S級探索者達は事件を解決する


「終わった…の?」

「ああ、終わったよ」


みらいの問いかけにクロウが答えつつ部屋の中心、先ほどまでN級キメラのいた場所にて結界に封じられているダンジョンコアを見る。

阿修羅、ニーズヘッグ、タマモ、フェニックス、そしてハデス。五体のN級魔物が吸収したダンジョンコア。それぞれを倒すことで粉々となり、純粋な魔力となって混ざり合って一つとなり、N級キメラを作り出し、自らをコアである魔石とした。今は肉体形成ができないように魔力のつなぎが乱れる効果を持つ結界の中に封じ込めているが、この結界が消えればまた同じようにN級キメラとして姿を作り出すだろう。

ダンジョンコアを破壊することは不可能だし、どうにか魔力を抽出するなどしてN級キメラとしての姿を維持できないようにしないといけないだろう。


「にしても苦戦したねー」

「さすがに魔力無尽蔵で回復し続ける魔物は倒せないわよねー」

「だな」

「まあそう言ってもあのコアがある限り倒せたというわけではないとは思いますけどね。クロウさん、そのコアどうするんですか?」

「あー…今のところ思いつかん。まあ、この結界が維持できなくなるまでには考えとくさ」


答えつつ脱いでおいた外套を羽織りなおす。


「どれくらいで維持できなくなるの?」

「結界を展開し続けるのに必要な魔力はコアが自然放出している分を吸収して賄っている。あとは定期的に俺が魔法陣に不具合が無いか確認、調整すればかなりの長期間維持できるはずだ」

「それじゃあその間に魔力を安定的に抽出してコアがまたN級キメラを作り出さないようにすれば大丈夫って感じかな」

「そうなるな」


問題はその構造をどう作るかだが…ダンジョン五つ分のコアが混ざり合ってできたこのコアはそれだけ膨大な魔力を有している。生半可な抽出器では魔力を抽出しきれないだろう。

急ぎじゃないにしろ、問題点が山積みである事には変わりはない。思わず出てしまうため息を隠そうともせず。そろそろ帰ろうかといいだそうとした瞬間。


パチパチパチ


どこからか軽い拍手なような音が聞こえてくる。その音が聞こえた瞬間、クロウ達S級探索者達は即座に戦闘態勢に入り、その音が聞こえてくる方向…空中へと視線を向ける。そこにいたのは…。


「探究者…」


不敵な笑みを浮かべ、手を叩く探究者の姿だった。


「いやはや…お見事、というべきかな?」

「…お前の目的は何なんだ?」

「おや、雑談すらしてくれないとはね…。まあいいか、目的…目的…そうだな…強いて言うのなら…好奇心を満たすこと…かな?」

「なに?」

「君たちは気にならないかい?このダンジョンという存在、そして魔物という存在、魔力という存在。それらが持つ可能性。何ができるか、どこまでできるか」

「それを調べているとでも?」

「ダンジョンとは世界の狭間…世界と世界…そのわずかな隙間に存在するもの。どの世界の理とも違う独自の理が存在し、それらは別の世界へと穴をあけ、自らの理である魔素を流し込み、魔法を…魔術を…魔物をその世界の理へとねじ込ませる。それだけの力を持っている。だからやってみたいのさ。一体その魔素は…魔力は…魔物はどこまでねじ込めることが…捻じ曲げることができるのかをね」


そう言って笑みを浮かべる探究者。その笑みには純粋な好奇心以外の何物も宿っているようには見えなかった。そんな笑みを浮かべた探究者はクロウを見据える。


「君にも興味があるんだよ、黒川宗谷…いや、クロウと呼ぶべきかな?」

「………」

「赤子という何者にも護られていない存在でありながら、魔素という毒に適応し、フェンリルという本来殺されてもおかしくない存在の庇護下に入り生き抜いた人物。そして五つのダンジョンコアによって生み出されたあのキメラすら仲間の力を借りたとはいえ打ち倒した。一体君はどこまでできるんだい?」

「………」


探究者の問いかけにクロウは答えない。


「まあ、いいさ。これから先も君の事は観させてもらうからね。ああ、それと最後に一つ言っておこう」


そう言いつつ探究者は硬度を上げてこちらから遠ざかっていく。


「君たちが言うN級キメラ。あの姿の核となっているダンジョンコアだけど、五つのダンジョンコアが混ざり合っているんだ。当然そのダンジョンコアは不安定だ」

「っ!?」


探究者の言葉を聞いた瞬間、クロウがコアを抱えて走り出す。


「クロウ!?」

「来るな!!」


咄嗟に遥と流華が追いかけようとするが、それを制止する。

その直後にゾワリとした悪寒を遥達が感じた。


「さすが、察しがいいね」

「あんた、一体何を!?」

「やだな、僕じゃないよ。さっきも言ったようにあのコアは不安定だ。その不安定さを大量の魔力を放ち、あの姿を維持することで安定させていた。それが無くなればどうなると思う?」


にやりと笑う探究者がクロウが駆け出して行ったほうを指さす。


「答えはあれさ」


ドゴォォォォォォォン!!


すさまじい爆音と共に衝撃波が遥達を襲う。


「くっ…!?」

「クロウ!!」


その衝撃波はS級探索者である遥達でさえ立っているのがやっとのほどの物であり、その衝撃波がそのまま後方にいたみらい達の方へと迫っていく。


バァン!


「きゃあ!?」


今までにないほどの衝撃がクロウが張った防御結界へとぶつかっていく。一度だけでなく、何度もすさまじい衝撃がぶつかっていき、そして…。


ピキピキ…


『げっ!?クロウさんが張った防御結界にヒビが入ってるぞ!?』

『うっそだろ!?』


今まで大抵の攻撃を受け止めていた防御結界にヒビが入ったことにリスナーたちがうろたえる。


「私の後ろに」


そう言ってマーサがその体を盾にするようにみらい達の前へと移動させる。このまま防御結界が砕ける可能性も視野に入れての行動だ。


「クロウさんは?クロウさんは大丈夫なの?」

「どうだろうね…」


爆発の余波で防御結界にヒビが入った。その数倍…下手したら数十倍の威力の爆発が中心部で起こったはずだ。その中心部にいるであろうクロウへの衝撃がどれほどの物かは予測すらつかない。


「クロウ…」


無事だと信じてはいる。しかしそれでも我が子の心配をせずにはいられない。

爆発の余波が収まる。防御結界に入ったヒビはほぼ全面にまで及んでおり、衝撃が収まるとパラパラとかけらを落としながらスッと消えていった。

そして余波が消えたことでまともに動けるようになった遥が即座に探究者のいたほうへと弓を構えるがそこにはすでに探究者の姿はなかった。


「逃げられちゃったか…」

「そんな事よりクロウは!?」


即座にクロウが走っていたほうを見るが爆発によって発生した煙で姿が見えない。


「あいつがこれくらいで死ぬわけねぇだろうが、さすがに無傷ってわけにはいかんか?」

「でしょうね。とりあえず爆煙を吹き飛ばします」


そう言って雷亜が風の魔法で立ち込めている煙を吹き飛ばした。その先には深さ五mほどのクレーターができている。しかし…。


「…クロウの姿がねぇな」

「そもそも、あの余波ほどの爆発でこの深さは浅いわよ。というか、あの余波からして普通にこれだけ広いこの部屋でもまとめて消し飛んでいてもおかしくないわ」

「全力で抑えたんでしょうね、クロウさんが。私たちはともかく、みらいさん達はあの爆発に巻き込まれたら消し飛んでいたでしょうし」

「分析はいいからクロウを探さないと!」


冷静に分析する流華達三人に対し、遥が抗議をする。


「皆さん!クロウさんは…?」


そこにマーサに乗ったみらい達三人とフィンたちが合流した。

そして流華達の前にあるクレーターを見て息を吞んだ。


「もしかして…クロウさん、この中心に…?」

「あー…まあ、そうだな…」


血の気が引いているみらいに対して傑が困ったような表情を浮かべつつ頷く。


『え、マジで?この中心にいたの?』

『こんなところにいたんじゃいくらクロウさんでも…』

「嘘だよね…?クロウさん…」


みらいだけでなくリスナー達ですらどことなく絶望的な雰囲気が漂いだす。

そんな中、ふわりとみらいの元へと黒い布が降ってきた。


「これ…」

「マスターの外套だね…」


クロウがいつも来ている外套。先ほど戦い終えた際に羽織りなおしていた物がみらいの手元へと落ちてきた。


『そんな…外套だけがここにあるってことは…』

『え?マジで?もしかして本当に?』

『で…でも、クレーターのところには何もないよ!』

『跡形も残らずに…』

『おいバカやめろ!』

『そうだよ!クロウさんがみらいちゃんを置いていくわけないじゃん!!』


リスナー間でも喧嘩が始まりだす。本来はこうなったらみらいがなだめるところだが、みらい自身それができるほどの余裕がない。


「みらいさん…」


詩織もなんと声を掛けたらいいのかわからず、その外套を握りしめているみらいの肩へと気づかわし気にそっと触れる。


「嘘だよね…?クロウさん…」


ポタポタと涙が落ちていく。そんな様子のみらいを何とも言えない表情でシェルフと流華達は観ていた。


「クロウさん…クロウさん…!」


嗚咽交じりに、現実を否定しようとするように名前を呼び続ける。


「クロウさぁん!!」


そんな悲痛の叫びにも近い呼び声に…。


「呼んだ?」


当の本人は軽い調子で答えた。


『生きてるううううぅ!?』

『生きとったんかいワレェ!!』

「いや、なんで俺死んでることになってんの?」

『あんなクレーター見せられてしかも外套だけ残ってたら誰だってそう思うだろうが!!』

「えー…あの程度で俺が死ぬわけないのに…」

『えぇ…』

「にしても遅かったな。どこいたんだ?」

「あっち」


傑の疑問に短く答えて遠くの壁のほうを指さした。


「いや、防御結界複数重ねて爆発の余波抑えようとしたんだけど、展開が間に合わなくてさ。思いっきりあっちに吹っ飛ばされちまったんだよ。んで、勢いそのまま壁にぶつけられて十mくらい先まで埋まってた」

「あー、出てくるのに時間かかったんだ」

「そうそう。仮面も壊れるし体中打ち身で痛ぇし散々だ」


そう言いつつため息を吐く。確かにクロウの顔にはずっとつけてあった仮面が無い。


『あのクレーターを引き起こすほどの爆発をもってしてもクロウさんの仮面を壊して打ち身をあたえる程度ということなの…?』

『ちなみに打ち身は十mほど埋まった際に起こったものだそうです』

『それだけの距離壁にめり込んで打ち身で済む物なの…?』

『もうこの人を心配するだけ無駄な気がしてきた(´・ω・`)』

「なんかひでぇ言われようだな」


コメントで好き勝手言って来るリスナーたちに苦笑を浮かべつつ、手元にあった仮面の破片に時間逆行の魔法を使って元の形に戻す。


「これでよしっと」

「あ、仮面付けなおすんだ」

「外出る時…というか、公で仕事するとき意外仮面付けてるからこっちの方が気が楽になってきたんだよ」

「そういえばそうだったねー」


そんなのんきな話をシェルフとしているといまだに呆けているみらいに気が付く。


「みらいちゃん?どったの?」

「………」

「おーい、みらいちゃーん?」


みらいの眼前で手を振るが呆けている。しかし、突如にハッとすると涙目になってクロウのほうを見てきた。


「クロウさん…」

「お…おう?」

「本物だよね?幽霊じゃないよね?」

「本物だし、そもそもあの程度じゃ俺は死なんし…」


そう答えると涙目になっていたみらいの瞳からポロリと涙が流れ落ちる。そしてクロウへと抱き着いてきた。


「え、なんで泣いてるの!?」


みらいを受け止めつつクロウが珍しくうろたえる。


『さもありなん』

『推しを泣かせたんだ。反省しなさい』

「ええぇ…ってか。シェルフとか説明しなかったのか?」


とりあえずなだめる為に頭を撫でつつシェルフ達のほうを見る。


「いや、説明しようにも姿が見えない状態じゃねぇ…」

「俺達からしたらあの程度でお前が死ぬとは思ってはいないが、ここ最近のお前の探索者としての姿しか見てないんじゃどうしても不安にはなるんじゃないか?」

「え、でも、先ほどなんかいたたまれないような表情でみらいさんの事を見てましたよね?」


みらいと同じく悲惨な状況だと考えていた詩織が少し棘のあるような視線で傑達を見据える。


「あー…私達からしたらクロウが生きてるのはわかっていたからね。それでも探さないととは思ってはいたけど。それであのみらいちゃんの様子でしょ?なんというか…大丈夫って言っても信じてくれなさそうで…」

「さいですか…」


遥の言葉にそれ以上文句を言うのもやめて抱き着いているみらいのほうを見る。


「ほら、俺は大丈夫だから。そろそろ離れてくれ。配信的に女性配信者が男性に抱き着くとか炎上案件になりかねないから」

『そうはいってもクロウさんだし』

『クロウさん相手なら別にまあ…』

『クロウさん以外なら思いっきり文句言うけどクロウさんだったらなぁ…』

「えぇ…なんで…?」

『最古参、最多ギフト投げ、配信での手伝いに加えて探索者になった後での手厚いバックアップ』

『おそらくみらいちゃんの最も信頼を寄せているリスナーにして、最大のガチ恋勢』

『そんな相手がいるからガチ恋勢がいてもそれ以上できないからってたいていノーマルに戻るレベルなんよ』

「なにそれこわい」

『いや、あんたの事だからね!?』


そんなやりとりをしていると突如地震が起きる。


「まずい、ダンジョンコアが壊れたからここが閉じるよ!」

「あ、そういやそうだった。ってか、ここ転移できたから出口わからんだろ!」

「クロウ!転移で全員ダンジョンの外へ飛ばせますか?」

「できるけど、慣性すげぇからその注意だけはしろよ!」


雷亜の言葉にそう答え、地面をつま先で叩いて魔法陣を展開する。


「忘れ物とかねぇよな?飛ばすぞ!」


全員が頷いたのを確認して全員を防御結界の中へと入れて転移魔法陣を発動させる。

そして次の瞬間にははるか上空に転移していた。

そして…


「うおわああああああああ!!?」

「口開くと舌噛むぞ!!」


転移前に開いた防御結界の内部で全員が横へと吹き飛ばされる。クロウとクロウに抱き着いているみらいだけは動かなかったが、それ以外の面々は全員が横からの慣性によって防御結界へと叩きつけられていた。内部からの衝撃は吸収するように展開しているので怪我はないが、それでも押し付けられたゆえの息苦しさはあるだろう。

即座に浮かせている防御結界を操作して慣性をゆっくりと相殺させていく。

そして十秒ほど経過したころには完全に慣性を完全に解消させることができた。


「ようやく落ち着いた」

「気持ち悪い…」

「ですね…」

「シェルフちゃんと詩織ちゃんは初めてだっけ?」

「だな。ってかそもそもこういう慣性を嫌ってダンジョン内から転移しないようにしてるんだし」

『あー、前にそんなこと言ってたね』

『あそこまでひどいんだな…』

『俺達からしたら景色が空のせいでよくわからんけどな』

『ってかなんでこんな上空に転移したん?』

「地表近くだと建物やら山やらに突撃して大惨事になるからよ」

『具体的には?』

「防御結界で建物やら山やら貫通してい穴だらけになる。空の上だからわからなかったかもしれんけど、これ、一方だけじゃないからね。俺は結界回して極力一方からの負荷になるように操作してただけでこれ、下手したら貫通弾がビリヤードの玉のように縦横無尽に動き回るようなもんだから」

『なにそれひどい』

「だから今回みたいに緊急時以外はやりたくないんだよ。まあ、何とかこの慣性を失くそうとはしているけど、なかなかなー。なんかいいヒントがあればいいんだが…ま、そこらへんは余談だ。とりあえず今回の騒動はこれで解決だろう。あとはちょっとした後始末して、おしまいってところだな」

『お疲れさまー』

『いやー、時間…かかったか?』

『まあ、それなりに時間はかかっただろ』

『一番最初はみらいちゃんの卒業試験だったねぇ…』

『あそこでN級魔物が出てきたのが今回の事件の始まりだったね…』

「だなー。とりあえずこれで一応一段落だ。俺もこれからは元のリスナーに戻ってみらいちゃんを影ながら応援させてもらおうかね」

『無理だろ』

『どうせまた引きずり出される』

『頑張れトラブル解決担当さん!』

「いつの間にそんな役職に!?」


その後軽い雑談をしてから枠を終え、そしてN級騒乱事件は一つの区切りを迎えたのであった。




次で2章はおしまいです。

その後キャラ紹介、幕間的な番外編をはさんでから3章へ入ります。

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