幕間 稀石 結愛②

 ああ、楽しかった。


 今日ののぞみちゃんとのコラボは本当に楽しかった。


 仲間が出来ることのワクワク感は以前、フェイムに入った時も感じたけど2か月も過ぎたらそれは冷たいものへと変わってしまった。


 目を閉じる、私はあの時のことを思い浮かべる。


 するとだんだんとあの時の光景が浮かび上がってきたのだった。



 ☆ ☆ ☆



 アイドルのオーディションの合格から数日が過ぎた頃、私は事務所の方から他のメンバーの予定を合わせて顔合わせをする機会を作るので、その時は参加をお願いします。と連絡が来た。


 私は夢だったアイドルに合格したことでその時は舞い上がってた、おねえちゃんに呆れられるくらいには浮かれてたと思う。


 他のメンバーとの顔合わせ、つまりは同じアイドルグループでやっていく仲間たちであり切磋琢磨し合い、苦難を共に乗り越えていく友となる相手との出会いに私はわくわくしていた。


 そうしているうちに2週間がたち、メンバー顔合わせの日がやってくる、私はおねえちゃんの協力の元精一杯におめかしして、歓迎会兼顔合わせの場所に向かった。


 ☆ ☆ ☆


「えっと、私、稀石 結愛って言います!よろしくお願いします!」


 待ち合わせの場所についた私は、とりあえず通された歓迎会の会場で自己紹介することになり、始まって直ぐに、自己紹介をすることにした。


「うん、じゃあ次、あたしは国陽 舞、舞でいい。」


 次に名乗ったのは国陽 舞ちゃん、動きやすそうな服装に小さめの身長のかわいい娘、長めの髪の毛をポニーテールにしてちょっとクールな雰囲気を感じる。


「じゃあ次は私ー、只野 岬!歳は17!この中じゃ最年長になるみたいだね!年上だからってへりくだったりはしないでいいからねー。」


 メンバーの中でも身長と年齢が高く、軽い雰囲気の女の子、皆を引っ張ってくれそうな元気の良さが印象的。


「あ…えと、私…星屑 さやかって言います。よろしくお願いします…。」


 そして最後に、ちょっと引っ込み思案に見える女の子、ちょっとウェーブがかかった髪のふわっとした感じが触り心地がよさそうだ、確か歳は私より1歳下の14歳、メンバー最年少の子だ。


 自己紹介が終わり、その後は歓迎会として食事などが用意されていてそのまま親睦会のような形で私たちは話をすることになった。


「ねーみんなー、飲み物とってこようと思うんだけど何がいい?私がまとめて持ってきちゃうからさ!」


「あ…その…私もお手伝いします。一人で持ってくるの…大変だと思うので…。」


「おっ、いいの?じゃあ一緒に行こ!」


 メンバーの最年長と最年少の子は私達から飲みたいもののリクエストを聞くと、そのまま取りに行った。


 その場に残った私と舞ちゃんは、なんとなく気まずい空気感になってしまったので、とりあえずなんか話題をと思い、マイちゃんに質問をすることにした。


「あっ、っと…そのー、舞ちゃんってさどうしてアイドルになりたいと思ったのか聞いてもいいかな?」


 年中病院生活でまともに友達がいなかった私は、なんというかそれはないだろ、と言えるような質問を舞ちゃんにした。


「ん、あたしはスカウトされた、そこらへんでダンスの練習とか適当にしてたら声かけられて、体動かすの好きだし、歌を歌うのも好きな方だから。:


 思ったよりしゃべる子だった。おっと、相手に聞いて自分の事を話さないのもなんか気まずいので私は自分の事を話すことにした。


「えっとね、私はアイドルになるのが昔からの夢だったんだ、優美ちゃん、えっとアイドルの赤石優美ちゃんが憧れでね!私も優美ちゃんみたいになりたいと思って!」


 つい熱くなり声が少し大きくなってしまったけれど、舞ちゃんは特に気にした様子もなくふぅんとだけ言った


「じゃあ前からアイドルのとしての、歌とかパフォーマンスの練習とかしてたの?ならさ、あたしに色々教えてよ、あたしさ体動かすのは得意だけど、実はアイドル用のダンスとかよくわからないんだよね。」


 激しいダンスとかは踊れるけどね、と頬を搔きながらそう言った。


 なんというか初めて頼られたので私は少しだけいい気分になった、返事はもちろんOKで一緒に練習する時に教えてあげる約束をした。


 この時に教えてあげた経験が後に生きることになったと思う、のぞみちゃんに色々教えてあげられるのはこの経験があったからだと思ってもいい。


 そんな感じで話をしていると飲み物を取ってきた岬ちゃんとさやかちゃんが戻ってきた。


 その後は皆で話しながら皆と仲良くなれたことで、私は明るい未来が見えたのだった。


 だけどその未来が。


 私のミスで簡単に崩れてしまう事になるとは思っていなかった。


 ☆ ☆ ☆


 それからしばらくはレッスンの日々だった。


 前からやっていた私にとっては慣れたもので、年長の岬ちゃんも割と様になっていた。


 その次に体を動かすのが得意な舞ちゃん、言うだけあって体を動かすのは上手い、そして自己主張が苦手の為ちょっと力を出し切れないさやかちゃん、といった感じである。


 私は舞ちゃんに教えながら自分の練習をして、岬ちゃんはさやかちゃんのフォローといった形でとりあえず形にはなっていた。


 月日は流れ、練習でなら皆問題はない段階になっていた、その為事務所側は本格的に活動を始めることを私たちに伝えた。


 それと同時にグループ名も決まり今後私達はアイドルグループ、フェイムとして活動することになった。


 本格的な活動について私達は、期待と恐怖が半々の状態になっていた、舞ちゃんは特に気にしていなかったけど私はそれなりに、岬ちゃんもたまに表情をこわばらせるくらいには緊張を感じ取れた。


 酷かったのはさやかちゃんだった、失敗への恐怖からミスを連発したりして本来の実力を出せなくなってた、デビューライブまで刻一刻と近付く中で、皆焦りを感じていた。そんな中で舞ちゃんが一言口に出した。


「失敗したっていいじゃん。」


 その言葉を聞いてさたかちゃんは、でも相手に失望されたら…といいながらうつむいた。


「あのさ、あたしら初めてのライブなんだから別に肩肘張ってやる必要ないでしょ、失望ったって相手側も無名のあたしらにそこまで期待してないだろうし。」


 恐怖も何も感じていないような口調でただそう言い切った。


「一番ダメなのは練習の成果を出せないこと、お客さんに見せるために練習してんのに練習の成果出せないの、何のために練習してんの?ってなる。」


「…うん!そうだよ!やるだけやってみよう!まだまだ私達はこれからなんだから!」


 舞ちゃんので言葉で私は勇気付けられ、続いて口に出す。


 こんなことを言って私は皆を裏切ることになった。


 ☆ ☆ ☆


 デビューライブ当日、緊張の中で私達は自分たちの出番を待っていた。


 私達は無名の新人で、大物の前座のような立場に置かれていた。


 仕方のない当然だと思ったけど、まぁ見てくれるだけありがたいとも思っていた。


 そして私たちの出番が来た時。


 前の人が盛り上げた空気、その熱狂に。


 私は飲まれてしまった。


 本来、私と舞ちゃん、岬ちゃんとさやかちゃんの二組で入れ替わりながらやるはずだったんだ。


 それを熱狂に飲み込まれた私はぶち壊しにした。


 熱狂の中私の脳裏に浮かぶのは優美ちゃん。


 優美ちゃんを思い浮かべながら私はお客さんに私の”全力”を見せた。


 フェイムの活動中、最初で最後の私の”全力”を。


 優美ちゃんを思い浮かべながら歌い踊る私の視線の先におねえちゃんが見えた。


 おねえちゃんが熱い視線で私を見つめていた。


 その瞬間脳に伝わる快楽、もっと私だけを見て欲しいと思う独占欲、それが私の頭を支配した。


 その結果どうなったか。

 

 皆は頑張ったと思う、暴走する私に付き合いながら必死で付いていこうとしたと思う、だけれど。


 結果、フェイムは私を絶対的なセンターとして据える形で活動していくことになった。舞ちゃんだけはあまり気にしていなかったけれど。


 その日から、私と彼女たちの間で溝が生まれることになったんだ。

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