第17話 夢と希望と初めての共同作業(後)
勝てませんでしたわね…。
初コラボでのゲーム勝負、先手の勝負はこちらに軍配が上がったものの後半のダンスゲームでは全敗と、苦い結果に終わりました。
ダンスはあっちのお家芸だ、あっちの舞台で戦って負けたのなら仕方ない、などと言う言葉では慰めにはなりません、こっちは彼女に並び立つために、いや追い抜くつもりでやっているのです。
初めのころ…初めて出会った頃の結愛さんと今のわたくしを比べたなら、相棒と呼べるような、隣に立っても恥ずかしくないと言えたでしょう。
ですが今の結愛さん…本気のゆめのマナの隣に立つには足らないのです。
それに、先手の勝負でもわたくしは少々ズルをしている、過去にあった事故の怪我の後遺症と言いますか…なんというか人の気持ちを察すると言えばいいでしょうか、人の顔を見ていると何となく気持ちが伝わってくるようなそのような感覚を感じるのです、ついでに脳のリミッターが一部外れているとかで反射の能力も向上しているとか。
それのせいで元々人見知りだったわたくしは一時期人間不信にまで陥りました、だって普段笑顔で接してくれているような人がわたくしの家の権力にしか興味がない、などというものが見えてしまえば人間を信用できなくなります。
その点結愛さんはまっすぐで好感が持てます。秘めた感情と表に出している感情にほとんどズレが少ないのです。だから彼女は信用できる。
まぁ簡単に言えば反射が重要なゲームや心理戦などは私が圧勝致しました。
ズルをしているんですもの勝てますわよね、そして相手の得意分野で勝負するのも想定済み、そこで勝利を収めれば結愛さんの相棒として堂々としていられると…。
あの初ライブの様な事は嫌なのです。
相棒なのに、その相手に寄り掛かるだけの情けないわたくし、本当に相棒だと言うのなら、支えあい競いあい高めあわないと駄目なのに。
その結果がこれです、まだ追いつけない、まだ支えられるだけ…なんて無様。
まだ頑張れます、まだ諦めません、だから。
まだわたくしを見捨てないでください。
★ ★ ★
『ぐっ、1勝もできませんでしたわ…。』
『いや、でも最後なんて本当に僅差だったよ、びっくり…本当に負けるかと思った。』
・いやー熱い勝負だった
・徐々に縮まる差がなんていうか競い合ってる感出ててよかった!
・戦えば戦うほど強くなるお嬢…戦闘民族かな?
・ダンスは全敗とはいえ後半接戦になるのも多かったからね、かなり見ごたえがあった。
・一番最後のマナちゃん笑顔だったけど目が本気だったぞ
久々に本気を出したよ、錆落としは済んだと思ってたんだけど…これからは磨いていかないとだめだね、2年かかるって思ったけど今年中に並ばれそう、こちらからするとどんと来いって感じだけどね。
『ふーっ…久々にこんなに息を切らしたかも、あっおね…マネージャーさんお水お願いします。』
・虚空を漂うお水
・マネーちゃんのモデルも用意していいのよ
・もうマネーちゃんもライバーやれ
・これ以上お仕事増やしたらマネーちゃんの胃が死んじゃうから辞めたげて
・スケジュール管理だけでなくライバーの実生活まで完璧にサポートしてるからな。
『…ああ、マネージャーさんありがとうございますわ…っん…んくっ、はぁ…何とか息も落ち着いてきましたわ…。』
『えっと…だいぶ無理させちゃったかな?これからフィットネス要素があるゲームやろうと思ってたけど…大丈夫かな?』
・流石の長時間配信モンスターもリアルスタミナは人間と同等か
・むしろあれだけ動いてたんだから俺らよりも圧倒的に上やぞ
・やっぱアイドルってすごいんですねぇ
・あれと並のアイドル比べたらかわいそうだぞ、プリムラちゃんももう並のアイドルとは言えん
事実今ののぞみちゃんがアイドル業界に入ったなら本気で上位を狙えると思う、でも私たちはアイドルであり配信者、今の自分に満足しているからいいけれど、おねえちゃんも傍にいてくれるし。
ちら、とおねえちゃんに視線を向ける。
私の視線に気が付いたようで優しく微笑みながらこちらに軽く手を振ってくれる。
配信中の緊張のドキドキではなくどこかあたたかい感じの胸の高鳴り、どんな時でも私を安心させてくれる私にとってなくてはならない人。
配信の方に意識を戻しながら次のゲームの準備をする。
プリムラちゃんの体力が回復しきれていないみたいなので、交互に後退しながらゲームを進めていくことにした。
『ふっ…ふっ、まだまだ大丈夫だけど…ここが終わったら交代する?プリムラちゃん。』
・ゲーム開始から30分、まだ余裕そうだなぁ
・これでも負荷最大なんだけどなぁ
・そろそろプリムラちゃんも回復してきた?
・もう大丈夫そう
『ええ、せっかくのコラボでマナさん1人でさせていても意味がありませんから、次で交代致しましょう。』
そのままステージをクリアしてから操作をプリムラちゃんに交代、そしてプリムラちゃんがやってる姿を見ていたんだけど。
『うわぁー…すごい揺れてる、すっごい迫力…』
・何が揺れてて何がすごい迫力なんですかねぇ…
・プリムラちゃん大きいからな、何がとは言わんが
・俺らも揺れは見てるけど目の前で見る揺れはまた違う迫力なんだろうなぁ
麗明院 武:あまり女の子をそういう目でまじまじと見るものではないよ
ッ!ハッ!思わず無意識に呟いちゃった上につぶやきが配信に乗っちゃった…いや、だって仕方ないよあれ、何回も見てるけど凄いもん。
『あのっ、あまり見つめないでください、ちょっと恥ずかしいです…』
のぞみちゃんは恥ずかしいのか顔を赤らめながらこっちを見てくる、うっ…かわいいな。
・最初のライバルバチバチ関係もいいけどこういうイチャイチャもいいぞ
・なんというかこういう空気感、浄化されるような感じだ…
・涎垂れそうな顔してますよ、ゆめのマナさん
・恥ずかしがるプリムラちゃんは不治の病に効く
涎垂れそうって…しょうがないじゃない、超絶美少女の恥ずかしがる姿なんて見たらこうもなるよ!
『んん!ごめんね、頑張ってるプリムラちゃん見てたらなんだかちょっと興奮しちゃって。』
・相方の胸を眺めながら興奮する変態だったか
・咳払いしてごまかそうとしても無駄だぞ、がっつりさっきの音声に乗ってたから
・誰かプリムラちゃんのファンアート書いてくれるニキはいないだろうか…
・相方大好きゆめのマナ
『ええ、好きですよ、かわいいこの相方は私のですもん。』
『ちょっえっ?マナさん!?抱き着かないでください!あの!わたくし汗かいて…匂いますから!』
プリムラちゃんに興奮してたのをごまかすのにとりあえずプリムラちゃんに抱き着いてごまかす、視聴者さんはこういうの好きだろうからごまかされてくれるだろう。
でもなんていうか…傍に寄ったプリムラちゃんの姿が何というか官能的に見えていけない気分になりそう…これは危ないここらへんで辞めておかないと。
・てぇてぇ
・あー、いけませんこんなのえっっっです
・もっとイチャイチャ見せていけ
とりあえずごまかされてくれたようで、区切りのいいところまでゲームを進めていって、コラボの最後に予定していたミニライブを行うことにした。
…なんとなく今ののぞみちゃんなら私に追いつけそうな気がする、程よい緊張感いい具合にほぐれた体、脳にいい刺激を与えてそうな心地よいほどの疲労感。
それが合わさってなんとなくだけど、今ののぞみちゃんは軽くゾーンに入っているような気がする、でなければあんな短時間にあそこまで迫れるはずがないと思う、ほかの可能性は普段の練習を手を抜いてやっていたか、のぞみちゃんはそんな娘ではないと思っているのでそれはないと思う。
ゾーンとは極限に集中力が高まっている状態の事をいう、感覚が研ぎ澄まされ普段よりも高い成果を出せる事が多くなる。
ならば今こそミニライブをやっておくべきだ、そしてこれを映像に残すことで自身の理想の形を記録に残せる、後でそれを見て練習すれば効率が上がるはずだ、自分が出来た動きを出来ないはずがないのだから。
★ ★ ★
・最後はミニライブだそうな、曲はGarnetの曲でRefineって曲だね
・個人的にはEspoiRLIVEが聴きたかった
・歌ってくれるだけいいやろ、Garnetの曲も実質高天原だし
・これから高天原は伸びる気がするなタレントもスタッフもレベル高いし。
準備はできた、EspoiRLIVEが聴きたいってリスナーもいるけど予定はrefineなの、それは申し訳ない。
『みんなー!準備できたからそろそろ歌わせてもらうね!』
『ええ、ではやらせていただきますわ。』
・きたー
・サイリウムが振りたいぜ…
・気分だけでも降ってる気分で行こうぜ
『それじゃーいっくよー!それでは!Garnetの曲で』
『『Refine!』』
★ ★ ★
凄い。
それしか思い浮かばない。
♪――♪♪――――――
隣で歌い踊るプリムラ・モンステラ、彼女はもはやサポートが必要な娘なんかじゃない。
私と同等で、いや、今にも食らいつきそうな程のパフォーマンス。
いけないいけない…今はライブ中なんだ…理想の、アイドルの笑顔を浮かべないといけないのに。
どうしても口角が上がる、初めてだった。
初めてライバルって言えるような子に会った
♪♪―――♪♪――――
今まで後ろを追いかけてくる子しかいなかったし、隣に並べる子もいなかった。
だから、今本当に楽しい。
ごめんねフェイムの皆、ごめんねまぁちゃん。
アイドルをやっていて今が一番満たされてる、たくさんの人に応援されるよりも、今隣で歌い踊る私のライバルが生まれたことが何よりも。
♪―――♪―――――♪!!
ああ…さいっこうに楽しい!
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