第3話 推しと私とVtuber
配信までなげーよと思う方申し訳ない…自分こういう書き方なので、話が長くなってしまいがちです。それでも読んでいただける方に感謝を。
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結愛と私が新しい未来のために話し合った日から私は結愛にVtuberについて詳しく教えた。
動画配信者というものは知っていたものの、アイドル一筋だった妹はそういう知識が10年前で止まっており、昨今のエンタメに若干疎いところがあった、そして実際の配信画面を見せてみると驚いた顔をしていた。
「えっ?動いてる?え?これ配信なの?どうやって動かしてるの?とらっきんぐ?最近の技術ってすごいんだねぇ…。」
ちょっとだけ私より若いのにインターネット老人のように感じてしまったのは内緒、それでもかわいいんだけどね。
「えっと、私がこのVtuberになって顔をわからないようにして0から始めるっていうのでいいんだよね?それでお姉ちゃんの仕事先がそのVtuberの中に入る人を募集してて私がそれに応募すればいいってことなのかな?」
「その通り、元々Vtuber関連の事業はやってなかったし、そういう層を引き込んだりするにしてもほとんど一から、精々個人勢よりまし程度になるんじゃないかな?一応宣伝はするみたいだけど。」
そもそも普通の芸能事務所がV事業を展開するのも割と珍しい、ないわけではないけれど少数派なのは間違いない。
「うーん……でも私配信者の事殆どわからないよ?ゲームとかはまぁ出来なくはないけど上手じゃないし、あ、でも歌配信とかなら出来るかも。」
「別に本気でゲームがうまくなくたって大丈夫、リスナーは配信者の反応を見に来てるのが殆どだし、まぁ心無い言葉をコメントする人もいるにはいるけど。」
そういう厄介ファンというかアンチみたいなのもこの子は経験しているみたいだし大丈夫だろう。ファンとアンチは別物だよっ!ってぷんすかしてたのを思いだした。
「それでどうする?応募したとしても合格する保証はないけど、まぁ私は結愛なら受かるって思ってるけどね?」
「えぇ…プレッシャーかけないでよぉ…期待が重すぎない?」
そう思えるものがあるのだ結愛には、そしてこの募集のページを見ればなおさら。
「結愛、これを見て。」
私はスマホで結愛にあるページを見せる。
「…えっ?」
そこにはこう書かれている
バーチャル”アイドル”募集、と。
「…アイ…ドル?…私、もう一度アイドルができるの?」
そう、そこに書かれていたのはバーチャル”アイドル”、結愛にとって天職ともいえるアイドルだ、Vtuberであるからそれなりに元のアイドルとは違った形にはなるだろう。
だとしても、もう一度、結愛の夢を叶えることができる。そんな彼女の新しい目標である他の人にも夢を見て欲しいという願いも叶えられる。
一石二鳥だ、そしてもし結愛が受かったなら、私も結愛のマネージャーへと業務の変更願を出す。それが叶えば私の夢も叶い一石三鳥である。得しかない。
「…わかった、私、これに応募する。普通のアイドルとは違う形になっても、もう一度挑戦できるのなら!」
結愛は決意を胸に秘め、応募のページに指を伸ばした。
☆ ☆ ☆
Vアイドルの応募から2か月ほど、書類審査は突破し、先日面接試験も行ってきた。
結愛曰く一応実技もあったそうなのだが、あちらが結愛の素性を知っていたらしく、アイドル時代について色々聞かれたらしい、あと実技は簡単だったそうな(結愛曰く)
そして今日、通知が届いたのだ、その結果は。
合 格
ま、まぁ分かっていたけれども、うちの結愛なら楽勝だって予想はできていた。
そして通知が届いた後の次の出勤日に私は上司に頭を下げ結愛のマネージャーをやらせてほしいと頼み込んだ。
その結果、何故か社長にまで話が行き(Vアイドルプロジェクトを主動で動いていたのは社長らしい)私の能力や、なぜ彼女のマネージャーになりたいのかを聞かれ、家族であること、傍にいてサポートをしやすい立場であることからOKサインが出た。その場でガッツポーズするところだった。
その後、自分の仕事の引継ぎが終わったころに、結愛と共に連絡が入った。
同期1名と顔合わせをしてほしいとの事だった。
うかつだった、そもそもVtuberというものは基本複数人まとめてデビューするものだ、しかも新規事業で配信者としての知識が少ない女性一人でデビューなど難しい話だろう。
予想できたことだったし、先に考えておかないといけない話だった。
そのことに関して結愛は。
「もう終わったことだから大丈夫、今度は良い関係になれるように努力するから。」
と笑っていたが、私は心配だった。
結愛が前のグループを抜けた理由が結愛とグループ内の不和、だったからだ。
不和の理由を簡単に言うと、結愛の能力の高さとその事から起きる人気の差による嫉妬。
結愛も何とかしようとはしたみたいだけれど、溝は埋まらず、結愛が辞めるきっかけになった事件が起きてしまった。
そのことから、私は結愛をマネジメントするにあたって一番ベストなのはソロであること、であると考えていた。
結愛のスペックならばそれでも上に行けると思っているし、相方への負担、というのも存在しなくなるからだ。
こうなってしまっては仕方がない、前の事務所が失敗と同じ失敗を私がしなければいいことだ、そう、その為に私がいる、あの時にできなかった位置に今は私が存在するのだ、何かがあっても私がフォローすればいい、大丈夫、覚悟はできた。
そうして話がまとまり、先方の予定とこっちの予定を合わせて、会社の応接室で顔合わせをすることになった。
そして当日、現在は応接室の扉の前に私たちはいた。少し後ろにいる結愛に振り返ると結愛は一つ頷きを返す。
その様子を見て私は応接室の扉をノックし。
「失礼いたします。」
と一声かけると、どうぞと声がしたので扉を開け応接室の中に結愛と共に入った。
スーツを着こなし少々顎に髭を生やしたイケオジ、我が社の社長である鷹雨 裕司(たかさめ ゆうじ)社長ともう一人、灰色のサラサラロングヘアで綺麗な和装をしたとんでもない美少女がそこにいた。
応接室のソファーに座った少女は、こちらを見るとにこりとやわらかで上品な微笑みを浮かべる、上流階級の子なのだろうか?社長の娘さんかな?
社長と少女はソファーから立ち上がり口を開いた。
「やあ、どうも、私がこの芸能事務所の社長をしている鷹雨裕司だ。よろしく頼む。」
気さくな雰囲気で社長は自己紹介をする、それから続いて隣の少女も口を開いた。
「初めまして、わたくしは神目のぞみ(かなめ のぞみ)と申します。これから共にお仕事をする同僚、ということになります。これからよろしくお願い致しますわ。」
スッと耳によく通る声が聞こえる、軽く腰を折りきれいにお辞儀をしてくる。すごく様になってるな。
「私は高天原プロダクションVアイドルプロジェクト、タレントの稀石結愛の担当マネージャーをさせていただく稀石しるべです。よろしくお願い致します。」
「あっ、わ、私は高天原プロダクションのVtuberタレントをやらせていただく事になった稀石結愛です!よろしく願いします!」
私に続き結愛も自己紹介をする。ちょっと緊張で声が上ずっているがきちんと挨拶出来たようだ。
自己紹介が終わると社長がかけてくれと声をかけてきたので、社長と神目さんの向かいのソファーに座る、それを見て向かい側の二人も同じように座る。
「まずは、結愛くん、ああ、稀石だとしるべくんと同姓なので名前で呼ばせてもらうよ。」
「あっ、はい大丈夫です。同じ苗字だとややこしいですから。」
結愛が笑顔でそう返すと、社長は続けるよと話し始めた。
「…それで結愛くん、まずは合格おめでとう、これからよろしく頼む。」
「はいっ!よろしくお願いします!」
結愛の元気のいい返事に社長は若干表情を和らげるがすぐに表情を戻した。
「君の事はよく聞いている、とても素晴らしいアイドルだった、という話もね、今の我々にとっては即戦力たり得る君は喉から手が出るほど欲しかった人材だ。」
結愛は少し照れながらありがとうございます。と言っている。社長は続けて口を開く。
「このプロジェクトは私が主導で行っているからね、私が総責任者ということになっている。だから何かあれば私に相談して欲しい、すぐに対応できるよう手配しておくからね。連絡先も教えておこう。」
そういうと社長は仕事用だけではなく、おそらくプライベート用の連絡先も教えてくれた、総責任者とはいえ1つのプロジェクトにここまでするものだろうか?
まぁいいか、とりあえずはありがたく受け取っておこう。
「それで、メインの配信について、だが簡易的な説明はしるべくんに教えている。色々細かいことは後に詰めていくことになるとは思うが、基本的には君たちの自由に配信してOKだ。」
他には、と社長は神目さんに視線を向ける。
「デュオでデビューすることになるから神目とはいずれコラボ配信など行うと思うのだがね、個人では構わないんだが神目と共にという形でアイドル系の配信はしばらく控えて欲しいんだ。」
結愛は頭に?を思い浮かべているような表所、理由はなるほどそういうことか。
「言ってしまえば釣った魚が大きすぎた、嬉しい誤算でもあるが結愛くんが優秀すぎてね、大人と子供ほどの差があると流石に周りの反応が怖い。」
結愛もかつてのグループのことを思い返しているのか少ししゅんとした表情をしている。はっきりと実力不足を言い渡された神目さんは何故か涼しい顔をしている。
彼女は私に見られていることに気が付いたのか、笑みを浮かべながら口を開く。
「実力不足なのは自覚しておりますから大丈夫ですわ、ただし、今は…ですけれどもね?」
そう言うと神目さんは、結愛に目を向けながら話を続ける。
「だから結愛さんにお願いがあります。私を鍛えていただいてもよろしいでしょうか?」
突然のことに私すら頭に?が浮かぶ
「デュオを組むということはあなたの隣に並ぶということ、その時に最悪見劣りしないレベルまでにしておかなければなりません、ですので傍で学ばさせ欲しいのです。」
成程、つまりは見て技術を盗みたいということか、それに一緒にやることで息の合わせ方も練習しようと、たぶんそういうことだろう。
結愛は唇に指を当て考える表情を浮かべ、少し経ったのちに口を開く。
「うん、いいよ、私がいろいろ教えてあげる。でも結構スパルタでやるよ?大丈夫?」
なんか結愛から怖いオーラが出ているような…あれ?気のせいだろうか?
「覚悟はできております。どれほどの辛い練習だろうと乗り越えて差し上げます。」
それに真っ向から視線を返す神目嬢、魔王に相対する主人公か何かかな?
「ごほん!…まぁ話はまとまったかな?それでだが、これを渡しておこうと思ってね。」
そういって社長が差し出したのは一枚の紙、そこに写されていたのは。
「…これが…」
そこに写されていたのはピンク色の髪を肩ほどまで伸ばした正統派ヒロインのような雰囲気のアニメ調の少女、つまりこれが。
「…これがVtuberになった私なんですね。もう一人の私。」
そういう結愛は小さく笑顔を浮かべる。
「アバターの名前は君に任せる、それと近日中に配信機材についても送っておこう、アバターの名前と配信の予定が決まったら教えて欲しい、それに合わせてこちらも予定を立てておくのでね。」
その後細かな取り決めや注意事項などを話した後に、社長は予定があるのか部屋を出て行った。
私たちも帰る準備をしていたところ、神目さんが声をかけてきた。
「本日はこのような機会を作っていただいて本当にありがとうございました。これから一緒に頑張っていきましょう。結愛さん。」
「うん!一緒に頑張ろうね!のぞみちゃん!}
いつの間にか名前を呼び合う仲になっていたのか、笑顔でお互い別れを告げる。
そうして家路についた私たちにつぶやいた彼女の声が聞こえることはなかった。
「ごめんなさい、しるべさん、結愛さん…。」
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