S級探索者は稼いでおく


「ん~…もうちょい予算補填しておいた方がいいかなぁ…」


自室にてPCで推し活用の予算が振り込まれている口座を眺めつつ考える。

推しである桜乃みらいがガチイベをやるのでそれ用の予算が必要なのだが、現時点では一千万ほどある。

普通ならそれくらいあれば余裕ではあるのだが、ダンジョンによってハイリスクだが、それなりに稼げるようになった影響か、たまにとてつもない量を投げる人も出てくる。

そういった人物がいるライバーは普通にこれくらいの予算でも足りなくなったりするので恐ろしい話だ。

だからそういった人物が出てきた際は主に宗谷がメインで投げて張り合ったりしている。


「うし、久々のガチイベだし、稼ぎにいくかぁ」


立ち上がって準備を済ませて部屋を出る。


「ダンジョン行ってくるぞー」


シェルフの部屋の前で声をかけるが案の定返事はない。また寝てるかゲームに集中しているんだろう。

まあいつもの事なので気にしないでおく。いつものように変装を済ませて今回はA級ダンジョンへと向かう。

日常的に使う魔石などの確保にはB級ダンジョンへと赴くのだが、こういったある程度余裕がある時の推し活資金の稼ぎ時にはA級ダンジョンへと赴いている。

ちなみに、最低限の安全性が約束された場所という条件付きだがS級ダンジョンもいくつか存在している。まあ、そこに行けるのは一定数の許可されたA級探索者とS級探索者のみだが。

宗谷もそこには行けるのだが、面倒なモンスターも多く、急ぎの稼ぎじゃない限りはA級ダンジョンにしか行かない。

転移魔法でA級ダンジョンへと赴き、目に付いたモンスターたちを適当に倒して素材と魔石を集めていく。

これをギルドに卸すことでそれなりの金額を集めることができるので、一度回れば現時点での資金を倍以上にすることも可能だろう。

のんびり歩きつつも魔石や素材を集めていると突如スマホがなった。

電話だったので見てみるとギルマスの名前が書かれている。


「もしもし?」

『やあ、今大丈夫かい?』

「A級ダンジョン潜ってるけどまあ大丈夫。なにかあったのか?」

『…まあいいか。それでこの間捕まえた魔族に関してなんだけど』

「ああー、何かわかったの?」

『ああ、一応あの魔族の正体がな。やはりこことは異なる世界の住人だったようだ』

「まあ、そうだろうね。でもなんでそんな存在がダンジョンに?」

『ダンジョンというのはどうやら世界を繋ぐ通路のような物らしくてな。そのダンジョンに飛ぶことで別世界へと行くことができるらしい』

「ほえー」


突如現れたダンジョンに魔素という今まで存在しなかった素材。それらが異世界同士をつなぐ役割があったというのであったとしてもまあ理解はできる。

なぜそれがこの世界とつながったのかは不明だが。


「それでなんでこの世界に来たの?」

『それが新たな世界を手に入れるためらしい』

「つまり侵略しに来たと」

『そうなる。それでどうにか対処しないといけないのだが…』

「あの程度の実力ならどうにかなるんじゃないかなぁ」


あの魔族が先遣隊として派遣されたとしても、あの防御魔法に傷一つつけれないとなればその実力はそこまででもない。

そしてあの程度の実力ならどれだけ来ても問題にはならない。それはおそらく他のS級探索者にも言えるだろう。


『それに関しては否定できないが…それでも、異質な魔力を持っている存在はどんな影響をモンスターに与えるかわからないんだ。あのイレギュラーを大量に出せるとしたら厄介なことになるだろう?』

「あー…」


この世界とは別の世界にいるからか所持している魔力が少し違う。それゆえか、この世界に順応しているモンスターにどういった影響を与えるかがいまいちわからない。

あの時発生したイレギュラーのように進化するだけだったらまだマシなのだが、その異質の魔力によって特殊能力などが追加された場合厄介すぎる。

侵攻してきたということはおそらくダンジョンの外にも出れるんだろう。そうなった場合、一般人への被害がどうなるかもわからない。それは推しである桜乃みらいへの影響にも直結しかねない。


「確かに厄介そうだ」


もしそうなったら魔族など完全に絶滅させるが。


『まあ、そういうわけでできる限り先手を打ちたいんだ』

「それはいいが何をすればいいんだ?」

『君から渡された異質の魔力を固めた玉を解析することで探知機を作成することができた。それらを国内すべてのダンジョンに設置してほしい』

「何それだるい。それ別に俺じゃなくてよくね?」


ダンジョン内部の事はダンジョンの中からでしかわからない。だから発見済みのダンジョン内部での異常を見つけるために、それ用の探知機と送信機が各ダンジョンに設置されている。それに追加したいのだろう。

だが、日本には無数のダンジョンがある。さすがにそれらすべてを一人で設置していたら数日かかるどころの事じゃない。


『ああ、別に君一人にすべてお願いしたいというわけではない。当然B級ダンジョン以下は適当にごまかした依頼で他の探索者にやってもらう。君にはA級ダンジョン以上を頼みたいんだ』

「あー、そういうことね。まあ、今はそれなりにお金欲しいし、その依頼受けとくよ」

『おや、あっさりだね。なにかあったのかい?』

「ああ、推しがガチイベやるんでね」

『そうなのかい。そこらへんはよくわからないが大変だね』

「ま、そこそこにな。んじゃあ手に入れた素材と魔石換金したら行くが、どこに行けばいい?」

『あの研究所にあるからそれで』

「了解」


そういって通話を切る。


「さて。んじゃあさっさと戻ってお仕事しますかね」


ダンジョン探索を切り上げ、いったんギルドへと向かった。


「あ、宗谷様。お待ちしておりました」


素材の引き渡しを終え、いつも通りお金は振り込みにしてから研究所へと転移する。

ちなみにその前に一度自宅へ戻って使う予定の素材を置いてきたので、その時に変装も解いている。


「やほい、ギルマスは?」

「今こちらにはおりません。ただ、依頼については話を伺っていますのでこちらへ」

「ういうい」


警備の隊長さんが研究所の中に入ったのでついていく。

そして応接室へと入ると、そこには一枚のカードがテーブルに乗せられていた。


「こちらがご依頼の品です。中にカードが入っておりますので、それを探知機へと差せば機能が追加されますので」

「ちなみに予備は?」

「ございますが、他のご依頼の方用に回しておりまして…可能であれば壊さずにお願いしたいです」

「了解」

「それともし依頼中に魔族に遭遇いたしましたら可能でしたら拿捕をお願いしたいとのことです」

「あいよー。完了したらこれ返せばいい?」

「はい」

「んじゃあささっと済ませてくるね」

「よろしくお願いします」


頭を下げる隊長に手を上げて答え、カードを懐へと入れて研究所を出た。


「とりあえず近いところから行くか」


一旦自宅に戻って変装をしてから、A級ダンジョンへと赴いた。


ダンジョンに設置されている探知機は研究所で作られた特殊な物だ。

機能としては魔力の濃度感知が主であり、そのデータを研究所などに送信している。ちなみにこれの副作用として配信などができるようになっていたりもする。

それなりのサイズの機械だからモンスターに狙われたり、探索者やモンスターの攻撃の流れ弾によって壊されないために、ステルス機能と防御魔法、あと最近は時空魔法による自己修復機能などもついており、それらをダンジョン内の魔素を使って常時展開している。

だから意図的に壊さない限りは壊れないし、ステルス機能も搭載されているから見つけるのも一苦労だ。まあ、そこまでして壊す必要はないだろう。

そして設置されている場所というのがそのダンジョンの中層…正確にはちょうど真ん中の階層当たりだ。

最初は上層に設置しようとしていたらしいが、感知範囲的に下層以下に届かないという欠点があり、それを補うために仕方なく中層当たりに設置するようになっている。

場合によってダンジョン自体がかなり深いせいで下層よりに設置されていたりとすることも有る。

とりあえずサクサクとダンジョンを進んでいき、途中途中で素材や魔石を回収して臨時収入にしつつ探知機にカードを追加していく。


「ウィルスやデータ奪取とか警戒しているとはいえ、こういうところアナログなんよなぁ」


探知機と研究所でデータのやり取りがあるのでこういった追加データとかも転送すればいいのだろうが、無線などで飛ばすといろいろと危ないらしくこういった重要な物は直接やる感じになっている。

まあ、そこらへんはよくわからんし、そういった物の対策なんてのは常にいたちごっこだろうから仕方ないが。


「えーっと確かここら辺に…あったあった」


そんなこんなしている間に探知機を見つけたのでカード差し込んで探知機をアップグレードしていく。

さっさと片付けたいのでサクサクと進んだ結果、とりあえずA級ダンジョンはこれで最後となる。

道中に異変もなく、アプデした直後に探知機が反応した、なんてこともなく平穏無事に終わっていく。次はS級ダンジョンなのだが…。


「今あるS級ダンジョンは…7つだっけ。どこも面倒なんだよなぁ…」


現在国内で確認され、その後問題なしと判断されたS級ダンジョンは7つ。そのどれもが様々な特異性を持っている。

どれも宗谷にとってはそこまで苦ではないのだが、それでも面倒な事には変わりがない。


「まあ、それでも依頼として受けたんだから行くかぁ…」


そういって転移魔法でダンジョンの外へと出る。

可能であれば転移魔法で速攻で探知機のところへと飛びたいが、あいにくとそれはできない。

原因としてはダンジョン内の座標は入り口以外が常に変化しており、以前訪れた感覚で転移すると最悪壁の中へと押し込まれたりしてしまう。

だからダンジョン内では同フロア内の転移か、もしくは内部から入り口への転移以外が使えないのだ。

というわけで一旦A級ダンジョンを出てからS級ダンジョンへと向かう。とりあえずは近場のところから行くことにした。

S級ダンジョンの入り口からダンジョンの内部へと入る。ダンジョン内部は他のダンジョンと違いはなく、無駄に広い洞窟のような見た目だ。


「えーっとここの特異性ってなんだっけ…」


そんなことを考えている間に地面が揺れていく。


「あー…そうだった…」


ひどく面倒そうな声を出しつつその揺れの原因のほうへと顔を向ける。

その視線の先、そこには大量のモンスターがこちらへと押し寄せてきている。そのモンスターのランクはC~Aと様々だが、それらが入り乱れて一直線に宗谷へと向かってきているのだ。


「ここはこういうスタンピードが一定間隔で起きる場所だっけ」


大量のモンスターが入り乱れる大移動。それがスタンピード。これがダンジョンの外へと出る現象が魔窟暴走であり、スタンピードはダンジョン内部限定という違いがある。


「まあ、面倒ではあるが問題ないだろう」


両手で無数の魔法陣を展開し、それを一斉に放つ。放たれた様々な属性の魔法が向かってきたモンスターたちを一体残さず殲滅していく。

魔法の乱射が終わった先には土煙と共に様々な魔石と素材が入り乱れるありさまだった。


「よし、進むか」


散らばっている素材と魔石を引き寄せ、歩き出そうと一歩進んだ時。


「珍しい人がいますね」

「げっ」


嫌な声が聞こえ、振り返ると、そこには双剣を腰に差した水色の髪の女性が立っていた。


「さすがにその態度は失礼では?『殲滅の魔法師』さん?」

「その名で呼ばないでほしいんだがな…。あんたこそなんでこんなとこにいるんだ?『双氷の剣士』霜崎流華」


国内にいるSランクの一人、霜崎流華が穏やかな笑みを浮かべていた。



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