第34話 高天原とゲーム大会(中)
前後編にしようと思ったら思ったより長引いたでござる、ので中編を差し込みました、のぞみちゃんには最強のセコムが付いております。
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3on3対戦型バトルロイヤルゲームVertex Legend。
国内では有名なプロゲーマーチームの代表を運営として、多数の配信者を集め競わせる大会が開かれました。
その大会の中で我々、チームウィラクルとして本戦に参加させていただく事になりましたわ。
有名な配信者を集め開催されるこの大会は、普段からこのゲームをプレイする実力者たちが参加することもあり、参加するだけで配信者としてステータスになる、とまで言われております。
勿論、他の配信者の視聴者さんにも見られるわけですから、大きな活躍をすれば多くの使用者さん目に留まることになります、つまりこれはわたくし達の知名度を上げるチャンスでもあるという事ですわね。
と…まぁ企業人らしく公的な利益を語ってみたものの、実際のところはわたくしの頑張りを見てくれている人がいる、そして実力者にわたくしを認めてもらえているというところに誇らしい気持ちになっているというところですわね。
…一部の方には不満をぶつけられ粘着もされましたが、そのレベルであれば特に気にしませんので、寧ろわたくしの視聴者の方がヒートアップしないよう丁寧にお願いをするような形でこちら側は収束しましたわ、本当にわたくしの視聴者さんは優しい方が多くてありがたいですわね。
そして、先日の予選で勝ち抜いたわたくし達は、ほぼ初心者だった歩さんのプレイヤースキルが上がったことにより、プレイキャラを変更することになりました、前回は初心者でも使いやすい索敵キャラを使っていただいたのですが、生存能力が高く死なないよう立ち回るプレイングから見て補助と蘇生能力がある衛生兵キャラを使ってもらう事に。
ちなみにわたくしが使っているキャラはワープポータルを設置することで攻めにも撤退にも使える優秀なキャラクターです、使いどころはなかなか難しいのですけれど使いこなせればかなり強いキャラクターですわ。
そして現在チート行為の防止という事もあって現在わたくし達は大会会場の一室で準備をしています、あちらで用意した機材でやることで禁止されている行為は出来ないようにされているのですね、もちろん持ち込みも無いように持ち物検査もされております。
しるべさんもここに来ておりまして、先ほどまではわたくしのお手伝いをしてもらっておりました、今は他の二人の様子を見に行っている最中ですわね。
そうして準備を進めていたら部屋の扉が開いたのでそちらを見るとここにいるはずのない、しかしよく見知った方がおりましたわ。
「どうしてあなたがここにいらっしゃるのですか?……お兄様。」
そう声をかけると、少しだけしょんぼりとした様子でこちらを見るお兄様、麗明院武の姿がそこにありました。
「久しぶりに会ったのに挨拶より先にそんなことを言うのかい…?一応この大会のスポンサーもやらせてもらっていてね、そして希望と僕は血縁という事で関係者として入れてもらったんだ。」
権力の乱用…とは言いますがお兄様はこの国でも最上位に位置する資産家な上、政界にも顔が利く人物でもありますので…家を出たわたくしも立場的にはそうなのですけれど…。
「とは言いますが11月のお父様とお母様の命日には顔を合わせましたわよね?」
「もう2か月も顔を見ていないんだよ…?配信は見ているけど心配なんだよ、流石に激励の言葉くらいは素直に聞いてくれてもいいんじゃないかな…?」
…それくらいなら…まぁかまいませんけれど…配信するたびに高額スーパーチャットをするのは少々勘弁して欲しいですわ、心配しているのは分かりますがあれのせいで視聴者の皆様に名前覚えられて名物扱いされている自覚を持ってくださいな。
「それで、他には用事はありませんよね?わたくしこれから大会参加者として配信上でインタビューがあるのですが。」
使い慣れないヘッドセットを手に持ちながらわたくしはお兄様に向かいながらそう口にする、お互い忙しいのだからそろそろ退散してはくださいませんか?
「…前はお兄様、お兄様って傍で笑ってくれたのに…いや、僕のせいだっているのは分かっているんだけどね、分かったよ、ここらへんで僕は退散させてもらうよ。」
別に嫌っているわけではありませんけれど…前が距離的に近すぎただけですわ、兄妹として適切な距離を取ろうと思っているだけで…。
あ、と言いながらその場から去ろうとしていたお兄様が振り返りながら口を開く。
「希望、君は今が楽しいかな?」
何が言いたいのだろうと思いましたがなんとなく、今の…プリムラとしての自分が楽しめているかという事でしょう、想い人の力になれてお友達も出来た、頼りになる大人も傍にいてくれるし切磋琢磨する仲間もいる。
おそらく今までっで一番充実しているかもしれません、それならわたくしが返す言葉は一つだけですわね。
「ええ、とても。」
その言葉だけで十分だろう、その言葉だけでお兄様は笑みを浮かべ部屋を出ていきました。
☆ ☆ ☆
「まったく…。」
希望ももう少し兄に対して以前のように接してくれればいいのに…。
そんな風に思ってしまうのは、自分にとってあの子が唯一無二の家族だからであろうとはわかっている。
自分から手放した分際でいまさら何をと思うかもしれないが、失ったからこそ気付くものがある。
自分自身もあの時はあれこれとやることが多すぎて、自分の責任の重さに潰され心に余裕がなかった、誰にも弱みを見せられず誰もが信用できないとハリネズミのように心の奥底では臆病になっていた。
あの子が自分と同じだったことに気が付いたのはあの子を失ってからだ、急いで探した時には自分は監督責任がないとみなされ、あの子自身に戻りたくないと言われあの男のもとにあの子を預ける事しかできなかった。
後悔はあるけれど今をあの子が楽しめているならばいいか、と思いながら歩いていると向かい側から見覚えのない男が歩いてくるのが見えた。
僕はこう見えて人の顔を覚えるのが得意だ、上に立つものとして部下の顔を覚えられないのは問題だしね。
そしてここの責任者とスタッフに僕を紹介してもらうのと同時に、顔見せも行っている、すべての人間ではないだろうけれど少なくともスタッフの格好はしていないし僕は彼の顔に見覚えがない。
つまりは部外者である可能性が高い、そしてこの先には希望がる部屋がある。
なら僕のするべきことは一つ。
「君、ここのスタッフじゃないよね?この先に何か用事でもあるのかな?」
そう声をかけると、彼はあからさまに不機嫌になりこちらを睨みつけてくる。
「は?なんだよアンタ、俺もアンタの顔なんか知らねーし、あんたに用事なんかねぇ。」
そういいながら、先に進もうとする彼の前に立ち道をふさぐ、ああ、近くで見れば見覚えのある顔だ、確か彼は大会の予選に出場していたプロゲーマチームの一人だ。
そして、予選で希望に敗退した者でもある。
「おい、アンタ、邪魔すんな。俺はアンタに用事はねえって言ってるだろうが。」
いらだちを我慢できな様子で今にも殴りかかろうとしてきそうだ、こんな男を希望の所に行かせるわけにはいかない。
「この先は部外者立ち入り禁止なんだ、どこかに行きたいのなら別の場所から行くといい、これ以上先に進むというなら君は後悔することになるだろう。」
あまりこういう手は使いたくはないが、あの子を守る為ならなんだってしよう、あの子の為だったら自分の権力を利用するのを躊躇わない。
「意味わかんねえ奴だな、俺は関係者だ。だからここを通せってんだよ。」
「悪いね、あの子の交友関係は把握していてね、少なくとも君と直接顔を合わせる関係でないことは知っているよ、もう一度だけ言う、後悔したくなければ来た道を戻れ。」
思わず冷たい表情になってしまう、今を楽しんでいるあの子の邪魔をするな、邪魔をするというのならそれはつまり僕の敵だ。
僕の言葉を無視して通り過ぎようとする男を見ながら僕は合図をする、するとどこからか黒服の人間が現れて即座に彼を拘束した。
「ッづぅ、いってぇ!なんだよ!いきなり何すんだてめぇ!くそっ放せ!」
「しばらく捕まえておいて、僕は少し連絡するところがあるから。」
まずはここの運営のトップ、彼にここにいる男の事を報告し、対処をしてもらう。
そしてもう一つ、彼の所属するプロゲーマーチームを擁する企業に、僕の不興を買った、それだけで企業は彼に対して何らかの処分を下すだろう、最悪チームの解散もあり得るかもしれないね。
しばらくして、報告が終わり少し経つと彼の携帯端末から音が鳴る、僕は彼を捕まえている黒服に対し放していいよと言った。
彼は逃げようとしたけど元の道からはこの大会のスタッフ数人が、そして希望の部屋の方向は僕と黒服が。
逃げられないと思った彼は、音が鳴る携帯端末を手に取る、そして。
通話が終わった後男は膝をつき、スタッフに連れられて行った。
「頑張ってね、希望、後悔がないように。」
僕はそう言いながらその場を後にした。
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