S級探索者の推しはダンジョンに再挑戦する
さて、N級魔物というイレギュラーの中のイレギュラーが出てくるという想定外の事が起こった翌日。
改めてみらい達はG級ダンジョンへと赴いていた。G級ダンジョンと言っても前に行った場所ではなく、別のダンジョンだ。
「さて…改めて卒業試験?でいいのかな?」
「うん、そうだね。G級ダンジョンを制覇すればきちんと探索者として活動できるようになるからね」
みらいの問いかけに詩織が答える。今回もみらい、シェルフ、詩織の三人でダンジョンに挑む。
『今回は前と別のダンジョンなのか』
『まあ、あそこ調査のために封鎖されてるししゃあなし』
『そりゃN級魔物出てくればねぇ…あの後調べてみたけど、過去のN級魔物の被害を知ってぞっとしたよ』
『そんなN級魔物を一人であしらったクロウさんは今日は出てくるのかな?』
『でしゃばる気はないから多分出ないよ( ˘ω˘ )』
『たぶんなのか』
「まあ、あんなことはそうそう起きないだろうから大丈夫でしょう!」
「そうそう。どうせすでにダンジョンの中で姿隠して様子見てるだろうし、気にせずきっちり私達だけで制覇できるようにしよう」
『バラすなし(´・ω・`)』
クロウの言葉に微笑みつつ、みらいは気合を入れる。
「さて、じゃあさっそく行こうか!」
みらいの言葉に頷き、三人はダンジョンの中へと入っていった。
改めてきたダンジョンは薄暗く、澱んだ空気の場所だった。地面にはところどころかれた雑草のようなものがあり、墓自体はないが墓地のような雰囲気だ。
「なんか薄気味悪い場所だね…」
『雰囲気がまんまお化け屋敷なんよ』
『まあ、実際ここに出てくるのそう言う系列だしね…』
「そうだね…スケルトンとかゾンビとか、そう言う系が多いね」
「そうだね。少しタフだけど、動きが遅いゾンビや、逆に動きは速いけど脆いスケルトンとかばかりだから難易度としては前に行ってたところとさして違いはないよ。物理攻撃向こうのゴーストタイプもいないしね」
「まあゴーストタイプはいても吹き飛ばせばいいし平気平気」
そんな話をしながら歩いているとカタカタという音と共に3体のスケルトンが姿を現した。
「さっそくお出ましだね!行くよ!」
魔弾が入っている銃を構え、3回連続で引き金を引く。銃口から放たれた魔力が一直線にスケルトンへと向かっていき、そのまま頭を吹き飛ばした。
『おおー』
『ナイスヘッショ』
『さすがみらいちゃん』
『って頭吹き飛んでるのにスケルトンまだ動いてやがる!』
『あー、スケルトン…というか、アンデット系は俗にいう急所が魔石部分しかないんよ。だから頭吹き飛ばしても倒せないんよ。まあ、無意味ってわけじゃないが』
『そうなの?』
「うん、スケルトンは確かに魔力によって動いているけど、視界とかは私達とおなじように目で見ているらしいんだ。だから頭吹き飛ばしておくとそのまま視界がよくわからない状態になって動きがおかしくなるんだよ」
「そ。だからその間に…」
言葉の途中でシェルフが駆け出し、双剣でスケルトンを細切れに切り裂いていく。
「こうやって倒しておくんだ」
その言葉と共にスケルトンが崩れ、魔石と素材になった。
『ほえー、スケルトンってあんな感じの戦い方すればいいんやね』
『と言ってもこれができるのは下位のスケルトンくらいだけどね、中位まで行くと普通に再生するからちょっと厄介なんよ』
「そうだね、そういう時は腕とかを折ったりして少しの間攻撃手段を奪ってその隙にとかいろいろと戦い方を考えないといけないね」
コメントの補足をするように詩織が話す。
その後もゾンビが出てきたが、問題なく討伐し、そのまま順調にダンジョンを進んでいく。
『今回はイレギュラーなさそうだね』
『というかイレギュラーなんてそうそう起きるもんでもないんだがなぁ…』
『そうなの?他の探索者の配信とか見ないからわからんのだが』
「そうだね…毎日いろんなところでダンジョン探索している人でもイレギュラーに遭遇する割合は月に一度あるかないかって感じかな。遭遇しない人は年単位で遭遇しないって人もいるから」
『そんな確率低いんだ』
『そうそう。ダンジョン自体一つの世界としてある程度安定しているからね、イレギュラーはその中で発生する異分子。何かしらの異変の前兆で発生するものなんよ。だから普通はそうそう起きないもんなんだがなぁ』
『そんなイレギュラーのさらに特殊な物にいきなり遭遇したみらいちゃんは運がいいのか悪いのか…』
『取れ高的にはいいのかもしれないけど、ぶっちゃけあそこで俺がいなかったら全滅待ったなしだから悪い方ぞ( ˘ω˘ )』
『まあ、クロウさんがみらいちゃんの近くにいるのは当然だからいいとして。それでも危険な目に遭ったのは確かだからねー』
『お前らは俺をなんだと思ってるんや(´・ω・`)』
『最古参』
『ガチ恋勢』
『加減を知らない信者』
『みらいちゃんの敵絶対殺すマン』
『否定できねぇ(´・ω・`)』
「いや、最後は否定して!?」
そんなどこか和やかな雰囲気のままダンジョン探索は進んでいく。
まあ和やかと言ってもあくまで雰囲気だけでしっかりと警戒などはしているので敵がいれば即座に気づいて応戦していた。
そんなこんなで特に大きな問題もなくそのまま最下層のボス部屋の前に到着した。
「さて、ボス戦だけど、大丈夫かな?」
詩織の確認にみらいとシェルフが頷く。
『ヘイクロウ。ボスについて教えて』
『わしゃどこかの応答アナウンスかい(´・ω・`)まあええけど』
『このダンジョンのボスはゾンビスパイダー。まあ、その名の通り大型の蜘蛛のゾンビだな。特徴は蜘蛛と同じく粘着性の糸を繰り出すことと足先と牙に持つ毒。即死するほど強い毒ではないけど、攻撃を受けるとじわじわと体力を奪われるからきちんと解毒すること。粘着性の糸は地面や壁に貼り付けて相手の動きを阻害したりするからそこらへんも注意が必要だな。糸に関しては火や切断系に弱いから燃やして処理するのもありだ。そしてゾンビだから弱点である魔石を壊さんと倒せない。まあ通常の蜘蛛より防御力は低いから貫通能力のある攻撃とかで魔石を貫けば速攻で終わったりもするぞ』
「へー、クロウさんよく覚えているね」
『あらかたのモンスターの知識は持ってますので( ˘ω˘ )』
「すごいね私でもそこまですらすらと話せないよ」
『ダンジョン探索において知識はそのまま力になりかねないからねー。だからある程度は覚えるようにしてるのだ( ˘ω˘ )』
『ほうほう、ちなみにクロウさんだったらどう戦う?』
『魔法で消し飛ばす(゚∀゚)』
『脳筋戦法やんけ』
「まあ、マスターの攻撃力ならそれくらいできるだろうね。私たちは少し時間かかるけど、陽動は私がやるからみらいさんは魔弾で貫通攻撃とかしてもらえる?」
「うん、頑張る」
「私は後ろから見てるからね。一応危なくなったら手を出すけど、私が手を出したらその時点で失格。やり直しになるからね」
「はい」
「じゃあ行こっか」
シェルフの言葉にみらいが頷く。先頭をシェルフその後ろにみらい、最後に詩織の順でボス部屋へと入っていく。
部屋の中はいたるところに蜘蛛の糸が張り巡らされており、壁や天井はほとんど蜘蛛の糸で埋まっていた。
『うへぇ…キメェ』
『蜘蛛の巣たんまりはメンタルにくるんよぉ…』
『なんか画面越しなのにめっちゃ空気が悪い気がする』
『換気してどうぞ』
そんなコメント達を横目にみらい達は部屋の中を見回す。
「ボスは…」
「あれだね」
シェルフが示したのは部屋の中心に鎮座している繭のような物。蜘蛛の糸にくるまっている物体だった。
「準備はいい?」
シェルフの問いかけにみらいは頷く。
「じゃいくよ」
その言葉と共に手に持つ双剣の片方に風が渦巻く。その剣を振るって風の刃を飛ばして繭を切ると、ブチブチッという音と共に繭がうごめき、中からところどころ体がボロボロになっている蜘蛛、ゾンビスパイダーが出てきた。
『うわぁ…』
『すごく…グロイです…』
『これ映して大丈夫なもんなの?』
「ダンジョン配信に関しては映して大丈夫だよ。他のサイトとかだとBANされることも有るけど」
コメントの疑問に手が空いている詩織が答える。
『まあ、こういうグロ系の奴結構いるからね』
『そもそも戦っている以上そう言うのも映るか。いちいち規制してたら配信なんてできないわな』
そんなコメントが流れている間にシェルフが駆け出し、ゾンビスパイダーへと迫る。
ゾンビスパイダーは迫ってくるシェルフに対して糸の玉を放つことで拘束しようとするが、それらをすべて回避しながら距離を詰めていく。
『相変わらずはえぇw』
『彼女Gランクなんですよ?』
『壮大なランク詐欺』
『ナーフはよ』
『どうせ敵がすぐ強くなるから変わらんよ』
好き勝手コメントで言っているがそんなことを気にせずにシェルフは駆け回る。
糸の玉を避け、後方へと回り込むように走っていく。その間に最初の位置で待機しているみらいはそのまま銃に意識を向け魔力を放つ準備をする。
「鋭く…細く…撃ち貫く」
みらいが今使っている銃は魔力を弾丸として放つ魔銃。その特性の一つは使用者のイメージによって弾丸の性質を変えることだ。使い慣れていないとその分集中する時間が必要となるが、それでも様々な場面でそれに適した攻撃方法を扱えるという強みがある。今のみらいもそれなりに扱えるが、それでも普通に扱うだけ。まだ弾の性質を変えるにはそれなりの時間がかかる。
だから、シェルフが動き回り、ボスからの視線を集めてその時間を稼いでいる。
「いくよ!」
その言葉と共に引き金を引く。銃口から魔力が弾丸となって放たれる。通常よりも細く鋭い魔弾はそのままゾンビスパイダーの胴体へと突き刺さり、勢いそのままに頭部を貫いた。
「キシャアアアアアアアア!!」
『やったか!?』
『それフラグや!』
甲高い叫び声を上げたゾンビスパイダーがそのまま体を反転させてみらいを見据える。
蜘蛛特有の複数の赤い目に見据えられ、体をビクンとさせてしまうが、それでも魔銃を構えて追撃を仕掛けようと試みる。
「私がまだいるよ」
その言葉と共にみらいのほうへと向いたことで背面に立つことになったシェルフが接近し、みらいが撃ち貫いた胴体の穴に剣を突き刺す。
「じゃあね」
短い言葉と共に展開された風の魔力がゾンビスパイダーの内部からズタズタに切り裂く。
そして粉々になったゾンビスパイダーは素材と魔石を残して姿を消した。
『わぁお』
『なかなかにエッグいことを』
『敵には容赦ないからねシェルフ( ˘ω˘ )』
『このマスターにしてこの子ありやな…』
『一緒にされた(´・ω・`)』
『N級魔物にしたこと顧みて』
『?(゚∀゚)』
「お疲れ様、二人とも」
戦闘後もすぐに気を緩めず、周囲を気にしている二人に詩織が声をかける。
「ほとんどシェルフちゃんがやってくれたけどね」
「まあ、もともとこういう作戦だったし。それにさすがにみらいさんのあの攻撃がないとあんなふうに内部を攻撃することはきつかったからね」
ゾンビスパイダーはところどころ体が崩れているから防御力は低いように見えるが、意外とそうでもない。崩れているところは毒性のある体液があふれており、そこから内部に攻撃しようとするとその体液に阻まれるか、もしくは武器などがむしばまれてしまう。
みらいの攻撃は細く鋭かったがゆえにその体液を漏れ出るほどではなかったので、その穴を広げるように突き刺すことで内部に攻撃が通るようになった。
「まあ、敵によって功績が偏るというのはよくあることだよ。大事なのは仲間を信頼し、自分にできることを全力でやること。シェルフちゃんは自分の速さを活かしてボスからみらいさんへのヘイトをきちんと逸らしていたし、みらいさんはきちんと一撃をあたえてボスを倒すきっかけを作った。二人ともしっかりと役割をこなしていたよ」
詩織の素直な言葉に二人とも笑顔を浮かべる。
『ということは?』
『G級ダンジョンとはいえ制覇できたわけだし…』
『みらいちゃん達は…?』
「うん。最後の項目も合格。これで後は手続きさえ済ませれば二人は一人前の探索者だよ」
『おおおおお!』
『おめでとう!』
『これからいろいろと大変だろうけどそれでも合格はめでてぇことや!』
「うん!みんなもありがとう!シェルフちゃんもありがとうね。そしてこれからもよろしく!」
「こちらこそ」
笑顔を浮かべてハイタッチする二人。そんな二人をほほえましそうな笑みを浮かべながら詩織が見ていた。
そんな時…。
カツカツカツ
突如妙な音が聞こえてくる。
『え?何の音?』
『拍手…にしては少し音が変?』
『何か硬い物がぶつかり合っているような…?』
その部屋にいるみらい達以外が発する音にみらい達は警戒する。
「あそこ」
先にその音の正体に気が付いたシェルフがボス部屋の上空を指さす。
そこにいたのは…。
『骸骨?』
『杖を持ってローブを着た骸骨って…え?あれ、ここで出てくる敵なの?』
『いや、あんな魔物見たことないけど…』
『まぁた出たよ(´・ω・`)』
『え、クロウさんまさか…』
「まさかまた…?」
「N級魔物…」
突然の乱入者に驚きの表情を浮かべるみらい達。そんな彼女たちを見下ろしながら拍手をしている骸骨はゆっくりと降りてきた。
「いやはや…私のペットが殺されたので様子を見に来てみれば…まさか、こんな子供達だとはね…」
即座にシェルフは双剣を抜くが、それと同時に骸骨が杖を軽く振るう。
バァン!
激しい衝突音と共にみらい達を囲うように防御魔法が展開される。
「きゃあ!?」
「うるさ…」
「おや、まさか防がれるとは…なかなか強固な防御魔法の使い手がいるようですね」
あの一撃で全員始末するつもりだった骸骨は感心したようにつぶやいた。
『うぉあ!?』
『でぇじょうぶだ!クロウさんがいる!だからあわわわわわわ』
『落ち着け』
『出動しまーす(´・ω・`)』
コメント内ですでにクロウが動こうとしたとき…。
「うおおおおおおおおおおお!!」
突如野太い声と共にボス部屋の扉がバゴォン!と派手な音を立てて開き…というか扉が吹き飛び、それによって発生した土煙によって入り口が覆い隠される。
『今度はなんだぁ!?』
『え、クロウさん?でもあんな派手な登場したことないよな?』
『あー…これ俺の出番防御だけだな( ˘ω˘ )』
『どういうこと?』
立て続けな出来事に視聴者が混乱する中、土煙の中から一つの影が骸骨に向けて飛び出した。
「だりゃあああああああああ!!」
その影は勢いそのまま骸骨の顔面を殴りつけ、そのまま吹き飛ばした。
『え、誰!?』
『N級魔物と思わしき奴殴り飛ばしやがった!?』
『待って、俺この人見たことある!』
『あ、俺も前にテレビで見たことある!』
地面へと着地し、そのまま構えた人影は高らかに名乗る。
「S級探索者!
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