第21話 私と新人募集と

「新人の募集ですか?」


「ああ、V部門も把捉してから半年がたつ、そして現在色々トラブルはあったものの、一応は成功と言っていい成果を出している。」


 高天原V部門オフィスで私と社長は今後について話していた。


 先日の配信も成功に終わり、二人のチャンネル登録者などは大きく数を増やしている。


 普段からの積み重ねもあるけれど、やはり大きな企業の案件というものは大きいものだ、チャンネル登録者も急激に増え、近々一万人突破記念も二人にはやって貰おうかと考えている所。


 そんな中、社長に告げられた新人募集の話、どうやら安定して成果を上げていることもあり、高天原ヴァーチャルアイドル二期生を募集しようとの事だ。


 確かにこれから二人でやっていくのも無理があるとは思っていたところ、仕事が増えてくれば二人の負担がどんどん増えてしまうし。


 そう考えれば増員は納得できる、だけど実は問題もある。


 そう、結愛と神目さんに等しい能力を持った人材、これがまた難しいのだ。


 自分たちで育てればいいのでは?と思うかもし知れないけれど、成果を出しているとはいえ、高天原全体で見ればまだ下の下でしかないV部門、社長の贔屓があるとはいえ周りから見たらあまりいい印象は受けないだろう。


 という事で現在私たちが欲しいのは、即戦力。


 そうなってくると最初に言った点で敷居が高くなるジレンマ、こればっかりは私が頑張ったところでどうにもならないからね。


「実は一人はおよそ内定しているんだ。」


「え?結愛と神目さん並の人材いるんですか?」


 いや、考えたくはないがあれ、なら可能だけど、まさか。


「ああ、鐘都くん、鐘都 優美君がどうしてもV部門に行きたいと言うんだ、彼女の過去の経歴を見ても問題点はないし、V部門に行ったら今までよりも多く仕事をしてくれることを確約してくれたからね。」


 ああ…やっぱり。


「あいつですか…いやまぁ優美なら適任ではありますけど…ん?」


 待て今なんて言った?


「仕事をすると言いましたか?社長、優美が?」


「ん?ああ、仕事を選ぶし何かと問題児だった鐘都くんが自分からやりたいと言ってくれたのでね、一応Garnet名義も残しておいてはいるが、V部門をメインにしたいと言っていた。」


 成程、Garnetとして呼ばれればそっちで活動して基本はVとしてやるという事か…でも。


「優美はVに向いてないと思うんですが…即バレそうですけど中身。」


「確かにね、だけれどバレたらバレたでいいと思っているよ、彼女も聞かれたらおそらく答えそうだ、だけど彼女にはかつての名前がある。」


 赤石 優美、十年前のアイドル界のTOPであり、Garnetとなった今でもそのネームバリューは強く、音楽番組や他呼ばれることも多い、そういった点で、彼女は仕事をあまりしなくても許されているところがある。


「なるほど、Vとしてアイドル復帰を看板にすることでかつてのファンから支持を受けられる上、堂々と名前をこぼしてもダメージはないという事ですか。」


「それだけ彼女の名前は大きいだろう、だから私も彼女を破格の待遇で扱っているところがあるしね。」


 普段問題児だが、リターンも大きいそれが優美という女だ、成程こうなっては仕方がない、彼女を受け入れる方向で行くか。


「じゃあ募集という話はどういう事です?優美で内定してるんですよね?」


「それなんだが、結愛君、神目、鐘都君…三人でも構わないのだが、もう一人いた方がバランスが良いと思ってね。」


 結愛と神目さんはもう二人のユニットを持っている、そこに優美を入れると異物になってしまうという事か、だからもう一人入れてその子を優美と組ませると。


「そういう予定で考えてはいる、が、結局のところ最初の問題になる訳だ、即戦力が欲しい、がそれも難しいという事だね。」


「そうですね…あの子達に匹敵するような、少なくとも見劣りしない人材を探さないといけない訳ですからね。」


 私と社長は二人そろって頭を悩ませる。


 とりあえず募集は出すけれど、そう都合よく現役アイドル級の人材が転がってるわけないよなぁと思っていた。


 ☆ ☆ ☆


 募集をかけてから二週間がたち現在の成果はなし、Vになる準備をしている優美も私の同期マダー?なんて煽りを受けている状態だ、ふざけんな、お前レベルの人間がそう簡単にいてたまるか。


 そう頭を悩ませていたある日の事、今日は結愛の配信の日だなーと思い、推しの配信を見られる幸福に癒しを感じていたのだが。


 その結愛から真面目な顔で話があると言われた、?何か問題でもあっただろうか?とりあえず話を聞いてみることにする。


「おねえちゃん、あのね、うちで今新人Vの募集を行っているじゃない?私とのぞみちゃんもその告知をしたし…えっと…うまくいってないって事も聞いたけど。」


 ぐふ、まさかの愛する妹に痛いところを突かれた、だけどこればかりは仕方ないと思う、ちょっと最初にハードルを上げ過ぎたところはある。


「それでね、えっと…実はちょっと知り合いから連絡があって…推薦したい子がいるんだけど…。」


「推薦?結愛の知り合いでVをやりたい子がいるの?でも、今うちが欲しい人材のレベルが高くて厳しいと思うのだけれど。」


 結愛がまさかVになりたい子を推薦してくるとは思わなかった、しかしちょっと待て、高いレベルを要求してることが分かっている上で結愛が推薦してくる子って、まさか。


「その点は大丈夫、あの子なら現役アイドルの中でもレベルの中でも高い方にいるし、私たちの間にいても見劣りしないはず。」


 結愛がこれほどに言う相手だ、恐らくこのまま募集をかけるよりいい気がする、まぁそれはそれとしてきちんと試験はするけど。


「結愛、その子の名前は?」


「国陽 舞、私がフェイムに居た時の仲間で友達だよ。」


 ☆ ☆ ☆


「舞ちゃん!久しぶり!」


「うん、結愛も久しぶり」


 現在、新人アイドル募集の会場でもある高天原V部門のオフィスにて、結愛とかつての仲間である国陽 舞ちゃんが顔を合わせていた。


 低身長ではあるけれど漆黒の長い髪をポーテールにして少々吊り上がり気味の目は意志の強さを感じ、圧すら感じる、格好は最近冷えてきているのにフード付きの大きめのパーカーにスパッツという動きやすさを優先したスポーティーなスタイル。


 アイドルをしていたと分かるように美少女である、どうやら彼女少し前にフェイムをやめたそうで現在フリーだったのだとか。


 そして初ライブの配信を偶然見た時にゆめのマナの姿が結愛に重なったように見えたそうだ、彼女は信頼できるとの事でVの事を話してしまったのだそうだ、結愛…後でお説教だね。


 アイドルを辞めた後は結愛の配信をよく見に来ていたそうで、その配信中に新人募集の事を聞いてしばらく考えた後に結愛に連絡したようだ。


 というわけで今、私、社長、優美、結愛、神目さんというV部門メインスタッフに囲まれた状態で彼女は高天原のスタジオに立っていた。


「君が国陽 舞君、だね?一応稀石 結愛君からの推薦という事になっているが試験は行わせてもらうよ、いいかい?」


「はい、正直に言いますとあたし、特別Vtuberに興味がある訳じゃないんです。…でもここにあたしの目指すものがあったから…ううん、越えたいものがあったから、だからあたしはここに来ました。」


 その言葉でなんとなくわかった、この娘は…神目さんに似ている、正確には目標が、結愛に追い越したいという想いがだ。


 成程結愛が気に入る訳だ、この娘は結愛に圧倒的差を見せつけられても、叩き潰されても折れず背中に追いすがっていたのだろう、そして追いすがっていたものを失った末に今ここにいるという事だ、すごい執念だな。


「ふむ、だがここの試験を受けに来た以上合格したらヴァーチャルアイドルをやって貰うことになる、やりたくないこともやらなければならないかも知れないよ?」


「かまいません、結愛の配信を見てるし大体何をやるかは分かってます。ですけどあたしにとって大事なものはここにある、その為ならヴァーチャルアイドル、やります。」


 意志力が強い、これほどの人材はもはやほぼいないレベル、これはほぼ決まったと言っていいだろう。


 一応試験はやって貰うことになるだろうけれど彼女は辞めたとはいえ現役アイドル、問題にはならないだろう、そうなれば後は彼女をどういう風にマネジメントしていくかだな、それが私の仕事だ。


「わかった…ならそれでは試験を受けることは問題ない、これから試験を始めさせてもらうがいいかね?」


「はい、よろしくお願いします。」


 彼女のその発言と共に試験が始まった。


 ☆ ☆ ☆


 見ている。


 かつてははるか先にいた私の”夢”


 その彼女があたしをを見ている。


 魅せる事においてはあたしは彼女の足元にも及ばない。


 だからあたしは…愚直に自分の出来る事をやってきた。


 足りない分は努力で補う、それでも足りないならもっと。


 その努力は今見せる為にある。


 だからあたしを見ろ!ユメ!


 ☆ ☆ ☆


「社長…これなら。」


「ああ、問題ないだろう…。」


 力を出し切った彼女に私達は告げる


「国陽 舞君、合格だ、ようこそ高天原へ。」


 その日、私達は新たな仲間を迎えた。

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