第20話 希望と想い人のデート

恋愛系ヴァーチャルアイドル名乗ってるのにそれっぽい描写が少ないので差し込み話です。社長視点もあります。

社長もなかなかに重い男なので(推しの為にV部門作る程度には)結愛にとってのしるべポジションとなります。

のぞみと2人の時口調が変わります。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ?デート?」


「家の距離も離れてしまいましたし、ここのところあまり裕司さんとお仕事以外でお話も出来ていませんので、たまには一緒にお出かけをと思いまして、最近頑張っているわたくしへのご褒美にとでも思ってお願い致します。」


 はぁ、とため息をつく俺の前に立つ女は神目のぞみ、俺が後見をしている相手でありその才能で俺の脳を焼いた俺の推しである。


 それが何の因果か俺に好意を持っているという、推しが俺のこと好きだなんて昨今めっきり見なくなった恋愛シミュレーションゲームじゃねーんだぞ?


 それでも断れない俺も、なんというかこいつには甘い、甘やかしすぎなのは分かっているんだけどな。


「まぁ…お前は顔出ししてる芸能人って訳じゃないから構わないっちゃ構わんが…いや…それでもお前目立つからな…。」


 艶のある光の当たり具合で銀にも見える灰のロングストレート、整った顔に男好きする身体…こいつを一人で歩かせたらどうなることやら…俺ものぞみの実兄の事何も言えんな。


 こいつのやる気が上がるのなら休日一緒に出掛けるぐらい別に構わない、どうせ何もない休日なぞ、いつも家から出ずにだらだらしているか酒を飲む程度だからな。


「それで、再来週の日曜ならこちらの予定も空いているが、その日でいいのか?」


「ええ!再来週の日曜日ですわね?こちらも日曜は絶対に空けておきますので!楽しみにしております。」


 そう言って部屋から出ていくのぞみを俺は呼び止める。


「のぞみ、仕事の話で悪いが…この間の案件配信、良かったぞ。先方もかなり満足していただけてな、今後も仕事を貰えそうだ、ありがとうな。」


「そのくらいなんでもありませんわ、わたくしに出来る事をしただけですもの、お礼をしてくれるのならわたくしをもう少し甘やかしてくれてもいいのですよ?」


 そう言いながら彼女は顔をこちらに向けながら笑みを浮かべた、甘やかして欲しいのは本心だろう、俺とのぞみは親子ほど歳が離れているところもあり、なかなか俺に甘えてくることも多い、親が幼い時に亡くなったこともあり父性を求めているのもあるのかもしれない。


 俺は彼女に近付き、優しく頭を撫でた、のぞみの顔を見ると少し驚いたような顔をした後、くすぐったそうに微笑んだ。


「今はこれくらいで勘弁してくれ、ファンに恨まれそうだしな。」


「あら、わたくしのリスナーは恋愛については気に致しませんわ?寧ろ最近は進展とかを聞いてくるくらいですもの。」


「そうだったとしても、だ。一応アイドルとして売っているんだしな…それに一番怖い厄介リスナーもいるだろう?」


 おそらく補足してからは全部の配信を見ているだろうのぞみの実兄、おそらくのぞみの想い人が俺と気付かれているのか、なにかとやめた方が良いよとか若い子の方が良いとかそういったコメントを残している。


「お兄様の事はお気になさらず、もし何か言ってきたら今後一切会わない事、お義姉様の事も含めて言いくるめますから。」


「…ここまでくると結構可哀想に思えてくるが…、昔は仲のいい兄妹だったんだろう?」


 なんというか扱いが雑というか、昔はべたべただったと聞いたが…。


「そうですね…今も昔もわたくし変わらないところがあるのですが…よく言えば好きな相手には甘える甘えん坊、悪く言えば依存気質。こればっかりは治しようがないので、しょうがないのですけれど。」


「つまりあれか?昔はお兄さんに対して俺みたいに甘えてたって事か?」


 そうですわね、とのぞみは言うと時間を気にしてか申し訳ありませんと言った。


「今晩稀石家にお呼ばれをしていて…そろそろ行かないと遅れてしまうので…。」


「ああ、呼び止めてしまってすまなかった。…二人と仲良くできているようで何よりだ、以前より雰囲気が柔らかくなっている。」


 どうやら約束があったようだ、申し訳ないことをしたな。


 俺がそう思って反省をしていると、部屋を出ようとしていた彼女がもう一度振り返り口を開いた。


「ふふ、わたくしの為にいろいろしてくださって感謝してますわ、大好きですわよ、裕司さん。」


 いたずらが成功したかのようなにやりとした笑顔で彼女は祖俺だけ言って部屋を出ていく。


 本当に参った…これじゃロリコンと言われても何も言い返せんぞ…。


 推しの言葉と笑顔で顔を赤くした男が一人、高天原芸能プロダクションの一室で手で赤くなった顔を隠しながら立ち尽くすのであった。


 ☆ ☆ ☆


 約束の日から数日、ついに日曜日になり裕司さんとのデートの日がやってまいりました。


 いつもの和服姿でもよかったのですが(裕司さんの好みですし)デートという事でいつもと違う格好のわたくしを見てもらおうと思い多少のおめかしをしてきましたわ。


 軽くメイクを施し、長い髪はハーフアップでまとめて、11月になり冷えてきたのでグレーめのブラウスに膝丈下のライトブルーのロングスカートにコートと言ったわたくしにしては珍しい恰好で、待ち合わせ場所に、待ち合わせ時間15分前に待っておりました。


 ふふ、こういうベタではありますがデートらしいこと、してみたかったんですよね。


 すると、背後から肩をたたかれたので振り返ると知らない男性だったので、人違いかな?と思っていたのですが。


「ね、君凄い可愛いね、君一人?だったらさ、俺と遊びに行かない?」


 なんというかこれもまたベタな展開になるのでしょうか?この時代にナンパ?を受けてしまうだなんて。


 とりあえず、待ち人がいるので断らせていただきましょう。


「あの、わたくし、待っている方がおりますので申し訳ございませんが…。」


「ん?女の子の友達とか?良いよ、一緒に遊ぼうよ、俺バイトとかで稼いでるからさ!」


 聞く耳持ってくれませんわ…彼から感じる、欲の気配でだんだんと気分が悪くなってきます、せっかく楽しいデートの予定でしたのに。


 そう思っていると彼の背後から私の待ち人の裕司さんの姿が、あら?なんていうか不機嫌そう?


「おい、彼女に何か用か?」


「は?なんだよいきな…り。」


 …なんというか裕司さんの格好は髪はオールバックのサングラス、黒いスーツと言ったなんというかそういう筋の人ではないかという格好でしたわ。


 …今日デートの予定でしたわよね?少々疑問に思いましたが待ち人が来たので私は裕司さんのほうに歩いていきました。


「裕司さん!お待ちしておりましたわ!」


「悪いな、もう少し早く来ればよかったか…それで?君は何か用なのかな?」


「いや、あの、その。」


 あまりにも堅気に見えない格好なので流石に恐怖を感じたのだろう、極めつけにはサングラスをずらしながらにらみつけるような仕草も致しました。


 それを見たナンパの男性は、すみませんでしたと言ってその場を立ち去っていきましたわ、彼氏にナンパ男を追い払ってもらったというシチュエーションなのになんというか…。


「裕司さんその恰好は何なんです?今日はデートなのですよ?」


「絶対にああいう輩がいるだろうと確信があったからな、少し圧をかける格好をしてきた。」


 そう言いながらサングラスを外し、ふっと笑うとヤクザ風の格好でもかっこよく見えてしまいます。


「悪いが今日のデートはこの格好で行かせてもらう、お前が待ち合わせをしたいというから今回はな、まぁスーツも正装だから問題はないだろう。」


 …まぁいいですけれど、ちょっとだけいつもと違う裕司さんが見れると思って期待したわたくしがおバカでしたわ。


「とりあえずは俺もデートに慣れている訳じゃないからな、悪いが定番を回らせてもらうぞ。」


 そう言いながら、彼は手を差し出してくる、お手を、お嬢様なんて恥ずかしいセリフを言いながら。


 思わず笑ってしまいましたが、せっかくです、差し出された手にわたくしの手をのせ彼の手を握る。


 そして手をつないだまま最初の目的地の映画館へと向かいました。


 定番、と言いましたが、わたくしはその定番を経験したかったので、寧ろ嬉しかったですわ。


 ☆ ☆ ☆


 映画を見終わったわたくし達は、裕司さんに連れられるままに雰囲気の良いカフェへと向かいました。


「ふふ、デートの定番の映画館でまさかの定番のラブロマンスでしたわね。」


「…まぁ、こういうデートをしているといった雰囲気を楽しみたいだろうと思ってな。」


 流石に、自分にラブロマンス映画は似合わないと思ったのだろう、ため息をついている彼がわたくしの為を思ってプランを考えてくれたのです、それを嬉しく思います。


 雰囲気の良いカフェで昼食にちょうどいい時間だったので軽食を注文しました。


 裕司さんも慣れた様子で軽食にコーヒーを注文していたので少し気になって聞いてみました。


「ここによく来るんですか?」


「昔、結構世話になっていた、しばらくはご無沙汰だったが変わってないようでよかったよ。」


 今日はわたくしの知らない裕司さんの姿を知れていい日ですわね。


 わたくしはお茶を飲みながらそう思っていると、何か考え事をしていた様子の裕司さんが口を開きました。


「今更なんだが…なんで俺なんだ?拾った恩とかそういったものだけで選んだ訳じゃないんだろ?」


 まぁいつかは聞かれると思っていましたけれど…そこまで大した理由ではないのですよね…。


「あの時のわたくしの精神状態酷かったですからね。吊り橋効果も多少はあるでしょう、でもあの時の貴方がわたくしに何も思わなかったから、欲も期待も何もなくただ帰る場所がないといったわたくしを家に連れ帰ってくれたこと。」


 そう、今思えば100%厄介事だと分かっていただろうし、その後、いろいろな手続きを経てわたくしを母方の性の神目姓を名乗れるようにしてくれたり。


「言っておりましたわよね、昔の無気力だった俺に似ていたから、だから手を貸してやりたくなったって。わたくしはその言葉を聞いて最後に貴方を信じようと思いましたの、いえ、貴方なら騙されてもいいと思いました。」


 きっかけはそれだけです、その後一緒に生活し、お互いを知っていったりしていくうちにどんどん気持ちが大きくなって…気が付いたら、と言った感じでした。


「…あー、本当にあの時の俺は…いや、お前に手を貸したことを後悔している訳じゃないが…。」


 ふふ、あー、と頭を掻きながら恥ずかしそうにしている裕司さんはかわいらしいですわ。


「…いや、欲も期待もないとは言ったが、俺はお前の才能を見た時からお前に欲も期待も持っていたが…。」


「その時には寧ろ貴方に何かしてあげたいと思っていた時ですもの、だからわたくしにしてあげられることがあればと、逆に喜んでいましたわ。」


 人の気持ちなんて変わるもの、好きな人に何かしてあげたいと思う気持ちは誰しも感じるものです。


 わたくしの才能がこの人の役に立つのなら、そう思うほどにわたくしはこの人に恋をしていました。


「それなら、いいのか?もう何が正しいのかわからなくなって来たぞ…。」


「恋愛なんてそんなものですわ。正解なんてありません、人の心なんて誰も完全に理解できませんもの。」


 恋愛に関しては裕司さんよりもわたくしに一日の長がありますからね、少々こちらの方が優位に立てるでしょう。


 食事も終わり、次はショッピングです。


 ショッピングとは言っても歩いて眺めるだけのものでしたけれどね、ウィンドウショッピングというものですわね。


 ウィンドウショッピングを裕司さんと二人で楽しんでいると、わたくしはふと、ジュエリーショップの指輪につい目を止めました。


「欲しいのか?」


「あ…いえ、綺麗だなと思っていただけで…。」


 そう言って誤魔化そうとするも、店員さんに話を済ませ指のサイズを測られ、わたくしが見ていた指輪の在庫を調べて、いつの間にか購入といった形になっておりました。


 そしてわたくしが無意識に測った指は薬指…店員さんもにこやかに笑っていて…恥ずかしかったです。


 ☆ ☆ ☆


 買い物も終わり、日も暮れ始めて、デートもそろそろ終わりを迎えました。


「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。」


 わたくしが感謝の想いを込めてそう言うと裕司さんは、軽く頭を掻きながら口を開いた。


「これくらいなら構わない、時間が取れる時なら気にするな、これでのぞみのやる気が出るのなら安いものだ。」


 そう軽い冗談のように彼はそういう、本当にそういう事をするからわたくしは…。


「そろそろ部屋に着くな、体調を崩さないようにして暖かくして寝るんだぞ?」


「わかっておりますわ。…あの裕司さん…。」


「ん?なんだ?」


 わたくしは彼に一歩近づく、そして彼に買ってもらった指輪を取り出した。


「私の指にはめていただきたいのです…。」


 わたくしはそれだけ言うと彼に左手の薬指を差し出す。


 彼は驚いた顔でそれを見ながら苦笑し、君は本当に困った娘だ、と言いながら左手薬指にはめてくれた。


「着いたな、さ、じゃあ俺は帰るからな、じゃあまた今度、な。」


 そう言って背中を向けて去っていく、わたくしはその背中を見送りながら、左手薬指に熱を感じていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る