S級探索者は魔族を捕まえた
世界探索者管理機構。通称WSMと呼ばれているこの組織はダンジョンが発生してからしばらくしてから発足された組織だ。
世界中で様々な脅威を持ち、それと同時に資源ともなるダンジョン。それらを探索するための探索者を管理するための組織であり、危険度が高いダンジョンの魔窟暴走などでは高ランク探索者などへの依頼や派遣を担っている。
探索者の管理だけでなく、ダンジョンに関する研究も担っており、それらのための支部が各国に配置されている。それが探索者ギルドだ。
探索者ギルドの権力はダンジョン関連にのみにかかわり、たとえどれだけの実力があろうとも国政に影響を与えることはない。逆にどれだけの利益があろうともダンジョンに関しては国家からの圧力は全く影響を与えることはない。まあ、あくまでそれは『表向き』ではあるが。
当然様々な利権や思惑が絡まり合うのでいろいろと厄介らしいが、まあそこらへんはどうでもいい。
そしてダンジョン研究には当然表に出せないことも数多くある。怪我を治す回復ポーションや魔法を使うための魔力を回復するマジックポーション。それらを開発するにあたり、安全性を確かめるために人体実験を行う必要もあった。
当然ある程度の安全性は確かめてから実験をしているが、中毒性なども調べないといけない。それらを研究する機関もWSMの管理の元各国に秘密裏に配置されている。
それは宗谷がいる日本も例外ではない。人里離れた場所にひっそりと建つその研究施設。
地上には何の変哲もない役所のような建物が建っている。それはこの周辺の管理のための建物だと銘打っている。しかし、その建物はブラフで研究所のメインは地下だ。
特定のところからしか行けないその地下の研究所。そこが日本に秘密裏に設置されているWSM管轄のダンジョン研究所だ。その入り口に唐突に仮面をつけた黒ずくめの男が現れた。
「何者だ!!」
唐突に現れた黒ずくめの男に警備をしていた者たちはダンジョン素材を使った特殊なマシンガンの銃口を向ける。
男はパチンと指を鳴らすと、その姿が一瞬で変わった。
「ういっす。お疲れー」
気楽な様子で変装を解いた宗谷が片手を上げる。
「宗谷様でしたか。お疲れ様です」
「いつもあの姿できてるのに毎回銃口向けてくるよな。そろそろ覚えないのか?」
「覚えておりますよ。ただ、あの姿だけで宗谷様だと判断するのは危険なので」
「まじめだねー」
「職務ですので」
警備の隊長である男性は宗谷の言葉にそう答える。
「そういやギルマスは来てる?」
「はい。すでにいつもの部屋でお待ちしております」
「あいよ。んじゃあ入らせてもらうが…一応これも調べといて」
そういってパチンと指を鳴らすと唐突に一人の男が空中に姿を現した。
騒ぎになると面倒なので透明化の魔法を付与し、運ぶのだるいので浮かせて運んできたのだ。
「これは…」
「ダンジョンで捕まえた男。魔族とか言ってたぞ」
「今回は彼の調査に?」
「そそ。なんか特殊な魔力持ってるし、たぶん別世界の奴よ」
「別世界…シェルフさんと同じ世界でしょうか?」
「さあ?何となく違う気がするがな。まあ、そこらへんはこいつに聞けばいいだろう」
「そうですね。ではこちらの腕輪をつけさせていただきます」
そういって隊長が一つ腕輪を魔族の手首に着けた。これは特殊な磁場を発しており、この地下の中心地にある原石からは離れられないようになっている。
研究所内ならばある程度自由に動けるが、外部に出ようとした瞬間にすさまじい力で研究所のほうへと引っ張られる。
ちなみに転移などで別の場所に飛んだ場合、腕がちぎれるまで引っ張られるか、最悪地面に埋もれて死ぬ。まあ、それができないように建物内での転移魔法に関しての阻害もされているのだが。
「んじゃ中に入らせてもらうな」
「はい、お気をつけて」
施設の正門を開け、屋内に入る。
無機質で窓がない廊下を歩いていく。閉塞感が強いが、ここら辺はいつもの事なので特に気にせずすいすいと歩いていく。
S級探索者である宗谷は何度かここに来ている。シェルフを保護した際も一度ここに来て、必要なデータを取って敵意なしと判断されたのでとりあえず要監視として宗谷が引き取ったのだ。
ぽつぽつとある扉を通り過ぎつつ、ギルマスがいる部屋を目指す。
「…ココだっけ?」
一つの扉の前で立ち止まる。表札も何もないので部屋の違いがいまいちわからないが、確か記憶が確かならこの部屋だったはず。
コンコンッと扉をノックすると中から聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「誰だ?」
「宗谷だ」
「ああ、来たか。入っていいぞ」
返事があったので室内に入る。ギルマス用にあつらえられた室内は簡素な机と書類を保管するための棚がいくつかおいてある。
一応飲み物を入れるための冷蔵庫やウォーターサーバーなどもあるが、娯楽的な物は一切ない。
「ほい、お届け物だぞ」
「雑だないつもながら」
ポイっと浮かせていた魔族を投げるように雑に床に落とす。敵意が無い相手ならもう少し丁寧に扱うが、いきなりこっちを下僕にしようとした輩に容赦する気はない。
ギルマスもいつもの事だからか、呆れたようにため息を吐くだけだ。探索者ギルドにいる時よりいささか気安い感じだが、これが彼の本来の対応だ。
探索者ギルドでは他の職員の目もあるのでしっかりとした対応をしてくれている。
「それとこれ、おそらくハイミノタウロスが出るきっかけというか影響だと思われしもの。壊れてたから魔法で直しといた」
「そうか、これも調査しておこう」
周囲の魔力や魔物を食らっていた球体は悪魔が出てきたときに割れてしまったが、宗谷は一応時間を操る魔法も習得している。無機物であれば一日前の状態へと戻すことができる魔法で、球体の状態を1日前に戻した状態で封じて再度発動しないようにしておいた。
軽く調べた感じ、内部に転移の魔法が籠められており、どこかから飛ぶためのゲートの出口のような物のようだ。
「一応内部の魔法解析してみたがな。どうもそれを先に転移させて、その先で得た魔力で出口を作りだし、元の場所との転移門を一時的につなげるって感じらしい」
「ふむ、これくらいの物なら先に飛ばすことができるという感じか」
「ああ。それとほい、これ。魔族の魔力を固めたやつ。こっちも渡しとく」
「だから雑にやばいものを渡さないでよ」
男が持っていた魔力を吸収・圧縮して固形化させたもの。それもギルマスに渡しておく。
これを研究すれば別世界の魔力との違いやそれに伴う扱い方や対策など、様々なことがわかるかもしれない。
「よし、渡すもの渡したし、あとは任せた!」
「って何帰ろうとしてるんだい。調査に協力してくれよ」
「必要な物は渡しただろ?後はそっちの仕事のはずだ」
「確かにそうだが…彼が起きて暴れたら対処できるかは不明なんだよ」
「魔法は封じてあるから大丈夫だろ、ここの職員なら。それより今推しが配信してるからそっち優先したい」
「はぁ…相変わらずだな。まあ、いいけど何かあったらまた頼むよ」
「あいよ。んじゃなー」
後の事は任せて部屋を出る。本来はすぐに転移して配信に戻りたいが、この施設内では転移魔法は使えない。だからさっさと施設から出て隊長に軽い挨拶を済ませてから転移で自宅へと飛んだ。
「ただいまっと」
「みゃ~」
帰宅するとルディがすぐにすり寄ってきた。
右手でルディを撫でながら左手でスマホを操作してみらいの配信へと戻る。
『帰宅!』
「おかえりなさいー、お仕事終わったの?」
『うむ、報告だけだったからね』
『クロウさんって探索者だったよね。何かあったの?』
『まあ、そんなところ。報告済ませたからあとはギルドに任せる感じだけどねー』
一緒にみらいを推しているリスナーの中には宗谷が探索者をやっていることを知っている者も多い。
まあ、その正体がS級探索者である黒川宗谷だとまでは知らないが。
『ちょっと家の事やってるねー』
「はーい。あ、そういえば再来週からなんだけど、ガチイベしたいんだけど、皆大丈夫かな?」
『ガチイベ?何出るの?』
リスナーの一人が問いかける。
この配信媒体ではイベントというものが月に何度か行われている。
他企業のコラボだったり、配信内で使えるオリジナルのギフトやギミックを作れたりと、様々なイベントがある。
そのイベントはギフトという配信内のポイントを使うことで応援でき、使われたポイントで順位が決定する。
そのイベントによって規定ポイントをこなせば達成できる達成イベントと上位数名のランカーが選ばれる競合イベントの二種類がある。
皆推しを1位にするために大量のポイントが投げ込まれているのでなかなか激しい戦いとなる。まあ、そのポイントの大半が推しの収入になるのでなおのこと投げまくったりしているのだろうが。
「えっとね、雑誌のイベントなんだけど、ここの宣伝とそこで活躍している配信者さんのインタビュー記事なんだって」
『へー。ああ、このイベントか。上位7人って結構いるね』
「うん、1位は見開きで、2位と3位はそれぞれ1P、4位から7位の人はそれぞれ二人で1Pみたいだよ」
『やはりガチイベか、いつ出る?私も同行しよう』
『クロウイン』
『その文字見てるとスローインに見える不思議』
集めてきた魔石を保管場所へと置き、うがい手洗いなどを済ませたので会話に入る。
ちなみにシェルフは一切部屋から出てきていないが、おそらく新しく買ったゲームをやっているのだろう。
「また来週あたりにガチイベのスケジュールを告知するからそれを見てね。あとまたガチャ枠するからねー」
『ガチャ枠…ヘッダーガチャ…うっ…頭が…』
『ああっ!クロウさんが過去イベでやった10連全部ヘッダー被りのトラウマをよみがえらせている!!』
『あれはおもしろ…じゃなくて大変だったね…』
『おい、今面白いとか言おうとしただろ』
『ナンノコトカナー』
「あはは…今回もグッズとかもあるし無理のない範囲で引いてくれたらうれしいな」
『あいよー』
配信アプリではユーザーにもマイページ的な物がある。そこでヘッダーの部分を好みの画像に変えることができ、それらを特典の一つとして配布されている。
それが嫌なわけではないが、フルコンプした後の10連ヘッダーはつらい事件ではあったなぁ…。
『ほかには何かやるの?』
「まだちょっと考え中のところがあるけどね。できる限り皆が楽しめそうなことをやろうと思ってるよ」
『どんな企画だろうと全力で応援させていただきます!』
「うん、うれしいけどクロウさんはガチャとラスランの時だけ全力出してね」
『クロウさんが本気出すと企画つぶれかねないからねww』
『さすがにそこまで空気読まないことはしないよw』
それなりに稼いでいるからこういうところで応援できるポイントも結構ある。とはいえ、他のファンが楽しめなくなるような状態にはしたくないのでさすがにそこらへんは加減する。
とりあえずガチイベの為の予算を計算しつつ、そのまま配信で推しと雑談をしていた。
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