幕間 神目 のぞみ②

前回幕間 神目のぞみの続きです。

重い話なのでスルーしてもOKです。

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 目を覚ましたわたくしの目に入ったのは、わたくしの部屋のものではない真っ白な天井でした。


 頭がぼーっとして、自分が寝る前に何をしていたのかも思い出せなくて、ただ頭に走る痛みと全身の気怠さ、そして体に取り付けられたなにか、それを見て普段とは違う何かに小さな恐怖を思い浮かべました。


 とにかく状況を確認しようと動かし辛い身体を何とか動かして周りを見渡す。


 そこで分かったのがここが知らない場所であることだけでしたわ。


 それからしばらくの間わたくしは何もする事が出来ず、そもそもなんでこんな所に居るのかも分からず、昨日の記憶を遡ろうと致しました。


 何故か思い出そうとすると頭に痛みが走り、まるで私に思い出すなと警告しているように思えましたが、思い出さない限りなにも進展はないと思ったので痛む頭を無視しながら必死に思い出しました。


 そしてしばらく考えわたくしの脳裏に浮かんだ光景は。


 赤。


 熱。


 強烈な臭い。


「…あ…。」


 あれはわたくしにとって地獄のような光景で。


「…ああっ…。」


 燃える見覚えのある車、触ると危ないから触るなと言われていた石油のような匂い、痛む全身。


「ああぁぁぁぁぁ……。」


 次第に聞こえる怒号のような声、燃えた車にかかる白いもの、そして。


『おい!子供だ!血を流しているぞ!。』


 近くで聞こえる男の人の声、お父様じゃない、お父様は…何処?


 人が集まり何かに乗せられる、意識がはっきりしないわたくしには何が起こっているかわからない。


『大丈夫、大丈夫だ!”君は”助かる、”君は”絶対に助かるからね!』


 何とか聞き取れた声はそう言っていた。


 助かる…?何を言ってるんだろう、わたくしは何をしていたんだっけ…?


 鈍い頭の回転も痛む体の性でイラつきも覚えることもなく少しずつ思い出した。


 ―――そうだわたくし、おじいさまのお葬式に行ってて…。


 そして思い浮かぶのはお父様とお母様の優しい声、そして。


 ―――おやすみなさい。


『おとう、さ、まは…?……おかあさま…?』


 もうろうとする意識の中で過去のわたくしは声を出した、そう一緒にお父様とお母様が一緒にいたはずなのです。


 目の前にいる誰かは大丈夫としか答えず、わたくしの質問に答えてはくれませんでしたわ、ですけど何故か、目の前の人からは、哀れみと一生懸命わたくしを助けようと思っているような声のようなものが聞こえました。


 その声が聞こえた瞬間意識は遠くなり、わたくしの目の前は真っ暗になっていきました。


「…あぁ…あぁぁ…。」


 思い出した。そうだ、わたくしは事故にあったんだ、あの光景はそうとしか思えない、なら此処は…。


「びょう…いん?」


 それなら知らない場所なのも理解できますわ、なら…お父様とお母様もこちらにいらっしゃるのでしょうか?


 身体も怠くて体調も良くないので、取り合えず誰かが来てくれるのを待つことに…いえ、確か病室にはナースコールという人を呼ぶものがあったはず。


 ナースコールのボタンを探すために周りを見回すとそれらしいものがありましたので押すことにします。


 ボタンを押してからしばらく待っていると、お医者様と看護師さんがお部屋に入ってきましたので、ようやく自分の状態が聞けると思いほっとしていました。


「麗明院さん、よかった、目を覚ましたんだね。」


 笑顔を向けながら、本当に良かったというお医者様、看護師さんもわたくしが体を動かしずらいのを気遣ってくれたようで手助けをしてくださいました。


「今、令明院さんが目を覚ましたってご家族に連絡したからね。」


 家族…ああ、よかったお父様もお母様も無事だったのね。


 

「麗明院さん、ご家族がいらっしゃる前に少しだけ検査させてほしいんだけど大丈夫かな?」


 検査、そうか目を覚ましたばかりだものね、怪我もしていたと思うし検査もしておいた方が良いですわよね。


 わたくしはお医者様の言うことを聞きながら軽い検査を行うことになりましたわ。


 そして、検査を行ったのですが…おかしいですわ、事故の時あちこちが痛かったのに今は体の怠さくらいで痛くはありません…どうして?


 検査が終わるとしばらくリハビリだねと言われました、うう…何故かうまく立てなくてころんだりしてしまいました…恥ずかしかったです。


 軽い検査が終わるとお医者様の電話が鳴りました、お医者様はちょっとごめんねと、わたくしに一言言うとお部屋の外に行きました。


 そのまましばらく待っていたのですが、扉が開いたのでそちらに顔を向けると、その瞬間私は何かに抱きしめられました。


 でもそのなにかは私が良く知っているもので、嗅ぎ慣れた匂い…急いできたのか少し汗の匂いがしましたが、この香りは。


「…お兄様?」


「ああっ、よかった!希望が目を覚ましてくれてっ!」


 お兄様だ、あの日一緒にお葬式に行けなかったお兄様に抱きしめられていた。


 お兄様は泣いているようで、泣きながらわたくしを抱きしめてくれました、なのでわたくしもお兄様を抱き返しましたわ。


「お兄さん、まだ起きたばかりなので無理はあまりさせないでください、大丈夫ですよ、もう目を覚ましましたから。」


「はい、すみません、先生…ありがとうございます。この子まで失えば僕は…。」


「いいえ、それが私たちの仕事ですから、これから大変でしょうから兄妹助け合ってくださいね。」


 お医者様はそう言うと、気を聞かせてくれたんのかお兄様と二人にしてくれました。


「希望、本当に目を覚ましてくれてよかった、痛いところはない?体調は?」


「ええっと、痛いところはあまり、ですけれど少し体が怠いですわ。あとさっき歩こうとしたらうまく歩けなくて…。」


「そっか、大丈夫だよ、これからリハビリすればすぐに歩けるようになるから、僕も希望のリハビリを手伝うからね。」


 お兄様はそう言ってわたくしの両手でわたくしの手を握りました、なんというかもう離さないと言っているようで、誰も見てないと分かっていても気恥ずかしいものでいした。


「…うう、でもそんなに怪我は酷くないのにどうして歩けないのかしら…。」


 わたくしは恥ずかしいのをごまかすためにそういうとお兄様は深刻そうな顔をしてわたくしに言いました。


「…希望、君はね、もう一か月も眠っていたんだ、あの日…お爺様のお葬式から帰る途中の事故からもう一か月もたっているんだよ。」


 …え?


「身体の怪我は幸いそこまで酷い怪我じゃなかったんだけど…頭を打っていたみたいでね…本当に心配したよ。」


 一か月、あの日からもう一か月もたっているの?


「あの、お兄様…聞きたい事が…あるのですが。」


「…うん…いいよ、何でも聞いて。」



 お兄様は何を聞かれるのか分かった様子で唇を引き結びわたくしからの言葉を待っているようでした。


 …どうして?どうしてそんな顔をするの?


 わたくしが無事だったのだもの、だから大丈夫に決まっているのに…。


「お父様とお母様は…どちらに?」


 やはり聞かれたかと、苦み走った表情をしながらお兄様は答えました。


「…希望、気をしっかりして聞いてくれ、父さんと母さんは、あの日、事故で…。」


 うそだ。


「希望だけが車から投げ出されて無事だったんだ…頭を打ったせいで今まで昏睡状態だったんだけど、目を覚ましてくれた…生きていてくれたっ…。」


 お兄様は先ほど泣いたばかりなのにまた涙を流していた。


 どうして?…どうしてお父様とお母様を連れて行ってしまったの?お爺様…。


「希望…?…!希望っ!…ごめんまだ話すべきじゃなかった!希望!こっちを見て!僕を見て!希望!」


 お兄様の声が消えるような気がする。


 でもわたくしは信じたくない現実から逃げるように。


 真っ暗な闇へと意識を落としました。

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