第19話 夢と希望と案件

『皆ー!夢の世界からあなたに夢を!アイドルVtuberのゆめのマナです!今日はゲーム会社さんから案件を頂いたのでそのゲームの紹介をしていきたいと思います!」


『リスナーの皆様、ごきげんよう、ヴァーチャル世界から希望の光をあなたに、アイドルVtuberのプリムラ・モンステラです。概要欄に細かなことは記載されておりますので気になる方はそちらをご確認くださいませ。』


・今日もコラボ嬉しい!

・ごきげんよう!

・マナちゃんこんばんは!

・アイドルゲー案件てことはゲームとコラボするんですか?!

・このゲームまだ配信始まったばかりだしいきなりコラボはないやろ…ないよね?


 今日は案件配信の日である、手元には台本があり大まかには台本通りにやってくれ、との事なのだが、最終欄に出来たらでOKと書いている欄があった。


 そこにはこう書かれていた。


 アイドルマイスター(このゲームのゲーム名だね)の人気曲を3Dモデルで再現。


 前もって言われて練習していなければ難しかっただろうなぁ…なんでもあちらの社長さんが私達がこの曲で歌って踊るのを生(ヴァーチャルで生とは?)で見たいらしく、こうして台本に書かれているようだ。


 おそらくだけど最終欄に書かれている上に出来れば、と念押しされているからあちらとのやり取りで無理だったらいいよ、という確約を取っているのだろうなぁ。


 ふぅん?これは挑戦と受け取ってもいいのかな?


 私とのぞみちゃんのこの曲の完成度おおよそ9割程、100%じゃないのにやるのかと言ったら…。


 私はちらりと横を見る、そこには私と同じように挑戦状を受け取りやる気をみなぎらせているのぞみちゃんがいた。


 なんというかこういう事には似た者同士なんだろうか?のぞみちゃんは単純に負けず嫌いっぽいけど、私の場合は”アイドル”に関係することで敗北を認めたくないだけなんだけど。


 私の視線に気付いたのぞみちゃんがこちらを見ると台本の最終欄を指さしながら一つ頷いた。


 やるんだね?なら全力でやってやろうじゃない、私達がゲームのアイドルにだって負けないって事、皆に教えてあげるんだから!


 ★ ★ ★


 現在、順調に案件配信は進んでいて、このままだったら問題なく80点の内容は取れそうだと思いながら私は二人の配信を眺めていた。


 この配信の為にあちらの会社から来てくれたスタッフの方も配信を見ながらこれなら大丈夫だと笑みを浮かべていた。


「本当に申し訳ありません…うちの社長があの二人に任せるなら是非とも、と。」


「いえ、こちらも案件を頂いた身ですし…それに多分あの二人ならやると思います。」


 そう、どうやらあちらの会社の社長がうちの娘達を大変気に入っているようで、チャンネルの登録もしている上二人の配信もいつも見に来てくれているらしい。


 それでこの案件がうちに来たという事だ、社長の私情ではあるものの、ファンの期待には応えてあげたいもの、だからあちらの社長には可能なら、という旨を伝えている。


「言い出したこちらが言うのもなんですが…なかなかに難易度が高いと思います。元々ゲームキャラのモデルが完璧な完成度でやっていることを再現、更に言えば練習時間もそれほど取れなかったわけですし…。」


「あはは…そうですね…普通のマネージャーだったならOKしなかったと思います。ですけど…。」


 そう、私はこの間のミニライブ、アレを見てはっきりと自覚した、今の私はEspoiReVEの二人両方を推している。


 もちろん最推しは結愛だけれど、それに食らいつこうとするあの娘、神目のぞみ。


 彼女の輝きにも私は目を焼かれていた、結愛のような天性の才能ではなく、どちらかといえば努力の才能、絶対に諦めないその精神。


 普段の清楚な姿を見ているからこそ更にその泥臭さを美しく感じる、磨かれた清楚な花に私は強い胸の高鳴りを感じていた。


「私は、あの娘たちならやれると、やってくれると思っているんです。あの娘達の可能性を見たいと思ってしまうんですよ。」


 なのでマネージャーとしては私は失格ですね。そういいながら私はスタッフさんに笑みを向ける。


 ふふ、ならせっかくだしここで布教していこうか。


「スタッフさんもあの娘達を推してみませんか?今ならまだ古参って名乗れるかもしれませんよ?」


 配信を続ける推し達に顔を向けながら私は胸を高鳴らせた。


 ★ ★ ★


『なるほど、こうしてアイドルを育成して高いステータスのアイドルを作ることで、もう一つのコンテンツであるリズムゲームの部分を有利に進める事が出来るという事なのですわね。』


 なるほど、なんというかなかなか奥が深いゲームだと思いました。


 1つのゲームで複数の遊べる要素を持たせるというのはプレイヤーからしたらやりがいのあるものですし、作る側としたら複雑で難しいものになるでしょう、それをこうして融合させるというものは斬新な試みだと思います。


『それにしても、このプロデューサーさんなんだかうちのマネージャーさんみたいじゃない?何でもこなしちゃうところとかとっても気が利くところとか。』


・Pのような万能完璧超人は存在した?

・こいつ現実にいたらとんでもなく狂った仕事量やぞ

・マネーちゃんも担当2人とはいえやばいとは思うけど

・推しの為に身を削る覚悟、ファンの鑑やな


 …流石に描写されているプロデューサーさんのすべてをこなしたりは流石にできないでしょうけれど、あれでまだまだ余裕がありそうなのが怖いのですよね…しるべさんは。


『話を戻しますわ、取り合えずどのようなゲームかは理解出来たでしょうか?わたくし個人としてはなかなかやりこみ甲斐のある素晴らしいゲームだと思いましたわ。』


・このお嬢やりこみゲー好きだからな…

・時間泥棒系本当に好きよね、どんどんうまくなってくし見てる側も楽しいけど

・もはや初見のゲームさえそこそこの動きが出来る程成長してる、ゲーマーとして有能

麗明院 武:体を壊さない程度に適度にやって欲しいけどね


 取り合えず大まかな説明は終わり、そろそろ例のあれの時間が近づいてくる、その前に軽くアップするため休憩時間を設けることになっています。


『面白いゲームだったね!私も配信が終わったらやってみようと思います。一応プレイ配信はこれで終わりなんだけど、この後少しだけ続きがあるから興味がある人は見て行ってね!』


・何するん?

・なんか告知でもあるのかな?

・俺これから仕事あるから申し訳ないけど抜けます

・休憩挟むのかー


 休憩をはさんでいる間、配信画面にはアイドルマイスターのライブ画面を流して貰っています。それを見ながらわたくしは配信開始時から溜めていたものを少しずつ開放していきました。


 練習では完全とはいきませんでしたが、やってあげようではありませんか、ねぇ?マナさん?


 隣でアップしている様子の結愛さんを見ながらわたくしは闘志を燃やしていた、台本を見て目が合ったの時からわたくしはこの挑戦を受けようと思っておりました。


 そもそも無理だと思ったならしるべさんはこの内容を許可しないだろうし、それだけ期待してくれていると思うから。


 しばらくして体が温まったので、準備を始めていく、そしてすべての準備が整いわたくしたちを配信画面に映す。


・お、なんか映った

・いやドルマイのライブ映像もよかったなぁーあれ見るのだけでもゲームやる価値ある

・3Dモデル?えっ?てことは…

・まさか…


 ゲームのアイドル達になんて負けません、わたくしが、わたくしたちが貴方達の目線を奪って差し上げましょう!


 ★ ★ ★


「…すごい…。」


 そうやらスタッフさんは語彙力を失うほどに我らが推し達に魅了されているようだ。


 画面を眺めながら私は彼女達を眺める。


 何度見ても脳がビリビリような興奮を感じる、ただでさえ最愛の推し達がいるだけで興奮するのにこれほどのものを見せられたらもう脳汁が出そうだ。


 始まる前はあの子達の実力を若干疑っていたスタッフさんも、もう一言もしゃべらず目は画面にくぎ付けになっている。


「どうでしょうか?うちの子達、これからも機会があればお声を頂けるとこちらとしても助かります。」


「…はい、こちらも…とても素晴らしかったと上に伝えておきます。おそらくこれも見ているでしょうし、寧ろ大喜びでこれからもよろしくと言ってくるでしょう。」


 期待以上の結果で何より、私もあの娘達が素晴らしいと思ってもらえて誇らしい。


 配信のコメント欄を見ると突然のゲリラライブに大賑わいだ、完璧に踊り歌っているところから、今後コラボがあるのではないかというコメントもちらほら。


 ああ、推し達が評価されるのがとても嬉しい、そう思いながら私は画面の彼女たちを眺める。


 とっても楽しそう、そして画面からでも感じる闘志、こんな彼女たちが見れるからこの仕事は…。


 推し事は本当にやめられない。

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