第22話 高天原プロジェクトと”普通”の黒曜

 新しい仲間も増え、高天原はさらなる発展を。


 とまあ冗談を言っている所なのであるけれど、現状私達がどうなっているかというと…。


 大して変わっていない、いや、そうなんだよね…後発の二人はこれからデビューだし、これからの事の予定くらいしか考えることがないんだよね。


 まぁ私の仕事量は増えたんだが、優美のマネージャーはGarnetとして動くこともあるから据え置きで、一応私の部下扱いになる、基本方針伝えたらあちら任せにする予定だけどね。


 そして、新しくVが増えるという事はガワも必要になるという事、彼女たちの性格、見た目からキャラ性などをイメージして描く、優美は自由人をイメージした真紅のショートの髪の妙齢の美女をイメージ。


 次に描く国陽さんは名前をもじり黒曜をイメージした漆黒の髪につり目の本人とあまり変わらないイメージではあるけれど、本人の要望で身長の設定は若干盛った、気にしてたんだね…。


 そんなこんなで忙しくしていたところ社長からお呼びがかかった、なんだろう、何かあったのかな?


 とりあえずV部門オフィスにいらしているという事なので、待たせている場所に向かう。


「社長、すみません。お待たせしました。」


「いや、こちらこそすまないね、忙しくしていたところに呼び出してしまって…人数が増えたからその分大変だろう?後で追加人員を送るのでしばらくは頑張って貰いたい。」


 ん?別に一人二人増えたところで別に変らないけど、流石にこれ以上増えるならば欲しいけど今はまだ大丈夫かな。


「国陽さんまでなら面倒見切れるから平気ですよ?優美にはマネージャーが付いてるので…彼女に対して指示していい立場ですよね?私。」


「そ、そうか…うむ、そうだな立場的にはしるべくんの方が上になるが…分かりやすくするためにしるべくんの役職に総括を付けよう、そちらの方がわかりやすいしな。」


 なんかちょっと引かれてる?引かれる要素あったかな?役職の追加ヤッター?それに伴って給料も上がるので喜んでいいところではあるだろう、総括になったところで私のやることは変わらない、推しのために頑張るだけである。


「それで、それが用事という訳ではないですよね?今日は何のご用でこちらに?」


「ああ、すまない…本題に入ろう、実はだね…高天原のV部門もライバーの数が四人となった、それでだ。」


 社長は咳払いをするようにして一拍おいてから言葉を続ける。


「いつまでも高天原V部門では味気がないと思ってね、Vプロジェクト…所謂君たちの仕事場すべてを指す意味で名前を付けようと思ったんだ。」


 成程、言いたいことは分かる、今までは高天原V部門で通してきた箱の名前を追加メンバーを機につけようという事なんだろう。


「成程、では社長、その名前はもう決まっているのですか?もしくは候補などがあれば教えていただきたいところですが。」


「うむ、実は候補は考えてきてある、奇しくも所属するライバーたちの名前に石が入っているからね、それを使いたいとは思っている。」


 石?私と結愛は稀石だから分かる、優美もアイドル時代は赤石だったし、今のGarnetの名前も本名をもじったものだ、国陽さんは言わずもがな私がイメージした通り黒曜石だろう…なら神目さんは…。


「のぞみは、神目、要石と言ったところかな、こうしてみると示し合わせたようにも見える、運命なんて言うものは個人的には信用していないのだけれどね。」


 そう言って社長は苦笑した、まぁこの人は無神論者だろうなぁと思う、自分の道は自分で切り開くタイプだし。


「このプロジェクトは君たち姉妹がいなければ成功することはなかったろう、だから君たちの名前にあやかりたいところもある、稀石…少々字はいじることにはなるが、奇跡、字面的にもいいと思ってね使わせて貰いたいんだ。」


 なんというかそう言われるとちょっと恥ずかしいな…私たちが中心になって動いてきたことは確かだし、確かに結愛がいなければここまでうまくいかなかったとは思ってはいるけれど。


「そして石は硬いものだ、我々を含めメンバーは皆強い意志を持っている、強く硬い意志をね?そしてそれを箱に入れると…。」


 一息つき社長は口を開く。


「WILL MIRACLE BOX…どうかな?悪くない名前だとは思うけれど。」


 いい名前だと思う、ただ…。


「名前、ちょっと言いにくくないですかね?まぁそのくらい長い名前の箱もあるにはありますけどもう少し簡潔にした方が…。」


「ははは、そうだね、それにこれから入ってくる子が石に関係するとは限らない、だからまぁ形を変え、造語になるがウィラクルボックスというのはどうだい?」


 どうしても奇跡の意志というのは残したいのかな?これなら名乗るのにも一般浸透もしやすいとは思うけど。


「それなら名乗りやすいし良いと思います。名乗りはウィラクルでいいですしね。」


造語は特別感もあっていいと思うし個人的には悪くないと思う、きちんと意味も込められているし。


「実は用事はそれだけでね、どうしてもこのプロジェクトの立役者である君に最初に伝えたかったんだ。」


 立役者って、それを言うなら結愛や神目さんだとは思うけど。


「それではね、鐘都君たちの準備もあるだろうし、私はここらへんで戻るとするよ、それでは…後を頼んだよしるべ君。」


 なんとまあ信頼を感じる言葉を残していきましたね社長は。


 ならまぁ頑張らせていきましょう、それが後で後の推しの為になると信じて!



 ★ ★ ★



 ステージに立つのとは違う緊張、そうか結愛もこれを感じていたんだ。


 それを感じながら緩む唇、あの子が通った道ならあたしは迷う訳がない。


 迷うことなく配信を始めるもう恐らくリスナーにはマネージャの原案から作り出されたアバターが写っている事だろう。


 なら始めよう、新しい私を。


『初めまして、あたしはヴァーチャルアイドル黒曜 歩、よろしく。』


・素晴らしい簡潔さ

・うん…これが普段通りなら簡潔でいいと思うけど初めましてなんだよね…

・さっきの最初からかましていくやつもヤバいけどこの子もやばい子かな?


 簡潔すぎただろうか、だけどあたしはあまり面白い話題とかを選択して話すのがあまり得意ではないのだ、つまりどういうことかというと、トーク力が低い。


 それでよくヴァーチャルアイドルやろうと思ったなと思うかもしれないがあたしにとってはこの場所にいることが大切なのだ結愛の傍にいることが。


『ん、と…あっ同期のガーネット・ポリッシュの配信見た?彼女の初配信を見た人とは知ってるかもだけど、あたし達が2期生として入ったことで、高天原V部門に正式に名称が付くことになった。』


・え?あの暴走女なんか言ってたっけ?

・あれでもね…かつては日本が誇る最強アイドルだったんですよ…

・当時はアイドルアイドルしてたのに本性を見るとあれだからなぁ

・当時を知ってる人間からするとそれでも推しちゃうんだよなぁ


 …えぇ…?割と自分の事で精一杯だったから見てないんだけど何したんだあの人、まぁそれは置いといて知らないならあたしが説明するしかないのか。


『…あー、何も言ってないならあたしから説明することにする、メンバーが四人になったことで箱としての名称を付けることになったんだ、その名前がウィラクルボックス、恐らくあたしたちは通称でウィラクルって呼ぶことになるからよろしくね。』


・了解!

・なるほどこれからはウィラクルの〇〇って名乗ることになるのか

・ウィラクルってどういう意味?

・なんというかこの子普通のライバーって感じで安心する


 ふ…ふつう…?普通じゃまずいんだろうか?というか結愛も神目のぞみさんも配信見てると割と普通に見えるけどあれ普通じゃないの?


『ウィラクルは造語らしい、詳しくは聞いてないけど意味があるとは言ってた。そう、これからはウィラクルの黒曜 歩って名乗るって感じになると思う。』


・なんか名称着くのっていいね!

ガーネットch:なんか面白いこと言って

・造語かぁどんな意味なんだろ

・同聞来とるやんけ

・無茶振り草


『あー、彼女が同期のガーネットさんです。知ってる人も多いと思うけどよろしくしてあげて。』


・保護者かな?

・26歳の保護者って何歳だ?

ガーネットch:誰だ歳の話したヤツ、おい

・ヒェッ

・怖すぎワロタ


 何してんだあの人…こんなんでも結愛がフェイムにいたときは憧れの人って散々聞いてたけど、こうしてみるとただの面倒な人なんだけど…。


『落ち着いてください、ここはあたしのチャンネルです。何か言いたいことがあるならマネージャーさんのとこ行って愚痴ってください。』


ガーネットch:同期が冷たくて泣いた( ;∀;)

・m9(^Д^)プギャー

・マネーちゃんはこいつの面倒まで見ないといけないのか…

・おいたわしや…マネ上…

・マネーちゃんって歩ちゃんとガーネットの面倒も見てるん?


『マネージャーさんはそうだね、基本的にはあたしとマナとプリムラさんの3人の面倒を見る感じになるかな、一応ガーネットさんは専属のマネージャーさんがいるみたいで、立場的には皆が知ってるマネージャーさんの立場が上になるみたいだけど。』


 フェイムのころはあたしら一人一人にマネージャーがいたけど、正直お姉さん(結愛の)の方がやりやすい感じがある。フェイムの時はこれをやれあれをやれと言った感じだけど、お姉さんは提案といった形でこちらを尊重してくれるのだ、とてもありがたいことに。


 正直フェイムのマネージャーがお姉さんだったなら今も結愛はフェイムにいただろうし、皆との仲も悪くはならなかったかもしれない…いやでも身内だから贔屓しちゃうところはあるかもしれない。


・(祝)マネーちゃん昇進!

・昇進はしても仕事は増えるんだよなぁ

・マネーちゃん…体壊さないで…

・めっちゃブラックじゃない?大丈夫?


 お姉さんのやってることってマネージャーの範疇越えているところがあるからあたしから見ればブラックに見えるんだけど、本人まだ全然余裕って言ってるし忙しいのはこれからだって言ってるからまだ大丈夫なんだと思う、お姉さんが倒れると結愛が曇るから体は大事にして欲しい。


『あの人は多分超人だから大丈夫、体力に自信があるあたしから見ても別次元の人間に見える。』


・所属ライバーに人外扱いされるマネーちゃん…

・超人 マネーちゃん

・メガテンかな?


 こんな感じで、終始質問に答える感じになってしまい、決めることを決めたくらいで、皆に”普通”だと言われてしまった、これってまずいのではないだろうか?Vは個性が大事だって聞いているし。


 そんな感じで先行き不安になる感じであたしの初配信は終わるのだった。


 なお、舞が気にしすぎなだけで実際には”普通”が個性だと言われるようになる、それも彼女が本格的な配信を始めるわずかの間だけであったが。

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