S級探索者はハデスと魔術戦を繰り広げる



傑たちが戦っている間もクロウとハデスの激戦は続いていた。

ハデスを取り囲むように魔法陣を展開し、そこから細かな魔力弾を展開するが、それらをハデスは気合と共に放つ魔力の衝撃によって撃ち消し、展開されている魔法陣すら破壊していく。もともとダメージを与えるのが目的ではなく、牽制程度だったので問題なかったのだが、それでもわずかな隙を作る事すらできなかった状況に舌打ちが出てしまう。


「どうした?その程度か!」

「慢心するにははえぇだろうが」


勝ち誇ったような笑みを浮かべるハデスに対し、悪態で返す。

クロウから有効打をあたえることはできていないが、ハデスの攻撃も効いてはいない。そもそもまともに当たってすらいないのだが。


「これを受けてもそんな減らず口が叩けるかな!」


その言葉と共にハデスの手の上に魔力球が生み出される。


「くらえ!!」


言葉と共に魔力球を握りつぶすとクロウの周囲に一回り大きくなった魔力球が無数に出現し、取り囲んでくる。そのまますべての魔力球が大爆発を引き起こしクロウを飲み込んだ。


「クロウさん!?」

『やべぇ、まともに食らったぞ!』


爆発による衝撃波が防御結界をわずかに揺らす。クロウの姿は爆煙によって見えないが、その煙が揺らいだ瞬間に爆煙から飛び出し、ハデスへと駆けていく。

駆けながら両手首と両足首にとある魔法陣を展開する。そしてその状態でハデスへと殴り掛かっていった。


『まさかの物理!?』

『クロウさんって魔術戦が基本なんじゃないの?』

「クロウは私達と暮らしていた時は魔術なんて使ったことないわよ」

「そうなんですか?」

「うん、私達フェンリルは魔術とか扱えないから接近戦ばかり鍛えていたんだ」


マーサの言葉を細くするようにリルが答える。


「私達の膨大な魔力は基本的に身体強化に使われている。体を丈夫にしたり、爪や牙の鋭さを増したり、筋力を上げたりね。クロウにはそれをきっちり教え込んである。だから格闘戦もお手の物なのよ」

『へー』

『じゃあなんで魔術を基本戦術にしてるんだろ』

「以前マスターに聞いたことあるけど、『そのほうが楽だから』って言ってたよ」

「楽…?魔術…というか魔法陣って結構難易度高かったと思いますが…」


シェルフの言葉に詩織が首を傾げていた。


「んー…その難易度はよくわからないけど、格闘戦でこまごまと倒すより魔術で纏めて消し飛ばしたほうが楽だから覚えたって言ってたよ」

「えぇ…」

『へい、探索者の方々、楽だからで魔法陣とか覚えられるものなの?』

『無☆理』

『A級の魔法職でも二個か三個覚えていれば優秀といわれているのが魔法陣です』

『クロウさんいくつ使ってるん…?』

『さすがS級といったところか…』


みらい達がリスナーと話している間も、クロウとハデスは格闘戦を繰り広げていた。

ハデスもクロウの両手足にある魔法陣を警戒しているらしく、攻撃を受けないように受け流しや回避を重点にしており、そのせいで反撃に転じることができずにいた。

防御ができればまだ攻め手があったかもしれないが、クロウが展開している魔法陣は触れただけで影響を与えてくる。展開している先、手首と足首の先にさえ触れなければ影響を受けないので、蹴りに関しては膝下あたりで受け止めれ防ぐことができるが、殴りに関しては腕をうして逸らすことしかできない。それゆえに攻勢に転じることができずにいた。

そしてクロウに関してもなかなかハデスへの攻め手に欠けていた。普段ならば魔法陣を展開して牽制しつつ戦うのだが、自らの手足に展開している魔法陣を維持しつつ格闘戦をこなし、なおかつ複数の魔法陣を展開するとなるとさすがに動きが雑になってしまう。そうなるとクロウとしても有効打をあたえることができない。お互いに拮抗状態となってしまっている。

このままでは無駄に時間が過ぎるだけ。そう判断したクロウは即座に両手両足の魔法陣を解除した。


「なっ!?」


突然魔法陣が消え、動きが変化したクロウにハデスは驚き、一瞬だが動きが止まる。その隙を見逃さずに即座に右手に魔力球を生み出し、それを握りつぶす。

そしてその右手でハデスの腹部を殴ると、握りつぶした魔力球が爆ぜてハデスを吹き飛ばす。

それを追いかけ、追撃を仕掛けていく。しかし、先ほどまで展開していた魔法陣を再展開はしない。あれを再展開するには少しだが間が必要となる。それゆえにその間に態勢を整えさせる隙を与えないようにしていく。

吹き飛ばして開いた距離を即座に詰め、追撃をしていく。


「この…!」


ハデスが強引に反撃をしようとしてくるが、その程度の攻撃ならばクロウは軽くいなせる。

強引な反撃によってさらに態勢を崩され、クロウからの更なる追撃が叩き込まれていく。


「そろそろだな」


そう呟くと再度両手首と両足首に魔法陣が展開される。


「くっ!?」


その様子を見てハデスが後方へと下がって距離を取ろうとするが、それをさせないように苦労も距離を詰める。そしてそのまま腹部へと右拳を叩きつけると手首の魔法陣がハデスの腹部へと刻み込まれた。


「一つ」


拳を叩きつけられ、身動きが止まったハデスに左拳を同じ場所に叩き込み魔法陣を重ねる。二回のパンチによって前のめりになったハデスの腹部に右足による蹴り上げを放ち、つま先を叩き込む。それによって三つ目の魔法陣が重なる。


「二つ…三つ…」


蹴り上げたハデスの下へと潜り込み、その勢いのまま体を回転させて左足を叩き込んで四つ目の魔法陣を重ねる。


「四つ」


四つの魔法陣を叩き込み、打ち上げられたハデスへと追撃の蹴りを顔面へと叩き込んで体を伸ばさせる。


「仕上げだ」


パンッ!と両手を合わせ弓をひくように広げると、両手を繋ぐように巨大な魔力の矢が生まれる。


「『五神龍宴』」


放たれた魔力の矢が重なった魔法陣へと突き刺さる。すると魔力の矢が消え、巨大な魔法陣へと変貌する。そして重なった魔法陣と共鳴し合い、四つの魔法陣から小型の龍が、そして巨大な魔法陣から大型の龍が召喚される。


『龍を召喚した!?』

「落ち着いて、あれは魔力によって作られたものだよ」


小型の龍はそのままハデスへと噛みつく。ハデスの四肢に嚙みついた龍はそのままハデスの四肢を嚙みちぎった。


「ガアアアアア!?」


そして四肢が噛み千切られたハデスを食らおうと大型な龍が口を開けて迫っていく。


「馬鹿な…!?ダンジョンコアを吸収して力を得たはず…!なのに…なのになぜ…!?」


困惑した表情のままハデスは龍に食われる。そしてそのまま龍と共に消滅した。


「………」

『あれ?終わり?』

『なんか…思ってたより呆気なかったな』

『だな』


ダンジョンコアを吸収し、強くなったはずのハデス。実際にクロウ自身も依然戦った時よりかハデスが強くなっているのは事実なのだが、それでも思っていたほどではなかった。


(…なんだ?この違和感は…何を見落としている…?)


探索者として過ごしていた経験からくる違和感。直感にも似た何かが警報を鳴らしている。

先ほどまでハデスがいた場所、空中に放り出していたので、その下にある地面を調べてみるが特に何もない。


「…なんで何もないんだ?」


そこにあるはずの物がないことに首を傾げる。

他のところも確認したいのでみらいのところへと一度戻る。


「クロウさん、終わったの?」

「わからん。ちょっと確認したいんだけどリスナーの中に他のメンツの戦い見てる人いる?」

『いるぞー。五窓してる』

「そか。じゃあそれぞれに確認してほしいことがあるんだ」

『確認してほしいこと?』

『直接行けばいいんじゃないのか?』


戦っている場所は結構広く、それぞれの姿が見えないほどの距離はあるが、それでもそこまで遠いというわけでもないので確認に行くことはできる。


「何があるかわからんからな。とりあえず俺からの伝言ってことで、戦闘が終わったらドロップアイテムがあるか確認してほしいって伝えてくれ」

『ういうい』


先ほど答えてくれたリスナーが伝言をしてくれる。


「何か気になる事でも?」

「ああ。さっき見てわかったとは思うが一応ハデスは倒せた。いささか拍子抜けの部分はあるが、それに関しては確かなはずだ。だが、ハデスを倒した場所を見ても何もなかったんだ」

「何も…魔石もですか?」


詩織の問いかけにクロウは頷く。


「前に話したように魔石は砕くことはできても消すことはできなかった。そして今回逃げられたって感じでもない。なのに倒した際に出てくるはずの魔石がなかったんだ」

「ダンジョンコア吸収してたし、変質したとか?」

「その可能性もあるが…母さん、魔石って魔物にとっては心臓と同じだろ?それが変質して無くなるなんてことあり得るのか?」

「さすがにそこまではわからないね…そもそもダンジョンコアを取り込むなんていくら知能が成長してもやらないからね」

「そうなの?じゃあなんで今回ハデス達はしたんだろ」

「…入れ知恵した奴がいるってことだろ」



頭に浮かんだのは前回ハデス達と戦う前に会った探究者を名乗る人物。ハデス達とも面識があったようなので、あいつが何か入れ知恵をしたと考えて間違いないだろう。


『クロウさん、他のS級の人達の方でも調べてみたけどドロップアイテムがなにもないそうだよ』

「そうか、わかった。ありがとう。ついでに全員に集まるように言っておいてくれ」

『あいあいー』


伝言をしてくれたリスナーから返事が返ってきたのでついでに集まるように伝言を頼んでおく。こういう鳩行為とも呼ばれる行為はあまり褒められたことではないが、まあ、状況が状況だし仕方ないとしておこう。


「にしても、やっぱり他のところでもドロップアイテムなしか…」

「ぢゃっぱりダンジョンコアを吸収したことで変質したから魔石とかも無くなっちゃったんじゃない?」

「なのかなぁ…」


シェルフの言葉にどうにも腑に落ちない。だが、現実として何もドロップしていないのは事実だ。シェルフの言葉もないとは言い切れない。


「とりあえず皆さん戻ってきたら相談してみたらどう?他のN級魔物と戦っているときに何か気づくことも有ったかもしれないし」

「そうだな」


みらいの言葉にクロウも頷く。その後少ししてから他の面々が集まった。

全員が集まったのでクロウが感じた違和感を話しつつ、何か違和感を感じなかったかと尋ねてみると…。


「「知らん!」」


元気な声と共に流華と傑の言葉が被った。


「こんの戦闘狂共が…」


その返答に思わず頭を抱えてしまう。


「二人は相変わらずだね…。でも、私も特に違和感とかはなかったかなー。雷亜君は?」

「こちらもさして気づきませんでしたね。確かにドロップアイテムがないことは言われて調べてみた際に気づきましたが…やはりダンジョンコアを吸収したことで変質したのではないですか?」

「なのかなぁ…なぁんか嫌な予感が消えないんだよなぁ…」


雷亜と遥の言葉を聞いてもどうにも嫌な感覚がぬぐえないクロウ。

どうしたものかと考えていると、唐突に地面が輝きだす。


「なんだ?」

「地面が…輝いてる?」


唐突な出来事にみらい達だけでなく、S級探索者であるクロウ達も戸惑う。しかし、そこは熟練の探索者。即座にどんなことが起きても大丈夫なように各々が身構える。


「いやー、さすがだね」


そんなクロウ達に陽気な声がかけられる。


「クロウさん!」

「あれは…」

「探究者…!」


声がする方向、上空の方へと目を向けるとそこには以前会った探究者が変わらない姿で空中に立っていた。


「やあやあ、新顔もいらっしゃるね。それぞれ十分な実力、実に役に立ってくれたよ」

「どういうことだ?」

「こういうことだよ」


クロウの問いかけに探究者はその顔に笑みを浮かべ、両手を掲げる。すると地面の輝きがさらに激しくなる。


『うおっまぶし!』

『なんの光ぃ!』


強い輝きで視界が白く染まる。クロウは舌打ちしつつ指を鳴らして即座に遮光結界をそれぞれの顔にかぶせるように展開した。


「おお!見える!」

「相変わらず器用ね、クロウ」

「お前らも自力で対処しろよ…」

「見えなくても気配はわかるんでな!」


自信満々に笑う傑にため息を吐いてしまう。そんなことをしている間に光が強まり、今度は探究者の方へと集まっていく。


「君達が察しているようで、ハデス達がダンジョンコアを吸収したのは僕の入れ知恵だ。君達に徹底的に叩きのめされた彼らが強くなるためにダンジョンコアを吸収してみたらどうだい?とアドバイスをしてね」

「何のために」

「僕の好奇心を満たすためだよ」


そう答えている間に探究者の前でどんどん光が集まっていき、五つの光の塊ができ始める。


「ダンジョンコアとはダンジョンの力の結晶。ダンジョンの魔力を保持する器だ。それを吸収すればその器に保管されている魔力を取り込み、強化される。でも、それはあくまで副作用なんだ」

「副作用?」

「そう。疑問に思わないかい?君達がN級魔物とランク付けしているハデス達、彼らもダンジョンコアの内部にある魔力から生み出された物。つまり彼らが所持できる魔力以上の魔力を保持している器を取り込んで無事でいられると思うかい?」

「それは…」


普通に考えて不可能だ。確かに大量の魔力を吸収すれば強化はされるだろう。だが、許容量以上の魔力を吸収した場合、空気を入れすぎた風船のように破裂して死んでしまう。


「じゃあ何のためにそんなことを?」

「言っただろう?副作用って。彼らはダンジョンコアを取り込んだと思っているだろうが、実質的には逆なんだ」

「逆?」

「そう。ダンジョンコアは魔力を吸収する。そして魔物とは魔力が形を成して生物として生成されたものだ。ならばダンジョンコアが魔物を取り込むことだってできると考えてもおかしくはないだろう?」

「まさか…」

「そう、ダンジョンコアをハデス達に吸収させたのではない、ダンジョンコアがハデス達を吸収するために、一度体内に入る必要があったのさ。そしてそれを君たちが倒し、純粋な魔力へと変化させてくれた」

「それで魔石などが出てこなかったのか…」


ダンジョンコアへとハデス達を吸収させる前段階として、ハデス達にダンジョンコアを吸収させた。そして戦闘によって倒したことでハデス達は自らの体を維持できずにすべてが魔力へと分解され、ダンジョンコアへと吸収された。


「じゃあさっきの光って…」

「純粋な魔力へとなったダンジョンコアがそれぞれ元の姿に戻るための光ですよ。そしてここにそれぞれの情報を完全に吸収した五つのコアがある。これをすべて合わせて、君達との戦いを学び、成長した最強の魔物を作り上げて見せましょう!」


その言葉と共に完全に再生した五つのダンジョンコアが一つに混ざり合い、新たな魔物へと姿を変えていく。


「さあ、五つのダンジョンを生み出し、維持するダンジョンコア。その最強の魔物の経験、知識、それらを取り込み、一つにまとめて生み出した魔物。さあ、どれだけ強大な魔物が生み出されるか。一緒に愉しもうではないか!」


愉悦的な笑みを浮かべ、形を変えていくダンジョンコアから探究者は離れていく。

一つにまとまったダンジョンコアはどんどんその姿を適切な魔物の形へと変えていく。

阿修羅の強靭な肉体。フェニックスの再生力。ニーズヘッグの強靭なタフさと強固な鱗。タマモの幻術をつかさどる九尾。そしてハデスの膨大な魔力と制御能力。


「またクッソ面倒な物が生まれちまうな…」


ハデスの体をベースに構成されたその魔物は、阿修羅の持つ六本の腕が生えており、フェニックスの再生の炎によって形作られた翼とニーズヘッグの持つ龍の翼が共に背に生えている。そしてタマモの持つ九本の尻尾が腰のあたりから生えており、全身には強靭なニーズヘッグの鱗で覆われている。


「グルァアアアアアアアアアアアアアア!!」


ただの咆哮ですさまじい衝撃がクロウ達を襲う。


「みらいちゃん達は下がってて!あれはガチでやばいやつだ!」

「わ…わかった!クロウさん達も気を付けて!」


このフロアのどこに行っても安全な場所などはないかもしれない。それほどの魔力をあの魔物は放っている。防御魔法を展開しているうちは大丈夫かもしれないが、それも安全を確約できる物ではない。とりあえず主戦場からは可能な限り下がっていてもらわないと危険なのは間違いない。


「クロウ、あいつの名前とかどうする?」

「知らん!適当にN級キメラとでも呼んどけ!」

「あー、キメラかー。確かにその言葉の通り不格好なもんだよねぇ」

「いいじゃない。歯ごたえがありそうで」

「やれやれ…ニーズヘッグは体力多くてきつかったんですけどね。まあ、今回は皆さんがいますし、少しは楽できるでしょう」


とてつもないほどの魔力を迸らせているN級キメラに対して、クロウ達は軽口をたたきながら戦闘態勢を取る。


「さあ、おそらくこれが最後の戦いだ。とっとと片付けるぞ!」

「「「「了解!!」」」」


クロウの言葉を合図に、N級動乱最後の戦いが始まった。



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