新たな仲間
第18話 柘榴石と新たな動き
「あたし、フェイム辞める。」
某芸能事務所内で一人の少女が口を開く。
「え?マイちゃん?急に何を…冗談?」
年長者の少女が最初に口を開いた少女、マイに対して驚いた様子で口を開く、続いておどおどした様子の少女もおろおろしながらも口を開いた。
「えっと…マイちゃん、どうして?何か不満でもあるの?」
「もうここにあたしの求めるものがないってだけ。」
現在のフェイムの主なセンターを務める少女マイはいつも通り大きく感情的になることもなく、ただ淡々とそれだけを口に出した。
「えー、マイセンパイもやめるのー?それじゃ3人になっちゃうじゃん、ユメセンパイの抜けた分の追加もまだ来てないのにマイセンパイも辞めたらうちらどうなるワケー?」
気の抜けたような口調の少女はマイの言ったことを特に気にした様子もなく、ただ思いついたことを口に出したようだった。
彼女はフェイムの初ライブ後に追加された追加メンバーであり、そこまで活動時期に差はないものの実質最後のメンバーである。
「それは事務所が決める事でしょ、今後フェイムがどう動くかも事務所が決める事。」
「でも…今のフェイムのセンターはマイちゃんなんだよ…?マイちゃんが辞めたら皆困ると思う…」
「そうだよ、ユメが抜けた時だってかなりゴタゴタがあったのに、続いてメンバーが抜けるってなると…。」
メンバーがいろいろと説得しようとするも事の本人、マイの心が動かされた様子もない。
「センター…ね…初期の構想のフェイムに戻せばいいだけでしょ?現状絶対的なセンターだったユメが抜けて、ユメに次いで実力があったから取り合えずでセンターやらされてるだけ、別にやりたくてやってる訳じゃない。」
それに、とマイは続けて口を開く。
「邪魔なんでしょ?あたしも、ユメと同じようにさ、知ってるよ、ユメに嫉妬してたこと、その結果ユメにしたこともさ。」
その言葉を聞いた少女たちはそろって口を噤む、この話は彼女たちにとってのタブーであったからだ。
「でもさ、なんであたしがセンターやらされてるかわかってんでしょ?他の実力が伴ってないからこんな形になってんの。」
「それは!…私らだって努力はしてる…だけど私達にアンタ達程の才能はないの!」
年長の少女は苦い表情を顔に張り付けながら言う、その言葉をマイははっ、と嘲るように吐き捨てる。
「あたしに才能があったらユメが手を抜いたりなんてしないでしょ、最初のアレ以降あの子は本気を出したことなんてなかった…あたしはね、馬鹿みたいに練習繰り返してあの子の後ろにくっついていってたのよ、実力不足を言い訳にして才能とかでごまかさないで。」
マイの努力を知ってるからこそ何も言えなかった、それにユメが抜けた後はっきりと意欲を無くしていったのもなんとなくではあるが気付いてはいた。
「取り合えずあたしは抜けるから、この後事務所に行ってそのことを伝えてくる。今後どうするかはアンタ達と事務所で決めて、それじゃ、あたしは行くから。」
言いたいことだけ言ってマイは部屋から出ていく、部屋にいた少女たちはそれ以降何も喋らず、ただこれからどうするか思い悩んでいた。
☆ ☆ ☆
高天原V部門の事務所にて、私、稀石しるべは目の前の面倒な女に辟易していた。
「ねーしるべー、私もヴァーチャルアイドルやりたいー、この間の配信見てたら火が付いちゃってさー、ねーどーにかならない?」
面倒な女こと鐘都 優美はそんな意味の分からないことを口にしていたのである。
「何意味の分からないこと言ってるの?そもそも優美はGarnetとして活動してるでしょう?アホこと言ってないでアンタのマネちゃんのとこに帰りなさい。」
それだけ言うと私はしっしっと彼女に追い払うような仕草をした、彼女はそれに憤慨しながら口を開いた。
「じゃあ社長に直談判する!ここの責任者は社長なんでしょ?だったら社長に行ってOK貰ったらいいってことだよね?」
確かにここの責任者は社長だし彼が良いと言えばそうなるだろう、だけどこいつをここに放り込まれるのは面倒しか生まれない気がする。
「社長からOK貰ったらね、私からは何も言わないよ、私だってやること増えてきたから暇じゃないし。」
そう、EspoiReVEとしてあの子たちが軌道に乗り始めそれに対して仕事が増えてきたのだ、現在はとあるゲーム会社からちょっとした打診を受けているところである。
「じゃあ私は社長に直談判してくるわ、しるべ!楽しみにしてなさい!また一緒に仕事できる日が来るからね!」
そんな不吉なことを言いながら優美はその場を去っていく、勘弁してくれと思いながら私は自分の仕事を始めるのだった。
☆ ☆ ☆
案件とは何か、配信者の案件という意味であれば企業案件、つまりは自社の商品を配信者に紹介、宣伝してもらうことつまりはPRしてもらうという事、それに対して相応の報酬を払ってもらうという契約の事を言う。
なぜこんな話をしたかというと、我らがライバー2人に対し案件の依頼が来たのだ、某ゲーム会社からの依頼で、どうやらヴァーチャルアイドルとしてのあの子たちが評価されたようで、ぜひ受けて欲しいとの事。
もちろん受ける受け内はあの子たち次第だが、マネージャーとして今後の事を考えるなら受けて欲しいと思っている。
報酬がもらえるから?それは優先度からしたら一番下になる、一番大事なのはその企業に関心を持っている顧客に対し、あの娘達の顔が売れることだ、彼女達が多くの人に知られるという事が第一目標。
次に企業とのつながりが出来る事…、この案件が上手くいけばもしかしたら次も仕事がもらえるかもしれないという、こちらも企業としての旨みがあるお互いにwin-winという結果になる、いわゆるコネが出来るって事だね。
そういう訳で、企業人としての社長や私としては受けて欲しいものの、最終決定権はあの娘達にあるので取り合えずそのことをあの娘達に伝える事にする。
「企業案件?どんな内容?」
「企業案件ですか…もう来たのかという感じはありますわね。」
「某ゲーム会社のアイドル育成ゲームの新作ソーシャルゲームの宣伝をして欲しいっていうのが今回の依頼だね、特に難しいこともなくて、あっちが用意した台本通りにゲームの説明と実際にプレイするところとかを配信で流すだけって感じかな。」
あちらもせっかくヴァーチャルアイドルがいるのだからアイドルゲーをアイドルに宣伝してもらいたいという事なのだろう、そういう事であの娘達に白羽の矢が立ったという事。
「へぇー!アイドル育成ゲーム!そういうのやったことないから興味あるね!」
「ゲームの紹介配信という事でしたら別に問題はありませんね、わたくしの方は大丈夫ですわ。」
どうやら二人とも案件を受けることを前向きに考えてくれるようだ、いろいろとお互いにどうするかなどを決めていく事にはなるけれど、とりあえずはOKという事になったので、先方にはどんな内容でやっていくか、やり取りをしていく事になる。
とりあえずやることが決まったのなら私がやるべきことは一つ。
ここからは私の仕事だ。
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