第38話 希望と原石と面接対談
ちょっとグダグダに、茉莉ちゃん自体がまだはっきりと目的が決まってない子だから難しいです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――やっちゃった…―――
私は現在住み慣れた地元ではなく、初めて来るような都会にいる。
何故?そんなことは徹夜の頭の回らないよくわからんテンションのままウィラクルボックスに3期生募集の応募をしたからである。
でも思うが儘、普通にありのままの私を書き込み大してPRなど出来ていなかったのに何で審査が通ったのだろう?そう思いながら精いっぱい出来る限りおめかしして私は会場に来ている。
周りを見てみれば思った以上の人の多さ、え?これ今日中に終わるの?と思いながらお腹が痛くなりそうな緊張感を感じる、というかお腹痛くなってきたかもしれない。
私に割り振られた番号は50番、さっき呼ばれた人が20番だから自分の出番はまだまだ先なのだけど、それでも緊張するものは緊張する。
どうして徹夜テンションであんなことしたんだ私ーっと頭を抱えていると向かいに座っていた子が私に声をかけてきた。
「えーっと…?大丈夫?お腹痛いの?」
「え?ああいえ…大丈夫です。ちょおーっと緊張してしまいまして…。」
うぅ…そんなに表情に出てたかな…。
「ああ、名乗りもしないでいきなり声をかけてごめんね、私は茅野(かやの)あこやっていうんだ、うつむいてお腹抑えてるから気になっちゃって…まぁそうだよねぇ普通は緊張するよね。」
あっけらかんとした感じでこの場で全く気にもしてなさそうな態度のあこやちゃん、明るめの長めの茶髪を緩く編んだなんだかお母さんと言いたくなるような雰囲気を持った少女、お母さんだなんて失礼か…。
「あっ私大谷茉莉て言います!…ううぅ…実は私…この間のプリムラちゃんの配信で徹夜のテンションで応募しちゃって…それでこんなところまで来ちゃって…。」
「あららー、それはそれは、勢いで応募しちゃったんだね、私は年末カウントダウンライブを見てすごいなぁって思って。」
私もあんな風にキラキラしたいなぁって思って、とニコニコしながら言う、なんというかこの子と一緒にいると安心感がヤバい、何、このママみは…。
「でもね、やっぱりちょっと不安でね…最初の募集の時はちょっと怖くて応募できなくて、でも何もしなかったらそれはそれで後悔したんだ。」
そう言いながら笑顔ではあるけど少し真剣さを感じるような、そんな雰囲気を出しながらあこやちゃんは言った。
「だから、私は後悔しない為に、ダメだったらダメだったで諦めもつくしね、何もしないで後悔するよりはした方が良いから。」
…すごいなぁ…私とあまり歳も変わらないはずなのに桃やんと同じ自分を持ってる。
それなのに私は…ッダメダメ!こんなだからやりたいことが見つからないんだ!だったら今私がやらなきゃならないことは!
「…うん、確かにそうだね、なんもしないで後悔するよりやった方が良い、うん…あんがとね!あこやちゃん!少し気が楽になったよ!」
「ふふ、気分が落ち着いたみたいでよかった、大谷さんも後悔しないようにだけ、ね?」
あこやちゃんは私が聞いた言葉でどこか驚いたような表情をしながら笑った、ついついつられて私も笑ってしまう。
少しすると35番の方、と言われてあこやちゃんが反応する、どうやらあこやちゃんの順番が来たみたい。
「それじゃ、私の順番だから行ってくるね?あと大谷さんはありのままの方が私は良いと思うな。」
そう言いながら試験会場に向かうあこやちゃん、え?ありのままの自分?と言われてハッとする。
あ、私もしかして方言出ちゃってた?えっ恥ずかしい、興奮したり気が高ぶるとついつい出ちゃうんだよね、この癖直したいんだけど…。
そう思いながらさっきとは別の意味で気分が落ち込んだ私なのでした。
☆ ☆ ☆
「それでは、50番の方、会場にお入り下さい。」
「あっ!ひゃい!」
ついに私の番が来た、というかやっぱり緊張してるのか声が上擦って変な声になってしまう。
…恥ずかしい…でもここまで来たからには、うん、後悔しないように。
私は気合を入れる為両手で頬を叩く、よし、いける。
私は意を決して失礼しますと言いながら案内された部屋に入る、そこには私と同じくらい?の若い何故か和服を着ためっちゃくちゃ美人の女の子がいた。
女の子は私にどうぞお掛け下さい、とパイプ椅子に手を向けながら声をかけてきた、あれ?試験官の人は?部屋に女の子一人しかいないんだけど?
そう思いながらとりあえず私は言われた通りパイプ椅子の方に歩いていく、椅子の前まで歩いて、椅子に座る前に自己紹介をした。
「えっと、私は大谷茉莉と言います。今日はウィラクルボックスの試験を受けに参りました!」
そう言うとあこやちゃんとは違うどこか上品に見える笑顔で自己紹介を聞いてくれる女の子。まさかこの子が試験官…?そんな訳。
「はい、わたくしが面接官を任されております神目、と申します、今日はお越しくださいましてありがとうございます、これから試験を行いますのでどうか気を楽にしていつも通りの本心を言ってくださいますよう、よろしくお願いします。」
そう言いながら、鋭い目線を向けられる、うぅちょっと怖い…ってダメダメ!こんな気持ちじゃ試験に受かるなんて無理だ、気を引き締めないと!
私は椅子に座りながら深呼吸をする、大丈夫、私はやれる。
「それではまず、ウィラクルボックスに応募していただいた理由についてお願い致します。」
事務的な、どこか硬い口調で神目さんは最初の質問をしてくる、少し恥ずかしいけど本心のままに言おう。
「はい!…あの…私は…ウィラクルボックスのプリムラさんに憧れていまして!…それで、彼女のようになりたいと…。」
…違うな…ううん、まったく違うって訳じゃないけど、プリムラちゃんを理由にするのはなんか違う気がする。
そうだ、神目さんは本心を、って言ってた、今もこちらを見る目は鋭い、なんというか心の奥底を見透かされているような…嘘を言ってもバレバレのような気がしてくる。
「…あの、私、何をするのにも中途半端で…桃やん…あ、私の親友の子なんですけどとっても勉強出来て、私の自慢なんですけど。」
えへへ、と笑いながら思い浮かんだ桃やんの事をつい話してしまう、これじゃただお話してるみたいになっちゃうけど、ありのままに話そうと決めた。
「…でも私って、友達と違って秀でてるものが何もなくて…進路だって何も思い浮かばないから進学もしませんでした、漠然と学生をするのってなんか嫌だったんです。」
人によっては高校生までは猶予期間というのかもしれない、けれど、桃やんはやりたいことがあったから進学の道を選んだ、迷ってた私とは違って。
「だから、その…明確な理由は自分自身でもよくわかってないんですけど、自分で自分の未来を決める為に私はここにいるんだと思います。わからないって目をつぶってうつむいていたくないから。」
もちろんプリムラちゃんとお仕事したいって欲はある、だけどこれだって私が選択した道なんだ。
「……なるほど、ではウィラクルボックスの一員になるという事は、アバター越しではあるもののアイドルとして我が社の広報活動をするという事になりますが、ヴァーチャルアイドルをすることは問題ありませんか?」
プリムラちゃんのようになれるかは分からないけど、やると決めたならやろうと思う、だ、大丈夫大丈夫、あのマナちゃんだって最初は緊張してたし!
「は、はい!やれます!いつか必ずプリムラちゃんの隣に立てるよう頑張ります!」
私の憧れ、努力で実力を上回るマナちゃんの隣に立ったヴァーチャルアイドル、恋愛もヴァーチャルアイドルの道も自分の手でつかみ取った意志の強い人。
そう、私が彼女に憧れていたのは全部自分で選んで自分の実力で今の地位を勝ち取ったから、私も自分で選んだ道を突き進みたい!
しばらく彼女は私を鋭い目で見ると、ふむ…と言いながら、顎に手を当て何かを考えているようだ。
「第一段階は問題なし、ならば問題ありませんか…。」
神目さんが何か言っているんだけど…言いたい事ぶちまけて、自分でも何言ってるかよくわからないんだけど、大丈夫だろうか?
「分かりました。あなたの覚悟、理解致しました。質問は以上で結構です、本番は後日となるので。」
え?もういいの?というか本番って何?
「では本日はおかえりいただいて結構です、後日ご自宅に書類が届けられると思うので、その書類の指示通りにお願い致します。」
彼女は厳しく睨むような表情では無く優しい誰もが魅了されるかのような笑顔を見せる。
「あなたのような人材をウィラクルボックスは求めています、共に一緒にお仕事ができるよう、願っておりますわ。」
その声はどこか聞き覚えのある好きな声だった、え…?この声って、でも…まさか。
「それではごきげんよう。大谷茉莉さん。」
私は自分の推しと喋っていたことを知り、半ば呆然としながら試験会場を後にしたのだった。
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