S級探索者はラスランに挑む
「ん、ん~…ふぁ…今何時だ…?」
ガチャ枠の翌日。目を覚まし時計を見るとすでに昼を過ぎていた。
「あー…もうこんな時間か…軽く食っておかんとなぁ…」
扉を開け外へと出ると、ちょうどシェルフがアイスを食べながら階段を上ってきた。
「あ、マスターおはよー。今日は遅かったね」
「ああ、今推しがガチイベ中だからな」
「そういえば言ってたね。順調?」
「まあ、一応な。ラスランまでどうなるかわからんから少ししたら予算確認しておかないと」
「そっか。まあほどほどにねー、やりすぎると壊れかねないから」
「わかってるよ」
まあ、流華のせいで一度壊れかけたが、それに関してもごり押しだが、何とかなっただろう。
「あ、それとルディのご飯はもう済んでるからね。ただ、ここしばらく構ってもらえなかったから拗ねてるから少し遊んであげたら?」
「あー、ここ最近ガチイベの手伝いで忙しかったからなぁ…」
「マスターの推しって事務所勢だよね?そこらへん手を貸してくれないの?」
「表立ってのはやってくれないんだと。まあ、イベントとかも一週間ずっとだし、さすがにそれらすべて手を貸すことも厳しいんだろ」
「へぇ…でも、それじゃあ何やってくれてるの?」
「細かいことは俺も知らん。あくまで部外者だからな。ただ、完全裏方…絵師との依頼とかそう言うのはやってくれているらしい」
「そうなんだ。そういうものも必要になるなんて大変だね、配信者も」
「なんだ?興味沸いてきたのか?」
「まあ、ゲーム好きだから、ゲーム配信者とか好きだけど…顔出せないし、あまり配信でやるのはなぁ…」
「まあな。でも顔を出さなくてもいい方法もあるし、興味があるんなら支援はするぞ」
「んー…考えとく。まあ、やらないとは思うけど」
「そか。まあ好きにしな。さて、俺も飯食うけどシェルフは食ったのか?」
「うん、少し前に食べたよ」
「んじゃあ俺もシリアルだけの軽いやつにしとくか」
「それじゃあ私は部屋でゲームしてるね」
「あいよ、ほどほどに休憩とれよー」
「わかってるよ」
ひらひらと手を振りながら部屋へと戻っていく。
「さて、飯食うか…」
棚からシリアルを出し、皿へと入れてから豆乳をかける。普通は牛乳なのかもしれないが、一度試しに豆乳で食べてみたら悪くなかったので、最近はこの食べ方にはまりつつある。
「んなー?」
シリアルが皿に当たる音に惹かれたのか、ルディがこちらを見上げていた。その尻尾はどこか期待しているかのように揺れている。
「これは俺のご飯だからな。ルディはもう食べただろ?」
「にゃー」
どこか不満そうに鳴くルディに苦笑を浮かべてしまう。ついでにココアを豆乳で溶かしておく。
「ほら、部屋行くぞ」
その言葉に従うように身軽な動きでルディが階段を上っていく。時々振り返り、ついてきているか確認しており、そのまま一緒に二階へ上がると宗谷の部屋の前でドアが開くのを待ち始めた。
「はいはい、今開けますよー」
両手がふさがっているので魔法で扉を開けるとスルリと中へと入り、ベッドへと飛び込んでいった。
「寝たかったんかい」
ベッドの上で丸くなっているルディに思わず苦笑を浮かべつつ、皿を机の上に置いてPCを付ける。
(とりあえず残りの予算見ておきたいなぁ…イベントの現在の差とか見つつ必要なら追加しておいた方がいいかな…)
さすがに食べながらは行儀が悪いので、適当に動画を流しながらシリアルを食べる。
(そういや魔族の件はどうなったかな…。向こうから何か仕掛けてきたとしても、あの程度の実力なら他のS級で十分対処できるだろうからな…)
大きな事件は聞こえてこないから、特に問題はないだろうが、それでも気にはなる。
一応ギルマスに連絡して確認しておくか。
食事を終えたので、キッチンへと皿を持っていき、洗ってから再度部屋へと戻る。
ルディはベッドの上で眠り続けている。宗谷は仕事用のスマホを取り出し、ギルマスへと電話をかける。
『もしもし、宗谷か?ガチイベとかいうのは終わったのか?』
「いや、まだ今日含めてあと3日ある」
『そうなのか。ならどうしたんだ?いつもガチイベの時は連絡がないじゃないか』
「ああ、ちょっと魔族の件が気になってね。あれから何かあったかい?」
『ああ、その件か。一応あの後、他のダンジョンで魔族の反応があってな、他のS級探索者に捕獲をしてもらっている。数は合計で4人、うち一人は配信しながら捕獲してもらったから、一応魔族の存在はにおわせてある。まあ、こちらで対処できるということでそこまで大きな騒ぎにはなっていないがな』
「そうか。ちなみに他国から魔族の情報とかは入ったりは?」
『していないな。まだ共有できるだけの情報がないのかもしれないが』
「こちらからは?」
『協会には報告済みだ。一応発見したら報告がこちらにも来るようになっているが…』
「それがないってことは他国では魔族が出ていないか、それとも隠蔽しているかのどっちかってことか…」
『まあ、あそこも一枚岩ではないからね。こればかりは仕方ないさ。それと一つ気になる事が』
「気になる事?」
『捕えた魔族からの情報では今回こっちに来た魔族は5人らしい。だが、捕まえたのは4人…』
「一人足りないのか…他国のほうに行っているのか、それとも国内でまだ見つかっていないのか…」
『現時点で君にやってもらった探知機の不具合は確認されていない。最悪の可能性としてはまだ未発見のダンジョンに出現したという可能性だが…』
「未発見ダンジョンってことは海中や地中、下手したら雲の上とかだろ?さすがにそれは把握できないだろうな…」
現時点で把握されているのは地上に出入り口があり、そういったものはほぼすべて把握されている。しかし、それでもダンジョンは新たに発見される。それは地下、工事などで掘り進んだ際に、たまたまダンジョンの入り口が発見されるというものだ。
それ以外だと洞窟の奥にあったり、海底にぽっかり空いていたりしている。そういって物は基本的に入りにくい場所は放置していても危険なので即座に封鎖しているのだが、そういった隠されたダンジョンがどれだけあるかはわからない。そこにいられるとこちらも対処ができないのが現状だ。
『まあ、とりあえずこちらでも警戒はしておく。万が一があった場合は君も即座に動いてくれ』
「了解」
最後にそう答えて通話を切った。
「………なぁんか嫌な予感がするなぁ…」
漠然とした不安が胸に渦巻く。
「ま、何とかなるだろう」
しかし現状でできることは何もない。今は推しのガチイベの応援に全力を出すことにし、気持ちを切り替えることにした。
さて、そんな不安がありつつも特に大きな問題は起きることはなく日は進み…。
「さあ、ラスランやっていくよー!!」
イベント最終日となった。
『うおおおおおおおおおお!!』
『イベントもとうとう最終日か…』
『なんかいろいろとあったな…』
「そうだね…いろいろとあったね…初日にいきなり他の人が1000万投げられ…」
『それに追いつくためにクロウさんが頑張り…』
『そしてガチャでクロウさんが盛大に爆死し…』
『おいやめろ(´・ω・`)傷をえぐるな』
「ま…まあ、グッズは他にも当たったから…」
『そうだよ!缶バッジ20個当たったじゃん!』
『…その数どうせいと(´・ω・`)いや、うれしいはうれしいけどさ…』
『痛バッグ作るとか…?』
『クロウさんたしか他にも大量の缶バッジ当たってたよね…』
『一種類5個ぐらいの缶バッジで埋め尽くしたバッグでも作るか…』
「作ったら見せてね?」
『覚えてたらやります(´・ω・`)』
「それじゃあ、いつも通りだけどラスランの説明するね。今日でイベントは最終日、0時に終わるからそれまでにギフトを投げ終えてもらいたいけど、高額のギフトはまだ少し待っていてね。そのギフトに関してはできれば終わる直前、1分前くらいに投げてくれると嬉しいな」
イベントは最終日の23時59分まで続き、0時となった瞬間のポイントで勝敗が分かれる。
最終日は他のライバー達も周囲の様子を伺い、イベント終了1分前まで高額ギフトは控え、最後の最後に一気に大量のギフトが投げられて一位を目指している。
日付変わる直前の大量のギフトの投下はこの配信媒体の名物であったりもする。
「まあ、その時間まで居れないって人もいると思うから、そういう人は気にせず投げてくれてもいいけどね」
『とりあえずランキング見た感じ、一応大丈夫だとは思うけど…』
『現時点で差は300万…まって、ずいぶん縮んでない?』
「ガチャの時で600万くらい差があったから半分くらいになってるね…。今回はいろいろとイレギュラーがあったし、どうなるか全く読めないな…」
『まあ、油断せずに最後まで楽しみましょうや( ˘ω˘ )』
「うん、そうだね。じゃあイベント最後ということで今日はたくさん歌うよー!」
イベントの最終日は基本的に歌枠になる。まあ、こうしなきゃいけないというわけではないのだが、最後だから歌ってみんなで盛り上がっていこう。的な感じなのだ。
推しであるみらいの歌を聴きながら宗谷はランキングの様子を確認しながらコメントを打つ。
とりあえず現状では急激に追い上げてきているライバーはいない。それでも最後の最期で抜かれる可能性は十分にあるため、一応警戒はしておく。
推し活用の資金が『なぜか』300万ほどしか残っていなかったので、追加で稼いで1000万ほどにまでためておいた。これで足りなかったら相手を称賛しよう。
さて、そんなこんなでイベントも最終局面、特に目立った動きが他のライバーにはなく、平和に過ぎていた。
「さて…イベントも残り5分、それじゃあそろそろ最後の曲いこっか!」
そういってラスラン最後として定番になっている曲を歌い始める。こっちもそろそろ他のライバーのファンが動きそうなので、しっかりとランキングのほうを注視しておく。
現時点でまだ差は300万ほど、さして動きはない。おそらく動くのは早くてイベント終了3分前、遅くとも1分前には動き出す。2位は投げられ方からして追い越しが発生してもおかしくない。ある程度動き始め察知したらこっちも動くようにしよう。
みらいは歌を全力で歌っている。それがイベントでライバーにできる全力だから。そしてその全力を応援するのがファンの役目。だから…
「動いた」
2位のイベントポイントが一気に上昇した。おそらくぬかすためにライバーのファンが投げ始めたんだろう。
「追いつかせんよ!」
宗谷も負けじと投げ始める。ちまちまと投げ始めても追いつかれる可能性はある、だから10万のギフトを投げ続ける。
『クロウさん!?』
『2位の人が追いかけてきてる!!』
「みんな最後までお願い!!」
みらいの願いにこたえるように様々なギフトが投げられていく。金額としては差がある。しかしみらいを応援したい気持ちには差はない。全員の想いを乗せ、時間は刻一刻と過ぎていく。
「残り10秒!」
歌い終え、最後の瞬間が迫る。
「あと5秒!4…3…」
ギフトを投げ続ける。ランキングを見ている暇はない。
「2…1…」
そして1週間という長く短いイベントが…
「0!!」
たった今終了した。結果は…
「1位だーーー!!」
『いよっしゃあああああ!』
『2位との差は…100万!?慢心してたら負けてたやんけ』
『やっぱ狙ってきてたか…』
『ふぅ( ˘ω˘ )』
「みんなありがとう。みんなのおかげで1位を取れたよー!」
『お疲れ様( ˘ω˘ )』
『いやー、いろいろあったけど何とかなったね』
『だねー。今回はいろんな意味で盛り上がったよ…』
「そうだね…さすがに少し疲れちゃったから、もう少しお話してから今日は終わりにしよっか」
『ういうい』
「特典とかは少し待ってね、デジタル特典とかは言ってくれれば明日から配るから」
『ういー』
さて、いろいろとあったガチイベも終わり、肩の力が抜けた面々は各々休みだすのであった。
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