S級探索者達は圧倒する
『すげぇ…S級探索者五人が勢ぞろいなんてそうそう見れるもんじゃねぇぞ…』
救援にやってきた四人のS級探索者、流華達はN級魔物であるハデス達のほうを見据えながらクロウの近くへと歩いてくる。
『S級五人…あの一人は…』
『言うな、本人隠しているつもりなんだから』
『いや、クロウさんたぶん自分でもバレてるの気づいているんじゃ…』
『まあ、それでも本人から言及ないし…』
と、コメントのほうでワチャワチャしている間に四人がクロウの元へと歩いていく。
「ずいぶんとてこずっているようね」
「さすがにあの数はきついって」
一息吐けたクロウは流華の軽口に返す。
「で、なんか時間制限あるんだろ?その状態。あとどれだけもつんだ?」
「およそ20分ってところだな」
「あれ?話では15分くらいだと思ってたけど?」
「それは誰か一人だけ救援に来たと考えた時だ。あいつら倒すなり撃退して帰還するのに五分くらい必要だろうってことでな。全員集まってるなら解除されて俺が気を失っても何とかなるだろ」
「なるほど。それではさっさと済ませてあなたの意識があるうちに帰るとしましょうか」
その言葉と共に雷亜の体からパチリと雷が迸ると共にその姿が消えた。そして次の瞬間には離れた位置にいたはずのニーズヘッグの眼前へと移動していた。
「なっ!?」
突然現れた雷亜の姿に驚き声を上げた直後、ドゴォン!という轟音と共にすさまじい雷撃がニーズヘッグへと叩き込まれた。
「ニーズヘッグはん!?」
突然の轟音と共に大ダメージを受けているニーズヘッグのほうをタマモが見た瞬間、その頭に何かが直撃した。
「よそ見は厳禁だよ♪」
そう言って遥が弓を構えて笑みを浮かべていた。
クロウ達の一拍遅れて戦いが始まったことに気が付いたハデス達も即座に動き出す。
フェニックスが羽ばたき、洞の天井付近まで飛び上がるが…。
「遅いよ」
短い言葉と共にフェニックスの周囲が白く霞がかり、飛び立ったフェニックスよりも高い位置にいる流華が氷を纏った刃をフェニックスへと振り下ろす。
刃の軌道が空気中のわずかな水分を凍らせ、キラキラと輝きを放ちながら広がり、フェニックスの炎の翼を切り裂き、凍り付かせる。
「敵と会ったなら即座に戦えるようにしなきゃ。野生でも当然の事でしょ?」
そう答えながら空中で身をひるがえして空中に氷を生み出してそれを足場に跳躍する。
「おらぁ!!」
そして傑が真正面から阿修羅へと殴りかかる。
「この…!」
傑の拳を阿修羅も真っ向から殴りかかり、拳と拳がぶつかり合う。
「ハッハァ!いい拳だなぁ!」
そう言うが、ぶつかり合った拳を徐々に押し返していく。
「だが力が足りねぇな!なんだ?腕が六本あるから一つ一つは軽いってことかぁ?」
その言葉と共に拳を振りぬき、阿修羅を後方へよろけさせる。
「なめるなぁ!!」
六つの拳を駆使した無数の連打が傑へと襲い掛かるが、それを二つの拳ですべて受け止めていく。
「………相変わらず自由だなこっちの奴らは…」
そんな様子を呆れつつもクロウは眺めていた。
『すげぇ…』
『これがS級…クロウさんもすごいと思ったけど、他の人も負けず劣らずすごい…』
様々なところで展開されている高レベルの戦いに視聴者もみらい達も呆気に取られている。
「さて…余裕もできたし俺も動きますか」
その言葉と共に両腕にそれぞれ六連の魔法陣が纏うように展開される。そして両手を合わせるとその二つの魔法陣が重なっていく。そのまま両手で弓を引くように広げると両手の間を巨大な矢のような魔力の塊ができている。
「『
放たれた巨大な魔力の矢が一直線にハデスへと放たれる。しかし、向こうもこちらをきちんと意識していたようでその矢を回避するのだが…。
「逃がさんよ」
途中で軌道を変え、追尾するように動いていく。
「なっ!?」
ハデスは途端に避けることを諦め、両腕を交差させてそこに魔力を集めて防御態勢に入る。
「いい判断だな。だが…」
親指と中指を合わせて前に出す。
「無意味だ」
パチンと指を鳴らすと追跡していた矢が爆ぜ、無数の矢となってハデスの周囲に展開され、全方位から一斉に襲い掛かった。
「流華ー、少し相手任せていいかー?」
「こっちも相手しているんだけど?」
そう言いつつフェニックスを細切れにしながら凍らせている。フェニックスに関しても炎を巻き上げ、氷を溶かしているが、溶けた氷から出てくる水によって炎の勢いが弱まり、すべてを溶かすのに時間がかかっている。
「何とかなるだろ」
「仕方ないわね…」
ため息交じりに両手に持つ双剣を素早く振るうと細かい炎となっていたフェニックスをすべて凍らせる。
そして即座にハデスの前へと降り立った。
「じゃ、私とあそぼっか?」
「くっ…!?」
獰猛な笑みを浮かべた流華がそのままハデスへと斬りかかった。
「さて…俺は仕上げと行きますかね」
そう言ってクロウは両手をわずかな隙間を作って向い合せる。そして小さい形で魔法陣を幾重にも重ねていく。
通常時、二十までならば時間はかかるが重ねることができる。それ以上は魔力の維持がきついので展開することはできない。だが、今は魔力解放状態。この状態ならば三十までかさねることができる。といってもその分難易度も上がるし、魔力解放状態は使用できる魔力が増える分扱いの制度が下がるので難易度は通常よりも跳ね上がっているのだが。それでもクロウならば可能なレベルだ。
両手の間で小さな魔法陣がどんどん構築されていく。その数が増えるたびにあふれた魔力が雷となって周囲へと迸る。
「なんだあの魔力は…!?」
クロウから迸る今まで以上の魔力に気づいたハデスが焦りだす。即座に止めようと動こうとするが…。
「私がいるでしょ?」
その言葉と共にハデスの正面へと流華が回り込んだ。
「邪魔だ!」
そう言って横なぎに腕を振るう。それを最小限の動きで下降して回避し、そのまま流華がハデスの足を切りつけて凍らせる。
「フェニックス!そ奴を止めろ!」
しかし、ハデスは自らの足が凍ったことを気にせずにそう声を上げる。先ほど凍らせたフェニックスへの指示に疑問を浮かべながら振り返ると、そこには先ほどのハデスの一撃によって放たれた魔力波によって氷を砕かれたフェニックスの姿があった。
かなり小さくなってはいるが、それでも無数の炎の鳥となってクロウへと襲い掛かる。
「クロウ!」
即座にハデスに背を向けフェニックスの対処へと向かう流華。クロウならば何の問題もなく対処できる。しかしそれは何もしていない状態の時。今は高難易度である三十にも重なる魔法陣の構築中。その状態ではわずかな動きですらその構築を阻害し、霧散させてしまう。それゆえにクロウはフェニックスの攻撃を受ける覚悟で動くことをしなかった。しかし、流華の攻撃を受けて小さくなっているとはいえ、一体一体N級魔物であるフェニックスを構築している炎。生半可な物ではない。それが無数の炎弾のごとく勢いでクロウへと迫っていく。それを流華が許すはずがなかった。
「はぁ!!」
気迫と共にすさまじい勢いで双剣を振るい続ける。それによって放たれた氷の斬撃が無数のフェニックスを打ち消していく。そして最後の一つが斬撃を避け、そのまま高度を上げたのを確認すると流華はほっと息を吐いた。しかし…
「よくやったフェニックスよ!」
気を抜いた流華の背後を巨大な影、ハデスが通り過ぎてクロウへと迫る。
「しまっ!?」
咄嗟にハデスに向けて斬撃を放つが、直接斬るより威力が低いその斬撃程度ではハデスを止めることはできなかった。
「死ねぇ!!」
生半可な魔法ではクロウには効かない。それゆえに超高密度の魔力を拳に纏わせその巨大な膂力によってクロウを叩き潰そうとした瞬間。
ガァン!!
振り下ろされたハデスの二の腕に何かがぶつかり、それによってハデスの腕がはじきあげられた。明確なダメージはハデスにはない。しかし、その一撃によってハデスの攻撃が中断させられたのは事実だった。
「一体何が…」
ハデスが驚き、その何かが飛んできた方向を見るとそこにいたのは…。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
汗びっしょりの状態で息を切らせながら溶けた銃身の魔銃を二丁握っているみらいの姿があった。そしてそのみらいを支えるシェルフと詩織、フェンリルの姿も。
『よっしゃぁ!ナイスショット!みらいちゃん!』
『さすがクロウさんの魔力が籠められた弾丸…全部ぶち込めばあれだけの威力になるのか…』
『というか、魔銃の銃身を溶かすほどの魔力を出すクロウさんって…』
『まあ、クロウさんだし…』
『それ、すごい便利な言葉だな』
みらいちゃんの行動にコメント達も沸き立つ。
「わぁ…本当に当てるとはすごいねみらいさん…」
「本当ですね。あの状態では私も当てられる気がしませんよ…」
「あはは…私も自信はなかったんですけどね…」
そう言って苦笑を浮かべて銃を下ろすみらい。
探索者になったばかりで実力もまだまだなみらい。それゆえにクロウの戦いについていく事もできないし、援護することだってできずにいた。それでもただ見ているだけなのがずっとつらかった。だから何かできることはないかと考えていた時、ふと思い出したのは魔銃をもらった後の事。魔銃は特殊な武器故か、その説明書のようなものもついていた。戦う際に扱う武器であるため、きちんと魔銃の事を知るためにその説明書を読んでいた時に気になる項目があった。それは…
「『フルバースト』…」
装填されている魔弾の魔力をすべて放出することによって放たれる魔銃最強の一撃。その威力は残存魔力によって変わるが、最高品質の魔弾にほぼ満タンの魔力があればA級…もしくはS級魔物に対しても致命的な一撃をあたえることができるかもしれないほどの威力を持つと書かれている。
それだけの威力を持つ攻撃。それをすることはないだろうとその時みらいは考えていた。だが、今この瞬間。それが役に立つかもしれない。そう思いみらいはおもむろに魔銃を取り出した。
一つだけでもいいかもしれない。それでもみらいは後悔したくなかったので出し惜しみしないことにした。二丁の魔銃を取り出したことに気づいたシェルフ達にフルバーストの事を説明した。
そしてクロウが大技の準備に入り、流華がハデスの相手をし始めたところでみらいもフルバーストを撃てるように備える。本来フルバーストを撃つための準備をすると高魔力が感知されるのだが、ここではクロウだけでなく他にも大量の魔力を持つS級探索者がいる。その魔力に紛れることでみらいの準備は勘づかれることはなかった。
そしてフェニックスの猛攻、その後流華を出し抜いてのハデスの攻撃。それを見たみらいはジャストのタイミングでフルバーストを放ち、ハデスの一撃を妨害する事が出来たのであった。
なお放った時に放出された魔力の多さに魔銃が耐え切れずに銃身が溶け、そしてその反動によってみらいが吹っ飛んだのだが、それをシェルフ達が支え、今に至る。
「この小娘が…!」
一顧だにする必要もない、塵芥のような存在だと思っていた。しかしそんな存在にあのタイミングでの攻撃を邪魔された。その事実がハデスのプライドを大いに傷つけた。みらい達を睨みつけ、そちらに向かおうとしたが、それよりも早く…。
「ナイスタイミングだよ。みらいちゃん」
クロウのその言葉と共に手の間で構築された魔法陣が展開される。
「多重魔法陣 三十式」
展開された魔法陣が徐々に収縮し、一つの矛の形を作り出す。
「『
その言葉と共に放たれた矛はハデスへと迫る。
「うおおおおおおおおお!!!」
ハデスは自らにとっては小さな矛を受け止めようとするが、小さくとも超高圧縮された魔力の塊を受け止めることはできず、そのまま後方へと押し返されていく。
そしてそれを見た傑と雷亜もその圧縮された魔力の量が桁違いに高いことに気づいたので即座に傑は阿修羅をニーズヘッグの方へと蹴り飛ばし、雷亜はニーズヘッグから離れ、流華と遥と共にクロウの近くまで退避する。
「せっかくだ、お前も食らっとけ!」
その言葉と共にクロウは空間掌握によってタマモとフェニックスをニーズヘッグの方へと押しやる。そして矛によって押し出されているハデスがニーズヘッグにぶつかり、その槍が突き刺さった瞬間。
ドォォォォォオオオオン!
とてつもない轟音と共に超高圧縮された魔力が解放され大地と大気を震わせる。そしてそれが終わった後、残ったのは円形に抉り取られたように消えている地面だけだった。
「終わったの?」
「………いや、逃げられたっぽいな」
その言葉と共にクレーターの中心に降り立つ。そこには何もなかった。倒した際に出現するであろう魔石も何もかも。
「お前の一撃で消し飛ばしたんじゃねぇのか?」
「いや、俺でも魔石消すことはできなかったぞ。砕くことはできるがな」
「あらそうなの?」
「ああ。物質として砕くことはできるが、魔石を消滅させることはできなかった。せいぜい粉にする程度だな。といっても中に魔力のない魔石なら消せるが、こういうドロップ品で魔力に満ちている魔石を消すことは無理なんだ」
「ということはやっぱり逃げられたってこと?」
「でしょうね。ニーズヘッグもここでは全身出てくることもできなかったようです。おそらくあの爆発の中、死ぬ前にニーズヘッグが出てきている穴から退避したのでしょう」
「多分な。倒しきりたかったところだが…こればかりは仕方ない。一応多少なりとも精査は必要だが情報は手に入ったし、戻るとするか」
クロウの言葉に流華達も頷く。そしてみらい達の元へと戻る。
「クロウさん、終わったの…?」
「一応一段落ってところだけどね。さっきはありがとうねみらいちゃん。助かったよ」
「少しでも力になれたのならよかった。それより…ごめんねクロウさん、せっかくこれくれたのに…」
そう言って銃身が溶けた二丁の魔銃を差し出してきた。
「あっちゃー…これはひどいね…」
「フルバースト放つにしてもこうはならないでしょ…なんでこうなったの?」
「たぶん俺が魔力籠めた魔弾の魔力全部使ったんじゃね?」
「あー…あなたがあげたの最高品質の魔弾でしょ。そりゃまだF級が持つ程度の魔銃じゃ耐えられないよ」
「そうそう。それに問題ないよこれくらいなら」
そう言ってクロウが軽く右手を振るうと魔銃が浮き上がり、時が戻るかのようにどんどん元の形へと戻っていく。
「ほい、修復完了」
「相変わらずあっさりやるわね…時空魔法なんてそうそうできる物でもないのに…」
クロウがあっさりと直したことに流華が呆れたようなため息を吐いていた。
「ま、これくらいはね。とりあえず長話してると俺のこの状態が解除されて気を失っちまうから早いうちにダンジョン出よう。俺達がいるし、母さんもいるから他の魔物が襲い掛かってくることはないとは思うが、急ぐに越したことはないからな」
クロウの言葉に全員が頷き、一行は一度ダンジョンを脱出、その後配信を終えギルドへと帰還するのであった。
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