S級探索者は推しと修羅場になる


「アハハハハハハ!いいねいいね!期待以上に楽しめそうだ!!」

「くぅ…!」


楽しそうに双剣を振るう流華とそれを何とか受け流していく魔族。明らかに魔族が劣勢ではあるが、それでも流華は楽しそうだ。


「流華は手加減しているが、一応あの速度についていけているのか…おそらく前に来た魔族よりかは実力としては上かな」


戦いの様子を眺めつつ魔族の動きを観察する。

前回来た魔族は魔法が主体の戦い方のようだったが、今回は右手に片手剣、左手では魔力を練っている魔法剣士スタイルだ。流華と戦闘スタイルとしては似ているが、双剣の流華とは違い、片手にのみ剣を装備している魔族は手数の差で押されるだろう。

その代わり、魔族の魔法に関してはまだ発動してないので正確なところはわからないが、結構細かな制御ができるだろう。流華は両手がふさがっているのもあって、広範囲にばらまく感じにしかできないので扱いがいささか雑だ。

戦い方のスタイルとしてはどっちも一長一短故に優劣が付くというわけではないが、それでも実力としては圧倒的に流華のほうが上に見える。


「ま、あの様子なら大丈夫だろう」


そう判断し、防御魔法を展開して流華達を取り囲むようにドームの魔法を配置する。


「これで邪魔は入らんだろうから好きにやれー、でも殺さんようになー」

「わかったー!」


宗谷の言葉に流華は短く答える。その間でも魔族への攻撃は収まることはなく、ほぼ一方的な展開になっている。


「…さて、俺は配信見てよ」


このダンジョンの特性のスタンピードはまだ何度か発生するが、それも脅威にはならない。

移動する気もないので、とりあえず気配がしたら一気に殲滅するつもりで魔法だけは準備しておき、配信を付けたままのスマホを手に取る。


『|ω・`)チラッ』

「クロウさんおかえりー、お仕事終わった?」

『いんや、まだ途中。今ちょうど手が空いたからちょこっと戻ってきた』

『クロウさんって探索者でしょ?仕事ってダンジョン関連?』

『そそ。ちょっと依頼でダンジョン内に行っててね。今それ関連で少し追加の依頼が入ったからそれの途中』

「え、じゃあもしかして今ダンジョンの中にいるの?」

『そだよー』

『え、それやばくね?大丈夫なの?』

『問題ない問題ない。ここの敵ならそこまで苦戦する輩もいないし、配信見ながらでも一応警戒しているからね』

「それならいいけど…でも、絶対怪我だけはしないようにね」

『ういういー』

『それにしてもクロウさんもなかなか謎よね。探索者しているのは知っているけど、ランクとかまでは知らないし』

「そうだねー、ランクっていくつなのか聞いても大丈夫?」

『残念ながら内緒―。調べようと思えば調べられちゃうから下手したら身バレにつながるからね』

『あらま、それなら仕方ない』

「それにしても探索者さんって調べられるんだ」

『一応連合のほうでリストがあるからね。功績も載ってるし、問題行動起こしたらブラックリストとしても載ってるよ』

『探索者って結構強い力を持っているからね。それを使って犯罪行為をする輩もいるらしいし、それを取り締まる専門の探索者もいるって話だからね』

『案外クロウさんがその探索者だったりしてw』

『そんな面倒な役職にはなりたくないです(´・ω・`)』

「違うみたいだね。でも、結構ランク高そうだよね」

『さてどうだろうね( ˘ω˘ )』

『追加で依頼もらうくらいだからBは超えてそうだよねー、でもそれなりに話しているけど、大丈夫なの?』

『大丈夫大丈夫、ただ戦っている子を眺めつつ、何かあったらフォローする役割なだけだから』

『新人さんの監修みたいな感じかな?』

『いや、たまたま合流した同僚が戦闘狂で手を出せないだけです(´・ω・`)』

『oh…(;・∀・)』

「ねえ、クロウさん。その同僚さんって女の人じゃない?」

『おっと?』

『流れ変わったな?』

『えっと…その…』

「女の人なんだね」

『アッハイ』

『一部の人にしかでてこないヤンデレみらいちゃんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『盛り上がってまいりましたwww』

『畜生!ここぞとばかりに楽しみやがって!!』


コメントの盛り上がりとは打って変わり、画面に映るみらいの目がいささか据わっている。

上級モンスターの殺気を受けても欠片も気にはならないのに、なぜ推しの圧と言うのはここまですさまじいのか、これがわからない。


「その同僚さんとは仲がいいの?」

『え…まあ、悪くはないって感じかな?別に一緒に探索する間柄でもないし…』

『それでも今回は一緒に探索している…と』

『依頼先のダンジョンにたまたまいただけなんやって(´・ω・`)』

『などと犯人は供述しており…』

『おいばかやめろ』

「ふぅん…私探索者じゃないからわからないんだけど、同じダンジョンに行って探索者に会うってことよくあるの?」

『あまりないかなー』

『そうだね。俺も探索者それなりにやっているけど、会うことは稀よ』


みらいの疑問に他の探索者であるリスナーが答える。


「へぇ…それなのにクロウさんは同僚さんと会って一緒に探索しているんだぁ…」

『これは有罪ギルティ

『違うんやって、本当に偶然なんやって(´・ω・`)』

『会ったことは偶然でも一緒にいるのは事実だよね?』

『アッハイ(´・ω・`)』

『つまり一緒に行くことをクロウさんは許可した…と』

『だって言っても帰ってくれる子じゃないんだもん(´・ω・`)』


流華は一度言い出したら聞かない部分がある。だから、諦めてついてくることを認めたのだが、まさかこんなところで弊害が出るとは思っていなかった。


「とりあえず落ち着いたらじっくりとお話させてもらおうかな」

『(´;ω;`)ブワッ』

『対応が浮気バレしかけてる夫婦なんよなぁ』

『真面目に仕事してただけなのにぃ(´;ω;`)ブワッ』

『ドンマイクロウさんw』


「はぁ…」


まさかの展開に思わずため息が出てしまう。まあ、こういった部分を楽しむのも一つの配信で、別にあれで私生活が束縛されるということもないし、問題はないのだが。

ネタにされている人を見るのは楽しいが、まさか自分がそのネタにされるとは思わなかった。


『それにしてもよくクロウさんと一緒にいる人が女の人だってわかったね』


何となくの疑問が出てくる。確かにみらいはこちらが何か言う前に会った探索者が女性だと思っていた。


「うん、だってクロウさん、その人の事『戦っている子』って言っていたじゃん?」

『あ、確かに。ログ確認したらそう言ってる』

「クロウさん、そういう時、同性の男性さんだと『戦っている奴』とか少し扱いが雑な感じになるんだ。そうじゃないからたぶん女性かなって」

『え』

『本人であるクロウさんが驚いているんですがw』

『本人が自覚してないことを見抜くとかすげぇ』

『それだけ見ているってことかぁ』

『俺達もたった一言で何かがばれたり…』

「さあ…どうだろうね?」

『ヒエッ』

『その笑みが怖くもあり魅力的でもある』

『やっぱりみらいちゃんは最高だぜ!』


そんな話をしている間に流華の戦いが終わっていることに気が付いた。


「ふぅー、まあ悪くはなかったかな」


薄い笑みを浮かべているが、流華自身汗一つかいていない。

対照的に魔族のほうは満身創痍の状態で身動き一つとれそうにないが、死んではいない。まあ、死んでなければそれでいいか。


『おっと、戦い終わったみたいだから一旦またROMる。後始末終えたら戻ってくるー』

『また同僚の女の人のところにいてらー』

「クロウさん…?」

『人聞きの悪い言い方せんといて(´・ω・`)』

「冗談だよ。気を付けてね」

『ういういー( ˘ω˘ )』

「でも後で話は聞かせてね」

『アッハイ(´・ω・`)』

『どうあがいても逃げれない』

『頑張れクロウさん!負けるなクロウさん!ガチイベはもうじきだぞ苦労さん!』

『最後www』

『苦労しているクロウさんかぁ…言いえて妙だな』

『解せぬ(´・ω・`)んじゃいてくるー』


とりあえず配信はつけたままの状態で俺は流華のところへ向かった。


「お疲れー、どうだった?」


防御魔法を解除して流華のところへと行く。声をかけつつ束縛魔法で魔族を捕まえ、魔力も封じておく。


「まあ、実力としては楽しめる範囲だったかな?前にも来てたんだよね?そっちとどっちが強そう?」

「んー…たぶんこっちかな?前の時は魔法が主体の魔族だったし、まともに戦うことなくワンパンだったからいまいち実力がな…」

「あ、そうなの?残念。で、これどうするの?」

「研究所に引き渡すよ。今日は俺はそれで帰るがお前はどうする?」

「んー…暴れたり無いからもう少し暴れてから帰ろうかな」

「あっそ。まあ大丈夫だろうが気をつけとけよ。万が一だってあるんだから」

「あれ?心配してくれるの?」

「仕事増えるの面倒だってだけだ」


同じS級探索者である流華にもギルマスから仕事が行っている。

もし万が一があり、彼女が探索者として活動できなくなった場合、それらの仕事は他の4人の探索者へと回される。それだけならまあ別に構わないのだが、そのうち二人は配信者として探索者の仕事の広報担当ともいえる立場なのであまり仕事を回すわけにはいかない。

なので俺ともう一人が開いた穴を埋めなきゃいけなくなるのだが、もう一人がいささか大雑把すぎるので、細かな仕事を任せることができず、そういったものは全部俺に回ってきかねないのだ。

流華は戦闘狂ではあるが仕事はきっちりこなすタイプだ。それゆえにいなくなった際の穴は結構大きくなりそうだ。


「あらそう?まあいいわ。安心して、もう少ししたらきちんと帰るようにするから」

「そうしてくれ。んじゃあな」


捕縛した魔族の姿を隠し、宗谷は一度ダンジョンの入り口へと転移した。


「………はぁ、本当に彼は一人しか見ていないようね…。うらやましい限りね」


ポツリと流華はそう呟く。

彼女にもかつて仲間がいた。しかし、その仲間は流華についていくことができなかった。

彼女の戦闘が好きな性格、そしてその実力の高さ。それについていけなくなった仲間は、流華をチームから外す決断をした。

その後も何度か別のチームに誘われ、所属することはあったがどこも流華についていけるチームはなく、入っては離脱の繰り返しになってしまう。

その結果、彼女自身に問題があるとみなされ、そのうちどこのチームからも誘いが来ることはなくなってしまった。

それでもいいと彼女は思っていた。戦うことが好きな彼女はそれさえあればいいと思っていた。ほんの少し感じる寂しさも剣を振るうことで振り払おうとしていた。

そんな時、たまたま宗谷と出会った。

別にチームとして活動したわけではない。たまたま探索した場所にいたのが彼だっただけ。

当時の流華はA級探索者だった。ギルドからの依頼で頻発するスタンピードの調査へA級ダンジョンへと向かったところ、たまたま同じダンジョンを探索していた宗谷と出会った。

宗谷の当時のランクはC。なぜA級ダンジョンにC級探索者がいるのか。疑問に思いつつも危険だと警告しようとしたタイミングでスタンピードが発生してしまう。

流華一人ならどうにでもできるが、他人を守りながらだとさすがにきつい。かといって宗谷を見殺しにする選択肢は出てこなかった。とりあえずやれるだけやろう。そう決めてスタンピードへと立ち向かおうとした瞬間。


「邪魔」


その言葉と共にすさまじい魔法が展開され、宗谷がスタンピードを一瞬で消し飛ばした。

明らかにC級とは思えない実力。話を聞いてみるとここにはよく来るというではないか。

実力とランクが見合っていない。なぜランクを上げないのかと聞いたところ彼はただ一言こう答えた。


「メンドイ」


ランクを上げれば責任も仕事も増える。それを嫌って彼は一番気ままに過ごせるC級を選んだらしい。

言葉少なく、ただ淡々とモンスターを倒していく彼にどこか親近感を覚えた。親しい仲間も人もいない。ただ無表情に作業のように魔物を狩っていく。ただ生活のためだけに探索者をやっているのが目に見えてわかった。

そんな彼が突如表情豊かになったのには驚いた。何かあったのかと彼に聞くと。


「応援したい子を見つけたんだ」


そう答えた。おそらくこの時に彼が今推している子と出会ったのだろう。

その後、その子を応援するためか彼はすさまじい速度でランクを上げ始めた。彼が推しを見つけてから2か月でS級探索者へとなったのだ。

さすがにそれは流華も驚いた。彼にはそれだけの実力があるとは思っていた。でも、まさかたったの2か月でS級になるとは。そんな彼を追いかけ、流華もS級探索者へと挑戦した。彼女にもそれ相応の実力が備わっており、S級探索者へと無事昇進することができた。

流華に宗谷への恋慕の気持ちがないとは言えない。しかし、別に恋人になりたいというわけではなかった。ただ、彼女がずっと欲していた存在。『仲間』。もしかしたら彼ならばそんな存在になってくれるかもしれない。心のどこかにそんな期待を抱きつつ、彼女は宗谷の足手まといにならないために、そして自らの楽しみのために、モンスターと戦い続けていく。


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