S級探索者は同僚と探索する


S級探索者。ランクが定められている探索者界隈で上から2番目のその探索者になるには探索者ギルドが定めた方法を取る必要がある。

まず大前提としてその試験を受けるにはA級探索者であること。そして一定数のA級とB級ダンジョンの踏破してあること。

その二つが認められた者にS級認定試験を受ける権利が与えられる。

その試験と言うのが高難易度であり、一週間のうちに指定されたダンジョンをソロ攻略せねばいけないというもの。

その試験の会場となるダンジョンはその試験の間は立ち入り禁止となり、どういった状況であろうと、誰かに助けられたタイミングで試験が失格となってしまう。

パーティーとしてA級ダンジョンを踏破できていたとしても、それをソロでやらないといけないとなったら話が変わってくる。

その難易度の高さから試験に挑戦するものがいても、失格になる者がほとんどだ。

なぜそこまで難易度が高いのか。それはS級探索者に任されるS級ダンジョンの特異性が理由だ。

何が起こるか全く予測できない。そんなダンジョンだからどんな状況にも対応できる人物のみがS級探索者となれる。

それは宗谷もそうであるし、そして…


「『双氷の剣士』…勝手に二つ名がつくなんて面白いものね」

「まあ、二つ名なんてそんなもんだろ。んで、なんでこんなところにいるんだ?」

「ただの鍛錬よ。ここって斬る相手探す必要ないから楽なのよ」

「相変わらずのバーサーカーっぷりで」


双氷の剣士と呼ばれている霜崎流華。水色のショートヘアーにTシャツと袖なしのジャケットにショートパンツ。露出度はいささか高めだが、動きやすさを重視した服装とあまり変化しない表情。そして氷属性という魔法からクールなイメージを持たれがちな彼女だが、実際はかなりの戦闘狂だ。

暇があればダンジョンに潜って戦っており、スタンピードなどが発生すると嬉々として突撃していく。

まあ、表情に出ることはめったにないので、端から見てもわからないのと、宗谷と同じく配信をしていないから、そういった実情は外に漏れることなく、クールビューティーのイメージが保てている。宗谷としてはたまに手合わせ挑んでくる時もあって戦闘狂の流華は少し苦手な人だ。


「それであなたはどうしてこんなところに?あなたがS級ダンジョンにいるなんてめったにないじゃない」

「ああ、俺は依頼だよ。ダンジョンに設置されている探知機のアプデ」

「あのアナログでしかバージョン上げれないやつね。情報盗まれないためとはいえ、大変ねぇ」

「まあ、仕方ないさ。んじゃ俺は先進むからまたな」


そういって探知機がある場所へと向かおうとしたが、流華がついてくる。


「………なんでついてくるんだよ」

「面白そうだから?ここしばらく探知機のアプデなんてなかったから、何かあったってことでしょ?」

「ギルドから何も聞いてないのか?」

「ええ、まだね。そういうってことは何かあったのね?」

「まあな。そこらへんさすがに俺からは話せないが、必要になったらあとで話す。それより先にギルドから情報が入るかもしれないがな」

「そう。まあ私は敵を切るだけだから問題ないわ」


その言葉にため息を吐きつつもさっさと先に進んでいく。

今いるS級ダンジョンは定期的にスタンピードが発生する。しかし、それにもちゃんとした周期があり、その間は基本的にモンスターが出てこない。

その間にさっさと先へと進んでいくのだが、さすがにS級探索者が二人だとその速度がえげつない。

一度の合間に数階ふっ飛ばすように進んでいき、戦闘に関しても大量の敵が一瞬で消し飛んでいく。


「相変わらずえげつない攻撃範囲ね」

「この方が楽だからな。そっちだって凍らせる範囲に関してはとんでもねぇじゃん」


宗谷は様々な魔法を駆使して広範囲をせん滅している。流華も手近なモンスターは切り裂きつつ、離れた位置にいるモンスターに関しては凍結させてその後砕いたりしている。

殲滅という点では宗谷が上だが、制圧面で言えば流華も引けを取らない。まあ、彼女もS級探索者だ。その実力は折り紙付きだろう。


「そろそろ探知機の場所じゃなかった?」

「だな」


サクサクと先に進んでいき、探知機がある階層へと到着する。その時宗谷のスマホに通知が入る。


「む」


即座にスマホを手に取ると、そこには推しである桜乃みらいが配信を開始したという通知だった。


「どうしたの?」

「ん?ああ、いつもの事だから気にしなくていい」


インカムを左耳に取り付け、配信へと赴く。


クロウさんが入室しました。


「あ、クロウさんこんにちは。相変わらず早いねー」

『通知が来たら即座に来たからね。でも、申し訳ないけど仕事中なのでROM』

「あ、そうなんだ。頑張ってね」

『ういういー』


インカムから推しの声を聴きながら探知機へと向かっていく。


「ふぅん…その子が君がご執心の子なんだ」

「まあ、そんなところ」

「へぇ…」

「……妙な事考えるんじゃねぇぞ?」


何となく含みがある笑みを浮かべているのでとりあえず牽制しておく。


「彼女って探索者なの?」

「いや、一般人」

「ふぅん…じゃあ無理だね。一般人に手を出すわけにはいかないし」

「探索者だったとしても手を出すなよ…」


相手が同じS級探索者や、ランク的に上であるL級探索者ならまだしも、自分より下のランクの探索者に何かするのはさすがに問題がある。

まあ、流華に関しては本来そういうことはしない。ただ、同じS級探索者である宗谷が気に入っている相手だから興味を持っているだけだ。


「ほら、んじゃさっさと終わらせるぞ。俺は帰って配信に専念したい」

「はーい」


流華を連れ、探知機へと向かう。本来は今日一日で全部終わらせるつもりだったが、ゲリラ配信が入ったのなら話は別だ。

一日ですべて終えろとまでは言われていないので、何日かに分けても問題ないだろう。


「おっと、あったあった」


探知機を見つけたので、さっさとカードを入れてアプデを済ませる。


「これでおしまい?」

「ああ。本来なら他のS級ダンジョンのほうも済ませておきたかったが配信が始まったからな。今日はここまでにして…」


そう話している時に突如仕事用のスマホに電話が入る。


「もしもし?」

『あ、宗谷様すいません。今大丈夫ですか?』

「何かありましたか?」


少し焦ったような声の隊長さんからの電話で何事かあったと推測できる。


『はい、実は今アプデしてもらったダンジョンなのですが、そこでアプデが完了すると同時に魔族の魔力が探知されました』

「それって…」

『はい、反応の位置からして最下層、そちらにいます。魔族が』

「はぁ…わかった。ああ、それと一つ確認だ」

『なんでしょう』

「ここにたまたま出くわした流華がいるんだが、こいつにも伝えていいか?」

『構いませんが…捕獲が目標ということだけはお伝えください』

「あいよ」


通話を終え、ポケットにスマホを入れる。ちなみに配信を見る用のスマホとは別だ。


「さて、追加の仕事が発生した」

「あら、珍しいわね」

「ああ。で、向かいながら説明するから早くいくぞ」

「わかったわ」


探知機から離れ、最深部目指して駆け出していく。

その間に今回の依頼に関する話をしていく。少し前に発生したB級ダンジョンに発生したA級モンスターハイミノタウロスというイレギュラー。それに関係した魔族の存在。そして魔族が持つ特殊な魔力。それを探知するための今回の探知機のアプデ。そしてそれが反応したということを一通り説明しながら進んでいく。


「魔族ねぇ…。まさかそんな存在が来ているとはね」

「んで、その魔族らしき奴がここの最下層にいるかもしれないんだと。というわけで捕獲してくれって追加依頼だな」

「ふぅん…その魔族って強いの?」

「さあ?万が一考えて展開した防御魔法突破できず、配信開始したからちょっと加減抜けて殴ったら一撃で気絶したから弱いんじゃね?」

「ふぅん…それなら期待外れになっちゃうかな」

「まあ、もしかしたらあいつが弱かっただけかもしれんから油断しちゃだめだがな」

「そう。少しは楽しめるといいわね」


そんな話をしつつ、最下層まで進んでいく。

道中のモンスターに関しては強いやつもいたりはするが、宗谷と流華の二人には他の奴と大差がない。

さして苦労することもなくどんどん降りていって最下層へと入った瞬間、流華が足を止めた。


「どうした?」

「…これが魔族の魔力なの?」


流華の言葉の通り、最下層には魔族が持ちうる独特の魔力が満ちている。


「ああ、この感じからしてまだ転移してくる前か。間に合ったとみるべきかね」


大量のモンスターを食らいそれを自らの糧として魔力を増強させ、別世界との転移門を開く。

前回やってきた魔族と同じ手法だろう。


「へぇ…なかなか面白そうね」

「あー…スイッチ入っちまったか…」


わずかに口角を上げる流華。しかしその目は明らかな闘志が宿っている。


「私がやってもいいんだよね?」

「捕獲って部分を覚えているならな」

「大丈夫大丈夫。ようは死んでなければ大丈夫ってことだから」

「不安しかねぇ…」


とりあえず前回と同じく魔力が濃いほうへと向かう。そこには前回と同じく転移用の球体がポツンとクレーターの中心に鎮座していた。


「あれが?」

「ああ、転移用の球体だな」

「水晶かしらね?」

「さてな。そこらへんはわからん。にしてもこのダンジョンの特徴だからか、今回はモンスターがいないな」


前回は球体の周囲を取り囲むようにモンスターがいたが、今回は全くいない。

おそらくスタンピード発生以外の魔物が出てこないこのダンジョンの特徴が故だろう。


「あのまま待っていれば来るかしら」

「だと思うぞ。とりあえずどうする?魔族はお前が相手するとして、来た後のスタンピードは俺が対処しとけばいいか?」

「ええ、そうしておいて。邪魔したらあなたでも容赦しないわよ」

「魔族殺さなきゃ別にいいよ。こっちも配信見ていたいし」


そんな話をしている間に再度スタンピードが発生したのか、大量のモンスターが地面を揺らしながらかけてくる。

しかし、今回は宗谷たちのほうへとは向かってこず、そのまま球体のほうへと向かっていた。

迫ってくるモンスターたちをそのまま球体が食らっていきどんどん魔力が高まっていく。


「そろそろか」


転移魔法が発動した際、どういう影響が来るかはいまだにわかっていない。

さすがに転移を妨害したら隣にいるバーサーカーがどうなるかわからないので、とりあえずいつでも防御魔法を展開できるようにスタンバっておく。

球体がどんどんモンスターを食らっていき、その輝きを強めていると唐突に食べるのが止まった。

それと同時に防御魔法を展開し、クレーターを包み込むと同時に残っているモンスターをすべて消し去る。

放たれる輝きがより一層強くなり、球体が粉々に砕け散る。以前は唐突だったのでよく見ていなかったが、今回はこれから起きることがわかっているので少し注意深く観察してみる。

砕けた球体を中心にとてつもない魔力が渦巻き、空間がゆがむ。そして一瞬だけ空間に穴が開いた瞬間、中から魔族が姿を現した。


「どうやら無事つながったようですね…。そして」


魔族は自分の周囲に展開してある防御魔法を確認、その後その先にいる宗谷達を見据える。


「なるほど…こちらにも厄介そうな人たちがいるということですか。彼もあなた方に捕まりましたかね」

「ま、そんなところだ。一応聞くがおとなしく捕まる気は?」

「さすがに抵抗させていただきますよ。あなた方を倒せば、こちらもそれなりに準備が整えられそうですので」

「はぁ…そうだろうな…。んじゃ行ってこい。くれぐれも殺さないようにな」

「わかってるよ」


パチンと指を鳴らして防御魔法を解除すると即座に流華が飛び出して魔族へと斬りかかった。


「さあ、異世界からの侵略者さん!あなたはどれだけ強いか!楽しませてよね!!」



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