』
「そ。それで現時点でのこのダンジョンだが基本的には何の変哲もないどこにでもあるようなダンジョンだ。地形は森林地帯が基本でたまに洞窟などが発生している。階層は三十といささか多く、十階層ごとに分けられて上層、中層、下層となっている。下層になればなるほど洞窟の頻度が上がり、たまに建物内が階層になっている場所もある。出現魔物はウルフやスライム、ゴブリンといった有名な魔物がメインだな。洞窟内だとアリ系などの昆虫や、建物系だとゴーストなどの心霊系といった風に少し階層によって魔物の種類が変わったりもするが、それでもきちんと対処もできるし事前準備もできる。その分S級ダンジョンよりかは楽だな」
『ほえー』
『S級ダンジョンってそんなに難しいの?』
「S級ダンジョンは特徴次第だな。その特徴次第では次の階層がランダムで選ばれるってこともあるから」
『まじか。それって事前知識が全部無駄になるってこと?』
「全部ってわけじゃないがほとんどが無駄になるな。寒さ対策したら溶岩地帯だったとか、その逆とか。高山地帯で空気が薄かったとかよくあるから」
『まじかよ…』
「まあ、今言ったのは極端な例だけどな。それでも、そう言った特徴があるのがS級の所以だ。っと少し話が脱線したな。それでハデスがいる場所だが、中層の後半、十八階層あたりにいる」
『一番下じゃないんだ』
「雷亜曰く、正確にはハデスがいる場所へと移動できる転移門がそこにあるらしい。移動していなければ、って話だけどな」
『移動してたらどうするの?』
「残滓があれば俺が解析できるからどうにでもなるよ。というわけで、今向かっているところだよ」
『さらっととんでもないこと言ってるよこの人』
『もういつもの事よ』
『そうそう。前々からみらいちゃんの配信で困ったことがあったらこの人が何とかしてたし』
『どんだけ万能なんよこの人』
そんな話をしながらも移動速度は緩めずに進んでいく。
『にしても早いな。今何階?』
『さっき下ったから八階やね』
『道中で一切魔物出てきてないんだけど、それもハデスの影響かね?』
「いや、それは違うぞ。魔物って言うのは強すぎる相手は避けるんだ。俺達五人に加え、N級魔物である母さんがいるからな。近寄りもしないんだ。現に気配はちらほらしてるからな」
「だねー。ところでマスター、配信主であるみらいちゃんを差し置いてずっと喋ってることについて一言」
「みらいちゃん喋ってる余裕ないんだから仕方ないだろ…」
マーサに乗っているシェルフが余計なツッコミをしてくる。
「ごめんねー。私まだ人乗せ慣れてないから…」
「ううん…大…丈夫…!」
「無理にしゃべると舌噛むぞー」
クロウ達の速度についていくだけでも結構な速度を出さなければならず、その上でその背に乗せたことがあるのは子供の頃のクロウだけ。そんなわけで今みらいと詩織は振り落とされないようにしがみついている形になっており、しゃべっている余裕がない。
『カメラさんできれば後ろから…』
「下手なこと言うとマスター派遣するよー」
『ヒェッ』
「俺を脅しに使うな…」
「えー?放置してていいの?」
「そうじゃなくて、わざわざ言う必要がないってだけだ」
『問答無用で処されるじゃないですかヤダー!』
『み…みらいちゃんが指示しなければたぶん大丈夫だから…』
『BANで配信からじゃなくてこの世界からはじかれるのか…』
『願えば異世界転移させてくれる可能性も…?』
『なおチート特典はない模様』
『地獄やんけ』
そんなワチャワチャがしていたら…。
「!クロウ!」
「あいよ!」
正面からの攻撃の気配を感じた雷亜が叫ぶが、それを勘づいていたクロウも即座に防御魔法を展開する。その直後にバァン!と火球が防御魔法に直撃して霧散する。
『なにごと!?』
『え、攻撃!?ここの魔物はクロウさん達を避けているんじゃないの!?』
突然の攻撃にリスナーたちはうろたえるが、クロウ達は一切迷いもなくそのまま突き進んでいく。
そして正面に先ほど攻撃してきたであろう魔物の姿が見えてきた。
全体的に赤黒い肉体を持った悪魔の翼をもつ魔物。その筋骨隆々の体のところどころから炎が吹きあがっている。
「フレイムデーモン。炎属性特化のデーモン種だな」
解説しながらも速度は緩めない。
「フン!人間風情がよくぞここを見つけたな!だが、これより先、ハデス様のところには…」
「「「「「邪魔!」」」」」
喋っている途中でフレイムデーモンへと五人の攻撃が直撃する。
雷亜がデーモンを打ち上げ、遥が頭を撃ち抜き、流華が凍り付かせ、傑がその氷事砕き、クロウが跡形もなく消し飛ばす。
そして五人はそのまま何事もなかったかのごとく速度も変えずに突き進んでいく。
『わぁお…』
『ミンチよりひでぇや』
『明らかなオーバーキル』
『哀れフレイムデーモン、まともにしゃべらせてももらえないとは…』
『この五人の前に出てきたのが悪い』
前哨戦にすらなっていない戦いを見てリスナーたちも好き勝手言っている。
そんなこんなで間に他のハデスの手下と思わしきデーモン種を蹴散らしながら突き進んでいく。そして目的地と思わしき十八階層のとある場所へとたどり着いた。
『あれから襲撃が来ることおよそ四回…』
『どれも瞬殺過ぎて見せ場も何もないという』
『相手に同情することになるとは…南無』
「んで?ここが転移門がある場所なのか?」
「そのはずなんだけど…」
「何もないね。場所は合ってるの?」
「うん、それに関しては間違いない。クロウ、何かわかるかい?」
「ちょいまってねー」
そう言いつつクロウは地面に触れる。
指先から地面へと魔力を流し、その流れで周囲を調べていく。
「………なるほどね」
「何かわかったか?」
「ああ。それじゃあ説明しながら魔法陣を構築するとしよう」
そう言って少し大きめの魔法陣を展開し始める。
「さて、じゃあ転移門に関してだが、おそらくだがとある魔物の固有能力だ」
「とある魔物?」
「固有能力って?」
「魔物に関しては俺もわからん。おそらく変異種だろうからな。で、固有能力って言うのはさっき言った変異した際に手に入れる能力の事だ」
「その能力って何かわかるの?」
「ああ。今調べて知ったんだが、ダンジョンの地下には魔力が流れるルート…俺達になじみがあるとしたら地脈や龍脈かな?それに近い物があるんだ。これを仮に魔脈とでも呼称するとして…その固有能力が魔脈の上に一定時間出入り口を作ることができる物なんだ」
「それじゃあ僕が見た転移門はその魔物が作った物かい?」
「ああ。そしてこの魔脈、他のダンジョンともつながっているんだ。これがもともとつながっているのか、それとも何らかの方法で繋げたのか…そこまではわからないが、何方にしろ、その魔脈がつながっているおかげで別ダンジョンに転移門で移動できるってわけだね」
「へー…」
「それがわかったのはいいとして、それどうするの?それ、再現できるの?」
「当然」
流華の問いかけに答えると共に魔法陣が完成する。
「すでに残滓から解析済みさ。んじゃさっそく起動するぞー!」
その言葉と共に魔法陣が輝き、クロウ達の前にゲートのような穴が開く。
『さらっととんでもないことしているんですがこの人』
『もう正体隠す必要なくなったからか加減失くしたよね』
『だが不審者スタイルは変えない模様』
「うっさい。解析したといっても転移門を開く能力だけだ。安定性はないから一方通行だし、俺が通れば消える。故に俺は最後に行く。先の安全はどうなっているかわからんからそこらへん頼むぞ」
「おう、任せろ!ってわけで先に行くぞ」
その言葉と共に傑が転移門へと飛び込んだ。
「あ、こら一人で先走るな!」
そして流華も傑を追って先に入る。
「やれやれ…遥、僕が先に行くからその後詩織さん達を連れて入ってきてくれ」
「はいはーいお任せー」
その言葉の通り雷亜が警戒しつつ先に入る。
「じゃあ詩織さん達も入ってー」
「わかりました」
「マスター、先に行ってるねー」
「すぐに来てね」
「ああ。母さん、姉さん、兄さん。みらいちゃん達を頼むな」
「ワン!」
「ああ、もちろんエメルもね」
「ワフン!」
任せろといったように吠える。
そしてみらい達はマーサたちに乗った状態でゲートをくぐる。
「じゃ、私も行くねー」
「ああ、即座に攻撃してくることはないだろうし、傑たちがいるから大丈夫だろうが気を付けてくれ」
「わかってるって。あ、ドローンももっていくねー」
『よし、先に行くぜ!』
『早くこいよクロウ!』
『先に行って場所を整えとくからな!』
「調子いいなお前ら…」
ノリのいいリスナーたちに苦笑を浮かべているクロウに見送られ、遥もゲートに入っていく。
「さて…」
それを見送ったクロウが一歩前に出るが、すぐに足を止め後ろを振り返る。
いまいるのは密林エリア。クロウの見つめる先は木々が生い茂っており、そこになにかがいたとしてもこちらから見えることはない。
その空間をじっと見つめてからクロウは何かをするわけでも無くゲートをくぐる。そしてゲートを維持する人物がいなくなったことで、魔力の供給が切れたゲートは消え、何事もなかったかのような静けさが広がった。
「………」
そこに一人の人影が降り立つ。
「気づかれたかー。魔力も隠してばれないと思ってたんだけどなー。勘がいい…いや、何かしら作為的な物を感じていたのかな?」
そう言って姿を現したのは以前探究者と名乗った男。
今回ここに来た際にわかるように、ゲートは時間制限で消える。痕跡もクロウが探らないとわからないレベルだった。
では、なぜ雷亜が来ていた時にゲートが展開されていたのか?たまたま展開できる魔物が展開しておき、消えるまでの時間に来たというのもあり得るだろう。
だが、クロウはそこにわずかだが作為的な物を感じていた。
偶然ゲートが開かれ、そこに偶然雷亜が来てゲートを発見した。そんなたまたまよりも開かれたゲートを維持したまま雷亜が来ることを待っていた人物がいる。クロウはその可能性も考慮していた。
故に雷亜に連れられ、ここに来ることも想定で来ていただろうし、様子を見に来ていたとしてもおかしくはない。
だが、特に何かをしてくるわけでも無ければ放置でもいいと判断し、クロウはゲートをくぐった。その先に探究者が求める『なにか』があるとわかっていても、こちらの邪魔さえしなければいいと考え、その先に飛び込んだ。
「さて…ハデス達はこの間のようにはいかないよ。私が提供した『秘策』…どう対処するかな?」
わずかな酩酊感を感じる。転移特有のふらつきを感じつつも問題なく着地する。
「お、来たねー」
遥が来たクロウに手招きをする。
「…すげぇところに来たな」
そう言って飛ばされた先を見回す。
床は地面だが、綺麗に均されている。そしてかなり広く、周囲は暗がりのせいで壁も天井も見えない。
『なんか不気味な感じだな…』
『明らかに招かれた…って感じだな』
『もしかして:罠』
『諮ったなクロウ!』
「俺じゃねぇよ」
『測ったなクロウ!』
「何をだよ」
「…でも、いるね」
「ああ。そろい踏みだぜ」
「いつまでコソコソしているつもり?」
流華の言葉に答えるように空中に炎が灯る。
その炎の数がどんどん多くなり、今いる場所の全貌が見えてきた。
「これは…」
「まるでコロシアムだね」
ところどころに穴はあるが、円形に広がっているそこはその広さからくる解放感からコロシアムのようなものを感じた。
そして奥に鎮座する巨大な影。
「獄龍、ニーズヘッグ…」
ぼそりとみらいがつぶやく。
その言葉に答えるようにニーズヘッグが体を起こす。
そしてその直後に周囲から阿修羅、タマモ、フェニックスが姿を現した。
「よく来たな人間ども」
そして上空からハデスがゆっくりと降りてくる。
「ずいぶんと尊大じゃねぇか。俺達にまともに手も足もでずに逃げ帰ったくせに」
「ふん。あの時は油断しただけだ。今回はそうはいかぬ」
「あらあら、ずいぶんな言葉ね。その言葉だけでも負け犬感が強いけど」
「ほざけ!我らが力、その身に刻み地獄に落ちるがいい!」
「みらいちゃん達は後方へ!雑魚が出てきたら頼むよ!」
「わかりました!」
「マスターこっちは気にしなくていいからね!」
「気を付けて!」
「さあ、行くぞ!」
N級魔物達とS級探索者達。二組のすさまじい魔力が迸り、その部屋を揺らすのであった。
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