S級探索者は同僚の戦いを眺める


突如乱入してきたS級探索者の剛川傑。N級魔物である骸骨に向かって勢いよく飛び出し、そのまま殴り飛ばしていた。


「なんだぁ?まさかこれで終わりじゃねぇだろうな?」


殴り飛ばした骸骨が舞い上がった蜘蛛の糸や土煙によって姿が見えない状態で、傑が肩を回しながら言う。


『言動が悪役で草』

『これでも彼S級なんですよ』

『いや、ただの脳筋やぞ(´・ω・`)』

『短い言葉なのにクロウさんの言葉にそこはかとない苦労感が…!』


コメントで好き勝手言っている間に土煙がわずかに揺らぎ、そこから骸骨が姿を現す。


「ずいぶんなお方ですね。いきなり殴ってくるなんて…」

「はん!魔物相手に対話する必要なんてねぇだろうが!」


そう言って骸骨へと殴り掛かる。


『あんなこと言ってますよクロウさん』

『要約:何言われたところでよくわからんからとりあえず殴る』

『脳筋だぁ…』

「え、そんな感じでいいの?」

『あいつの考えそんなもんよ(´・ω・`)』

「ところでマスター、私達このままここにいて大丈夫なの?」


そう言ってみるのは戦い合っている骸骨と傑。二人の戦いの余波が周囲の地形や壁をひび割れさせている。


『…うん、どこまで保つかわからんから出動しときます(´・ω・`)』


そのコメントと共にいつもの不審者スタイルの姿をしたクロウがみらい達の傍に現れた。


「クロウさん!」

「ういっす。んじゃ張りなおしまーす」


その言葉と共に防御魔法を張りなおす。それによって先ほどまで余波によって発生していたきしむ音が消えていた。


「これで良しっと。一応維持するためにいますかね」


そう言ってカメラの死角へと行こうとするが…。


「せっかく来たなら解説して?」


笑顔でそう言ってくるみらいにローブを掴まれ動けなくなった。


「解説ねぇ…」

『そうそう。こっちに戻ってきてもどうせやることは解説なんだし』

『そっちの方が早いしやりやすいでしょ』

「なんで解説ポジになっちゃったんですかねぇ…」

「そりゃここにいる中で一番知ってるのマスターだからでしょ」

「私もそれなりに魔物についての知識はありますが、さすがにN級魔物についての知識は持ち合わせていないので…」

「まあ、良いけどね。んじゃさっそくだからあの魔物の解説でもしますかー」


そう言って傑と戦っている骸骨を見据える。


「あれはN級魔物、真祖:エルダーリッチだな」

「真祖?」

「すべてのアンデットの生みの親という話らしい」

「そうなの?」

「真偽に関してはわからん。ただ、そう言われてもおかしくないレベルで多種多様のアンデットを生み出すことができるんだ」


その言葉を示すように骸骨…エルダーリッチは地面から無数のゾンビとスケルトンを生み出し、自らの周囲からゴーストを生み出した。


「邪魔だあああ!!」


しかしそれを一度拳を振るうことで傑はすべてを打ち滅ぼした。


『わぁ…』

『見ろ!アンデットがゴミのようだ!』

『本当にゴミのように無残に吹き飛んでんなぁ…』

「……ちなみにあれって何か特殊な技?」

「いや、魔力籠めてぶん殴ってるだけ」

『脳筋戦法だぁ…』

「あのS級探索者。剛川傑は身体強化がとてつもなく強くてな。どんな状況でもその身体強化だけで突破できる奴なんだよ」

「どんな状況でも?」

「うん。溶岩の中だろうが、大嵐の大海だろうが身体強化一つで突破できる」

『化け物かな?』

『S級なんてそんな奴らばかりだろ』

「あながち否定できない。まあ、そういうことができる奴だからS級探索者になれるんだがな」

「へ~…」

「さて、話がそれたから戻すが、エルダーリッチの脅威はその手数の多さだ。先ほどやったようにアンデットの召喚はもとより、多種多様な魔法を扱うことができる。だから一度でも足止めを食らえば、その間に無数のアンデットに囲まれ、そのアンデットを相手している間に遠距離からボカスカ魔法を打ってくる」

『対処法は?』

「あれ」


そう言って現時点で戦っている傑のほうを示す。

腕を一振りするたびに大量のアンデットが消し飛び、その余波がエルダーリッチを襲う。


「…あんなこと普通はできないよ…?」

「まあ、あの通りにやれってわけじゃないが、少なくとも相手がアンデットを生み出す速度以上の速度で殲滅しないと倒せないわけだ」

「アンデットをスルーしちゃダメなの?」

「そしたら周囲取り囲まれてこっちがフルボッコよ」

「遠距離攻撃とかはどうなんです?」

「向こうも魔法を使ってくるからな。それを確実に当てられるならまだましだが、攻撃している間にもアンデットを生み出されて物量で押しつぶされる」

『どうあがいても詰みじゃないですかヤダー!』

『だからこそのN級魔物ということか…』

『なんか話を聞いているとこの間のカーミラより強く感じる…』

「あー…カーミラとは別方向の厄介さだからな。あっちは体の耐久力と再生能力が尋常じゃないんだ。腕を消し飛ばそうが、頭を吹き飛ばそうが、上半身消し飛ばそうが普通に再生してくるぞ」

「え。でもクロウさん一撃で倒してたよね…?」

「ああ。普通に攻撃しても倒せないからな。高圧魔力で再生できないレベルで消し飛ばすしか倒す手段ないんだよ」

「あー。だから六式使ってたんだ」

『あの重なっている魔法陣だっけ?あれってなんなの?』

「多重立体魔法陣。魔法陣を複数重ねることで威力やらなにやらいろいろと付与して超強力魔法を放つ技だな」

「ちなみに、あれ魔法陣の種類にもよるけど、単純計算で乗数されるらしいよ」

『乗数って2の3乗とかそう言うの?』

「そうそう」

『つまりあの六式って…』

『通常の魔法陣の6乗の難易度ってこと?』

『探索者で魔法使いやってるワイ。通常の魔法陣ですら扱えないんですが』

『ドンマイ』


そんな話をしながらも傑の戦いを見ている。

無数にアンデットを生み出されるが一振りで消し飛ばし、そのままエルダーリッチへと跳びそのまま殴りつけようとする。しかしエルダーリッチも魔法弾をその拳に当て、その時の衝撃で後方へと逃れて距離を稼いでいた。

余裕がないのだろう、骸骨であるがどことなく焦った雰囲気を醸し出しているエルダーリッチがふとこちらを見た。


「あ?」

『ヒエッ』

『唐突にどうした』

「いや、なんかこっち狙おうとしてたから威嚇した」


おそらく傑に追い詰められており、その状況を打開するためにみらい達を狙おうとしたのだろうが、クロウがそれを事前に察知したので魔力を込めてにらみを効かせた。

ちなみにこの魔力に関しては傑も気が付き、その魔力の主がクロウこと宗谷であることも気が付いた。


「やべぇ!取られる!」


せっかく見つけたN級魔物という絶好の獲物を取られると誤解した傑が勢いよくエルダーリッチへと向かった。


「しまっ!?」


クロウの魔力に気圧され、動きが止まったエルダーリッチはその隙に傑に接近を許し、その体に一撃を受けてしまう。


「おりゃあああああ!」


雄たけびと共に身体強化によって魔力が籠められた拳がエルダーリッチへと叩き込まれていく。一撃一撃に膨大な魔力が籠められており、その濃密な魔力によって拳周りの空間がゆがむほどだ。

そんな濃密な魔力を食らえば体内の魔力が乱され、どんなアンデットであろうと再生が阻害されてしまう。それはN級魔物といえども例外ではない。


「くっ…!?再生が…できない…!?このままでは…」

「逃がすかよぉ!!」


逃れようと一歩下がった瞬間にそれに勘づいた傑が一歩踏み出し、エルダーリッチの脇腹…というか肋骨に拳を叩き込んで砕く。その一撃に怯んだ隙にもう一発叩き込み、今度は腕を砕く。そしてまた一撃を加え、どんどんラッシュを叩き込んでいく。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」


すさまじいラッシュによってエルダーリッチの体がボロボロになっていく。だがエルダーリッチ独特の魔力ゆえか、粉々になって居る骨があれど、それでも全体的な輪郭はまだ残っていた。


「オラァ!!」


ひときわ強めに踏み込み、エルダーリッチを後方へと殴り飛ばす。そして傑は両手を合わせて握る。


「さあ、これで終わりだ!剛牙…」


両手を合わせて作った拳を頭上へと掲げる。そこに魔力が溜まっていき、拳が輝き始める。

その態勢のまま跳びあがり、エルダーリッチの頭上へと移動する。


「絶衝!!」


解放された魔力が光の柱のような形でエルダーリッチへと降り注ぐ。

ドゴォン!というすさまじい衝撃と共に魔力が地面へと叩きつけられ、地面をヒビ割らせ、そのヒビが壁にまで及んだ。

そしてその光が消えると、そこにはエルダーリッチの魔石と素材のみが残っているだけとなっていた。


「おーおー派手にやるなぁ」


結界によって衝撃が来ない場所にいるクロウは言葉とは裏腹に特に驚いている様子ではなかった。


「これがS級探索者…」

『まぁじで化け物レベルの強さやな…』

『こんな人が5人もいるのか…』

「一撃の重さや威力で言えば一二を争うからなー。あいつは」


5人いるS級探索者。それぞれに抜きんでている物がある。クロウこと宗谷は使える魔法や魔法陣の種類から手段の多さ。傑はその身体強化からくるパワー。他の三人もそれぞれ得意な物がある。


「クロウさんでも勝てないの?」

「純粋なパワー対決なら勝てないだろうなぁ」

『あれだけ強いクロウさんでも勝てないのか…』

『待て、純粋なパワー対決ならってことはそれ以外ならどうにかなるってことじゃないのか?』

「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

『ヒエッ』


おびえるコメントにクックックッと笑みを浮かべてしまう。


「もう、皆を脅かしちゃダメじゃん」

「へいへい」


みらいに軽く怒られたので両手を上げて答える。

その間に戦い終えていた傑がこちらへと歩いてきていた。


「ふぃー終わった終わった。ってかこっちに来ていたのかそ」


その瞬間にクロウから放たれた魔法弾が傑の頭に直撃した。


「クロウさん!?」

「いってぇ!いきなり何しやがる!」

「いや、名前言われそうだったからつい。今のこの姿の時はクロウって呼んでくれ」

「なんでだよ」

「身バレ対策」

「意味あるのか?」

「知らん」

『意味は…うん…』

『あんまないよね…』

『あの戦い方できる人限られすぎてて特定不可避なんよなぁ』


探索者の戦い方で有名な人はある程度特定できる。当然S級探索者である宗谷も例外ではない。

だからほとんど身バレしているのだが、それでもクロウという名前で動くことにはこだわっている。


「それはそれとしてなんでお前こんなところにいるんだ?」

「ん?ああ、ギルマスの指示でな。N級魔物の出現が頻発しているみたいだから各ダンジョンの調査を頼まれたんだ」

「ほう。で、結果は?」

「よくわからん!!」

『ヽ(・ω・)/ズコー』

『ダメじゃん』

「まあ、お前はそうだよな…N級魔物に関してはどこにいた?」

「俺が行ったダンジョン全部にいたぞ。全部倒したがな!」

「まあ、そこらへんは心配してないが…。そうか、他のところでも出てきてたのか…」

「ああ。一応俺の区域は終わったからこれから報告に行くがお前も来るか?」

「あー…ちょっと確認したいことがあるからそれ終わってからな」

「確認したいこと?」

「ああ。何すぐ終わるからちょっとここで待ってろ。みらいちゃん達も待っててね」

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。ちょっとそこを見てくるだけだから」

『そう、これが我々が見たクロウさんの最後の姿であった』

「やめい」

「というか、こいつが対処できない魔物出てきたら俺もこいつら連れて逃げなきゃいけないレベルなんだが?」

「その時はよろしくな」


クロウの言葉に傑が肩をすくめていた。


「んじゃちょっと行ってくる」


そう言ってこの部屋に入ったあたりで見つけておいたダンジョンコアのある部屋へと向かう。

中に入るための扉を開けるために冒険者カードを提示し、扉が開いたので中へと入る。


「うっへぇ…ここも蜘蛛の巣だらけかよ」


ダンジョンコアの部屋に入ると、内部にも蜘蛛の巣が張り巡らされていた。と言ってもここでは魔物が出てこないのか、あくまで蜘蛛の糸がいろんなところにある程度だが。

とりあえず魔物の気配もないし、さっさと確認したいことだけ確認しておく。


「…ダンジョンコアの魔力保有量は3~4割ってところか…前よりかは多いが、それでも通常よりかは少なそうだな…」


カーミラが出てきたダンジョンのダンジョンコアも通常よりか魔力保有量が少なかった。そして今回のダンジョンも同じく保有量が少ない。こうなると他のN級魔物が出たダンジョンもそうだと仮定してもいいかもしれない。


「と言っても傑に聞いてもたぶんわからんのよなぁ…他のところの調査次第って感じかな…」


傑はそう言う調査には向かないので、クロウか流華のどちらかが主にやっている。他にももう二人S級探索者がいるが、その二人とも配信者である以上、こういった事前調査というものはなかなかできずにいる。

まあ、それでも今回はN級魔物に関してはみらいの配信で表に出ているし、ダンジョンコアに関してもクロウが調査する時に配信に乗せている。だから向こうでも調査はできるとは思うが。


「ま、とりあえず確認したことはできたし、戻って報告しますかね」


確認事項であるダンジョンコアの保有魔力も確認し終えたし、一度みらい達の元へと戻るのであった。


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