第35話 高天原とゲーム大会(後)

裏側ネタだけど、リスナーに扮してプリムラに知識を与え鍛えた内の一人はしるべです。彼女も相当レベルの高いゲーマーです。潜在能力はプリムラに負けますが。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「麗明院さん、私達の大事なタレントを助けていただきありがとうございます。」


「いや、あの子は身内だしね、それに僕が彼の事が気に食わなかっただけだから。」


 そう言って本音をごまかしながら言う麗明院さん、妹さんがかわいくてしょうがないのは透けて見えるのにそういう態度を見せないのは上に立つものとしての処世術なのだろうか?


 私が彼女から離れた隙を狙って来るなんて…。


 流石の私も肝を冷やした、Vtuberというのはかなりデリケートな存在である。


 配信者として顔出ししていないという点がまず大きい、そしてアバターという存在、つまりアニメ調だったりする彼女らのもう一つの現身だ。


 これによりVtuberは既存の顔だし配信者と違った所謂オタクに近い層に好まれることが多くなる、そういった人達は中身を知ることを嫌がる人もいるだろう。


 そして、ウィラクルの面々は顔を知られるのがまずい部類の人間がそろっている、いや、現実でも顔は全員整っているしむしろ上振れも上振れの顔立ちが多いけど。


 結愛はもちろん舞さんも顔を知られるのはまずいだろう、かつて青DPるグループに属していた彼女らは大衆に顔を知られているからだ、そしてのぞみさんもかつての彼女を探られるのはとてもよろしくない、唯一表さらけ出してノーダメージなのは優美だけだ、ある意味で彼女はウィラクルにとってかなり重要な立ち位置ともいえる。


 まぁ今回に関してはのぞみさんと接触したとしても接触しないとしても麗明院さんによって彼は社会的に抹殺されていただろう、彼は何気に過激な所がある、のぞみさん限定で。


 そんなことを考えていたらもう始まる時間である、私は彼女たちの応援に専念することにした。


 ★ ★ ★


 ゲーム内の広大なMAPに広がる大会参加者たち、彼らは皆かなりの実力者であり、誰もがこの大会で優勝できる可能性を持っている。


 その中でウィラクルチームのキャラクターたちは初動で戦闘を行うことになった。


『まずい、こっちは武器がない…完全に不利な始まりになった。』


『くっそー最初に脱落なんて情けないことは勘弁してよね…。』


『……仕方ありませんわ、二人とも、素手で行きましょう。銃持ちを落とせれば勝機はありますわ。』


『まじ?いや…もうそれしかないかダメージ食らったら食らった分不利になるし…。』


『分かった、プリムラに合わせる。』


 そう言って全員隠れていた場所から一気に飛び出し前に出ていた銃持ちに一斉に襲い掛かる。


 相手ももちろんかなりうまい相手である、冷静に照準を合わせて撃ってくる攻撃に少なからず被弾をするも、取り囲んでの殴り攻撃により、始まりは不利だった状態ながらも現在優勢になっていた。


『どうやら他のメンバーは武器を探して別行動だったようですわ、こちらの動きが早かったおかげで体制が整っていなかったようです。チャンスですわ!』


 反撃しようとするもさすがに3対1の為まとめて相手にするのは難しく相手はプリムラたちに撃破された。


『よし!うまく倒せた!プリムラ、確決めるからアンタが武器持って、一番戦力になるから。』


『了解しました、ですが弾数もあまり余裕がないのでお二人はは武器を探してきてください、わたくしは適度に相手を牽制しますので。』


『任せる。』


 一人を撃破したことで人数有利になるもこちらも多少ダメージを受けている上、遠距離攻撃をできるのはプリムラ一人、プリムラ一人でもやれる可能性はあるかもしれないがそれは万全の状態の話の為、二人は武器を探しに行くことにした。


『予想通り来ました!時間を稼ぎますわ!』


『武器あった…けど…スナイパー…は私使えないから歩ちゃんお願い!』


『了解…プリムラ、良い位置見つけに行くから少し待ってて。』


 自分の使えない武器だったため武器を歩に渡し、ガーネットは自分の武器を探しに行く。


 そしてプリムラの方ではなるべく消耗しないよう慎重に2人を相手にしていた。


 相手が良く見える場所にうまく配置できた歩が声を上げる。


『プリムラ、狙えるよ。』


『分かりました、歩さんが当てたらつめますのでお願いします。』


 相手はプリムラに集中している為、周りがあまり見えてないようで歩からすれば狙いやすい位置にいた。


『……ッここ!』


 冷静に狙った弾は相手に命中、序盤の耐久力の低いアーマーだからかスナイパーの一撃は大ダメージになる。


『ナイスです!歩さん!』


 すかさず持っていたグレネードを投げながら一気に詰めるプリムラ、歩の援護射撃によりダメージを追った相手を狙い一気に落とす、その間にもう一人にどうやらグレネードが当たったようでこちらも少なくないダメージを受ける。


『ここならちょうど当てやすい…んっ!』


 目の前にプリムラがいる為気を避けない残り一人を何発か外したものの歩のスナイパーが打ち抜き撃破、ここで大会の1チームが敗退することになった。


 ★ ★ ★


「すごいな、あの子の事は知っていたけどウィラクルの子達ってゲームが上手いんだね。」


 そう言いながら、試合を眺め感嘆の声を出す麗明院さん、私はそれに対し否定の言葉を発した。


「最初から上手だったわけじゃないですよ、プリムラさんもそうですけど、ガーネットも歩さんもかなり練習をしてきています。その成果が今出ているだけですよ。」


 そう言いながら、大会の画面、所謂運営の神視点を眺めながら私は言った。


 初手でいきなり戦闘など焦る所はあったものの、その後は順調に進んでいて驚くべき事が、ガーネットが司令塔のような役割をしていることだ。


 予選ではガーネットはとにかく突撃していって相手の陣形を崩しバラバラになった相手をプリムラさんが撃破、そして討ち漏らしや二人ののフォローを歩さんがやると言った構成だったのだけれど、どうやらプリムラさんとガーネットのポジションを交換しているらしい。


 ああ見えてガーネットは周りをよく見ている、というか恐らくプリムラさんを暴れさせた方が安定したからこの編成になったのかな?とはいえきちんと声も出して指示出しできているのは流石の年長者の貫禄だろうか?普段はあれなんだけど。


「…そうだね、ここまで息を合わせられるのは簡単じゃない…か。他人をあまり信用しないあの子ならなおさら…。」


 そう言いながら少し寂しそうな顔をする麗明院さん、なんというか兄というより親のような感性になっていないだろうか?


 画面上では縦横無尽に暴れるウィラクルチーム、Vtuberだからと少し侮っていたチームがどんどん撃破されていく、恐らくは今大会で今一番注目されているかもしれない。


「……今更だけど、あの子が高天原でVtuberをやっていてよかったと思っているよ、良い関係に恵まれたようだ…。」


 恋に関してはそれとこれは別だよ?と少し威圧感のようなものを出しながら、麗明さんは言う、いやそれを私に向けられても困るんだけどな。


 残りチームも減ってきて試合も終盤、残るは4チームでうち一つはウィラクルチームと今戦っているチーム、そしてもう一つ戦っているもう一組のうちの一つが今大会優勝候補と言われる、海外の配信者チームだ。


 もう十分注目もされたし、後はどんな結果になってもこちらとしては万々歳、出来ればあの子達の満足できる結果になればいいなと私は思っていた。


 ★ ★ ★


『よし!やった!最終アンチはおそらくこっち側だし場所取りは悪くない!後残りチームは…1!』


『思った以上の成果、なんだったらこのまま優勝したいところ…だけど。』


『キルログを見るかぎり…残りは優勝候補のチームですわね。こちらも3人残っていますけれど…。』


 残ったのは当然のごとく優勝候補のチームと今大会を色々な意味で引っ搔き回したチームウィラクル。


 歩は徹底してプリムラの後に続き危険な立ち位置には出ず支援に徹することで生き残っている。


 ガーネットは何度か撃破されながらも致命的な立ち回りをしない為何とか生き残った。


 そして最後にプリムラは圧倒的なゲームセンスで戦場を荒らしていた。


 撃破数は2位に差をつけて単独トップ、プレイヤースキルなら間違いなく今大会最強と言えるかもしれない。


 そして、最終エリアが小さくなると同時に相手が仕掛けてきた。


 残ったグレネードを雨あられと投げつけ先手を取ってくる、こちらも負けじと反撃はするものの、流石に優勝候補、大したダメージを入れることは出来なかった。


 今視聴者は食いつくように画面を見ている事だろう、優勝候補と意外過ぎるダークホース、Vtuberだなんてどうせエンジョイ勢だと思っていた視聴者は荒れに荒れた大会に胸を熱くさせている。


 お互いにリソースを削りお互いに総力戦といった状態になっていた時戦況が動く。


『あっ!ごめん!落ちた!』


 まずガーネットが退場する、そして最も危険視されているプリムラに相手チーム3人の銃口が向けられた。


『これはっ辛い!ですわね!』


 そう言いながらなんとかすさまじいキャラコントロールで撃破までには至らない、が不利でないことには変わりないどんどん増えるダメージにプリムラは表情を硬くしていく。


『くそっ…当たれ!』


 相手チームからすればもうプリムラさえ倒せば勝ちが確定しているので、すべてのリソースがプリムラに集中していた為、歩の攻撃が上手い具合に相手キャラの頭に命中、ヘッドショットが決まり相手のうちの一人を落とす。


 これで五分五分と思いきや、相手の狙いが一斉に歩に向き、それに気づいた歩が遮蔽物に隠れようとするも間に合わず倒されてしまう。


『ごめん後は頼んだ…。』


 そうしてまたも不利な状況、エリアはさらに小さくなり逃げる場所もほぼない状態でプリムラは一人奮戦する。


『皆で頑張って練習したんですもの!勝たせていただきます!』


 おそらくゾーンに入っていたかもしれない、被弾を最小限に抑えながらプリムラは反撃をする、そして。


 プリムラは海外最強とされる配信者を撃破するものの、残った一人に倒された。


 この大会は最後の接戦もあり、この大会始まって以来の名勝負とされ多くの切り抜き動画が生まれることになる、そしてウィラクルの活躍によって実力を持ったVtuberが今後招待されるようになったという。

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