始動と難題
第5話 夢と私と希望と愛
本当に申し訳ない、これを言うことで間違いなく大きな問題になることはわかっておりました。
『わたくし、プリムラ・モンステラはここにいるリスナーの皆様に一つ大事なことを言わなくてはいけません。』
・初配信で重要なお知らせ?
・わたくし、結婚します!とか?
・いきなり案件とか?
・ヴァーチャルとはいえアイドルとしてデビューするのにいきなり結婚は草
間違いなくここにいるリスナーの皆には失望されるでしょう、ですがここで言っておかなければいずれより大きな火種になることは確実ですし、バレなければいいなどと不誠実なことはしたくありませんでした。
マネージャー様には苦労を掛ける事でしょう、裕司さん…社長にも迷惑をかけるのは間違いない、仲良くなれそうだった、結愛さんにも嫌われるかもしれない。
でも。
『ヴァーチャルアイドルとしてデビューするわたくしですが、実は……お慕いしている人がいます。』
神目のぞみは、幸せになりたい、わたくしを応援してくださる方々に嘘でごまかしたくない、だからわたくしはそれを口にした。
☆ ☆ ☆
昨日の問題の配信の後わたしはすぐに社長に連絡しどうするか判断を仰ぐことにした。
社長はとりあえず翌日にもう一度会社に来て欲しいということと、こんなことになってすまないと謝罪の言葉を口にしていた。
まさか社長もこんなとこをすると思ってなかっただろうし、まず謝罪すべきは神目さんだと思うが。
そして今日、私は結愛を連れ、新しくできたVアイドル課のオフィスに向かっている。
「…ねぇ、おねえちゃん…大丈夫なのかな?」
何が大丈夫か、と言われればおそらくゆめのマナとしての新しい出発、としてであろう。
ゆめのマナとプリムラ・モンステラは同社所属の上同期、しかもただの同期というわけでもなくデュオアイドル、としているためある意味一蓮托生、プリムラが潰れればゆめのマナにも影響が及ぶ
ここで終わるわけにはいかない折角結愛が前を向いたのだ、このチャンスは逃したくなかった。
だから私は改善策を考えなければならない、窮地を脱する方法を。
☆ ☆ ☆
「本当に申し訳ございませんでした。」
集合場所のVアイドル課オフィスの一室で私たちを出迎えたのは相変わらずの和装の神目さんの謝罪だった。
深く頭を下げる本当に申し訳ないと気持ちが伝わるほどに。
「…まずは落ち着いて話すために座って話をしよう…。」
社長は疲れがたまっている様子だ、声色まで疲れが見える、おそらく問題の対応に追われていたのだろう。
「まず事の次第は昨日の神目の…プリムラのあの発言だ。神目、なぜあんなことを言った?」
社長が明らかに不機嫌だと分かる声で言う、信じていたのに裏切られた、といった感じだろうか、この二人も割と距離が近いけど何かあるのだろうか?
「改めて、申し訳ございません。ですが、わたくしは噓を付きたくありませんでしたの。」
神目さんは謝罪しながらも、姿勢を崩さずまっすぐ社長に視線を向ける、聞いた感じだとこの子結愛より年下らしいが精神強すぎないだろうか。
「嘘、とは?まさか本当に男でもできたのか?ならなぜ先に言っておかない、プロジェクトが動き出し、始まった直後に何故?」
「始まった直後だからですわ。後になってそういう事を匂わせれば今とは比にならないくらいに大きな問題になるでしょう。」
ふぅ、と神目さんは一息つきながらそれにと続けて口を開く。
「わたくしがお慕いしてる相手は…貴方ですわ、裕司さん。」
「「……は?……。」」
思わず口に出してしまった私と社長の言葉が被る、隣に目を向けると結愛も驚いた顔をしていた。
「…は?俺?いやいや何故そうなる、第一お前そんな様子全く無かっただろうが!」
社長はかなり驚いた様子で口調も乱れている、へぇ、普段はあんな感じなのか。
「それはあなたが鈍いだけです。わたくしは貴方がすべて無くしたと思っていたわたくしを拾ってくれたあの日から、あなたをお慕いしておりました。」
なんというか、話の内容からこの子実はかなり重い人生を歩んでるのではなかろうか、すべて無くしたとか拾ったとか、やばい単語がちらほら。
「裕司さんが気まぐれにわたくしを拾ったこともわかっております、ですがそのときのわたくしにとっては非常にフラットなその感情、大きな期待も失望もない利益だけの関係それがとっても好ましかったのです。」
なんだかやべぇ話を聞かさrている気がするのだが本当に大丈夫だろうか?私と結愛まったく話に付いていけてないけど。
「…まぁとりあえずその話は置いておこう、取り合えず神目が好意を持っているのが俺、ということはわかった。あー、まぁ、うむ。」
社長はかなり動揺した様子で、いろいろ思い悩んでる様子だ。これじゃ話が進まなそうだ。
「…とりあえず神目さん、これからどうやって火消しをするのか、どうやっていきたいかを聞いてもいい?」
私に顔を向け申し訳なさそうな顔をしながら神目さんは口を開く。
「申し訳ございません、火消しの方法案など何も考えてはいなかったのです。先ほど言った通り嘘を付きたくなかった…応援してくださる方に誠実に向き合いたかったのです。」
正直に言えば嘘を付く事、騙し切ることもある種誠実ではあると思うが、相手は普通そういう事情を知らないわけだしね、おそらくこの子は真面目な良い子なのだろう。
「…うん、まぁ神目さんが解決案を持ってないってことはわかった…そういえば、そっちのマネージャーさんは?}
「…彼は現在緊急で作った対策室で、問題の対応をしてもらっている。本当はもう少し後になるとは思ってたんだが発足直後に問題が起こったせいでな。」
小さくあいつじゃなかったか悪いことをしたか、と聞こえたが、社長もまんざらではないのだろうか、それはともかく。
「それじゃ彼が戻ってきてからのほうがいいでしょうか、これからについて詰めておきたいのですが。」
「いや、それについてだが、負担になるだろうし無理を承知で頼みたい、神目のマネージャーも兼任してくれないだろうか、あいつには引き続き問題の対応をやってもらいたいし現状人手が足りない、本当に申し訳がない。」
…本気か?いや、この子もこれ以上の爆弾は爆発させないだろうし、出来る出来ないで言えばおそらく出来るけど。
「可か不可で言えば出来ます。デュオアイドルですし色々とまとめたほうがやりやすいですしね。」
チラと、横を見る結愛が?を浮かべているのが見える、個人的にはこの子の専属としてやっていきたいのだけど、そうも言ってられないか。
「わかりました、引き受けます。仕事が増えるのでそれに応じて手当増やしてくださいね?」
「引き受けてくれるか!ああ、ありがたい…手当に関しては二人を対応するのもあるし役職を上げたうえでプラスで出そう、こちらが迷惑をかけている以上最大限のフォローもする。」
お、そこまでは期待していなかったけど役職もあげてもらえるのか、まぁ貰えるものは貰っておこう。
「決まりだな、という訳だ、神目、以後君のマネジメントはしるべくんに一任する。それと彼女らの家の近くに部屋を借りる。」
わかったな?と反論を許さないというような声で社長が言う、え?もしかしてこの二人同棲でもしてた?
「まぁ、それは残念ですわ、裕司さんのお世話をしていたかったのですが…」
残念そうな声で神目さんは目を伏せる、おいおい社長もアイドルと同棲なんて結構やらかしてるじゃないか、で色々危険を感じたのか、突き放そうとしてるのかな?
「あ、近々オフィスの近くにいい物件見つけたのでそっちに引っ越す予定だったんですよ、そちらの部屋余ってるなら近くに借りてもらえればいいと思います。」
「そうか、ならその方向で話を進めよう、後は…しるべくん今の状況で今後の具体案は何かあるだろうか。」
神目さんのリスナーは現状でほぼ消えたといってもいいかもしれない、荒らしとかアンチみたいなのとかばかりになるだろう、そう言うのは神目さんなら大丈夫だと思うが、ほぼ0から集めるのはかなり厳しい、それに発言は消せない、だから。
「彼女にはいっそ恋愛系ヴァーチャルアイドルをやって貰おうと思います。物珍しいから目を引くと思うし、もう堂々と公言してもらいます。」
逆にネタにするという訳だ、もう受けるダメージもない以上開き直った方が良い、嘘が嫌だというのならどちらにせよそうした方が良い。
他に問題になるのはどうやってリスナーを引き入れるかだ、これに関しても一応考えはあるのだが、それには神目さんの協力が必要になる。
「とりあえずは現状プリムラが配信したところで人は集まらないと思います。ゆめのマナにもダメージが行ってると思うし、それでもしばらくは結愛一人でどうにかして貰うしかないですね。」
今まで話を聞いてるだけだった結愛も話を振られ、ふぁっとか変な声を上げている。
「今のどん底に落ちたプリムラをどうにかする方法があるという事か、それができるならばやって欲しいところではあるが、出来るのか?」
社長が難しい顔をしながらこちらに疑問を口にする、大丈夫、考えはあるしつてもある。
「そのためには神目さんに協力してもらう必要があります、かなり大変だと思うけどやって貰えるかな?」
そう言うと神目さんは間を置かずに即答する。
「苦境に立たされているのはわたくしの責任、ならどれほど大変だろうと全力でやって見せましょう、しるべさん、お願い致しますわ。」
鍵である神目さんの承諾を得た、後は神目さんの努力次第だ。
「方向性も決まった、これから結愛にもかなり協力してもらうことになるからお手伝いお願いね。」
「ん?良くわからないけどゆめのマナに関しては全部おねえちゃんに任せてるからね、私にできるお手伝いはするよ!」
ここまで来たら、最後まで走り抜けるしかない、絶対に成功させる!
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