第4話 推しの初配信と私と不穏
顔合わせの日からさらに時は流れ、季節が変わり現在は7月あったかくなってきたなぁと感じる今日この頃。
本日はついに結愛の初配信の日となる、神目さんと配信を順番に行う為、スケジュールの調整を行った結果、今日初配信となった。
その為、現在我が妹結愛は家の中をバタバタしている、もうおおよその準備は終わったし問題が起こらないように私が確認済みなのに、かなり緊張しているようだ。
まったく…アイドルになって大きなステージで大勢の前で歌い踊った経験があるというのに慌てすぎではなかろうか、私も緊張しているが、あまりにも結愛がバタバタしているせいで逆に落ち着いてきた。
流石に慌てすぎだと思ったのでスマホのチャットアプリで落ち着けと送ると、HELPのスタンプが送られてくる。
思わずちょっと笑ってしまうものの、流石にかわいそうだと思ったので結愛の部屋に向かい扉をノックした。
「結愛、入るよ?」
一応声をかけてから扉を開け部屋に入ると整頓されたちょっと女の子といった感じの結愛の姿が、というかなんで外行き用のバッチリメイクをしてるんだろう、どこかに出かけるんだろうか?もうしばらくしたら配信時間なのに。
「結愛慌てる気持ちはわかるけど少しは落ち着いたら?防音性のあるこの部屋からも音が聞こえそうな感じでバタバタしてたよ?」
そう軽くたしなめると結愛は少ししょんぼりしながらちいさくごめんんさい、と謝る。
「うぅ…でもねおねえちゃん、私の、もう一人の私の…『ゆめのマナ』の始まりだって思うと…。」
『ゆめのマナ』これが結愛と私が決めたVtuberとしての結愛の名前になる、と言っても結愛の名前をもじっただけであり、夢を見てくれるファンに愛を込めて、といった感じでつけられた名前だ。
「なんだか懐かしいね、結愛がアイドルオーディション受けた問いもこんなkン時だったのを思い出すね。着替えていざ出発ってなったらパジャマの上に服着てたもんね?」
「わっ、そんなの忘れてよぉ、いつまでも覚えてなくていいよ。」
あれは傑作だった、普通にあり得ないことやってて流石の私も爆笑したものだ。
「大丈夫、皆に夢を見せるんでしょ?やることはアイドル時代と一緒。頑張ってる結愛を見せれば問題無しよ。」
「そうは言っても…アイドルやっててもお話とかそこまでしたことあるわけじゃないし、ファンサとかとはちょっと違うよ。」
配信とはまた違うよぉ…ともじもじしながら恥ずかしそうにしている我が妹がかわいすぎる。
「大丈夫だってば、その為に私がいるんでしょ?私はね、結愛の、ゆめのまなのマネージャーなんだから、ちょっとくらい問題起こしても大丈夫だよ。そのために私がいるんだから。」
そう、あなたの手伝いをする事が、あなたに頼られることが、私にとっての”夢”なのだ、いくらでも迷惑をかけてくれてもいい、あなたを輝かせるという私の夢を叶えさせて欲しい。
「そう、だね…おねえちゃんがいるんだもん、それに。」
結愛はちらりとPCのモニターに視線を向ける、そこには初めて作った配信枠の待機所に集まる人の姿、人の姿といっても数字ではあるのだが、まぁ待ってくれているのは間違いない。
「500人、こんなに私を待ってくれてるんだ…。」
「まぁ大手と比べたら圧倒的に少ないけど、V事業だなんてうちの会社初めてだし、だいぶ集まったほうだとは思うよ。」
初めからVの芸能事務所としてならまだしも、高天原プロダクションは中堅規模の普通の芸能事務所である。
大手ならわからないでもないが、中堅が新たにV事業を起こすのは珍しい、物珍しさから人が来てるのもあるかもしれない、それか営業が頑張ってるのかな。
そろそろ時間が迫ってくる、私と話したことで若干緊張も和らいだのか結愛の表所は柔らかい、うん、これならば行けそうだ。
「おねえちゃん、ありがとう、おねえちゃんが私のおねえちゃんで本当に良かった。いつもそばで私を見守ってくれる、助けてくれる、私の大好きなおねえちゃん。」
それだけ言うと私に背を向け配信の準備を始める、このタイミングで爆弾落としてくるなぁ我が愛しの妹、全くこの子には勝てる気がしない。
時間がくる、意を決した結愛は配信開始のボタンに手を伸ばした。
★ ★ ★
配信が始まった。
・そろそろか
・初見です
・みせてもらおうか高天原のVとやらがどこまでやれるのかを
・ここにいるやつ全員初見だぞ、初配信だしな
・いえーい
・なんかどこぞのマザコン兼ロリコンいなかった?
・期待
♪~~~♪♪~♪~
よし、まずはあらかじめ録音しておいた結愛の歌をOPとして流す、いいぞ。
・お、オープニングあるのか
・フリー素材とかじゃないね?ライバーの生歌?
・ゆめのマナっていうんだ
・歌うま系Vtuberか
・そらヴァーチャルアイドルで触れ回ってるからな
・この声どこかで聞いたような
♪~~~♪~~~~
結愛の歌が終わる、予定ではここから挨拶、自己紹介が始まるはずだ。
・OPおわったか
・そろそろくるかなー?
・初配信は緊張して数分声でないVも結構いるからなわからんぞ
・人すくねーなー
・この子が高天原の初のVなんだからこんなもんやろ
『…………ヴぁ……あっ…』
あっ。
・お茶吹いた
・ヴァッ!?
・きれいな声から出る不思議な効果音草
・ブッホwww
・なんかおねーちゃーんてすごく小さく聞こえたけど放送事故かな?
・いきなりかましてくるねぇ!
・家族フラはやめてもろて
・2分くらいなんも聞こえなくなったが
こちらを振り向きながら涙目でやっちゃった、という表情をしている。というかダメ!おねえちゃんっていっちゃダメ!結愛!
『ん、ンン、みなしゃん!初めまして!私はたかまなはらプロダクション所属ヴァーチャルアイドルのゆめのあまです!』
やばいめっちゃテンパってる、結愛がちらりとこっちを見た、私は胸に手を当て落ち着けのジェスチャーそして水飲めの合図、…これはTOPバッターだったのが仇になったか…。
・かみかみで草
・めっちゃ声は良いのにだめだ笑ってまう
・なんて?
・ポンの子かな?
・ピンク髪ヒロインぽい見た目でポン属性おいしいな。
大丈夫だ、まだ巻き返せる、むしろいじられネタが出来ておいしいかもしれない、配信者としては悪くないかもしれないぞ結愛!
『んくっ、スゥーハァー……皆さん!初めまして!高天原プロダクション所属、ヴァーチャルアイドルのゆめのマナです!』
・take2www
・落ち着けてえらい
・やりなおしてもさっきのことは無くならんでw
・おもしれ―新人が来たな
・もっとポンをだしていけー
・お水飲んだ?
最初にどでかい失敗をやったせいかむしろ空気がよくなった感がある、気持ちも落ち着いたみたいだし、頑張れ!
『えっと、声は聞こえてるみたいですねっ!あっ音量、音量はどうですか?ちょうどいいですか?』
・さっき声張ってた時はちょうどよかった
・もうちょっと大きめかな
・ちょうどいいかも
・少し大きくしてほしい
・もうちょい大きいと助かる
一応爆音鼓膜破壊を警戒して音量は低めに設定しておいた、予行練習はしたけど爆音流してリスナーから不快感感じさせるのもよくないし…なんか空気的にもう関係ない気がするけど…。
『わかりました。それじゃあ少しだけ大きくしますね。こう…かな?これでどうですか?』
・ちょうどいいよー
・やっぱ落ち着くと声がええなぁ
・ウィスパーボイスが癒されるんじゃ―
・初めましてー
『ちょうどいいみたいですね、ふぅ…よかったぁ…、えっとそれじゃ改めまして、ゆめのマナです!このバーチャル世界でアイドルをやることになりました!応援よろしくお願いします!』
よし落ち着きを完全に取り戻した、結愛はは私手製の初配信予定表の髪を見ながら次にやることを確認していく。
『それじゃ次はファンネームというのをつけようと思います。これはリスナーさんにつけていただきたいですね、何て呼ばれたいですか?』
・ファンネームかぁ
・マナの奴隷
・ゆめの住民
・マナちゃんの名前から連想出来るやつがいいねぇ
・ゆめ(夢)のマナちゃんの配信を見る民って事で夢=ドリーム、見+民でドリみんとか
・↑のやつええな意味もオシャレ
・ポン国民
割と適当に決めると思っていただけに割とガチ目に考えてくれた人がいるのに驚いた、君は名誉結愛ファンクラブ隊員にしてあげよう。
『夢を…見る、いいですね!ドリみん、かわいいしオシャレでいいと思います!皆さんはどうでしょうか?』
・ワイらが名乗るにしてはちょっとかわいすぎる気もするけど
・いんじゃない?マナちゃんが気に入ってるならさ
・いいよー
・異論はありませんです!
『はいっ!それじゃあ次は―――。』
大分ノってきたのか最初の失敗がまるでなかったかのようにサクサク進んでいく、一度はどうなるかと焦ったけれど。
・そいえばおねえちゃんって聞こえたけど家族?
・そんなこといってたね
・聞いていいことなんかな
結愛はこちらをちらりと見る、これは少しアレな質問だな、ここからすぐに身バレなんてことはないと思うが、あまり言わないほうがいい話ではある。だけど。
『…はい、私のおねえちゃんはマネージャーさんなんです。いつもそばで支えてくれて夢を応援してくれる大切な人なんです。』
結愛が言うと決めたのならそうしよう、私は彼女を全力で支えるだけなのだから。
・ほえーおねえちゃんおるんや
・お姉ちゃんもライバーになれ
・お姉さん妹さんをください
・家族がマネージャーって事か
誰が結愛をやるか〇すぞ。
そうこうしているうちに初配信として決めていた時間の30分になりそうだったので、私は結愛に時間を伝える。
結愛も時間を見てはっとして神目さんの配信に繋げる為最後のあいさつを行うことにしたようだ。
『そろそろ時間になるみたいですね。皆さんとお話ししてたら時間があっという間に過ぎちゃいました。名残惜しいけどそろそろお別れの時間ですね。』
・えー
・もう30噴か早く感じるな
・チャンネル登録しましたこれからも応援してます!
・俺もチャンネル登録した
・いかないで
『はい、皆さんとお話しできて楽しかったです。この後1時間後に私の同期の子の配信があるのでそちらの応援もよろしくお願いします。』
・了解
・そっちも期待
・あーい
・わかりました!
・チャンネル登録しました
『それでは、高天原プロダクション所属ヴァーチャルアイドルのゆめのマナでした!それでは皆さんまたお会いしましょう!』
最後のあいさつもすみ結愛は配信を終了させる。私は自分のスマホでゆめのマナの配信が終わったのを確認すると、こちらを向いた結愛に笑顔を返した。
★ ★ ★
配信も終わり緊張も解けたのか結愛は普段通り…普段以上にだらけた姿を見せていた。
「はぁ~、緊張したよぉ…初手でやらかしちゃったし…ううう、恥ずかしい。」
「大丈夫だよ、むしろおいしかったんじゃない?配信っていうのはああいうキャラクター性もうけるものだし、それに落ち着いてからは初配信とは思えないほどしっかりしてたしね。」
少し褒めると、えへへそうかなぁと頬を緩ませる結愛、本当にかわいいなぁ、こんなん嫁にやりたくなくなるわ。
そんな結愛を見ながら私もほっこりしていると、結愛があ、そうだと声を上げる。
「この後のぞみちゃんの配信もあるんだった―、これからは一緒にやっていくんだしきちんとどんな配信をするのか見ないとね。」
ほんとにいつの間にか仲良くなって、相性がいいのだろうか、そこまで結愛はコミュ強って訳でもないし、いやでも、なんというか、神目さんってなんか惹かれる感じがある、なんというか雰囲気?のようなものだろうか?
楽しみだなーっ、とベッドの上でスマホをいじる結愛に笑顔を向け、好調の出だしを私は喜んでいた。
―――――しかし
高天原プロダクション所属ヴァーチャルアイドルプリムラ・モンステラ。
初配信にて炎上
「お…おねえちゃんこれ…。」
いやはやこれは…前途多難…かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます